【連載第1回】個別支援の考え方 ーLearning for All 流・情報収集整理術!ー

子どものニーズを的確に把握し、適切な支援を行うためには、子どもの状態や環境についての情報収集および整理が欠かせません。

今回は、NPO法人Learning for All (以下、LFA)の学習支援現場における、子ども情報の収集・整理方法について、LFA学習支援現場の責任者を務める職員に伺いました。

収集している情報と情報整理のためのツール

━━子どもについての情報は、どのような目的で、いつ、どんな情報を、どのような方法で収集・整理していますか。

子どもの生年月日・在籍校のような基礎情報、家庭の制度利用状況のように子どもの受け入れ時に収集する情報から、学習指導中の子どもの様子のように支援活動中に随時蓄積する情報まで、多種多様な情報を扱っています。

LFAでは、多様な情報を蓄積・整理し、支援に関わるメンバーで情報共有を行うため、情報収集のためのツールを複数用意しています。

大きく、子どもの受け入れ開始までに使用するものと受け入れ以降に使用するものに分けてご紹介します。

これらのツールは日々の運用の中で改善を重ねているものであり、必ずしも正解と言えるものではありませんが、1つの学習支援現場で実施している一例としてご参考いただければと思います。

子どもの受け入れ時までに使用するツール

子どもの基礎情報やニーズ、困りごとを把握し、記録するために、ツールを用意しています。

フェイスシート

<目的>
子どもや世帯の状況を把握する

<使用方法>

  • 基本的には印刷して保護者に記入していただく
  • 保護者が日本語に困難を感じる場合などは、聞き取りながらLFAで記入する

<記録する情報(例)>

  • 子どもの基礎情報
  • 家庭の制度利用状況(生活保護/就学援助/児童扶養手当/ひとり親家庭医療費助成/特別支援教育就学奨励費など)
  • 担任の先生や関わりの深い先生の情報

 

個別対応記録

<目的>
子どもや家庭のニーズや状況の変化に関わる情報を蓄積する
(受け入れ後も引っ越しや虐待の恐れの発見による虐待通告対応などが発生した場合は都度更新する)

<使用方法>
情報を入手次第LFAで更新する

<記録する情報(例)>

  • 子どもと世帯の基礎情報および特記事項
  • 虐待通告対応など福祉的な支援内容の経過記録

 

受け入れ時アンケート

<目的>

  • 家庭の連絡先や家族構成を把握する
  • 子どもの学習やそれ以外についてのニーズを把握する

<使用方法>

  • 面談時に適宜説明しながら保護者に記入していただく
  • WISCの結果などがある場合はヒアリングする

<記録する情報(例)>

  • 子どもの学習状況
  • その他困っていること

 

子どもの受け入れ以降に使用するツール

長期的な子どもの状況や支援記録を蓄積し、支援者間で引継ぐため、また、定期的に子どもの様子をチェックするためのツールを用意しています。

生徒カルテ

<目的>
支援者が子どもの情報を長期的に引き継ぐ

<使用方法>
学習支援担当者が変わる時期に更新する

<記録する情報(例)>

  • 子どもの基礎情報
  • 取るべき/避けるべきコミュニケーション
  • 進路希望状況や成績
  • 学校での様子
  • 本人の性格や障害の有無

 

引き継ぎシート

<目的>
支援者が学習に関する子どもの情報を短期的に引き継ぐ(日々の指導記録や代行時の指導内容共有として)

<使用方法>
毎回の指導前後で更新する(週1,2回)

<記録する情報(例)>

  • 当日の指導内容
  • 当日の子どもの様子

 

見守りチェックシート

<目的>
特別な/緊急の支援が必要な、あるいは必要になりそうな子どもを見逃さないようにする

<使用方法>
月に1回、支援担当者がチェック項目に沿って子どもの様子をチェックし、現場責任者およびソーシャルワーカー(以下、SWer)に共有する

<記録する情報(例)>
図1のように、身なりや衛生面などの見た目から学力や授業の様子など学習に関することまで、子どもの状況について定点観測すべき項目をチェックしています。


図1:見守りチェックシート(LFA作成)

 

子どもの受け入れまでのプロセス

━━子どもの受け入れまでの時期における情報収集・整理についてさらにお伺いします。子どもの現場受け入れ判断のプロセスと、その際に参照する情報の収集・整理方法について教えてください。

子どもとの初回コンタクトから初回授業および受け入れまでに、大きく4つの段階を踏むようにしています。

各段階で収集する情報は以下の通りです。

①初回コンタクト

  • 現場に繋がった経緯(どういう経緯で知ったのか)
  • 現在困っていること
  • 初回見学時に来るのは誰か(保護者同伴か否か)

