【後編】子どもたちが誰でも自由に「居る」場所をつくる:ユニバーサル型拠点を運営する難しさと、その可能性 〜NPO法人Learning for All の事例〜

前編に引き続き、誰でも好きな時に立ち寄ることができる「ユニバーサル型」の居場所拠点について、認定NPO法人Learning for All (以下、LFA) の八名さん、塩成さんにお話を伺います。

ユニバーサル型の居場所拠点には、より多様な子ども同士の関わりが生まれたり、アウトリーチ機能を担えたりするなどのメリットがある一方、運営においては様々な難しさもあるようです。

後編では、場のルール設定や、困難度の高い子どもへの対応とそこで生まれる葛藤、そして今後のユニバーサル型拠点の可能性について取り上げます。

前編はこちら:

【前編】子どもたちが誰でも自由に「居る」場所をつくる:ユニバーサル型居場所拠点の特徴と運営 〜NPO法人Learning for All の事例〜
【前編】子どもたちが誰でも自由に「居る」場所をつくる:ユニバーサル型居場所拠点の特徴と運営 〜NPO法人Learning for All の事例〜

プロフィール:八名 恵理子

認定NPO法人Learning for All 子ども支援事業部マネージャー。

大学卒業後、人事・組織系コンサルタントを経験したのち、2021年にLFA入職。入職後は「こども支援ナビ」の運営を担当。2022年度から子ども支援事業部でマネージャーを務める。居場所拠点を3拠点担当。

 

プロフィール:塩成 透

認定NPO法人Learning for All 子ども支援事業部 職員。

大学院では住民自治について研究を行い、前職では住民参加型の中心市街地の活性化、公共施設での市民活動支援、総合計画策定を行う。2021年にLFAへ入職。居場所拠点の拠点長や地域協働型子ども包括支援モデル構築に向けた地域団体のネットワークづくりを行う。

どう設定している?ユニバーサル型居場所での場のルール

—最近では公園など、子どもたちが過ごす場所で禁止事項が設定されることもあります。お二人の関わってこられたユニバーサル型拠点では、場のルールなどは設定されていますか?

塩成さん:私の担当していた拠点は、公民館の中で拠点を運営しているので施設側のルールがあり、最低限の安全はそれで担保されているので、LFAとして特にルールは設けていません。スタッフはあくまで遊び仲間なので、子どもたちに対してこちらから一方的にルールを設定することはあまりしたくないと思っています。

ただ、公民館ではなく自分たちの所有施設で拠点を運営する場合は、安全に過ごすための最低限のルールを設けることもあると思います。この辺りは、利用する子どもたちにルールという形が合うかどうか、子どもたちがどれくらいの頻度・密度で拠点を利用するのかによっても異なってくるのではないでしょうか。

八名さん:私が関わっている拠点では、例えば「自分も、相手も大切にする」という価値観をスタッフや子どもとの間で共有するようにしており、それをもとに最低限のルールを定めたり、その価値観に従って都度話し合いをしたりしています。

いろんな子どもがたくさん来る場所ではあるので、みんなが気持ちよく過ごせるように設定している約束事もいくつかあります。例えば、拠点に置いているタブレットの使用時間などは決めています。

LFAの拠点や他団体さんの拠点では、子どもたち同士で話し合ってルールを決めていることもあり、それも実践していけるといいなと思っていますね。

塩成さん:この場をどういう場にしていきたいかを、子どもたち同士で話し合うワークショップを行ったことのある拠点もあります。拠点に来る子どもたちが誰でも参加できる形で、自分の意見を付箋に書いて張り出し、みんなで共有していきました。居場所は子どもたちと一緒に作り上げていくものなので、どう過ごしたいのかから子どもたちと一緒に考えていけると良いなと思っています。


出典:loosedrawing 

ユニバーサル型拠点の運営で感じる難しさ

情報が少ないからこそ、どう接するのが正解だったのか?と悩むことも

—拠点運営に携わる中で、ユニバーサル型拠点だからこそ難しさを感じる点や、悩む点などはありましたか。

八名さん:来てくれた子どものニーズが、来てくれた時点ではわからないので、どう接するのが良かったのか悩むことがあります。例えば、来所した子どもが部屋にあるものを一通り手にとってみて、置いて、そのまま帰ってしまった時、スタッフがもっと案内をした方が良かったのかな、などと考えます。子どもが再び来ない場合、ただその子どもにとって拠点が必要のない場所だっただけなのか、本当は来たいのに来づらいと思わせてしまったのかなど理由がわかりにくいので、スタッフ側に葛藤が生まれやすいと思います。

塩成さん:接し方に戸惑いを感じることはありますよね。大学生のボランティアスタッフから、子どもに話しかけるのが難しいと相談を受けることもあります。

ただ、私は必ずしも話すことだけがコミュニケーションではないと考えています。例えば、子どもが面白そうなことをしていたら「ちょっと見ててもいい?」と聞いて、遠目で見てるだけでもいい。スタッフ自身がリラックスしてその場を楽しんでいれば、子どもも居心地が良いと思うので、スタッフは必ずしも遊びや話題を提供してくれる人でなくても良いと考えています。

出典:loosedrawing 

子どもにとっての居心地の良さと、子どもを守るために必要な対応の間にある葛藤

—ユニバーサル型拠点でも、虐待を受けている可能性があるなど、重大な困難を抱えている子どもと出会う場合があると思います。虐待通告や他機関へのリファーなどの対応は行うのでしょうか。

