2026年1月27日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第30回が開催されました。
今回は、認定NPO法人Learning for All (以下、LFA)の子ども支援事業部マネージャーである多田 理紗氏をお迎えし、「子どものレジリエンスをどう育むかー児童育成支援拠点事業を活用した、Learning for All の実践ー」というテーマで、尼崎エリアの活動から、子どものレジリエンスを育むために工夫していることまで、幅広くお話いただきました。
イベントレポート第4回では、LFAの子ども支援事業部エリアマネージャー・宇地原氏をモデレーターに迎え、講演後の質疑応答の様子をお伝えします。
連載第1回・第2回・第3回はこちら:

プロフィール:多田 理紗(ただ りさ)氏
認定NPO法人Learning for All 子ども支援事業部 マネージャー。
同志社大学経済学部卒業。大学生当時、地元での原体験からLearning for All関西に参画し、非常勤職員として研修・現場運営責任者に従事。大学卒業後、民間企業を経てLFAに復帰。子どもの権利が守られ、地域の中で子ども・若者と家庭を包括的に支え、孤立することなく主体として生きる社会を目指す。困難を抱える子どもたちとかけがえのない日常を共に生きながら、今を生きる私たち市民が「事態はより良くなる」「声をあげれば社会は変えられる」と信じて、目の前の子どもから学び行動し続けたい。

プロフィール:宇地原 栄斗(うちはら えいと)氏
認定NPO法人Learning for All 子ども支援事業部 エリアマネージャー。
1995年生まれ、沖縄県那覇市出身。
沖縄県立開邦高校を卒業後、東京大学教育学部に進学。
大学時代からLFAでのボランティア、インターン活動に取り組み、子どもへの支援を行う。2019年、新卒でLFAに入職し、現場のスタッフ・マネージャーを務める。現在は東京都葛飾区、茨城県つくば市のエリアマネージャーを担当。2023年度4月よりこども家庭庁が設置するこども家庭審議会のこどもの居場所部会において委員を務める。2023年度4月より葛飾区くらしのまるごと相談事業推進委員会委員を務める。
子どもにとって「変わらない」存在であり続ける

画像:LFA作成
—宇地原)拠点を運営していく中で難しいこともたくさんあると思うのですが、多田さんが大事にしている考え方や心持ちは何ですか。
多田)まずは、子どもの状態によって自分の関わり方を大きく変えないことです。大変なことが起きたときに、その場の状況に引きずられるのではなく、自分自身のあり方は変えないように意識しています。子どもが楽しいときもしんどいときも、どんな状態であっても、変わらず拠点にいる存在であり続けることですね。
—宇地原)この変わらなさというのは、子どもたちがいろいろな環境で生きている中で、居場所に来たときに「ここには変わらず関わってくれる人がいる」と感じられる安心感を大切にされているからなのでしょうか。
多田)まさにおっしゃる通りです。
また、ユーモアや笑いも重視しています。もちろん、子どもの気持ちを丁寧に受け止めることは大前提であり、決して軽く扱っているわけではありません。ただし、どんなにつらい状況であっても、くすっと笑える瞬間は気持ちを少し和らげると思うので、ユーモアを忘れないように意識しています。
—宇地原)そうなんですね。自分の辛さや大変さに寄り添うだけでなく、少し明るいやりとりがあることで、子どもが「話してよかった」と感じられることもあるのではないかと感じました。
「無気力」な子どもへのアプローチ
—参加者)最近では、エネルギーがまだ十分に蓄えられていないような、いわゆる「無気力」な状態の子どもが見られることもあり、レジリエンスとの関連も高いと考えています。そうした子どもたちと関わる際に、意識していることはありますか。
多田)ありがとうございます。
まず重要だと思っているのは、「この子はなぜ今このような状態にあるのだろう」と考えることです。その上で、丁寧に様子を観察しながら、さまざまな可能性を探っていきます。ただし、原因を一つに決めつけるのではなく、「食事はとれているだろうか」「しっかり眠れているだろうか」「眠れていない背景にどのような要因があるのだろうか」と多面的に考えるようにしています。
また、無気力さは心だけでなく、身体や脳の状態とも関係していると考えています。そのため、心身の両面からアプローチを組み立てていくことを意識しています。
例えば、脳の観点から見ると、「無気力」な状態にある子どもに多くの情報を一度に伝えると、処理の負担が大きくなり、かえって疲れてしまうことがあります。そのため、空間をできるだけ整え、目や耳から入る情報を調整することで、子どもが落ち着いて過ごせるように工夫しています。
