子どもの居場所づくりでは、子どもの遊びを企画したり、遊びに参加したりすることも支援内容の一つです。子どもと関わる中で、「子どもたちが危険な遊びを楽しんでいるときにどのように対応すればよいか」「子どもの遊びを効果的に支援するためには子どもにどのように関わればよいか」など、遊びについて悩む場面もあるのではないでしょうか。今回は、子どもにとって遊びが持つ意味や、子どもの遊びを支援する方法の枠組みを示す、「プレイワーク」という考え方を紹介します。
子どもにとっての遊びとは
子どもにとって、遊びとはどのような営みであり、どのような意味を持つのでしょうか。ここでは大きく3つに分けて紹介します。
(1)訓練としての遊び
遊びは、人間が不確実性の高い状況に適応するために欠かすことのできない行為です。遊びはしばしば、あえて困難な状況や難しい状況を自分で選択し、それを楽しみながら乗り越える経験になります。そうした経験の積み重ねを通じて、人間はリスクに対する様々な対処方法やリスクを克服する力を身につけています。
例えば、ちゃんばらごっこやターザンロープなどのリスクを伴う遊びには、子どもの発達に重要な6つの意味があると考えられています。
①危険からの回復力(レジリエンス)…リスクに自分から向かっていき、そこから立ち直るという経験を得られる遊びを通じて、危機管理能力が高まる
②好奇心・探究心…リスクを伴う遊びはあらかじめ答えがない不確実な状況のため、そこに向かっていく経験を繰り返すことで、未知のものへの好奇心や探究心が育まれる
③バランスを取る・調整する力…危険な状況に向かっていく際には、不安と安心、恐怖とワクワクなどの相反する感情が生じる。そうした葛藤を克服する過程で、自分自身の体と心のバランスを取る力が育まれる
④創造性…リスクをどう乗り越えるかを自分自身で思考し判断する過程を通じて、ゼロから答えを自分で作る創造性が高まる
⑤自己尊重…リスクを乗り越えられた時、それを達成した自分を肯定し尊重する気持ちが生まれる
⑥問題解決…限られた資源を用いてリスクを解決することで、日常生活における問題を解決する力が育まれる
(2)成長の機会としての遊び
遊びは、リスクに対する対処方法やリスクを克服する力に加えて、子どもの様々な身体的・精神的成長に繋がります。例えば、子どもが世界や環境の様々なものと関わり、それらを変えていく主体として成長するために、遊びは必要不可欠なものです。
子どもにとって、世界や環境のあらゆるものは遊びに繋がります。自然や街の中での遊び、デジタル機器だけでなく、生き物との関わりや家事すらも子どもにとっては未知の世界への入り口であり、遊びの機会になります。
遊びは子どもと世界とを繋ぐ役目を持っています。それは、以下のようなサイクルで行われます。
- やってみたいことが、自分の身の周りの環境・世界にある
- 自ら進んで、「やってみたいこと・楽しいこと」に関わっていく
- 周囲の環境・世界とうまく付き合える手応え、楽しさを感じる
- 生きることは楽しい、世界と自分は繋がっているという感覚を得る
- より未知のことに「自分から」取り組む自信がつく
しかし、ここで気を付けたいのは、活動的な営みだけでなく、何もしていないこと、緩んでいることも遊びの一種だということです。子どもの遊びを捉える上で重要なのは、その子自身の心のありようです。その子が自分で選んで何もしていないのであれば、それはその子にとっては遊びなのです。何か活動的なことをしている、ということだけを子どもの遊びであると判断することは避けるべきです。
秘密基地作りという遊びを例にとると、以下の4つのような成長に繋がると考えられます。
①エンパワーメント…世界の中に自分の居場所を作ることで、自分とその周囲の環境をより良いものに変えていくことに対する自信が高まる
②問題解決能力…秘密基地という頭の中のイメージを実際に形にすることで、問題解決のための実行力が育まれる
③プライバシー・親密さの概念…秘密基地という、限られた人しか入れない空間を作るという経験を通じて、プライバシーや親密さという概念を獲得することができる
④外界からの防衛基地…ストレスから自分自身を守ることができる
(3)権利としての遊び
子どもにとって遊びは、リスクへの対処の訓練としても、また世界と自分を繋ぐ機会としても重要なものです。しかしながら、現代は子どもにとって遊ぶことが難しい世の中になっているのも事実です。そうした状況は、空間・時間・仲間の3つを失ったという意味で「三間の喪失」と呼ばれます。
三間の喪失によって、「自分で決めることが怖い」と感じる子どもや、自分の時間をどのように過ごすのかを決めることは自分に許されていない、という感覚を持つ子どもが増えていると言われています。それは、「自分が自分の人生の主体」という実感の喪失、と言うことができます。
