こども支援ナビを活用して、支援現場から「子ども支援のあり方」を考えよう!~NPO法人Learing for All の事例~

子ども支援のあり方に正解はありません。しかし正解がないということは、同時に多くの可能性を秘めているということではないでしょうか。目の前の子どもたちに寄り添う支援現場は、日々の学びを明日から子ども達に繋げることができます。

だからこそ、支援現場のチーム皆で「子ども支援のあり方」を考えてみませんか?今回は、認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)の学習支援現場の職員である田尻さんのインタビューを通して、こども支援ナビを活用したワークの事例やワークを設計した現場職員の想いをご紹介します。

プロフィール:田尻 夏希
大学在学時にLFAでボランティア・インターンとして学習支援事業に携わり、卒業後にLFA入職。
現在は東京都・埼玉県にある学習支援拠点の責任者として、大学生ボランティア・インターンへの指導をはじめ、保護者や関係機関との連携を行っている。
趣味はジャニーズを応援すること。

LFAの学習支援現場が行っている「リフレクションコンテンツ」とは

—LFAの学習支援現場で実施している「リフレクションコンテンツ」の一環で、こども支援ナビを活用したと伺いました。まず、LFAで行っている「リフレクションコンテンツ」とはどのような時間なのでしょうか?

「リフレクションコンテンツ」とは、子ども達の指導を行う学生ボランティアが支援者としてレベルアップすることを目的とし、指導日に毎回実施しているワークです。このリフレクションコンテンツで扱う内容はスタッフが設計し、指導日に1時間程度の時間をとって、同じ拠点で活動しているボランティア全員で取り組みます。

LFAの学習支援プログラムでは、学生に大きく2つのことを求めています。1つは「現場で子ども達と向き合う仲間になってもらうこと」、もう1つは「社会課題に一緒に向き合うリーダーになってもらうこと」です。そのために、担当する子どもたちへの指導準備を行うだけでなく、ボランティアが子どもや自分のことを振り返ったり、「子どもの貧困」という社会課題に対して学びを深めたりするための時間を設けています。具体的には、課題解決スキルのインプット(注1)や、氷山モデル(注2)等の子どもの課題をより深くとらえるためのワークなどを行っています。

注1:【授業で困っている方必見】問題を解決するリフレクション~要因分析編

注2:システム思考の氷山モデル

—リフレクションコンテンツとして、「こども支援ナビTips共有」を設計しようと思った理由を教えてください。

今回実施した「こども支援ナビTips共有」は、ボランティアが子ども支援の見方・捉え方を広げ、学習するきっかけを得ることを目的としたワークです。

一言で「子ども支援」と言っても、学習支援や居場所支援、就労支援など様々な形態があり、NPOのスタッフだけではなく、学校の教師やソーシャルワーカーなど多様な方々が関わっています。私自身、LFAの他の拠点を見学したり、ソーシャルワーカーの方と話したりするなかで、こども支援に対する見方が広がりました。そこで、様々な事例や立場の方々の知見が集まっているこども支援ナビを活用して、ボランティアに自分の取り組み以外にも「子ども支援」という言葉で捉えるものを広げてほしいと思いました。

「こども支援ナビTips共有」の内容

—実際にリフレクションコンテンツの中で行った「こども支援ナビTips共有」について、具体的な内容を教えてください。

リフレクションコンテンツの時間は、全部で50分になるように設計しました。参加者は、学生ボランティアと学生スタッフ、そして私を含めた合計8人です。ワークの概要としては、こども支援ナビの中から気になった記事を探してもらい、全体で記事の概要と得た学びを共有した後、対話の時間を設けました。詳細は以下の通りです。


画像:LFA作成

—ワークを設計するにあたって、工夫をした点はありますか?

このワークをする前にはこども支援ナビを読んだことがないボランティアやスタッフが多かったため、ワークを実施した後にも「こども支援ナビを読んでみよう」と思ってほしいと考えました。そのため、学びや気づきを「チーム皆で共有する」ことを重視しました。学びを他の人に伝えようとすることで、記事の内容が印象に残ったり、新しい気づきを得ることができたワクワクをチームで共有することで、個々人の「もっと知りたい」という気持ちにつながると思ったからです。

また、記事をある程度読み込んだうえで学びを言語化してほしかったため、宿題として事前に「こども支援ナビ」のサイトを見てもらって、どんな記事があるのかを把握してもらうようにしました。更に、当日のワークの中にも、それぞれ興味がある記事を選ぶ時間を設けています。そしてチーム全体で学びや気づきを共有しやすいように、共有内容を記載するワークシートをGoogleスライドで用意しました。


画像:
https://tyoudoii-illust.com/12534/

ワークを実施してみて

—当日はどのような内容の記事が取り上げられましたか?

