【連載第2回】LGBTの子どもと生きる ーLGBTの子どもにとってどんな環境が過ごしやすいか?ー

LGBTの人は全人口の3~10%ほど(※)といわれますが、当事者全員がそのことを周囲に話しているわけではありません。実際に、私たちが関わる子どもの中にも、当たり前にLGBTの子どもはいます。この連載では、LGBTの子どもが現場にいることを念頭に置いた支援現場の作り方について考えていきます。

第1回では、LGBTの子どもが抱える悩みについて、ReBitさんにお伺いしました。第2回となる今回は、LGBTの子どもにとってどんな拠点が過ごしやすいのかについて、引き続きReBitさんに伺います。

第1回はこちら

【連載第1回】LGBTの子どもと生きる ーLGBTの子どもが抱える悩みとは?ー
【連載第1回】LGBTの子どもと生きる ーLGBTの子どもが抱える悩みとは?ー

プロフィール:小川 奈津己
認定NPO法人ReBit教育事業部マネージャー。大学在学中よりReBitで活動。卒業後は私立中高一貫校にて勤務した後、2018年ReBitへ転職。現在は教育事業部マネージャーとして授業や研修、教材制作などを担当している。

 

LGBTの子どもにとって過ごしやすい環境とは?

ー子ども支援の拠点をLGBTの子どもが過ごしやすい拠点にするためには、現場のスタッフが普段からどう振舞っているとよいですか。

一番は、日頃から誰に対しても差別的な言動をしないこと、様々な多様性や違いに寛容であることだと思います。LGBTの話題にだけ気をつければいいわけではありません。例えば、外国籍の方に対して差別的言動をする人には、自分がセクシュアリティ(性のあり方)について相談した際に同じような対応をされてしまうのではないかと感じてしまい、相談しにくくなってしまいます。

どんな違い・多様性にも寛容な姿勢を普段から示すことが子どもの安心につながります。

また、「男の子だから」「女の子だから」という発言を安易にしないように気をつけるべきだと思います。例えば、食事の時に「男の子なんだから、ちゃんと食べないと大きくなれないよ」と言われることがありますが、わざわざ「男の子だから」という必要性はありません。その場面で性別に結びつける必要があるのかどうか、それが正しいのかどうか、常に意識的であっていただきたいと思います。

男の子と女の子が仲良くしているときにすぐ「〜くんは〜ちゃんのことが好きなの?」と恋愛に結びつけるような発言をしないように気をつける、というのも良いと思います。無意識のうちに「異性を好きになるのが“普通”」「男の子は男の子同士、女の子は女の子同士で遊ぶのが“普通”」といった価値観を押し付けてしまうことにつながりかねないからです。

ー制度や仕組みの点では、どういうものがなくなれば、あるいはどういうものがあれば過ごしやすいと考えられますか。

不要な男女分けがないか見直すとよいです。

例えば、名簿を男女別にしているけれど男女混合にしても問題ないのではないか、掲示物の色や制服などを男女別にしているけれど子ども本人が選べるようにしても問題ないのではないか、等を考えていただきたいです。不要な男女分けについては、撤廃する、選べるようにするという対応ができるとよいですね。

ただ、どうしても必要な男女分け、例えば、更衣室やトイレなどは、個別対応の方法を考えておくとよいと思います。例えば、誰でも使えるトイレを1つ用意しておく、空いている部屋を男女別の更衣室を使いたくない子どものための更衣室として利用するなどです。

また、子どもの呼び方において、「〜くん」、「〜ちゃん」と呼び分けるのではなく、「〜さん」に統一できるとよいのではないかと思います。

ー実際の現場では、子ども同士でも「ちゃん」「くん」で呼び合っていることが多いと思います。自分たちの支援拠点で「さん」呼びに統一していくのは難しいなと感じてしまいますが、どう移行していくのが良いでしょうか。

学校でよく実施されているのは、先生一人で呼び方を変更していくのではなく、学校全体の方針として「さん」呼びに統一すると決めて取り組んでいく方法です。子ども支援においても、支援団体全体の方針として「さん」呼びに統一することをルール化し、そのことを背景を含めて利用者の方にも説明するとよいと思います。

また、子どもたちに「スタッフも慣れていなくて『ちゃん』『くん』で呼んでしまうことがあるかもしれない。そういう時は、『さん』と呼ぶように指摘してね」と伝え、子どもも巻き込んで改革していくとやりやすいのではないかと思います。

 

子どもがカミングアウトしてくれたらどうする?

