この連載では、LGBTの子どもが現場にいることを考慮した支援現場の作り方について考えていきます。第4回と第5回では、LGBTに関するサイト「やる気あり美」を運営されており、ご自身もがゲイである太田尚樹さんにお話を伺います。第4回では、当事者の目線から、LGBTの子どもが抱える悩みや、LGBTの話題の扱い方についてお話いただきました。
第5回の今回は、子どもがカミングアウト(自身が性的マイノリティであることを他人に伝えること)してくれた時の対応や、LGBTについて理解を深めるための書籍や情報収集先となり得る団体、またご自身が描く理想の社会について伺いました。
第4回はこちら
プロフィール:太田 尚樹
「やる気あり美-世の中とLGBTの グッとくる接点をもっと-」編集長。自身がゲイであることを公表しつつ、LGBTをテーマにエンタメコンテンツをつくる活動をしている。
子どもがカミングアウトしてくれた時にどうするべきか
ー子どもがカミングアウトしてくれた時は、どう対応するといいですか。
カミングアウトだけではなくて、人って大事な話をされた時に、なにかいいことを言おうとする部分ってあるじゃないですか(笑)。たとえば「それもあなたの個性だと思っているよ。」とか「人生ってのは自由で…」なんて言い始めたり。ですが、それは必要ないと思うんですよね。大事なことを伝えてくれた時にやるべきことは、何かを言うのではなく、とにかく「話を聞くこと」だと思います。
まずは「話してくれてありがとう」と伝えることは大切ですが、ただ質問をすればいいと思います。なぜ話そうと思ってくれたのか、何か困っていることはないか、などです。相手の立場にできる限りたって、「こんなことって聞いていいのかな?」と聞いてみてほしいです。その上で、本人も整理がつかないでしょうから、「辛くなったらいつでも話してほしい」、「話し相手になりたい」と伝えるのが良いと思います。
また、事前の承諾なしに誰にも話すことはないと約束するのも重要です。他の誰かに伝えるべきことはないか、誰にどこまで共有してよいかなどを確認するのも大事です。
近年はアウティングが問題になることが多く、それがきっかけで自死につながる、訴訟問題につながる、というケースがあります。
ーアウティングとは、「あの人って同性パートナーいるらしいよ」など、ある人のセクシュアリティを許可なく第三者に言いふらしたり、SNSに書き込むことです。ー
引用:「アウティングとは?【事件・事例を交えて意味を解説】」JobRainbowマガジン
アウティングしている側には悪意がないことも多く、「べつにいいじゃんと思って、言ってしまった」なんてこともあります。そのように軽い気持ちで広めてしまうことが大きな問題につながることがありますし、たとえカミングアウトの仕方がどれだけ軽かったとしても、とにかく他の人に話さないように徹底することが大切です。言い方の軽さ・重さと、心持ちの軽さ・重さは比例しません。
ー子ども支援の現場では、子どもの情報や悩みを支援者間で共有することも多いと思います。支援者間での情報共有についてはどう留意すべきでしょうか。
子どもが理解してくれるのであれば、その情報伝達の目的を話した上で情報共有してもよいか確認するとよいと思います。その際も、どこまで誰に伝えるのか明確にするべきです。そして少しでも本人が嫌だと言うなら、他の人には伝えないこと、情報が伝わる範囲を約束してあげるのがよいのではないでしょうか。とにかく慎重に対応するに越したことはないと思います。思いもよらない出来事が信頼関係の崩れにつながる可能性もあります。
LGBTについて理解を深めるツールや頼りにできる団体
ーLGBTについて子ども自身や周りの大人が理解を深めるためにお勧めのサイトやツールがあれば教えてください。
お勧めしたいものはたくさんあります。中でも、例えば「みんな自分らしくいるためのはじめてのLGBT」、「こどもジェンダー」は使いやすいと思います。また、直接LGBTを扱う本ではないですが、「10代から知っておきたい あなたを閉じこめる『ずるい言葉』」は「女らしくしているといいよ」などの言葉に苦しんでいる子どもに「気にしなくていいよ」と啓発する本です。初心者向けの本もたくさんあるので、どれを手にとっても良いと思います。
画像引用:「10代から知っておきたい あなたを閉じこめる『ずるい言葉』」WAVE出版
ーLGBTに関連する活動を行っている団体についても教えていただけますでしょうか。
ReBitさんは子ども・教職員・保護者などを対象にしたLGBTに関する授業・研修を実施しています。また、電話などでの相談受付は行っていませんがカミングアウトされた家族や友人を繋ぐことができるコミュニティとして、LGBTの家族と友人をつなぐ会さんもお勧めです。ただ、若い方をサポートしているLGBTコミュニティの数はまだ足りていないのが現状です。
みんながありのままでいられる社会を目指して
ーここまで、LGBT当事者の目線から、LGBTの子どもが抱えているであろう悩みや周りの大人の関わり方についてお伺いしてきました。最後に、太田さんの想いをお伺いしたいのですが、普段はどのようなことを考えて活動をされていますか。
少し過激な表現かもしれませんが、やる気あり美は「みんな違ってみんなキショい」というポリシーを大切に活動しています。「みんな違ってみんないい」だと、自分のセクシュアリティも悩んできたことも、とにかく「いい」ものと思わなくてはいけない、という窮屈さを感じるんです。だけどみんな、自分の中に不格好さとか今も「いい」とは言えない、折り合いのつかない悩みをかかえて生きているものです。そしてそれこそが真の美しさだと僕は思います。「キショい」は美しいというか。
だから僕自身は「ゲイなんだ。気持ち悪い。」と言われることがあっても傷つかないです。もちろんLGBTであることは気持ち悪いことではありませんが、もし気持ち悪いと言われても、そんなことは気にしません。逆に「じゃああなたはそんなに美しいんですか?」と思います。
ー「みんな違ってみんなキショい」、印象深いです。大事な考え方をお伺いすることができました。これからは、どんな社会を作っていけたらよいなと思いますか。
みんながありのままでいられる社会ですかね。私たちみんなに歪んだところも醜いところもキショいところもあるからこそ、LGBTであるという「たったそれだけのこと」で否定される社会であってほしくないと思います。もし「どの性を愛するか」とか「自分がどういう性でありたいか」ということがキショい話なら、世の中キショいことだらけですよ。性のあり方自体がキショいわけなんてないです。
そのためにも、みんなもっと自分のことを認めたり、許したりできるといいと思っています。それぞれが弱さや醜さを認められるようになった結果として、LGBTを含めたすべての人が包摂される社会になると考えています。
まとめ
太田さんにお伺いしたお話のポイントをまとめます。
- 子どもがカミングアウトした時には、まずは伝えてくれたことへの感謝を示し、何かを伝えようとするよりもきちんと子どもの話を聞くことが大事である。
- また、支援者間で情報共有する前に、誰にどこまで共有してよいのか、本人の意思を聞くことが大事である。
太田さんとお話する中で、そもそもの前提として、人間はそれほど美しくないのだから、お互いに弱さや醜さを認め合えることが大事だなと改めて思いました。太田さん、貴重なお話をありがとうございました。
今回の連載は以上となります。LGBTの方が社会に包摂されるための一つの足がかりになっていれば幸いです。
過去の記事が気になる方はこちらも是非ご覧ください。認定NPO法人 ReBitさんにお話しをお伺いしています。
※本記事の内容は個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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