私たちの拠点は学習支援をメインに活動していますが、各メンバーが「自分たちの拠点が子どもの安心空間となること」を大事にしているためか、居場所づくりに関する記事を取り上げていた人が多かった印象です。

ボランティア自身の進路に紐づいた記事も選ばれていました。例えば、地方公務員を目指している子は、研修制度の一環としてLFAに半年間勤務していた公務員の方の記事を取り上げていました。

【前編】公務員から見た、NPO運営上の優れた実践ーNPO法人Learning for Allの事例ー
【前編】公務員から見た、NPO運営上の優れた実践ーNPO法人Learning for Allの事例ー

また、受験生への学習支援を担当している子は、進路選択に関する記事を取り上げていました。

【前編】進路選択を控える中学生に対して、支援者はどう向き合うか ~NPO法人Learning for All の事例~
【前編】進路選択を控える中学生に対して、支援者はどう向き合うか ~NPO法人Learning for All の事例~

このように、選んだ記事を通じて、そのボランティアメンバー自身がどのような興味・関心を持っているのかを知るきっかけになりました。

—実際にワークを実施してみて、印象に残ったボランティアの様子や感想を教えてください。

このワークをきっかけとして、参加した人たちがこども支援ナビを初めて使い、「こんな記事があったんだ」と気づいてくれたことは良かったと思っています。後日、「この記事は面白いから是非みんなに読んでほしい!」と、子どもの居場所の空間デザインについての記事をチーム全体にLINEで共有してくれた人もいました。

【前編】子どもが安全・安心に過ごせる「第三の居場所」の空間デザイン ~Learning for All の事例~
【前編】子どもが安全・安心に過ごせる「第三の居場所」の空間デザイン ~Learning for All の事例~

ワークでは各メンバーの興味を反映した記事が選ばれましたが、同時に他の支援現場について知ることで、普段チームで共有されていた意識が更にもう一段深まる機会になったとも感じています。

具体的には、以下の記事を取り上げた学生スタッフがいました。

【前編】子ども主体のイベント作り~子どもが「やりたい」と思える体験を届ける~
【前編】子ども主体のイベント作り~子どもが「やりたい」と思える体験を届ける~

このことがきっかけで、私たちの拠点にある「安心空間をつくろう」「多様な経験を子ども達に届けよう」という意識が、他の居場所拠点では「文化的貧困」「体験格差」といった課題意識に基づいているという学びをチームとして得ることができました。

こども支援ナビの記事を一緒に読み、意見を交わし合うことで、これまで何となく「子どもにとってこれが良いのではないか」と思っていたことに対して、共通の理解を深めることが出来たのではないかと思っています。

目の前の子どもに寄り添う現場だからこそ「子ども支援のあり方」について学ぶ

—ボランティアの主な活動は、目の前の子ども達に寄り添い、教師として学習を支えることだと思います。田尻さんが、ボランティアやスタッフに対して「子ども支援に対する視野を広げ、学ぶきっかけを得てほしい」と思うのは何故ですか?

先ほどお話した「社会課題に一緒に向き合うリーダーになってもらう」という目的達成のためでもありますが、限られたボランティア期間では、出来ることに限りがあるのも事実です。もちろん継続して関わり続けてくれる人もいますが、将来達成したいことのためにLFAのボランティアから離れる人もいます。たとえ離れたとしても、一度でもLFAの現場に関わってくれた人には今後の生活において、何らかの形で子ども支援に関わってほしいと考えています。そのために、学習支援以外の様々な支援のあり方にも目を向けてもらうことが必要だと思っています。

もちろん、大前提として日々の支援活動を運営するスタッフは必要であるため、この学習支援がボランティアにとってどのような経験になると良いのか、悩む部分はあります。それでも、一緒に現場に関わってくれた人たちが、LFAでの活動を糧にして、自分自身の道を活き活きと進んでいる姿は私の自信に繋がっています。

—ボランティアを巻き込むことで、支援の輪が今後実際に様々なフィールドに広がっていくことに繋がりそうですね。一方で、田尻さん自身が現場に関わり続けながら「子ども支援のあり方」を捉え直すことで、どのような学びがありますか?

他の支援現場の事例から、活かせるところは学習支援にも活かしていきたいと思います。例えば、学習支援は「大人から子どもに教える」という構図になりやすいので、居場所づくりの「子どもと対話して一緒に決める」という姿勢は、カリキュラム作成などにも取り入れていきたいと思っています。

また様々な子ども支援の事例を知り、比較しながら学習支援を相対的に捉えることで、改めて「学習支援だからこそできることは何か」を考えるきっかけにもなっています子どもたちが抱えている問題の何もかもを学習支援だけで解決することは不可能だからこそ、様々な支援について知り、自分たちの価値について考えることも重要ではないでしょうか。


画像:
https://loosedrawing.com/illust/0918/

まとめ

今回は、NPO法人Learning for All のこども支援ナビを活用したワークの事例や、ワークを設計した田尻さんの想いについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • LFAでは子ども達の指導を行う学生ボランティアが支援者としてレベルアップすることを目的とした「リフレクションコンテンツ」というワークを実施している。
  • 子ども支援の見方・捉え方を広げ、学習するきっかけを得ることを目的として、リフレクションコンテンツで「こども支援ナビ」を活用した。ボランティアが自身の興味範囲について知見を深めたり、他の支援現場について知ることを通して、普段チームで共有されていた価値観が更にもう一段深まったりする機会になった。
  • 他の支援現場の事例を知ることで、今関わっている支援現場に活かせるアイディアを見つけられたり、学習支援を相対的に捉えることで、改めて「学習支援だからこそできることは何か」を考えるきっかけにもなっている。

田尻さん、ありがとうございました!

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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