【後編】「まちのほけんしつ」がつくる安心の居場所―LGBTQの人たちが集うハレルワの取り組み―

投稿日:2026/06/17

子どもや若者が安心して過ごせる「居場所づくり」は、近年、全国各地でさまざまな形で広がりを見せています。しかし、性的少数者(セクシュアルマイノリティ )が気兼ねなく立ち寄れる場は、まだ多くの地域で十分にあるとはいえません。特に地方では、性自認や性のあり方に関する悩みを持つ人と出会える機会が少なく、「誰にも相談できない」「自分のままでいられる場所がない」と感じながら日常を過ごしている人も少なくありません。

今回は、群馬県前橋市でLGBTQなどの性的少数者の居場所づくりに取り組む一般社団法人ハレルワの代表理事・間々田久渚(ままだひさな)さん、理事の田畑葉子(たばたようこ)さん、須田きくみ(すだきくみ)さんにお話を伺いました。

後編では、「まちのほけんしつ」を実際に運営する中で見えてきた課題や工夫、来館者との関わりの中で感じていることに焦点を当てます。また、地域で居場所をつくり続けていくための取り組みや、ハレルワがこれから目指していることについてご紹介します。

前編はこちら:

【前編】「まちのほけんしつ」がつくる安心の居場所―LGBTQの人たちが集うハレルワの取り組み―
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プロフィール:間々田 久渚(ままだ ひさな)氏

 

一般社団法人ハレルワ 代表理事。1991年、群馬県太田市生まれ。群馬大学教育学部美術専攻卒業。大学で教育と美術を学び、卒業後は民間企業に勤務する傍ら、2016年よりハレルワ(当時は任意団体)の代表として活動を開始。トランスジェンダー男性であることを公表し、LGBTQの居場所づくりや学校・企業での講演活動を行う。2021年、前橋市の商店街にコミュニティスペース「まちのほけんしつ」を開設。

 

プロフィール:田畑 葉子(たばた ようこ)氏

 

一般社団法人ハレルワ 理事。1968年、大阪府生まれ。神戸大学工学部建築学専攻卒業。建設会社や自動車メーカーなどで長年勤務した後、2025年の退職を機にハレルワの活動に参加。レズビアンであることを公表し、LGBTQの居場所づくりや学校・企業での講演活動に取り組む。現在は埼玉県在住。研修講師として働く傍らハレルワ理事として活動している。

 

 

プロフィール:須田 きくみ(すだ きくみ)氏

一般社団法人ハレルワ 理事。1970年、群馬県高崎市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。18歳で上京して以来、LGBTQコミュニティに関わり続け、性的少数者当事者として活動。出版編集や国際業務を経て、通訳・翻訳の専門職として企業に勤務。2021年より プライドハウス東京に参画し、2025年からはハレルワ理事として教育機関や企業で講演や研修を行っている。

 

初めて来る人が安心して過ごせる場をどうつくるか


出典:一般社団法人ハレルワ

—「まちのほけんしつ」には初めて訪れる人も多いと思います。安心して過ごしてもらうために、どのようなことを大切にしていますか。

きくみさん)初めて来た人は、常連の人たちのなかで、どうしても気後れしてしまうことがあります。新しく来た人が居心地悪く感じないよう、意識的に関わり方を工夫しています。

—具体的にはどのような工夫をされていますか。

きくみさん)場所がそれほど広くないこともあり、常連の人同士で話が弾んでいると、初めて来た人が入りにくさを感じてしまうことがあります。そうしたときは必要に応じて、初めての人と少し離れた場所で、一対一で話すこともあります。落ち着いて話せる時間をつくり、その人のペースで場に慣れていけるよう心がけています。

性のあり方やジェンダーを決めつけない関わり方


出典:一般社団法人ハレルワ

—居場所づくりをする中で、LGBTQの方と関わる難しさを感じる場面はありますか。また、具体的に気をつけていることがあれば教えてください。

きくみさん)難しく感じることはあります。見た目から受ける印象と、その人が望んでいる扱われ方が違うことがあるからです。服装や髪型などから無意識に判断してしまうこともありますが、思い込みで決めつけないことを意識しています。

田畑さん)気をつけていることは、例えば、女性らしい服装をしている人に「かわいいですね」と言ってしまうことがありますよね。でも、その人は「かっこいい」と言われたいと思っているかもしれません。そういうときには、ジェンダーを決めつけない「素敵ですね」という言葉を選ぶ。シンプルですが、大切な工夫だと思います。

