2024年2月28日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第20回が開催されました。
今回は、一般社団法人にじーずの代表である遠藤まめた氏をお迎えし、「LGBTの子どもたちがあたり前に『自分』でいられるために ー多様な性のあり方と、私たちにできること」をテーマに、多様な性のあり方やにじーずの取り組み、子どもの居場所を運営される皆さんに知っておいてもらいたいことなどをお話いただきました。
イベントレポート第1回では、にじーずの活動背景にあるLGBTの現状や性の多様性に関する基礎知識(前半)についてご紹介します。
プロフィール:遠藤まめた氏
トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけにLGBTの子ども・若者支援に関わる。近著に「教師だから知っておきたいLGBT入門」(ほんの森出版)ほか
こんにちは、一般社団法人にじーずの遠藤です。本日は、「LGBTの子どもたちがあたり前に『自分』でいられるために」というテーマでお話をさせていただきます。
今日ご参加いただいている方は普段学校や子ども食堂などさまざまな形で子どもたちと関わっていると思います。このイベントを通して、そうした関わりの中でLGBTの子どもと接する際のヒントを少しでも持ち帰っていただければ幸いです。
私は「遠藤まめた」という名前で活動しているんですが、これは小学校のときのあだ名です。苗字が遠藤だったので、まめたというあだ名で呼ばれていました。生まれたときについた名前が女の子の名前で、その名前よりもあだ名のまめたの方が好きだったので、今も「遠藤まめた」という名前で本の執筆や講演をしています。
普段は会社員として働いており、働きながらにじーずの代表としての活動も行っています。
LGBTへの理解がなく困っていた若者時代
私は、生まれたときの性別と自分がこう生きたいと思う性別が異なる「トランスジェンダー」です。
私が育った10〜20年前はこうした勉強会のようなイベントは非常に少なく、親や学校の先生はもちろん、LGBTについて知らない人が圧倒的に多い状況で子ども時代を過ごしていました。
そのような状況で小中高と困ることがたくさんありながら過ごしていて、高校生の時に初めて「性の多様性」というものを知りました。学校では教えてもらえなかったので、自分でインターネットで調べてたどり着きました。
こうした困りごとの多い子ども時代を過ごす中で、この問題をどうにか社会の問題として発信していきたいと思い、18歳の時にLGBTの子どもが置かれた環境について発信を始めました。8年前からはにじーずというLGBTの子ども若者の居場所を開催しています。
学校の先生や保護者の方向けの本もたくさん書いています。今年の春からは子ども向けの連載がはじまります。中高生向けの本も書いています。興味があれば、ぜひご確認ください。
現在は執筆活動を多く行っていますが、子どものころは作文の時間が苦手でした。というのも、小学生の作文は、男の子は「ぼく」で女の子は「わたし」と書くように指導されるんですよね。小学生のころは「わたし」と書くのがとても嫌で、一人称ひとつ取っても困ることが多くて大変だった記憶があります。
にじーずの活動について
にじーずは、10代から23歳までのLGBT当事者やそうかもしれない人の居場所です。
全国のさまざまな場所で、遊んだり話したり、ゲームをしたり、絵を描いたり、学校の休み時間のようなわいわいした雰囲気でみんなで一緒に過ごしています。現在、居場所は仙台から岡山までの全国10か所ほどで定期的に活動しており、今年の1月からはメタバース(オンライン)でも交流イベントを始めました。
LGBTの子ども・若者の居場所は全国的にとても少なく、にじーずが対象としている若者世代では同世代の人と交流する機会がなかなかないケースが多いです。そのため、全国どこにいる人でも交流しやすいようにメタバースでの交流イベントも始めました。これらの居場所には、これまで3,000名以上が参加してくれています。
参加した方からは、「とても楽しかった」「自分が社会で過ごしたい姿の通りに過ごせる」「自分の性別や抱えている悩みについて安心して話せた」などの声をいただきました。
画像引用元:一般社団法人にじーず
なぜにじーずでLGBTの子ども・若者の居場所活動をしているのか
なぜにじーずでこうしたLGBTの子ども・若者向けの居場所を作っているのかというと、子どもたちが当たり前に「本当の自分」を出して生活することがなかなか難しい現状があるからです。
画像引用元:一般社団法人にじーず
例えば、学校で友達が恋愛の話をしているときに周りに合わせて異性が好きなフリをしなければいけなかったり、LGBTのことがバレないように友達の質問にどう答えればいいか常に考えていたりして、普段からリラックスして過ごすことが難しいという状況があります。