塩成さん:ニーズがある場合は、ユニバーサル型に来た子どもをよりじっくり関わることのできるターゲット型の拠点に繋いだり、虐待の疑いのある場合に児童相談所に通告をすることはあります。

これに関して悩むのは、通告やリファーによって、ユニバーサル型拠点が監視されている場だと感じられてしまい、子どもたちにとって居心地が悪い場になってしまう恐れがあることです。スタッフは子どもにとっての「遊び仲間」でいたいのですが、通告などをする時には子ども本人にもそのことを伝えるので、必要なことだとはわかりつつもジレンマを感じることがあります。

八名さん:監視されているかもしれないと思われると、子どもにとって居心地が悪くなるのではないか、という葛藤にはすごく共感します。

特に、1、2回しか来所していない子どもに虐待の恐れがあった時、通告すると子どもに不信感を抱かせてしまうのではないかと思ってしまいます。子どもがある程度継続的に来所し、スタッフとの関係性も築けている場合は、通告してもスタッフとの関係が一気に途切れるリスクは比較的低いかもしれません。しかし、まだ関係構築ができていない状態では子どもが再来所してくれない可能性もあり、結果的に子どもがさらに孤立をしてしまう可能性もあるので、葛藤を感じます。


出典:loosedrawing

また、ユニバーサル型拠点だと子どもの背景情報がわからないのも難しい点です背景情報がわからないと、発言の文脈がわからないため、曖昧な情報で通告をすることになる、もしくは、虐待の恐れがある言動を見逃してしまうことになりやすいと感じています。また、次にいつ来所するかわからないため、通告後のアフターケアや配慮も行いにくく、難しいなと思うところです。

子どもたちに居心地の良さを感じてもらいながらも、子どもたちを守っていくための適切な対応ができるよう、都度スタッフ間で迷いながら、話し合いをしながら対応をしています。

塩成さん:楽しく遊んで関わるスタッフが通告する人になってしまうというのは、難しいところですよね。遊びと通告の役割は、別の人が担うというのも良いかもしれません。役割の棲み分けをしないと、スタッフ全員が監視してると子どもに感じられてしまう可能性もあるなと思っています。

誰でも来られる居場所の可能性

—ここまで、ユニバーサル型拠点だからこその強みや、そこにある難しさや葛藤などについて伺ってきました。お二人は、これからユニバーサル型拠点をどのように活用・発展させられると良いと思いますか。

八名さん:ユニバーサル型の居場所拠点にも様々な種類があるので、目的によって拠点の在り方や文化は変化しうると思っていて、活用の可能性が大きいと感じています。目的も一つに絞らないといけないわけではなくて、グラデーションがあって良いと思います。アウトリーチ機能が大きい拠点があったり、多世代交流の場や地域住民と繋がる拠点があったりと、非登録制拠点の可能性を探っていきたいと思っています。

こども家庭庁が発行している「こどもの居場所づくりに関する調査研究(令和5年3月)」においても、居場所の分類として全てのこども・若者を対象とする「ユニバーサル・ポピュレーション」型の居場所と、特定のニーズを持つこども・若者を主な対象とする「ターゲット・ハイリスク」型の居場所、その両者が混在している「混在型」の居場所が挙げられており、さまざまなニーズや特性を持つこども・若者が、各々のニーズに応じた居場所を持てることが重要だと述べられています行政でも多様な居場所の在り方が重要視されるようになってきているので、地域の中で様々な居場所づくりが進むと良いなと思っています。

その一方で、1つの場所で複数の目的が両立し得るかどうかについては、葛藤があります様々な人が交流できる場であることと、特別なニーズがあったり、孤立していたりする子どもにとって来やすい場であることは同時に成り立つのだろうかと悩むことも多いです。自分たちの拠点がどこを目指していくのが良いのか、これからも考えていかなければいけないと思っています。

塩成さん:地域にユニバーサル型拠点が増えていって、子どもの選択肢がたくさん増えると良いなと思っています。ユニバーサル型の居場所拠点は誰でも来られる場所、と言っても、実際には来ている子どもが限られていて、集団の同質性が高くなることはあります。ただ、全ての居場所が絶対に多様な人々で溢れかえっていなくてはならない、という訳ではなく、それぞれにタイプの異なる複数の居場所があるのも良いのではないかと考えています。

多様な居場所が複数あるのか、1つの居場所にみんなが集まるのか、形は色々ありうると思いますが、子どもたちが「自分の居場所」と感じられる場所がもっと増えていくと良いですね。


出典:loosedrawing ​​

まとめ

今回は、LFAの八名さんと塩成さんに、ユニバーサル型の居場所拠点を運営していく難しさや、今後の可能性などについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 場のルールについては、大人から一方的に設定するのではなく、利用する子どもと一緒に考える。その際は、大切にしたい価値観を共有し、その価値観に基づいて話し合いができるようにする。
  • 重大な困難を抱えている可能性のある子どもへの対応は、子どもにとっての居心地の良さと、子どもを守っていくために必要な対応の間にある葛藤がある。
  • 目的や子どものニーズによって居場所の在り方は多様にありうるものであり、活用の可能性が大きい。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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