【後編】子ども同士の話し合いを、大人はどうサポートする?安心・安全を守るルールづくりの考え方〜NPO法人Learning for Allの事例〜

引き続き、認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)の多田さんに、子どもたちの居場所におけるルールづくりについてお話を伺います。前編では、居場所拠点におけるルールとは何か、ルールづくりの基準や子どもたち自身で意思決定をしていくことの大切さについて伺いました。

後編では、ルールづくりの際の子ども同士の話し合いを大人はどうサポートできるのか、ルールを破ってしまった子どもへのサポート方法、スタッフ同士の意見の違いへの対応などについて伺います。

前編はこちら:

【前編】子どもの居場所に「ルール」って必要?安心・安全を守るルールづくりの考え方〜NPO法人Learning for Allの事例〜
【前編】子どもの居場所に「ルール」って必要?安心・安全を守るルールづくりの考え方〜NPO法人Learning for Allの事例〜

プロフィール:多田 理紗

認定NPO法人Learning for All 尼崎エリアマネージャー。大学生当時、地元での原体験からLFAに参画し、非常勤職員として研修開発・現場運営統括に従事。大学卒業後、IT企業を経てLFAに復帰。全ての子どもの”子どもの権利”・全ての人の”学習権”が保障され、一人一人が主体として思いやりをもち豊かに生きる社会にしたい。”自分が大切にされ、自分を大切に思うこと” ”身近な他者や社会と繋がりをもち、しんどいときは誰かに頼り、自分も誰かから頼られる存在であること” “やりたいことが見つかれば、そこに向かって踏み出す糧となる経験”を届けたい。

子どもたち同士の話し合いをサポートする方法

子どもが素直に要望を伝えられる信頼関係を築く

—前編では、子どもたち自身がルールを決めていく、というお話がありましたが、子どもたちだけで話し合ってルールを決めていくことには、難しさもあるように思います。まずそもそも、子どもが大人に相談したり、意見を言ったりしやすい環境をつくるためには何が大切なのでしょうか。

まずは、子どもが自分の中にある欲求や気持ちを伝えられる、受け止めてもらえると思えるような信頼関係を、スタッフと子どもの間につくることが大切だと思います。不満や要望がある時に、子どもがためらわずに伝えられるよう、常日頃から子どもの言葉には小さなことでも耳を傾け、受け止めることを意識しています。

一方で、誰かを傷付ける可能性があったり、安心・安全を脅かしてしまう可能性のある要望には、答えることが難しい場合もあります。その際も、子どもが納得感を持てるよう、スタッフ間で子どもの要望を受け入れられるか否かの共通ラインを持っておき、なぜその要望が受け入れられないのかを、子どもにしっかりと説明するようにしています。

子どもの要望を受け入れるか否かの判断方法は、前編の話にも出てきている事項ではありますが、まずは自分や他人を傷つけてしまう事柄ではないかを確認すること、そしてその子の本当のニーズとは何かを考えた上で、拠点ビジョンに沿っているかを確認することです。そして、拠点ビジョンに沿っていなくても受け入れるべき要望である場合は、拠点ビジョン自体を見直すこととしています。

子どもが発した言葉の「背景」に目を向ける

—実際に話し合いを進める場面では、具体的にどのようなサポートをされているのでしょうか。

「交通整理」と「代弁」を適宜行うようにしています。話し合いが一方通行になっていないか、発言者に偏りがないか、本当に言いたいことを言えているかなどを確認しながら、必要に応じて全体を交通整理し、子どもが言っていることに対して「それって〇〇ということ?」と内容を整理して代弁したり、「違ったら違うって言っていいよ」などと声掛けをして、話し合いに参加する子ども全員の考えが反映できるように働きかけます。


出典:photoAC

また、子どもが「発言したこと」が全て真意であるとは限りません。出てきた要望をすべて叶えることが大切なのではなく、子どもが伝えてくれた言葉の背景にどんな欲求があるのかを、子どもと一緒に探ることが大切だと考えています。だからこそ、「この要望が叶うと何で嬉しいの?」「それは他の人にとっても嬉しいことなのかな?どう思う?」などの問いを投げかけ、子どもと大人、そして子ども同士が、対話を通して自分や他者への理解を深めていくことを大切にしています。