また、シンプルに「食べること」も大切にしています。拠点では、キッチンの近くにすぐ食べられる春雨スープを常備したり、味噌汁を手軽に用意できるようにしたりしていて、子どもたちが気軽に軽食をとれる環境を整えています。
また、外に出て気分転換をすることも重視しています。自分が歩くことで見える景色が変わっていくという体験を通して、「自分が動くことで変化が生まれる」という感覚を持てるように心がけています。こうした感覚は、土に触れる活動などでも得られると言われていますね。
また、さまざまな選択肢を提案し、「まずはやってみる」ことも重視しています。もちろん、無理に勧めることはしませんが、「やってみてから合うかどうか考えよう」「合わなければやめよう」といったスタンスでいろいろなことを勧めるようにしています。
最後に、こうした関わりを一度きりで終わらせるのではなく、継続していくことも大事だと思います。子どもにとって変化の多い環境の中でも、同じ支援者が関わり続けるなど、「変わらないもの」があることも意識しています。
子どもと家庭に寄り添う訪問支援の実践
—参加者)児童育成支援拠点で関わっている子どもの家庭を訪問したり、拠点の外で関わったりすることもあると思います。そのような場面で重視していることや、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
多田)訪問支援については、「こういうことを行うもの」とあらかじめ内容を固定しているわけではなく、子どもや家庭のニーズに応じて、どのような関わりが適しているかを考えながら組み立てています。
特に、親子関係に着目しながら、虐待のリスクがあるご家庭や、一時保護に繋がった経験のあるご家庭などに対しては、毎月必ず家庭訪問して保護者の方とお話しする時間を設けるなど、定期的に顔を合わせる機会をつくっています。何か問題が起きてから関係を築くのではなく、日常的な関わりの中で信頼関係を育んでおくことで、いざというときにも関係が途切れにくいと思うからです。
また、引きこもり傾向のある子どもにも定期的に会うようにしています。その際、毎月できるだけ同じ時間に訪問するなど、関わりの中に「変わらなさ」を作るようにしています。
部屋から出てこられない子どももいるため、無理に連れ出そうとするのではなく、扉越しに声をかけながら関係を築いています。そのときも、「出てくるのを待っているよ」といった声掛けはせず、「話したくなったら返事をしてくれたらいいし、気分でなければ聞いているだけでもいいよ」という接し方を大切にしています。
また、やりとりができるようになった後も、無理に話してもらうのではなく、「自分の状態を話してもいいし、話さなくてもいい」というスタンスを意識しています。そして、子どもが「少し外に出てみようかな」と思えたタイミングを逃すことなく大事にし、その瞬間に寄り添って伴走することを心がけています。
また、体を動かしたい様子があるときには、「一緒に外遊びをしてみよう」と提案することもあります。その際は、保護者の方と話す職員と、子どもと関わる職員に役割分担して訪問しています。
—宇地原)今の話の中で印象的だったことが2つあります。
1つめは、「困りごとが表面化する前から関係性を築く」というところです。困っていることだけを聞くのではなく、ちょっとした雑談や愚痴を聞くといった関わりを通じて信頼関係を構築するのだろうと感じました。
2つめは、子どもが「少し外に出てみようかな」となったタイミングで一緒に行ってみるということです。必ずしも外に行くのが良いのかという議論はあると思いますが、その子にとっては大きな一歩だったのではないかと感じました。継続して会いに来てくれる関わりがあり、少しずつ関係が積み重なってきたからこそ生まれた変化ではないかと思います。
少し深掘りできればと思いますが、保護者の方とお話しする際に気をつけていることはありますか。
多田)ありがとうございます。
保護者の方と関わる際には、1人の個人として向き合うことを重視しています。具体的には、「〇〇くんのお母さん」といった呼び方ではなく、名字に「さん」を付ける、あるいはご本人が望む呼び方でお呼びするようにしています。
また面談のときは、保護者の方の好きなお菓子や飲み物を用意し、一緒に食べたり飲んだりしながらお話しすることを大事にしています。
※訪問支援について詳しく知りたい方はこちら:
人気なスタッフがいる場合の対応方法
—参加者)居場所の中で、人気のあるスタッフをめぐって子ども同士で競い合ったり、トラブルになることもあるかもしれませんが、実際にそうしたことはありますか。また、その際にどのように対応されていますか。
