【前編】ともに「出口」を探す訪問支援ーNPO法人Learning for Allの実践

 私たちの生活は想像以上に多くの場所・人とのつながりによって支えられています。インターネットが普及した現代社会においても、このような社会資源とつながる、すなわち「外に出る」ことの重要性がコロナ禍を経て見直されたと言えるでしょう。この記事をご覧になっている皆さまのなかにも、子どもたちと直接会えないことによるもどかしさを経験された方々が多くいらっしゃると思います。「会えない」ということは、私たちが届けられる支援を大きく制限することだからです。

 一方で、コロナ禍の前から「通うことができない」という困難を抱える子どもたちがいます。彼らの多くは外の環境に対する信頼を失い、社会からの孤立という大きな困難を抱えているにも関わらず、支援の手が差し伸べられにくい状況にあります。認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)では、拠点に通うことができない子どもたちを対象に訪問支援を実施しています。

 そこで今回、LFAの訪問支援に携わるソーシャルワーカーにインタビューを行いました。前編では訪問支援の目的や内容、後編では活動において大切にしていること、そして迷いながらも子どもとともに「出口」を模索する実践についてまとめています。

プロフィール:ソーシャルワーカーAさん

認定NPO法人Learning for All 所属のソーシャルワーカー。

大学卒業後、精神科・児童精神科のクリニックでソーシャルワーカーとして勤務したのち、LFAへ入職。LFAが運営する拠点に通う子どもたちへのソーシャルワーク実践や、地域協働型子ども包括支援モデル構築に向けた働きかけを行う。

訪問支援の目的と概要

—まず、携わっている訪問支援事業について教えてください。

LFAの訪問支援は、例えば引きこもり傾向が強かったり周囲の大人への信頼感を失っていたりなど、拠点に通うことが難しい6歳から18歳までの子どもを対象としています。LFAの取り組みは基本的に子どもたちが拠点に通う通所型の支援のため、拠点に通うことが難しい子どもについては支援が届きにくい状況がありました。そこで、最終的に子どもがLFAの拠点やその他の機関に通うことができるようになることを目的とし、ソーシャルワーカーが中心となって訪問という形で子どもたちと関わっています。

1回あたり60分間の訪問を2週間に1回実施する形態を基本としていますが、子どもの状況に応じて変動的です。訪問時間を子どもの体力などに合わせて短縮したり、頻度に関しては子どもや保護者と相談のうえ毎週、あるいは月に1回などに変更したりすることもあります。また、本人や保護者と打ち合わせのうえ、自宅、公園や自治体施設などの公共スペースを訪問場所としています。

—子どもたちが訪問支援につながったきっかけは何でしたか。

それぞれ訪問支援につながった経緯は異なりますが、もともと本人や兄弟が拠点に通っていたなど、LFAの拠点を通して訪問支援につながったケースが今のところは多いと思います。他にもLFAとつながりのあるスクールカウンセラーの方や、他の支援施設からつながったケースもあります。

訪問支援で出会う子どもたちについて

—訪問支援は、外部とのつながりを持ち続けることが難しく孤立しやすい子どもたちに支援を届ける取り組みですが、訪問支援で出会う子どもたちと接した際の印象を教えてください。

学習/居場所支援拠点に通う子どもたちと関わる機会も多いのですが、そこではある程度本人のニーズを感じることができます。一人ひとり異なりますが、勉強したい/勉強しなきゃ/外の人と関わりたいといった何らかの気持ちを感じているからこそ、拠点に通って来てくれているのではないかと思います。

一方、訪問支援で関わる子どもたちは、このような「何かしたい」がまだ持てていない、あるいは表出できていない、または周囲がそれに気づけていないという状態が多いと感じています。周囲は外部とのつながりや何らかの変化が子どもに必要ではないかと考えているけれど、子ども自身はそう思えていなかったり、周囲の思いが子どもの今のニーズとはずれていたりすることもあります。。そのため、子どもとの関係性づくりはとても難しいです。始めのうちは部屋にこもってしまって、こちらが用意した手紙を扉の下から入れて帰るということが続いた子どももいました。

ですから、相手のペースを尊重しながら根気強く関わり続け、子どもがこちらに興味を持ってくれる瞬間を逃さないことを意識しています「押しすぎず、かといって引きすぎず…」の距離感を調整しながら「あなたを大切に思っている」というメッセージを届けていくうちに、少しずつ子どもが自分の気持ちを打ち明けてくれる基盤が出来上がっていくように思います。


