【連載第2回】LGBTの子どもたちがあたり前に「自分」でいられるために ー多様な性のあり方と、私たちにできること(こども支援ナビ Meetup vol.20)

2024年2月28日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第20回が開催されました。

今回は、一般社団法人にじーずの代表である遠藤まめた氏をお迎えし、「LGBTの子どもたちがあたり前に『自分』でいられるために ー多様な性のあり方と、私たちにできること」をテーマに、多様な性のあり方やにじーずの取り組み、子どもの居場所を運営される皆さんに知っておいてもらいたいことなどをお話いただきました。

イベントレポート第2回では、性の多様性に関する基礎知識(後半)と私たちの社会に日常的に刷り込まれているものの見方についてご紹介します。

連載第1回はこちら:

【連載第1回】LGBTの子どもたちがあたり前に「自分」でいられるために ー多様な性のあり方と、私たちにできること(こども支援ナビ Meetup vol.20)
【連載第1回】LGBTの子どもたちがあたり前に「自分」でいられるために ー多様な性のあり方と、私たちにできること(こども支援ナビ Meetup vol.20)

 

プロフィール:遠藤まめた
トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけにLGBTの子ども・若者支援に関わる。近著に「教師だから知っておきたいLGBT入門」(ほんの森出版)ほか

 

多様な性の基礎知識 ー性のあり方に関する言葉ー


画像:般社団法人にじーず

「レズビアン(L)」「ゲイ(G)」「バイセクシュアル(B)」「トランスジェンダー(T)」の頭文字を並べてLGBTと言いますが、図解を見ればわかる通り、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルは性的指向を指す言葉で、トランスジェンダーは性自認を指す言葉です。

また、トランスジェンダーと似た言葉に「性同一性障害 / 性別不合」という言葉があります。この違いは、トランスジェンダーは世間一般の人が使う言葉なのに対して、「性同一性障害 / 性別不合」は医療用語であることです。性同一性障害は、ホルモン注射や性別適合手術などの医療行為を受けるために病院で診察を受けて出してもらう診断名です。精神疾患の影響を受けて性別変更を希望しているわけではないことなどの確認をした上で診断がおります。

ここで、子どもと性同一性障害の診断について知っておいてほしいと思います。

結論から言うと、学校からの配慮などを受ける場合に性同一性障害の診断は必要ありません。治療や外科的手術のために診断名が必要となるものの基本的にはそれらは大人に対して行うことが前提なので、子どもには性同一性障害の診断を出さないお医者さんが多いです。学校での合理的配慮に医師の診断は必要ないという点はぜひ覚えておいてください。

トランスジェンダーに関連した言葉に「トランス男性」「トランス女性」があります。これはどちらもトランスジェンダーで性自認が男性ないし女性である人のことを言います。ちなみにトランスジェンダーの性自認にもバリエーションがあって、「ノンバイナリー」「Xジェンダー」といった男性・女性いずれか一方に属さないケースもあります。

図解の緑文字の「シスジェンダー」「ヘテロセクシュアル」は、いわゆる多数派と呼ばれる人々の性自認・性的指向を指すものです。多くの人々はからだの性と性自認が一致していることと異性が好きであることを「普通」と言いますが、「普通」は人によってたくさんあります。多数派の性のあり方にも名前がついていること、「普通」はたくさんあることはぜひ知っておいてもらいたいです。

同性を好きになる人の割合は、だいたい3%、クラスに1人くらいと言われています。トランスジェンダーの人の割合は0.3〜0.5%、2〜300人に1人くらいです。

注意を要する言葉


画像:一般社団法人にじーず

性について話す中で、使うときに注意が必要な言葉をまとめてみました。

ホモやオカマ、レズなどは過去に差別的な言葉として使われた歴史があります。そのため、なるべく使用せずに正式な名称である「ゲイ」「レズビアン」を使用するほうが無難です。

また、「普通」「ノーマル」もよく使いがちですが、先ほど述べたように「普通」は人によってそれぞれ違います多数派を普通と呼ぶと、少数派が普通ではないように感じられてしまうので、使用する際はぜひ気をつけてほしいです。

「ニューハーフ」は悪い意味をもつ言葉ではないのですが、職業の名前として使われることが多いです。性別を表す言葉とはまた違います。「性転換手術」という言葉は、20年ほど前から「性別適合手術」と言われるようになってきました。用語がアップデートされていると、きちんと勉強していることが伝わると思います。

性はグラデーション

多様な性のあり方を考えるときのキーワードとして、「性はグラデーション」という言葉があります。性のあり方は白黒ついたり、あれかこれかというものではなく、曖昧だったり明確ではないところがあるという意味です。LGBTという言葉は存在しますが、当事者とそうでない人を明確に線引きするものがあるわけではありません。


画像:一般社団法人にじーず

LGBTと認識している人だけでなく、「そうかもしれない」「わからない」と思っている人はたくさんいます。LGBTのシンボルとしてレインボーフラッグがよく掲げられますが、虹がどこから赤色・黄色などと明確に分けられるものではないように、性のあり方も多様で区別できないものだ、ということを表しています。

ここで考えたいのが、「多様性」というのは「LGBTだから当てはまるもの」ではないことです。先ほど紹介した性の4要素が100人いればそれぞれ少しずつ異なるように、多数派を含むすべての人が多様性の一部なのです。