多田)そうですね。そうした状況は、やはり起こりうるものだと感じています。ただ、そのときに大切にしているのは、「なぜそのスタッフに子どもたちが集まるのか」という背景にあるニーズに目を向けることです。
例えば、遊びが得意であることや、子どもへのリアクションが上手であること、子どもが感じている満たされなさに寄り添う関わりができることなど、さまざまなポイントで集まってくると思っています。
そのため、こうしたニーズとそれぞれの強みをチーム全体で自覚することが重要だと考えています。「このスタッフはこうした関わりが得意」という特徴を認識しておくことで、子どものニーズに応えやすくなると思うからです。
一方で、どうしても相性の問題や、関わること自体が負担になってしまうケースもあります。そうした場合は無理に対応しようとするのではなく、その現実を受け止めることも必要だと考えています。
支援者の心を守るための工夫
—参加者)支援に関わる中で、スタッフ自身も体力や気持ちの面で負担を感じる場面もあると思います。支援者としてのケアや、ご自身が重要だと考えていることはありますか。
多田)まずLFAの仕組みとして、月に一度、心理士の方が拠点に来る機会を設けています。スタッフが自分自身や子どもの心について振り返ることで、自分の気持ちを整理する時間になっています。
また私自身が大切にしている考えは、「その子の気持ちはその子のもの」です。もちろん、子どもに共感することはとても重要であり、共感性の高さが良い支援に繋がる場面も多いでしょう。一方で、その境界線を越えてしまい、子どものしんどさをそのまま自分のしんどさとして抱え込む必要はないとも考えています。
そのため、「その子の気持ちはその子にしかわからないもの」であり、「今自分が感じているしんどさは、その話を聞いた自分自身の気持ちなのだ」と線引きしながら関わることを意識しています。
とはいえ、実際に子どもと関わる中で、つらさや戸惑い、時にはしんどさを感じる場面もあります。そうしたときは、子どもたちが帰宅した後にスタッフ同士で率直に言葉にすることも大事にしています。ネガティブな気持ちを無理に抑え込むのではなく、言葉にすることで整理され、落ち着くこともあり、支援を続けていく上で重要だと考えているからです。
—宇地原)感情に蓋をせずにチームで共有し、家に持ち帰らないことが大事なのですね。
※支援者のケアについてより詳しく知りたい方はこちら:
登壇者からの挨拶
本日はご参加いただき、ありがとうございました。
尊敬する先輩から教わった「困りごとでしか繋がれなければ、かえって孤立を深めてしまう」という言葉に深く共感しています。そして、子どもと一緒に過ごして笑い合い、食事をともにして、何気ない時間を重ねていくこと自体が、とてもかけがえのないものだと感じています。
児童育成支援拠点事業は、児童福祉法の改正から生まれた事業であるため、「支援を行う場」と捉えられやすい側面もあるかもしれません。しかし、子どものニーズに応えていくためには、「困っていそうだから何かをする」という関わりだけではなく、日常を共にする中で初めて聞くことができる声に耳を傾けることが重要だと考えています。
今後、児童育成支援拠点事業に関心を持たれている事業者や自治体の方には、ぜひ挑戦していただきたいと思います。また、1つの事業者だけで課題感を抱えるのではなく、悩みを共有し合えるネットワークを作っていけたらと考えています。
まとめ
今回は、多田さんに、さまざまな背景を持つ子どもとの関わり方や訪問支援、支援者の心理的ケアについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 子どもにとって変わらない存在であり続けることや、しんどい話でもくすっと笑える瞬間があることを大事にしている。
- 「無気力」に見える子どもに対しては、なぜそのような状態に見えるのかを常に考えている。ご飯を食べたり、自己効力感を持てるように工夫したり、何事にも挑戦したりすることも重要である。
- 訪問支援では、保護者と何気ないやりとりをすることを意識している。引きこもり傾向のある子どもに対しては、無理をさせない関わりや、その時々の子どもの気持ちを大事にするようにしている。
- 人気のあるスタッフがいる場合、その理由や背景にある子どものニーズに目を向けている。
- 支援者の心をケアするために、専門家の方と関わる時間をとったり、自分と子どもの線引きをしたり、ネガティブな気持ちに蓋をしたりしないことを重視している。
- 子どもと日常的な関わりを積み重ねることで、初めて聞こえてくる声もある。その声に耳を傾けることが重要だと考えている。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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