保護者とお話する機会を設ける必要があるので、初回面談時に保護者が来られない場合は、見学時以外の日時でも面談を行えないか提案するようにしています。

②見学・面談

  • ニーズと困りごとの把握
  • 家庭の状況(家族構成、保護者が困っていること、仕事や体調について)
  • 体験授業で希望する内容

家庭の制度利用状況などの個人情報はこのタイミングではまだヒアリングしません。保護者と関係を構築する前に個人情報を聞き取ろうとすると抵抗感を抱かれる可能性があるためです。

③体験授業

  • さらに詳細なニーズと困りごとの把握
  • 家庭での子どもの様子(見学時/授業時の子どもの様子を保護者に共有しつつ、家庭での過ごし方を確認する)

体験授業終了後に参加申込書、受け入れ時アンケートおよびフェイスシートをお渡しし、初回授業までに記載していただくようにしています。

④初回授業

  • 参加申込書、受け入れ時アンケートおよびフェイスシートの回収

 

子どもの受け入れ後に行うこと

━━子どもの受け入れ後の情報収集・整理について教えてください。

毎週の保護者連絡随時実施している保護者面談が主な情報収集機会になります。

私たちの現場では、指導日前に指導場所や時間などについての情報を伝えるために、各家庭と週に1,2回連絡を取っています。保護者から今週の出来事や現在の困り事などを共有いただくこともあり、重要な連絡手段となっています。

保護者面談は必要に応じて行います。以下のような状況の時に面談を実施することが多いです。

  • 半年に1回ほどの頻度で実施している保護者イベントのタイミングで保護者から希望があった場合
  • 虐待通告などの対応が複数回発生している場合
  • 保護者との連絡があまり取れていない場合
  • 受験に向けて志望校や学習状況を確認したい場合

 

情報収集・整理のために意識していること

━━子ども情報の収集・整理のために意識していることを教えてください。

子どもの受け入れ前までの情報収集・整理では、大きく3点を意識しています。

①即時に記録作成・連携を行うこと

子どもの対応については、子どもをよく知る現場スタッフのインターンやボランティアと協力して記録すること、さらに福祉的な対応についてはSWerと連携することを意識しています。また、現場に通う子どもの数が多くなると得た情報を忘れてしまうこともあるので、逐一記録を取るようにしています。

②ヒアリングの仕方や得た情報の中で気になるものについてはSWerに相談し、フィードバックをもらうこと

保護者との会話や面談の中でどうしても聞きづらかったり、上手に話を深掘りすることができなかったりすることがあるため、SWerに相談しヒアリング後の振り返りを行うようにしています。また、得た情報を元に立てたニーズや困り感の見立てについても、SWerに積極的にフィードバックをもらうようにしています。SWerからケースワークについてのスキルやマインドを伝授してもらうこともあります。SWerとの密な連携は非常に重要なことだと感じています。

③受け入れ前に聞ける情報量には限界があるため、子どもや保護者に無理に情報を聞こうとしないこと

信頼関係の構築に時間がかかることを前提として、もし聞きたい情報を聞き出すことができなくても焦らず構えることを意識しています。

 

━━子どもの受け入れ時や受け入れ後はどのようなことを意識していますか。

子どもの受け入れ時における情報収集・整理では、受け入れ前までに意識していたことに加え、ただこちらから一方的に保護者に子どもの情報を聞くのではなく、こちらから保護者に子どもの見立てを共有することを意識しています。現場での子どもの様子や学習の状況を伝えつつ、「現場ではこんな風に勉強しているのですが、ご家庭ではどうですか?」と話を展開することで、「子どもをきちんと見守っている」というメッセージングにもなります

そして、子どもの受け入れ後は、保護者との信頼関係構築に努めます。保護者に子どもの見立てを伝えることに加えて、家庭に合わせた連絡のペース・量を守ることを意識しています。ただし、頻繁な連絡を好まれる家庭に対しても、適切な頻度・内容を超えないように心がけています。

 

まとめ

今回は、LFAの学習支援現場における子ども情報の収集・整理方法について、現場責任者を務める職員に伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 子どもや保護者とコンタクトを取る各タイミングで、適切な情報を収集し、ツールを用いて即時に整理・蓄積・支援者間での共有を行っている
  • 1人で全て担おうとせず、周囲のスタッフやSWerと連携しながら情報収集・整理を行うことが大切である
  • 信頼関係の構築には時間がかかるため、子どもや保護者から無理に情報を聞き出すことはせず焦らず構える
  • 子どもの受け入れ後は、現場での子どもの様子をこちらから保護者や家庭に伝えることも重要である

今回のインタビューでは、子どもの受け入れ時および受け入れ後における情報収集・整理方法について伺いました。次回はSWerとの連携を含む、情報収集・整理に基づく子ども受け入れ判断の具体的な事例について伺います。

【連載第2回】個別支援の考え方 ー本当のニーズを聞くために・Learning for All の事例ー
【連載第2回】個別支援の考え方 ー本当のニーズを聞くために・Learning for All の事例ー

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※本記事の内容はLFAの一学習支援現場における実践例であり、記事内容が全ての子ども支援団体に当てはまるとは限りません

 

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