最近は、学校の授業でも「LGBTの授業」ではなく「性の多様性の授業」という言葉が多く使われるようになってきています。「LGBTの授業」と言われると、子どもたちは「自分に関係のない誰かの話」として聞きがちですが、「性の多様性の授業」とすると、自己理解を深めるためや友達を理解するための話として聞きやすいそうです。

LGBTの理解を深めるには、自分と他の人の感じ方は少しずつ違うという認識をもつことを出発点として、「男の子 / 女の子なんだからこうしなさい」などと周りが決めつけずに自分や相手の感じ方を大切にできる社会をつくっていくことが大事だと考えています。

この違い、わかりますか? ー日常的に刷り込まれているものの見方ー

日常でよくある会話の例として、2つの会話を取り上げてみました。皆さん、上と下の会話で何が違うかわかるでしょうか?


画像:一般社団法人にじーず

1つ目の会話では、付き合っている人を「彼氏」と言っているか「人」と言っているかが異なり、2つ目の会話では若者に対する対応の仕方が異なっています。この2つにはそれぞれ「異性愛主義」と「ユーシズム(Youthism)」という名前がついています。

「異性愛主義」とは、異性愛が普通でありそれ以外は普通ではない、同性愛は原因がある / 不自然だ / 一時的なものだ、というものの見方のことです。話の節々からこうしたものの見方があることがLGBT当事者に伝わると、「もうこの人に話してもしょうがない」と諦めて心を閉ざされてしまうこともあります。

例えば、同性が好きだと、よく「なんで / いつから同性が好きなの?」「まだ素敵な異性に出会っていないだけなんじゃない?」というような質問をされることがあります。しかし、そうした人はほとんどの場合、異性が好きな人に「なんで異性が好きなの?」「まだ素敵な同性に出会ってないだけ」と聞くことはありません。これは質問する側に異性愛が普通だというものの見方があるために起こるものです。

異性愛主義によってLGBTの子ども・若者の心を閉ざさないようにするためには、恋愛の話をするときは常に「付き合っている人(パートナー)いるの?」「彼氏や彼女はいるの?」と聞くようにするといいでしょう。

2つ目の会話にあった「若いとよくあること」というものの見方は、「ユーシズム(Youthism)」と呼ばれています。若者に対して、大人が「まだ若いから自分のことがわかっていない」「若い人の悩みはそのうちなくなる」「若い人はたいしたことがない」などと考えてしまう思考のクセを指します。

私も子どもや若者と接するなかでこれが発動してしまいそうになる時もありますが、知識があると「ユーシズムが発動しそうになっている…!」と自分を客観視して待ったをかけることができます。

社会の至るところに存在している歪んだものの見方や思想を知識として持っておくことで、それらに振り回されず冷静に相手と接する体勢を整えられます。

社会のルールは性の多様性がある前提でつくられていない

ここまで性の多様性についていろいろお話してきましたが、私たちが生きる社会は性の多様性がある前提でつくられていません。

日本の結婚制度はまさにそうで、法律上男性と法律上女性のカップルのみ婚姻関係になれる仕組みになっています。社会にはたくさんの同性カップルが存在しますが、法律上ではいないものとされていて、相続や医療などさまざまな場面で困難な状況に直面しています。

現在こうした問題を解決しようと、法律改正の議論や自治体のパートナーシップ制度の取り組みなど、社会のルールをいろんな人がいる前提に変えようとする動きが起こってきています。

まとめ

今回は、一般社団法人にじーずの遠藤さんに、性の多様性に関する基礎知識と私たちの社会に日常的に刷り込まれているものの見方について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 「レズビアン(L)」「ゲイ(G)」「バイセクシュアル(B)」「トランスジェンダー(T)」の頭文字を並べてLGBTと言うが、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルは性的指向を指す言葉で、トランスジェンダーは性自認を指す言葉。
  • 子どもへの合理的配慮を検討する際に性同一性障害の診断は必要ない
  • 「シスジェンダー」「ヘテロセクシュアル」は、いわゆる多数派と呼ばれる人々の性自認・性的指向を指すもので、多数派の性のあり方にもトランスジェンダーなどと同じように名前がついている。
  • 「多様性」というのは「LGBTだから当てはまるもの」ではなく、多数派を含むすべての人が多様性の一部である。
  • LGBTの理解を深めるには、自分と他の人の感じ方は少しずつ違うという認識をもつことを出発点として、自分や相手の感じ方を大切にできる社会をつくっていくことが大切である。
  • バイアスのかかったものの見方や思想を知識として持っておくことで、それらに振り回されず冷静に相手と接する体勢を整えられる。
  • 社会にはたくさんの同性カップルが存在するが、法律上ではいないものとされていて相続や医療などさまざまな場面で困難な状況に直面している。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

第3回では、トランスジェンダーの子どもの生きづらさや私たち大人にできること・今後無くしていきたいこと・子どもと接するときのポイントなどについてご紹介します。

【連載第3回】LGBTの子どもたちがあたり前に「自分」でいられるために ー多様な性のあり方と、私たちにできること(こども支援ナビ Meetup vol.20)
【連載第3回】LGBTの子どもたちがあたり前に「自分」でいられるために ー多様な性のあり方と、私たちにできること(こども支援ナビ Meetup vol.20)

 

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