「アサーション」とは?子ども支援現場でも活かしたい、相手も自分も大切にする自己表現

多様な大人・子どもたちが集まる子ども支援の現場では、お互いを尊重したコミュニケーションが不可欠です。

今回は、「相手も自分も大切にする自己表現」であるアサーションというコミュニケーションスキルについて取り上げます。

子どもたちが自分の意見や想いを自由に表現するために、そして大人たちも自分に我慢を強いることなく健全に意見や想いを伝えていくために、ぜひ参考にしてみてください。

アサーションとは何か

相手も自分も大切にする自己表現

アサーション、またはアサーティブなコミュニケーションとは、一言で言うと「相手も自分も大切にする自己表現」のことです。

例えば他者と接するときに、相手を不快にさせないことや波風を立てないことを重視するあまり、自分が極端に我慢をしてしまったり自分の主張を蔑ろにしてしまうことはないでしょうか?あるいは自分の主張を通したいあまり、思わず相手に対して攻撃的な態度を取ったり相手を押さえつけるようなコミュニケーションを取ってしまうことはないでしょうか?

前者のような非自己主張的な自己表現の後には、「自分の意見・気持ちをわかってもらえなかった」という傷ついた気持ちが残り、そのストレスが心身に悪影響を及ぼしたり、相手に対して怒りや恨みが募ってしまうこともありえます。さらに相手からすれば、我慢をさせているつもりはないのに恨まれてしまうことに困惑する場合もあるでしょう。

後者のような攻撃的な自己表現では、一時的には自分の要求が通ったとしても、攻撃的な対応をされた相手には「大切にされていない」という気持ちや怒りが残ったり、信頼できない人だと距離を置かれてしまったりすることも考えられるでしょう。

これらはいずれも、自分または相手・あるいはその両方を大切にしていない自己表現の形であると言えます。

では、アサーティブなコミュニケーションとは、どのようなものでしょうか。これは、自分の意見や考えをその場にふさわしい方法で率直に表現し、相手にも同じような表現を求めるコミュニケーションスタイルです。


画像:LFA作成

アサーティブな表現ではお互いが率直に意見を表現するため、意見の食い違いが生じることもあります。食い違いが起きた時に、非主張的にどちらかが相手にゆずったり攻撃的に相手を同意させようとしたりせず、自分も相手も大切にして歩み寄る中で、双方にとって納得のいく結論を出そうとするコミュニケーションが、アサーションである言えるでしょう。アサーティブなコミュニケーションの後には、お互いが相手に尊重されたと感じ、お互いの努力に対して誇らしい気持ちが残るはずです。

アサーションはなぜ大切か

子ども支援の現場において、なぜこのようなアサーティブなコミュニケーションが大切になってくるのでしょうか。

まず、子どもも大人も含め、私たちはお互いに異なる存在であり、異なる価値観・意見を持ちうる存在であることがあげられます。支援者の中には、子どものことを思うあまり、自分が嫌だと感じたことでも子どもに伝えることを我慢してしまった、という経験を持つ人も少なくないのではないでしょうか。しかし、居場所などの子ども支援現場は、大人と子どもが時間を共にする場所であり、大人も子どもも安心・安全な気持ちで気持ちよく過ごせることが大切です。そのためには、相手を尊重しながら自分の気持ちも率直に伝えていくことが必要になってくるでしょう。

また、社会的地位や年齢、知識や経験の格差がある状況では、無意識のうちに上下の権力関係が生じ、人権侵害が起こりやすいと言われています。例えば、十分に自己表現をすることができない子どもに対して、大人が一方的に自分の言い分を押し付けるようなあり方です。子どもに関わる人たちが、意識的にも無意識的にも子どもを思いのままに動かし、彼らの自己表現を阻害することがあってはいけません。目の前の子どもを尊重するために、自分自身がアサーティブであるよう努めることが大切です。

そして、自分の意見を尊重されること、相手から人として対等に意見を伝えてもらえることは、その人の自尊心を高めることに繋がります。アサーティブな環境に身を置くことで、子どもたちは「自分は大切にされているんだ」「尊重されるべき存在なんだ」と感じることができるはずです。そして、子どもたち自身がアサーションを身に着けることで、周囲の人とのコミュニケーションがより円滑になったり、自分と他者を尊重して助け合える関係性を築いていくことにも繋がるでしょう。

アサーションのポイント

ここからは、アサーティブなコミュニケーションを行なっていくためのポイントについてご紹介します。まず、アサーションは以下の図のような仕組みで成り立つとされています。


画像:LFA作成

アサーションの土台には「自己表現の権利」という基本的人権があり、「自己尊重と他者尊重」をすることで、アサーティブなものの見方・考え方ができるようになると言われています。そして、その考えをふさわしい表現で伝えることでアサーションは成り立ちます。詳しく見ていきましょう。

自己表現の権利

アサーティブなコミュニケーションには、「自己表現の権利」という基本的人権が土台にあると言われています。自分の感じること・考えることを言葉で表現することは権利であり、相手の権利を侵害しない限りにおいて、私たちにはその権利があるというものです。人は誰でも、生まれながらにして自分の感じること・考えることがあり、自分を大切にしてほしいと望んで良いし、自分の行動を自分で決めて良いはずです。自分自身を大切にし、相手も大切にするなかで、自分と相手が対等であり平等であることを、攻撃的にならずに主張できるのがアサーションという自己表現なのです。

