【連載第2回】ゲームを通じて、困っている子ども・若者とつながるには~サンカクシャの実践事例~(こども支援ナビ Meetup vol.9)

2022年7月28日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第9回が開催されました。

特定非営利活動法人サンカクシャの代表理事の荒井氏をお招きして、荒井氏が取り組まれている「オンラインゲームを通じたアウトリーチ」やその後の支援についてのご講演、および、認定特定非営利活動法人Learning for All (以下、LFA)代表の李との対談を通じて、困っている子ども・若者との繋がり方や、地域や企業と連携した支援の在り方についてお話しいただきました。

【連載第1回】ゲームを通じて、困っている子ども・若者とつながるには~サンカクシャの実践事例~(こども支援ナビ Meetup vol.9)
【連載第1回】ゲームを通じて、困っている子ども・若者とつながるには~サンカクシャの実践事例~(こども支援ナビ Meetup vol.9)

今回は荒井さんに、サンカクシャがゲームに力を入れるようになった経緯や、現在行っているゲームを使った若者支援の取り組みについて伺います。

プロフィール:荒井 佑介
1989年埼玉県出身。約13年前より、ホームレス支援や子どもの貧困問題に関わり始める。
生活保護世帯を対象とする中学3年生の学習支援に長く関わっていたが、高校進学後に、中退、妊娠出産、進路就職で躓く子達を多く見たことから、NPO法人サンカクシャを立ち上げる。
サンカクシャでは、15歳から25歳前後までの親や身近な大人に頼れない若者の居場所作りや進路就職のサポート、住まいのサポートを行なっている

なぜサンカクシャがゲームに力を入れるのか

なぜサンカクシャがゲームに力を入れるようになったのかと言いますと、コロナの影響を受けたことがとても大きいです。コロナの影響で居場所拠点を閉じると、若者から「家に帰りたくない」「家にずっといると気が狂いそう」という声をもらったり、保護者からも「うちの子をどこかに送れないか」という相談を受けたりすることが増え、「できるだけ居場所を開所しよう」という判断をしていました。

しかし、たとえ週に3日居場所拠点を開けていても、居場所が開いていない残りの4日がしんどい、という子もいます。そこで、居場所が閉じていても繋がれる方法を考えて、最初はとりあえずZoomを導入したのですが、若者たちはそもそも画面をオンにしないし、リアクションもなくてこちらも話しづらいし、若者たちも自分からは話さないし…「Zoomはいまいち盛り上がらないな」と感じていました。そんな中、若者たちがゲームをしながらLINE通話をしていたので、居場所が開いていないときは、その中に私たちも混ぜてもらって交流していました。

私が本格的にゲームにのめり込んだきっかけは、シェアハウスでした。シェアハウスにいる何人かの若者が、深夜に誰かと話しながらゲームをやっていたのを見かけたので、「何やってるの?」と聞いて、ゲームを教えてもらったのが一番最初のきっかけです。

そこから彼らと朝まで一緒にApexというゲームを皆でやったのですが、当時は私がゲームが下手だったので、若者たちから怒られながら教えてもらっていました(笑)。それが悔しくて、私は自宅にゲーム機を持ち帰ってゲームをしていたのですが、このゲームはオンラインゲームなので、自宅でもボイスチャットをしながら皆と一緒にゲームができるんですよね。別に会わなくても仲良くなれるし、一緒に楽しい時間が過ごせるなと思い始めました。


画像:サンカクシャ作成

こうして若者たちに負けたくなくて猛練習をした結果、1年半くらいで累積のプレイ時間が2,500時間になっていました。「2,500時間も投入しちゃっているし、そろそろ仕事に繋げないといけないな」という気持ちを持ち始めたのがこの頃です。