また、家族がLGBTに対して心無い言葉を投げかけているのを見て家族へのカミングアウトを諦めることもあります。服装や髪型、持ち物でさえも自分のしたいようにすることで周りから何か言われたり責められたりするかもしれないと考えると、ありのままの自分で過ごすことが難しいです。
実際、LGBTに関する活動をしているNPO法人ReBitが行った調査では、孤独を感じたLGBT当事者の若者の割合は、内閣府が行っている一般的な調査よりも8倍近く高い数字となっており、かれらがありのまま生きることの難しさを感じます。
LGBTの若者は「いない」のではなく「言わない(言えない)」
最近自治体でも住民基本台帳を使った本格的な調査が行われており、 LGBTの人は少なくとも人口の3〜5%いることがわかっています。これは日本にいる「佐藤」「鈴木」「高橋」姓の人を合わせた数と同じくらいなので、「これまでLGBTの人と出会ったことがない」ということはほぼありません。
しかし、「これまでLGBTの人と出会ったことがない」と自認している人は結構多いと思います。これは、その人の周りに当事者がいないのではなく、「言わない(言えない)でいる」だけです。こうした認識を多くの人々が持つことがLGBTへの理解を広げていくうえで重要なことだと思っています。
LGBTの若者にとって重要なのは自分を理解してくれる人・環境
昨年アメリカのNPO団体が、昨年1年間で自殺未遂をしてしまったLGBTの若者のデータを調査・分析してその結果を公表しました。
画像引用元:一般社団法人にじーず
これによると、LGBTについて学校が肯定的であった場合は25%、家庭が肯定的であった場合は33%自殺を試みる割合が低下することがわかりました。LGBTの若者にとって「自分のことを認めてくれる人・環境があるかどうか」がいかに重要な問題で、命に関わるものであるかが感じられると思います。
そのため、普段子どもと接する機会があるなら、「もし誰かからカミングアウトされたらその子のサポートをしたい」「LGBTの問題に関心がある」ということをぜひ発信してほしいです。その行動が子ども・若者の命を守ることに繋がっていくかもしれません。
多様な性の基礎知識 ー性の4要素ー
今日の話では性の多様性に関する専門的な言葉を使いながら説明していくので、まずは関係する言葉の整理をしていきます。
人間の性のあり方は、「生物学的な性(からだの性)」「性自認(自認する性)」「性的指向(好きになる性)」「性表現(表現している性)」の4つの要素の組み合わせで考えると理解しやすいです。性の4要素は、LGBT当事者だけが当てはまるものではなく、誰もがそれぞれの形で持っています。
画像引用元:一般社団法人にじーず
1 生物学的な性(からだの性)
ある人が生物学的に男性なのか、女性なのかを表す要素です。これは生まれてきたときに決まっています。
男性・女性それぞれの中にバリエーションがあり、男性で体毛が濃い人がいれば薄い人もいたり、女性で先天的に子宮がない状態で生まれてくる人がいたりします。
また、一般的に生物学的な性別を決める性染色体は、XXなら女性でXYなら男性と言われますが、性染色体はそれ以外にも種類があって一般的な組み合わせと異なる性染色体を持って生まれる場合もあります。
2 性自認(自認する性)
「自分の性別は何か」という内面的な自己に対する認識を表す要素です。英語では「ジェンダーアイデンティティ」と言われることもあります。
「自分は男性である」「自分は女性である」という認識のほかに、「男性か女性のどちらか一方を選ぶことが難しい 」「男性でも女性でもない」という認識をしている人もいます。
人は自認する性以外で自分のことを呼ばれたりすると驚いたり居心地が悪くなったりするものです。例えば、LGBTかどうかに関わらず、性自認が女性の人が街中で「そこのお兄さん!」と声をかけられたら驚きますよね。失礼だと感じることもあるかもしれません。
一般的にはこうした経験をする人はあまりいないと思います。というのも、多くの人は性自認と生物学的な性が一致していて、見た目で男性か女性か判断できるからです。
しかし、性自認と生物学的な性が異なる人は、性自認が女性なのに男性のように扱われることやその逆が毎日のように起こります。こうした環境によって居心地の悪さを感じたり、日常的に違和感を強く持ったりしています。
性自認についてはトランスジェンダー以外の人はあまり関わりがないと思いがちですが、誰しもがそれぞれの形で性自認を持っているということを知っておいてほしいです。
3 性的指向(好きになる性)
どんな性別の人を恋愛・性的な感情の対象として好きになるか、という認識を表す要素です。「絶対に男性 / 女性が好き」という人ばかりではありません。例えば以下のような認識があります。人によって実にさまざまです。
- 大体男性が好きだけど、一度女性を好きになったことがある
- 性別に関わらずいろいろな人を好きになったことがある
