【連載第3回】”市民性”を耕して、子どもが孤立しない地域をつくる~NPO法人PIECESのCitizenship for Childrenの試み~(こども支援ナビ Meetup vol.10)

2022年9月30日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第10回が開催されました。

本イベントでは、認定NPO法人PIECES理事 / ソーシャルワーカーの斎 典道氏をゲストにお迎えし、子どもが孤立しない地域をつくるための取り組みや社会の中に市民性を醸成する「Citizenship for Children」プログラムについてお話を伺いました。

【連載第1回】”市民性”を耕して、子どもが孤立しない地域をつくる~NPO法人PIECESのCitizenship for Childrenの試み~(こども支援ナビ Meetup vol.10)
【連載第1回】”市民性”を耕して、子どもが孤立しない地域をつくる~NPO法人PIECESのCitizenship for Childrenの試み~(こども支援ナビ Meetup vol.10)
【連載第2回】”市民性”を耕して、子どもが孤立しない地域をつくる~NPO法人PIECESのCitizenship for Childrenの試み~(こども支援ナビ Meetup vol.10)
【連載第2回】”市民性”を耕して、子どもが孤立しない地域をつくる~NPO法人PIECESのCitizenship for Childrenの試み~(こども支援ナビ Meetup vol.10)

イベントレポート第3回では「Citizenship for Children」プログラム修了生が行う取り組みや市民性を発揮する上でPIECESが大切にしていることをご紹介します。

プロフィール:斎 典道 氏
大学在学中より国内外の社会的養護、地域子育て支援の現場でフィールドワークを実施。2012年には北欧の社会福祉を学ぶためデンマークに1年間滞在。国民の日常に溢れる、文化としてのウェルビーイングの価値に深い感銘を受ける。日本福祉大学大学院在学中に児童精神科医の小澤と出会い、PIECES設立に参画。現在は、事務局長として、事業・組織の両側面から事業運営に携わる。2015年~2019年まで、都内でスクールソーシャルワーカーを兼務。子ども・子育て家庭の教育福祉問題に対するシステミックな変革を、ソーシャルワーカーという立場から追求する。

CforC修了生の市民性を発揮したアクション

CforCではプログラム中や修了後に市民性を発揮することを目指しています。

毎年さまざまな形でのアクションが起こっているのですが、ここではアクションを大きく3つに分けてご紹介します。

①日々の生活の中でつながりを持つ(予防)


画像:PIECES作成

これは一番習慣にしやすい、ハードルが低いアクションです。

最近面白いなと思ったのは、「朝5分早く起きて5分ゆとりを持って家を出る」というアクションです。このアクションを実行している人は、今まで駅までの道を歩くなかで視野の端っこで見えていなかった景色が目に入ってくるようになったとのことです。たとえば転んでいる子どもを見つけたとき、今までなら余裕がなく見て見ぬふりをしていたところが「ちょっと手助けしようかな」という気になるそうです。これも市民性の一つですね。

②気づきの目をもって、子どもと関わる機会をつくる(発見)


画像:PIECES作成

2つ目は市民性とは何かを自分に落とし込みながら、自分にできることを考えていくアクションです。

子どもと関わる機会をつくるなかでは「子どもの生活動線上に出会いのきっかけをつくる」ということを重視しています。

ここで紹介するのはあくまで一例ですが、CforC修了生が各地で取り組んでいるプロジェクトがこちらです。全国各地で様々な取り組みをしています。


画像:PIECES作成

これらの活動は場づくりから始まったものではなく、誰か一人のために始められたものが多いです。それがだんだん大きな活動に広がっていっています。活動しているのは学生から社会人までさまざまです。

③出会った子(出会ってしまった子)と自分のできる範囲で関わり続ける(伴走)


画像:PIECES作成

3つ目の伴走はなかなかヘビーな関わりで、時間をかけて子どもと関わるなかで信頼できる大人・相談できる大人になっていくイメージです。

ここでは不登校の小学4年生の子と出会った大学生のアクションを紹介します。

CforCプログラムを受けた大学生は不登校の子と1年半〜2年ほどかけて信頼関係を作り、引きこもりがちだった小学4年生の子がPIECESの支援拠点に来られるまで関わり続けました。ものづくりが好きだったその子は支援拠点で大人と関わるなかでエネルギーを取り戻し、結果的に自分で「学校に行きたい」と思い、学校へ通うようになりました。CforCのプログラムを受けてこの子に関わった大学生は、決して子ども支援の専門家ではなく一人の大学生です。それでも小さな関わりを長く続けることで誰か一人のかけがえのない存在になることができました。