「同じゲームをやっている」という看板で若者と繋がる

いろんな打合せでも「最近ゲームにハマっていて…」という話をしていたら、行政の方から、家の外に出たことが全然無く、一日中ずっと部屋でゲームをしていて、行政の方や家族とのコミュニケーションが難しい、引きこもりや不登校の子の相談を受けることが増えました。私は「その子が何のゲームをやっているかだけ確認してください」とお伝えし、私と同じゲームをやっている子だった場合は、一瞬で仲良くなれました。もちろん最初は全然喋ってくれないんですけど、ゲームをやっていると徐々に喋れるようになってきて、そこから実際に会って、居場所に来て…という子もいます。「同じゲームをやってる」という看板で繋がれる子がいるんだ、と感じましたし、行政の方も「ゲームを通じて、この子がこんなに話せるようになるんだ」と驚いていました。

サンカクシャのゲームを通じた取り組み

若者があまりにも私のゲーミングPCに触りたがるので、サンカクシャの新しい拠点を作るときにゲーミングPCの提供をしていただける先を探していたところ、株式会社サイコムさんというPCメーカーに、ゲーミングPCを8台頂くことができました。助成金も活用しながらモニターや机なども購入し、豊島区の上池袋という場所に新しくeスポーツ施設を完成させることができました。

ネットカフェみたいな感じで、ゲームをやって盛り上がっています。最近は皆が「ここに泊まりたい」というので、週末にお泊り会も開催しています。


画像:サンカクシャ作成

「せっかくだったらゲーム配信もしてみたらどう?」という声も頂いたので、最近は私はVtuberとしてアバターを作ってゲーム配信もやっています。


画像:サンカクシャ作成

また、「皆で大会がやれたら楽しいね」という話をしていたところ、たまたまご縁があり、ゲーム制作会社からゲーム大会の開催権限を頂くことができました。そこで、実況のプロの方もお呼びして、今年の3月にeスポーツ大会を開催しました。


画像:サンカクシャ作成

全部で40名の若者・大人が参加してくれて、皆でゲーム大会をしました。この大会では、「今まで人と話したことがない」という子が、知らない人とチームを組んで大会に向けて頑張るということが起きたり、Twitterでの参加者募集に「自分は不登校なのですが、この機会に人と仲良くなりたいです」と飛び込んで来てくれる子がいたり、普段から繋がっている子や行政からの紹介からだったり、いろんな人が参加してくれました。こういう大会をやるとみんなこぞって参加してくれるんだなぁと感じています。こういう取り組みを今後も定期的にやっていきたいと思っているので、もしご興味がある方はぜひ大会に参加していただきたいです。

eスポーツチーム「OWLRISE」の発足

大会の運営の裏側では、配信の設定や素材の準備、台本作りや司会者の方との打ち合わせ等、やらないといけないことがいっぱいあります。そこで、若者たちやボランティアの方と一緒に大会を運営しました。そのやり取りの中で運営メンバーが仲良くなり「このメンバーでチームを立ち上げたらよくない?」「せっかくだったらプロチーム作りたいよね」という話が盛り上がったので、プロ選手と契約をしてプロeスポーツチーム「OWLRISE」を作りました


画像:サンカクシャ作成

普通のeスポーツチームのように世界大会へのチャレンジ等もするのですが、eスポーツを通じて若者支援をするという、eスポーツ界隈の中でもちょっと特殊な立ち位置のチームとしてOWLRISEを立ち上げました。OWLRISEでやろうとしている取り組みを1つずつ紹介します。


画像:サンカクシャ作成

オンラインでの相談支援

最近、LINE相談は増えていると思うんですが、いろんな若者たちに話を聞くと「顔が見えないと相談しづらい」「相談窓口に相談するのはハードルが高い」という声を聞きます。

私はVtuber用のTwitterアカウントを持っているんですが、そこにシェアハウスの相談がよく来ます。Twitterで10人くらい相談を受けて、8人くらいがシェアハウスの入居が決まっています。「顔が見えないと不安」と言いつつ、何故顔出しをしていない私のアカウントに相談してくるのか彼らに聞いてみると、「ゲームをやっていて楽しそうだから」という答えが返ってきます。