「遊び」は、全ての子どもの権利として保障されるべきものです。例えば、日本も批准している「国連子どもの権利条約」では、第31条で子どもの遊ぶ権利について扱い、第12条では、子どもが自由に自己の見解を表明する権利を保障しています。(参考:「子どもの権利条約」全文(政府訳)」日本ユニセフ協会)
子どもが遊ぶための環境が失われている状況の中、子どもの遊びの環境を大人が意識して保障しなければならない時代になっている、と言うことができるのではないでしょうか。
プレイワーク:子どもの遊びに関わる大人が知っておくとよい考え方
続いて、子どもの遊びを支援する際に重要な考え方の枠組みとなる「プレイワーク」について、紹介します。
プレイワーク(playwork)は、1980年代にイギリスで生まれた学術分野で、子供の遊びに関わる大人のあり方や環境づくりが、実践的・学術的に体系化された専門知識です。(引用:「日本プレイワーク協会の目的」一般社団法人 日本プレイワーク協会)
ここでは、大きく3つの考え方を紹介します。
(1)遊びを解釈するための4つの視点
子どもの遊びを解釈する際には、ただ大人の視点から遊びを捉えるのではなく、子どもの視点に立って遊びを捉える必要があります。その際、以下の4つの視点を念頭において子どもの遊びを解釈すると良いでしょう。
①遊びのツボ…その子がその遊びにハマるポイントや、遊びの面白さの核となる部分
②遊びの枠…「どこからどこまでが遊びか」という遊びの範囲。遊びの中での特定の役割やルールにこだわる子どもがいる場合、そのこだわりが遊びの枠になっているかもしれない
③遊びのキュー…子どもから大人に発する「一緒に遊びたい」というサイン。必ずしも全ての子どもが一緒に遊びたいというわけではないが、服を引っ張ったり、遠くから羨ましそうに眺めたりするという形でサインを発している子どももいる
④遊びのストーリー…遊びの文脈や理由。子どもたちは遊びに取り組む理由をそれぞれ持っており、その理由を想像し共有することで、適切に遊びに参加することができる
(2)アフォーダンス:環境が子どもの認知や行動に与える影響を考える
アフォーダンスとは、環境が動物に与える価値や意味を指す言葉です。遊具や玩具を含む環境が子どもに提示するアフォーダンスを考えることで、遊びを子どもの視点から考えることができます。例えば、一枚の紙がある時、私たちはしばしばその紙を「文字を書き留めるメディア」として「読む」あるいは「書く」という視点から解釈し使用します。しかしながら、子どもにとってはその紙は「折る」あるいは「破る」といった視点から解釈し使用するものかもしれず、また「包む」や「巻く」といった視点もあるかもしれません。
アフォーダンスは環境の性質だけでなく、子どもの能力や発育によっても変化します。例えば段ボールは、ある子どもにとっては「破る」ものかもしれませんが、力の弱い子どもや発育がゆっくりな子どもにとってはそうではないかもしれません。
プレイワークでは、環境が子どもに与えるアフォーダンスを意識します。環境を構成する際には、その環境が子どもの認知や行動をどのように変えるのか、どのようなアフォーダンスを子どもに与えるとよいのかを考えましょう。
(3)リスクは残し、ハザードを除去する
プレイワークの考え方では、危険を「リスク」と「ハザード」の2種類に分類します。「リスク」は子ども自身が認識できる危険のことであり、遊びの楽しみ、冒険、挑戦の源にもなるものです。「訓練としての遊び」のために、ある程度のリスクは必要不可欠です。他方、「ハザード」は子ども自身が認識できない危険のことであり、重大な事故の原因にもなりうるものです。
例えば、8歳の子どもが高さ20cmの平均台で遊ぶ時を考えてみます。バランスが取れずに落ちそうになる際、20cmの高さは子ども自身に認識されている「リスク」であると言えます。しかしながら、平均台の柱が腐食しており、突然折れてしまうことは、子どもが予測不可能なことであり、「ハザード」であると言えます。
子どもの遊びを支援する際には、2つの危険の違いを認識した上で、リスクは残しつつ、ハザードは徹底的に除去しなければなりません。
まとめ
- 子どもにとって遊びは①リスクに対処する方法や力を身につけるための訓練であり、②周りの環境や世界を変える主体として成長する機会となり、③権利として保障されなければならないものである
- 子どもの遊びを支援する際には、プレイワークの枠組みを知っておくとよい
- 4つの視点(ツボ、枠、キュー、ストーリー)を通して遊びを解釈する
- 子どもの周りの環境が子どもの認知や行動をどのように変えるのか、どのようなアフォーダンス(環境が与える価値や意味)を子どもに与えるべきかを考える
- 遊びの楽しみ、冒険、挑戦の源になる「リスク」は残し、重大な事故の原因になりうる「ハザード」は除去する
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