このように市民性といっても日常に取り入れられるものから本格的なものまで、いろいろな形の関わり方があります。

市民性を発揮する上で大切にしたいこと

PIECESでは市民性を発揮する上で大切にしたいことを3つ掲げています。

  1. 声を聴くこと
  2. 想像すること
  3. 心で応えること

1つ目は「声を聴くこと」です。

たとえば何か困ったことをする子に対して「なんでそんなことするの!」ではなく「何があったの?」と聞いてみるなど、目に見える行動や言動の奥にある子どもの気持ちを大切にすることは支援者でもそうでない人でも大切な姿勢です。

大人は「大丈夫な子」「そうでない子」といった形で子どもにラベリングをしがちですが、実は大丈夫そうに見える子が関わりを求めていることもあります。「本当に支援や関わりを必要としている子は誰なのか?」という考えを常に持ち、自分の手元から関わっていくことが大切です。すぐに解釈や判断をするのではなく、自分がもつ「価値観のメガネ」を自覚して、ありのままの子どもの声に耳を傾けることが丁寧にできるといいなと思っています。

2つ目の「想像すること」もとても大切です。子どもに関わる上で大事なのは、何をするかよりもその子にどれだけ想像力を働かせられるかだと思っています。

よく「困った子は困っている子」と言われますが、ある問題行為があったときには「困った子」で片付けるのではなく、その子が何に困っているのかまで想像力を働かせる必要があります。

以前、いつも靴のかかとを踏んづけている子どもがいました。一見、行儀が悪い行為だと思われるかもしれませんが、実は、家庭の事情でサイズの合った靴を買えず、そのことを親に言い出せないために小さくなった靴のかかとを踏んづけていたという例がありました。専門知識に囚われない一市民だからこそ、こうした想像力を働かせて子どもの背景を考えることができます。


画像:PIECES作成

3つ目は「心で応えること」です。これはCforCの中でもキーワードになっています。

「心で応える」という表現は、NPO法人ビーンズふくしまの山下さんがおっしゃっていた「頭で考えた答えよりも、心でうけとった応えが子どもに届いていくのではないか」という言葉から生まれたものです。

山下さんは支援機関で不登校の子とずっと関わっており、ある日その子から「実は学校行きたいんだ」という言葉を聞きました。普通なら、その言葉を聞いた大人は「登校するためにどんなことをしていきたいか」を考えて実践していくところですが、山下さんは「その子はずっと学校にいきたいと思っていたのかな」「だとしたら申し訳ないな」「気持ちを話してくれて嬉しい」等、その子に対する今の気持ちに心を寄せられることの方が大事なのではと考えたと言います。今、子どもたちにとって信頼できる大人が少ないという問題には、こうした「心で応える」姿勢をもった市民が増えることが大切なのではないかなと思います。

本日は皆さんと「市民性」について共有したく、市民性とはどういうことか・市民性を大切にするとはどういうことか・市民性についてPIECESとして取り組んでいることについてお話させていただきました。

どうもありがとうございました。

まとめ

第3回では、斎 典道さんにCforC修了生が行っているアクションと市民性を発揮する上でPIECESが大切にしていることについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 市民性を発揮するアクションは日常に取り入れられるものから本格的な関わりまでさまざまな種類があり、多くの修了生が各地域で実践している。
  • PIECESが市民性を発揮する上で大切にしたいことは「声を聴く」「想像する」「心で応える」ことである。

第4回では斎氏とNPO法人Learning for All 代表理事の李との対談形式で行われた質疑応答の模様を紹介します。

【連載第4回】”市民性”を耕して、子どもが孤立しない地域をつくる~NPO法人PIECESのCitizenship for Childrenの試み~(こども支援ナビ Meetup vol.10)
【連載第4回】”市民性”を耕して、子どもが孤立しない地域をつくる~NPO法人PIECESのCitizenship for Childrenの試み~(こども支援ナビ Meetup vol.10)

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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