画像:サンカクシャ作成

今後のチャレンジとして、趣味を垂れ流すTwitterアカウントをスタッフで作ってみようと思っています。私はゲーム担当ですが、他のスタッフはそれぞれ違う趣味を担当して、趣味を垂れ流すようなアカウントで相談をもらう取り組みをやってみようとしているところです。

オンラインで居場所づくり

オンラインでの居場所ではDiscordというツールを使っています。メンバーしか入れない限定のSNSツールで、「全体雑談」や「お仕事依頼」などトピックごとに部屋が分かれています。Discordではボイスチャットもできるので「今からゲームやりたい人いる?」みたいに声を掛け合って、皆で合流して遊んでいます。これからは、このオンラインの居場所にいろんな人が入っていけるようにしていきたいなと思っています。


画像:サンカクシャ作成

皆で交流するeスポーツ大会

eスポーツの大会に参加した子たちはDiscordに入ってもらって、この中でゲーム友達を探してもらいたいな、と思っています。オンラインゲームは一般的に治安が悪いイメージがあったり、暴言を吐かれることもあるので、若者たちの中には「安心できる人たちとゲームをしたい」というニーズがあると感じています。ただ自分から友達を探しに行くのは難しいので、こういう場を用意してあげられると良いのかなと思っています。

また、ゲームをしながら1対1でスタッフと面談する試みもやっています。3か月に1回くらい、進路相談をみっちりスタッフと話しています。

動画編集などの就労支援

先ほどサンカククエストの話もしましたが、私たちは地域の人々や行政から「チラシを作って」「動画を作って」という依頼をちょこちょこ頂きます。私たちだけではできないので、有限会社ヒゲプロさんという、豊島区にあるデザイン会社と連携しています。


画像:サンカクシャ作成

案件をこなしながらスキルを身に着ける「クリ研」という取り組みをしています。

若者たちがプロのデザイナーにデザインスキルを教えてもらった上で、頂いた仕事の依頼に対して納品をする過程を、プロのデザイナーが全力でサポートしてくれます。仕事を通じて、自信をつけたり人とコミュニケーションしたり、お金を稼ぐ大変さを知ってもらうことに重きを置いています

「趣味」をベースに若者と繋がる

若者の世代には、「支援」「相談」という看板ではなかなか繋がれない子たちが本当に多いと感じています。まず繋がらないと支援が始まらないですし、相談も受けられないのが現実です。私は「ゲーマー」という看板で彼らと繋がりますが、とにかく彼らに親しみやすい看板を、「支援」「相談」以外で作っていく取り組みをこれからもっとやっていかないといけないと考えています。これから新しい支援の形みたいなものを模索して、ゲームに関わらず「趣味」をベースに若者と繋がり、相談に乗れるようなスキームを作っていきたいと思っています。

まとめ

今回は、荒井さんに、サンカクシャがゲームに力を入れるようになった経緯や、現在の取り組みについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 若者たちがやっていたオンラインゲームを教えてもらい、「会わなくても仲良くなれる」と思ったのがゲームを使った支援を始めるきっかけである。
  • 「eスポーツを通じて若者支援をする」eスポーツチームとしてOWLRISEを発足した。オンラインでの相談支援や居場所づくり、就労支援を行う。
  • 「支援」「相談」以外の、若者たちに親しみやすい看板で繋がる支援の形を作っていきたい。

次回は、質疑応答の様子をご紹介します。

【連載第3回】ゲームを通じて、困っている子ども・若者とつながるには~サンカクシャの実践事例~(こども支援ナビ Meetup vol.9)
【連載第3回】ゲームを通じて、困っている子ども・若者とつながるには~サンカクシャの実践事例~(こども支援ナビ Meetup vol.9)

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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