ーもしも子どもがスタッフにカミングアウト(自分のセクシュアリティを他の人に打ち明けること)をしてくれたら、どのように振る舞うとよいでしょうか。

まず、第一声で「話してくれてありがとう」と、受け止めたことを伝えるのが安心に繋がると思います。そしてその後に、「なぜ話そうと思ったのか」「他の人には言っているのか」などを対話の中で確認していくと良いです。

対話の中で確認するのがなぜ大事かというと、親には知られたくない、友達や先生には知られたくない、というように、セクシュアリティを知られたくない範囲は人によって異なるからです。スタッフが、自分に言ってくれたから大丈夫だろうと考えて安易に他の人に情報共有してしまうと、本人が望まないアウティング(本人の同意なくその人のセクシュアリティを他の人に暴露すること)に繋がってしまいます。

それを防ぐためにも、現状誰が知っているか、本人は誰にまで言うことを希望しているかを把握しておくことは大切です。

その上で、他の人に情報共有しなければならない場合、例えば、支援拠点の拠点長に言わないといけないなどの事情があれば、必ず本人に情報共有する理由を伝えて許可を取り、勝手に伝えないようにしていただけたらと思います。

また、その子の対応をするうえで必要であれば専門機関に繋げたり、自分自身が相談機関を利用してみるのも良いと思います。

そして、この子はレズビアンの子、あの子はバイセクシャルの子というように、セクシュアリティでラベリングするのではなく、あくまでも人と人の関係であり、カミングアウトを受けるまでにその子と築いてきた関係性は変わらないということは忘れないでほしいなと思います。

ー子ども支援の現場では様々な子どもたちが共生しています。拠点にいる他の子どもに対して、働きかけたり気を付けたりしたほうがよいことはありますか。

カミングアウトしてくれたことを周りの子どもも知っている場合は、子どもたちとアウティングをしてはだめだという共通認識を持てるようにしましょう。勝手に学校で話したり、家で話したりしちゃだめだよ、と注意喚起するとよいです。

そして、周りの子どもが知らない場合は、知らないがゆえにLGBTの子どもの前で差別的な言動をする可能性があります。例えば、ホモやオカマなどの言葉を使う子どももいるでしょうし、その子のことではなくてもテレビに出ているLGBTの人たちを笑ったりしているのを見て、間接的に自分も差別されているように感じる可能性があります。

そのような場面で、大人がはっきりと「それは人を傷つける言葉だよ」と注意するかどうかで、安心できる場になるかが変わります。無自覚に人を傷つけてしまっている子どもたちを今後加害者にしないためにも、「どういう気持ちでその言葉を使っているのか」を聞きましょう。また、その言葉の持つ差別的な意味合いや、正しい言葉づかいを知らないだけなら、例えば「ホモじゃなくてゲイって言うんだよ」と正しい言葉・知識で上書きするようにしてください。

 

まとめ

今回は、ReBitの小川さんにLGBTの子どもが過ごしやすい環境、カミングアウトをしてくれた際の対応について伺いました。ポイントを下記にまとめます。

  • スタッフがLGBTだけではなくあらゆる違い・多様性に日頃から寛容に振る舞う
  • 不要な男女別の扱いを無くしたり、選べるようにしたりする
  • カミングアウトをしてもらったら、まずは「話してくれてありがとう」と受け止める
  • 「自分に言ってくれたから他の人に言っても大丈夫」と考えず、他の人に共有する際は必ず本人の意向を確認する
  • 周りの子どもにも、アウティングをしないよう声がけする。また、差別的な言動を見かけたら毅然とした態度で注意をする

次回は、LGBTについてさらに理解を深めるための教材や支援団体、また、ReBitさんが将来目指したい社会について、お話を伺っていこうと思います。

第3回はこちら

【連載第3回】LGBTの子どもと生きる ーLGBTについて正しく知り、教えるためにできることー
【連載第3回】LGBTの子どもと生きる ーLGBTについて正しく知り、教えるためにできることー

 

LGBTの人たちの割合の参考元:「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チーム(2019)、「LGBTに関する職場の意識調査」日本労働組合総連合会(2016)、「LGBTに関する意識調査」株式会社LGBT総合研究所(2016)、「LGBT調査2018」電通ダイバーシティ・ラボ(2018)、「多様な性と生活についてのアンケート調査」日高庸晴・三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」(2018)、「高校生の生と性に関する調査」岩手県高校教育研究会学校保健部会・いわて思春期研究会(2013)

※本記事の内容は個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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