—傷つけないようにしようと思うと、声をかけること自体をためらってしまいそうです。

田畑さん)慎重になりすぎると交流が難しくなります。持ち物を褒めるなど、ジェンダーに結びつけない会話から始めることが大切だと思います。

間々田さん)LGBTQ当事者同士でも言葉選びに迷うことはありますよ。スタッフ同士で「今の言い方は大丈夫だったかな」と後から確認することもあります。

きくみさん)LGBTQといっても感じ方は人それぞれです。例えばレズビアンの人にはゲイの人の感覚が分からないこともありますし、その逆もあります。LGBTQ当事者同士であっても思い込みが生まれることはあるんです。

田畑さん)でもそれは、LGBTQに限ったことではないと思います。「いろいろな人がいる」と偏見や先入観を持たず に考えることが大切で、本当は「みんなそれぞれ違う」というところから考えてもらえるといいなと思っています。

居場所の中で生まれる来館者の変化


出典:一般社団法人ハレルワ

—どのような方がこの居場所に集っているのでしょうか。

田畑さん)東京のように人口の多い地域では、レズビアンやゲイなど、LGBTQを細かく分けたコミュニティが成立しますが、群馬では人口が限られています。そのため、ハレルワには本当にさまざまな人が集まります。

—一つの場所に多様な人が集まるのですね。

間々田さん)そうですね。発達障害やメンタルヘルスの問題を抱えている人、車いすを使っている人など、さまざまな背景を持つ人がいます。

発達障害や不登校支援の場では、発達や学校の悩みは話せても、自分がLGBTQであることは言いづらいと感じる人は多いのです。一方、ハレルワでは、LGBTQの話だけでなく発達や不登校の悩みも含めて、自分のことをまるごと話せると言ってくれる人もいます。

きくみさん)不登校や引きこもりの背景に、性のあり方や性自認のことが関わっていることもあります。

—居場所に通う中で、来館者の方にどのような変化が見られますか。

間々田さん)最初はあまり会話をせず、部屋の隅で本を読んだりゲームをしたりして過ごしていた人がいました。

少しずつ話をするようになる中で、「実はこういう格好をしたくて」と打ち明けてくれたのです。最初はこの場所でだけ着替えて過ごしていたのですが、だんだんと自分が着たい服装で「まちのほけんしつ」に来るようになりました。

ある日「家では大丈夫?」と尋ねたところ、「特に話はしてはいないけれど、この服を着て家族に見せたら『変じゃないよ』と言われた」と話してくれました。

きくみさん)そういうふうに、一歩踏み出すきっかけになっているのかなと思うと、うれしいですね。

間々田さん)以前、長い間引きこもっていた人が、初めて「自分はLGBTQなんです」と話してくれたことがありました。ハレルワのような場所に来るまでそういうことを話してもよい場所があるとは思っていなかったそうです。

きくみさん)そうした言いづらさがある中で、ハレルワが安心して話せる場になっていればと思っています。

地域における居場所の役割と課題


出典:一般社団法人ハレルワ

—地域の中でこの居場所を続けていくうえで、課題に感じていることはありますか。

間々田さん)常設の場所を維持していくには、人手が必要です。就労支援の経験がある人やスクールソーシャルワーカーなど、専門的な知識を生かして関わっていただける場面もあると思います。

これからは「何かしてみたいと思う人が、この場所を使って活動できる」形をつくり、関わる人を少しずつ増やしていきたいと思っています。

—今後、地域の中で活動を広げていくために、どのような取り組みを考えていますか。

田畑さん)人が増えればできることも広がりますし、活動が広がれば関わる人も増える。そんな好循環をつくっていけたらと思っています。大きなことを一度して終わるよりも、小さくても続けていくことが大切です。

講演を依頼されたらできるだけ受けるようにしています。「自分の周りにはLGBTQの人はいない」と思っている人も多いですが、目の前にLGBTQ当事者がいると知ってもらうだけで、理解への第一歩になると感じています。

きくみさん)子ども支援の団体などにとっても、「こういう関わり方もあるのか」と知ってもらうきっかけになればうれしいですね。

間々田さん)群馬県内にはさまざまなNPOがあり、不登校や引きこもりの相談に来たLGBTQの子どもを繋いでいただくこともありますし、外国人支援など別の社会課題に取り組む団体と情報交換することもあります。人権や教育という共通のテーマで、繋がりを広げていきたいと考えています。

まとめ

今回は、ハレルワの間々田さん、田畑さん、きくみさんに、「まちのほけんしつ」の取り組みと、地域におけるLGBTQの居場所づくりについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 地方ではLGBTQの当事者が気軽に立ち寄れる場所が少なく、「いつでも来られる居場所」の存在が大きな意味を持つ
  • 居場所には、LGBTQだけでなく発達障害やメンタルヘルスなど複合的な背景を持つ人が集まり、話せる場になっている
  • 見た目やジェンダーで決めつけない言葉選びや関わり方が、安心して過ごせる場づくりに繋がる
  • 地方の居場所は人手の課題を抱えながらも、地域との連携や支援者を増やしながら継続していくことが重要

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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