このような「交通整理」と「代弁」、発せられた言葉の背景を深掘りするための「問いかけ」を大人が続けていくと、それが拠点の文化、つまり、意識しなくてもその場にいる全員が当たり前にやっていることになっていきます。実際、今では子どもたちが他の子どもに問いかけをしたり、大人が行なっていたような場のファシリテートを自ら行う姿が見受けられます。

私は、子どもは文化の中で育つと思っています。近くにいる大人が自分の背景に目を向けようとしてくれていれば、子どもも自分の周りの人間の背景に目を向けるようになると思います。大人の言動から子どもが学び、また次の子どももその姿から学んでいくという循環を生み出せればと考えています。


出典:illust AC

ルールを破ってしまった時は、行為に至った背景を聞き、対処法を一緒に考える

—ルールを破ってしまった子どもがいた場合は、どのように対応をしていますか。

子どもたちが自分で決めた「変えられるルール」に関しては、どうしたら次は守れるのか、ルール自体に見直すべきところはあるのかを、子どもたち全員が納得のいくように、再度話し合ってもらいます。

一方で、他者を傷付けうるような「変えられないルール(※前編記事「自分たちの声で、ルールは変わる」の章を参照)」に関しては、まず、ルールを破った行為自体は許容しない態度を取り、その上で、なぜルールを破ったのか行為に至った背景にある話をきちんと聞きます。そして、その背景やその子自身の特性などを考慮しながら、どうしたらこれからルールを守っていけるのかを、子どもと一緒に考えることを大切にしています。内容によっては保護者や必要機関に報告をすることもありますが、その際も必ず背景を合わせて伝えるようにしています。

以前、突然その場にいる他の子どもたちに、理不尽な暴言をぶつける子どもに出会ったことがあります。これは他者を傷つける行為として許容できないことですが、その子は家庭環境に悩みやストレスを抱えており、その不満や怒りを表出する手段を他に持ち合わせていませんでした。その子自身も、言いたくて暴言を言っているわけではないんですよね。

その後、どうすれば他者への理不尽な暴言という行為をなくせるかをその子と話し合い、その子のモヤモヤした気持ちが出てきそうになったら、大人が「一緒に広場で遊ぼう」とか「別の部屋で一緒にごはん食べない?」と声を掛けることにしました。その声がけを合図に、他の子どもたちがいる場所を一度離れ、不満に思っていることや悩んでいることを大人に対して吐き出してもらうようにしていきました。暴言以外にもモヤモヤを発散できる方法がある、ここの大人は自分のモヤモヤを受け入れていくれる、と感じることで、少しずつ他者を傷つける行為を減らしていくことができたと思います。

スタッフ同士の考え方の違いへの対応

意見の背景にある、経験・価値観・感情を深掘りする対話を重ねる

—ルールの作成や安心・安全に関する線引きなど、スタッフの間で考えに相違が生じることもあるのではないかと思います。スタッフそれぞれの価値観・考え方の違いがあるときは、どうしたら良いのでしょうか。

やはり、大人同士も対話を重ねていくことが大切だと思います。

これまでの人生でしてきた経験や、そこから生じる感情・価値観は人によって違うからこそ、意見や考え方にも違いが生じます。お互いに意見だけを主張し合うのではなく、その背景にある経験・感情・価値観に焦点を当て、お互いへの理解を深めること、その上で、目の前の子どもたちにとって、拠点にとってより良い選択はどこにあるのかを対話していくことを大切にしています。

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画像:pexels   

まとめ

今回は多田さんに、子どもたち同士の話し合いをサポートする方法や、子どもがルールを破ってしまったときの対応、スタッフ間の価値観の違いを乗り越える考え方について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 子ども同士の話し合いをサポートしていくためには、大人は子どもが素直に意見を伝えられるような信頼関係を築き、話し合いの交通整理や代弁を行なっていく。また、子どもが発した言葉の背景に目を向けることが大切
  • 子どもがルールを破ってしまったときの対応のポイント
    • 子どもたち自身が決めたルールを破ってしまった場合は、全員が納得いくように再度話し合う
    • 変えられないルールを破ってしまった場合は、破った行為自体は許容しない態度を取った上で、行為に至った背景を考慮し、どうしたらこれからルールを守っていけるのか子どもと一緒に考える
  • スタッフ同士の意見に違いがあるときは、その背景にある経験・感情・価値観を共有し、対話を重ねる

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※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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