- 大人になっても恋愛感情を持ったことがない
4 性表現(表現している性)
ある人の服装や振る舞い、仕草、外見、性格などが、周りから見て男性らしいか女性らしいか、を表す要素です。
「周りから見て」という点がポイントで、本人の性自認と性表現は必ずしも一致するとは限りません。例えば、友達が全員女の子という男の子がいたとして、その子について周りが「男らしくない」「女の子みたい」と言っていたとしても、本人の性自認が女性であるとは限りません。
性自認と性表現は混同されることが多いですが、表すものが異なっています。
本人は自分らしく振る舞っているだけなのに、周りが「男の子 / 女の子らしくない」と言ったり勝手にこうしろああしろと振る舞いを決めつけたりしてくると、本人としては当然困ってしまいます。
性の4要素は人によってさまざまなのに決めつけられることが多い
性の4要素は人によってそれぞれ当てはまるものが異なります。しかし、私たちの社会では「生物学的な性と性自認は一致している」「異性が好きになる」という認識が固定化されています。
例えば、生物学的な性が男性の方が2人いたとして、生物学的な性と性自認はそれぞれ男性でも、性的指向が1人は女性が好きで、もう1人は男性が好き、と分かれることは全く不思議なことではありません。性的指向は見た目ではわからないものなので、それぞれどの性別の人が好きなのかは本人に直接聞いてみないとわかりません。
画像引用元:一般社団法人にじーず
しかし、私たちの社会ではこれまで「異性が好き」という人が多く、それが当たり前とされてきたため、「男性ならきっと女性が好きだろう」という前提で話をする人がたくさんいました。そうすると、異性が好きなわけではない人は困ってしまい、そうした話題になるたびにどうしよう…と悩んでしまいます。性的指向は誰しもそれぞれ持っているもので、多くの人が異性が好きでも、全員がそうではありません。
また、私のように生物学的な性と性自認が一致しない「トランスジェンダー」の人も社会にはたくさんいます。しかし、これまでの社会はトランスジェンダーがいない前提で作られてきました。
例えば、学校の制服はこれまで男子ならスラックス、女子ならスカートしかありませんでした。最近は自分の着たい制服を選べる学校も増えてきましたね。また、髪型も男性なら短くしないといけないという風潮があります。
こうした性別は本人の性自認ではなく、周りが見た目から「あなたは男の子なんだからこうしなさい」「女の子はこうあるべき」と決めつけられることがほとんどです。そうすると、トランスジェンダーの人は毎回性自認と異なった性別で生きることを強いられて、毎日非常に苦しい思いをしています。こうした理由もあり、トランスジェンダーは不登校の経験率がとても高いと言われています。最近では環境の改善が進んでいますが、いろいろな性のあり方を前提とした社会でないと、なかなか自分らしく生きるのが難しいのです。
ちなみに私は、生物学的な性が女性で性自認が男性のトランスジェンダーです。
画像引用元:一般社団法人にじーず
あえて性的指向には印をつけなかったのですが、見た目から私の性的指向は決められるでしょうか?
正解は見た目では決められません。性的指向は直接聞いてみないとわからないものです。
トランスジェンダーはあくまで生物学的な性と性自認が不一致な人であって、性自認と性的指向は全く別の話になってきます。生物学的な性、性自認、性的指向はそれぞれ独立した異なる要素だと認識していただけたらと思います。
まとめ
今回は、一般社団法人にじーずの遠藤さんに、にじーずの活動背景にあるLGBTの現状や性の多様性に関する基礎知識について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- にじーずは、10代から23歳までのLGBT当事者やそうかもしれない人の居場所を運営している。
- にじーずが子ども・若者の居場所活動をしているのは、かれらが当たり前に「本当の自分」を出して生活することがなかなか難しい現状があるから。
- LGBTは人口の3〜5%いるとされているが、周りに「言わない(言えない)」ためにいないと思われている。
- LGBTの若者にとって「自分のことを認めてくれる人・環境があるかどうか」が自殺率に大きく影響する。
- 人間の性のあり方は「生物学的な性(からだの性)」「性自認(自認する性)」「性的指向(好きになる性)」「性表現(表現している性)」の4つの要素の組み合わせで考えられ、各要素はそれぞれ独立した別のものである。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
第2回では、性の多様性に関する基礎知識(後半)と私たちの社会に日常的に刷り込まれているものの見方についてご紹介します。
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