連載第1回では、NPO法人Learning for All(以下、LFA)の学習支援現場の1つで使用されている情報収集・整理方法についてご紹介しました。その際、ソーシャルワーカー(以下、SWer)との連携の重要性についても伺いました。
今回は、情報収集・整理やSWerとの連携を通じて、子どもや家庭に対する支援方針の転換を行った事例について、どのように本当のニーズを把握して子どもの状況に適する支援に繋いだのか、LFA学習支援現場の責任者を務める職員に伺いました。
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SWerとの連携体制
━━前回は子ども情報の収集・整理方法やポイントについてお伺いしました。重要な点として挙げられていた、SWerとの連携について詳しく教えていただきたいです。
現場責任者とSWerで週に1回、1時間ほどの頻度でミーティングを行っています。ミーティング内で行っていることは大きく2つあります。
1つは個別の子どもについての情報共有・相談です。主に以下のようなケースを取り上げます。
①新規の子ども見学・受け入れについて(日程・担当者・担当時の共有事項)
②虐待通告対応について(虐待の恐れを発見して虐待通告を行った当日以降の対応状況の確認)
③現場で子どもから出てきた気になる吐露や様子について
④保護者面談について(日程・担当者・担当時の共有事項)
もう1つはソーシャルワークやケースワークにおけるスキルやマインドのインプットです。行政の仕組みや、地域に存在する様々な機関の情報などについても教えていただきます。そうした情報はそれぞれのケースにおいて自分たちが担うべき役割を考える際に役立っています。
支援方針を転換した事例
支援方針の転換を考え始めたきっかけ
━━現場責任者とSWerとの連携の中で、特に①新規生徒見学・受け入れについてのお話を伺います。情報収集・整理やSWerとの連携が、子どもに適した支援の見極めに役立ったケースがあればご紹介いただきたいです。
過去に一度LFAの学習支援現場に通っていたことがあり、しばらく休会していたが母親から「再び学習支援現場に通わせたい」と連絡をいただいた家庭のケースについてお話します。対象の子どもは中学校2年生です。受験勉強が迫っていることもあり、母親は「子どもに勉強を頑張ってほしい」と思っているように見受けられました。
その際、過去の情報から、小学校の頃に不登校経験があることを把握していました。
受け入れに向けて準備を進めていたのですが、体験授業当日の朝に母親から欠席連絡をいただいたことをきっかけに支援方針の転換を検討し始めました。欠席理由を確認したところ、本人が精神的に外に出られない状態と分かりました。私たちの現場は最寄り駅まで自分で来ていただくことが前提となっているので、このまま私たちの現場で受け入れることは少し難しいかもしれない、と感じました。
過去の不登校経験を把握していたこともあり、母親に子どもの普段の様子や通学状況などを確認したところ、一時期フリースクールに通っていた時期はあったものの長い間学校にも家の外にも出られていないとのことでした。
母親も「欠席して申し訳ない」と感じられていたようなので、その場でそれ以上深堀って聞くことはせず、別途SWer同席の上で面談を行う方が良いと判断し、こちらから母親に面談の打診を行いました。私たちの現場に通いたいと頼ってくれている人に対していきなり「受け入れることは難しいです」という態度を取ってしまうと信頼関係を損ねてしまうので、まずは対面でお話しする機会を取ることが大切だと考えました。
子どもに適する支援の検討
母親との面談前に、SWerとの週1回のミーティングで受け入れ可否について検討しました。新規の子どもを受け入れる際には毎回受け入れ可否についての議論を行っているため、ミーティング参加者の間で「どんな子どもを学習支援現場に繋ぐのか」の認識はある程度揃っていたように感じます。そのため今回のケースでは特に意見の衝突や気持ちの葛藤などはなく、LFA内での合意が取れました。
SWerとのミーティングの結果、親子と面談したうえで、LFAが同じエリアで提供している居場所支援の紹介も検討することになりました。今までに得た情報をもとに、子どもと母親のニーズが以下のような状態ではないかと考えて議論した結果です。
- 子ども本人と母親のニーズや困り事は異なる可能性がある。子ども本人の話を聞くことも重要
- 母親は、まずは子どもに外に出られるようになって欲しいと思っているのではないか
その居場所支援現場は来る時間や帰る時間も自由なので、決まった時間に来て勉強する必要がある学習支援現場に比べて、足を運ぶハードルはだいぶ下がります。したがって、学習支援現場より居場所支援現場のほうがニーズに合っているのではと考えました。
親子の本当のニーズの確認
SWerとのミーティング後、親子との面談を行い、居場所支援の提供サービスと、子ども本人および母親のニーズが合致しそうかを共に考えました。本人と保護者から話を聞く中で、改めてまずは外に出られるようになることを求めているということが分かりました。その後は居場所支援現場の職員と連携し、そちらの見学や面談などに進んでいただきました。
振り返ってみると、最初学習支援現場である私たちの元に電話をかけてきたのは、おそらく知っている支援現場の連絡先がそこしかなかったからではないかと思います。そして、「学習支援現場に通わせるのだから勉強させないと」という心理が働いていたのかもしれません。居場所支援現場という選択肢を紹介し、提供されるサービスに縛られずに対面でゆっくり話を聞く中で、「まずは外に出られるようにしたい」という本当のニーズが表出したのではないかと考えています。
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今回のインタビューでは、情報収集・整理やSWerとの連携によって支援方針の転換が行われたケースについて詳しく伺いました。大変貴重なお話を伺うことができたと感じております。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました!
※本記事の内容はLFAの一学習支援現場における実践例であり、記事内容が全ての子ども支援団体に当てはまるとは限りません
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