画像:acillust

実際の支援内容

—訪問支援における具体的な支援内容についても教えてください。

まず、子どもが訪問支援につながった時点で子どもが拠点やその他の機関に参加することができない理由や背景を整理し、個別の支援計画を作成します。基本的にはそちらに基づいて関わり方を考えますが、訪問支援の形態が柔軟な理由は、子どものペースに合わせて信頼関係を築いていくためです。そのため、訪問支援で実施する内容も子どもによって様々であり、支援計画も状況に合わせて更新していきます。

主な過ごし方として、一緒に遊んだり、対話を通して子どもが自分の気持ちを振り返ったりすることが多いです。対話と言っても、子どもによっては言語化が難しいことも多いので、様々な感情の表情のイラストを用意して「どれが今の気持ちに近いか」について考えてもらうなど、ワークのような形をとることもあります。これに加えて、対話を基盤として子ども本人が立てた目標に合わせて一緒に外に出かけてみたり、学習に取り組んだりしたこともありました。

—訪問の頻度や場所と同様に、子どもと相談しながら過ごし方を決めていくということでしょうか。

そうですね。過ごし方についてこちらから何か決めることはせず、子ども本人がどうしたいのかを大切にしています例えば、「外に出る」ということについても、「まず家の外に出てみる」という段階から、学校や医療機関などとつながろうとすることまで、子どもによって何を意味するかは様々です。この違いは、子どものニーズや心の準備段階によるものでしょう。けれど、どのような目標であっても、子どもにとっては勇気のいる挑戦に違いありませんそのため、子どもの目標に合わせて私から提案や情報提供は行いますが、何を選択するかについては子どもの決定を尊重しています。

保護者を始めとする他の支援者との連携

—訪問支援において、他の支援者とどのような関わりがありますか。

まず、訪問支援では保護者との接点がとても多いです。支援の場に保護者がいることも多いですし、特に学校とのやり取りや医療関係の事柄などにおいて、保護者との連携は欠かせません。具体的には、子どもの支援計画を立てる際にこれまでの経緯や苦労したことについて聴き取ったり、定期的な保護者面談を通して現状認識や支援の優先度のすり合わせを行ったりしますまた、保護者からの相談を受け、学校の面談に同席したこともあります。

画像: acillust

—学校とのつながりもありますか。

ありますが、私自身が主体となって学校と連携を取ることはあまりしません不登校状態にあって保護者や子どもが学校に不信感を抱いているような場合も含め、当事者同士が関係を築けることが重要だと考えています。そこで、子どもや保護者のニーズを聞き取りながら、保護者から学校に連絡してもらい、私たちは必要があれば面談への同席や登校支援を行うという形でサポートしますあくまで子どもや保護者からの要望に基づいて「ついていく」という感じです。とはいえ、学校に受け入れてもらうためにも、関わり方について担任の先生と直接コミュニケーションを取るなど、学校との信頼関係を築くための工夫も行っています。

—保護者や学校以外で、連携を行っている機関はありますか。

子どもがつながってきた先・子どもをつなげる先とのコミュニケーションは丁寧にするようにしています。他者との関係性において安心感を持つことが難しい子どもも多いため、訪問支援に受け入れる/別の機関につなぐという際には、新しい環境に対する子どもの不安を軽減する工夫が必要です例えば、子どもが訪問支援を利用し始める時には、子どもがそれまで通っていた拠点の職員にも参加してもらったことがあります。また、子どもが別の機関につながることを検討している際には、訪問支援の場につなぐ先の職員に参加してもらったり、一緒に体験に参加したりすることもありました。

まとめ

今回は、LFAのソーシャルワーカーに、訪問支援について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • LFAでは、拠点に通うことができず支援が届きにくい子どもたちに、最終的にLFAの拠点やその他の機関に通うことができるようになることを目指して訪問支援を実施している
  • 訪問場所や頻度は、子どもや保護者と相談しながら柔軟に設定する
  • 訪問支援で関わる子どもたちは、「これがしたい」という欲求が現れる以前の、安心や信頼といった潜在的な欲求が満たされていない状態
  • 実際の支援内容では、子どもとの信頼関係づくりを重視し、子どものペースに合わせて遊ぶ時間や対話の時間を設けている
  • 保護者との連携の重要性が高く、接する機会も多い。時に保護者からの要望に基づき、学校との面談や登校支援に同行することもある

後編では、訪問支援において大切にしていることや悩んでいることについてお話を伺います。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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