自己尊重と他者尊重

そして自己表現の権利を土台としたとき、その上には自分を尊重する気持ちと他者を尊重・信頼する気持ちが乗ります。「自分は大切にされていい・意見を伝えていい」という自尊感情と、「相手は自分を大切にしてくれる・意見を聞いてくれる」という他者への安心・信頼が、他者を尊重する気持ちに繋がります。自分と他者を尊重する経験を積み重ねることが、アサーティブな自己表現に繋がっていくのです。

伝え方のスキル

では次に、アサーティブな自己表現を行う際に気をつけたい「伝え方」のポイントをいくつかお伝えします。

アイメッセージ

まずは、アイメッセージを心がけることです。アイメッセージとは、主語を「私=I(アイ)」にして言いたいことを伝える表現方法です。

何かの主張をするときは、つい「『あなた』は間違っている」「『あなた』はそうすべきでない」など、主語を「あなた=you(ユー)」にしてメッセージを伝えがちです。しかし、これでは相手は自分を否定されたと感じ、意見を受け止めにくくなってしまうことがあります。そうではなく、「私は」何をして欲しいのか、どういう状態なのか、何をしたいのかなど、主語を「私」にすることで、相手にとって受け取りやすいメッセージになります。

また、主語を「私」にすることで自分の気持ちや考えが整理されやすくなり、お互いにお互いの価値観を理解する助けにもなるでしょう。


画像:LFA作成

非言語メッセージ

次に非言語のメッセージです。人は、言葉だけでなく、表情や仕草などの非言語情報からも大きな影響を受けると言われています。言葉の内容がポジティブなものであっても、表情や仕草などの非言語情報がネガティブであれば、意図した通りに自分の意見や想いが伝わらない場合があります。視線や、姿勢、距離感、表情、体の動き、声のトーンなどにも気を配り、言行一致を心がけることで、言語情報と非言語情報の矛盾を極力少なくできると良いでしょう。

アサーションで避けたい表現

最後に、アサーティブな表現を目指す場合に特に避けたい表現についてです。例えば、相手を責める言い方・相手の話を遮る聞き方・結論を決めつける言い方等は避けるようにしましょう。これらはどれも、自分が言われても良い気持ちのしないものばかりです。自分がどのように言われたら話を受け止めやすく、どのように言われたら受け止めにくくなってしまうのかを想像しながら表現方法を考えられると良いでしょう。

アサーティブなコミュニケーションができていないと感じるときは

私たちがどのような自己表現をするかは、私たちの認知(ものごとの見方や考え方・捉え方)に影響されると言われています。アサーティブでない自己表現をしてしまうときは、社会的・文化的背景、または思い込みなどによって、自分や相手の尊厳や権利を否定する心理が働いていることがあります。例えば「先輩には逆らってはいけない」「失敗するのは悪いことで、完璧であるべき」などの考え方などです。

アサーティブなコミュニケーションができていないな、と感じるときは、自分自身の認知を振り返ってみることが効果的な場合があります。ここでは、認知を振り返るフレームワークとして、ABCDのフレームワークと呼ばれるものをご紹介します。

ABCDのフレームワーク

ABCDのフレームワークは、自分の認知を明らかにし、認知を生み出している信念や思い込みを論破することで認知を変えていく方法です。ABCDは、以下の4つの頭文字を指しています。

  • A(Activing event)= ある出来事 
  • B(Belief)=ものごとの捉え方、思い込み  
  • C(Consequence)=出来事の結果として起こる感情や行動  
  • D(Dispute) =論破

具体的に見ていきましょう。


画像:LFA作成

例えば、初対面の人に対してひどく緊張してしまい、うまく話ができない人がいたとします。この場合、初対面の人との出会いという出来事(A)がその人の緊張感(C)を強めているのではなく、「いい子だと思われないといけない」という思い込み(B)をもっていることが緊張感(C)に繋がっている場合があります。ですので、「いい子だと思われないといけない」という思い込み(B)を「いい子じゃなくても大丈夫」「いい子じゃなくても相手は自分を傷つけない」などと論破(D)することで、緊張感(C)はやわらいでいくと考えられます。

自分のペースで取り組もう

自分自身の認知に引っ掛かりを感じたら、まずその認知を変えたいと思うかを考えてみてください。認知を変えたいと思うのであれば、先ほど紹介したABCDのフレームワークが力になってくれることでしょう。ただ、長年の経験や生活の中で染み付いた認知を変えるのは簡単なことではなく、ときに苦しさを伴うこともあります。「完全に変えなければ」と思い込まず、「ゆるめよう」あるいは「和らげよう」くらいの気持ちで、自分のペースで少しずつ取り組んでいけると良いでしょう。

まとめ

今回は、アサーションについて取り上げました。ポイントを以下にまとめます。

  • アサーションとは、相手も自分も大切にする自己表現。
  • アサーションは、意識的・無意識的な人権侵害を避け、お互いを尊重し、大人も子どもも安心・安全に過ごしていくために必要なコミュニケーションスキル。
  • アサーションは自己表現の権利という基本的人権を土台にしており、「自己尊重と他者尊重」をすることで、アサーティブなものの見方・考え方ができるようになり、それを適切な表現方法で伝えることで成り立つ。
  • 私たちの自己表現は、私たちの認知に影響される。認知を捉えるフレームワークの1つとして、ABCDのフレームワークがある。

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参考文献

  • 「よくわかるアサーション 自分の気持ちの伝え方」主婦の友社、監修:平木典子
  • 「児童心理 2008年5月号」金子書房
  • 「ダイレクト・ソーシャルワークハンドブック」明石書店、監修:武田信子

※本記事の内容は一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

 

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