【連載第1回】過疎地域における「子ども支援」のかたち〜うみのこてらすが挑む、地域で支える子どものインフラづくり〜(こども支援ナビ Meetup vol.28)

2025年11月26日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第28回が開催されました。

今回は、一般社団法人うみのこてらす(以下、うみのこてらす)の代表理事である川邊 笑氏をお迎えし、「過疎地域における『子ども支援』のかたちーうみのこてらすが挑む、地域で支える子どものインフラづくりー」というテーマで、うみのこてらすを始めるに至った課題感やうみのこてらすの活動についてお話いただきました。

イベントレポート第1回では、過疎地域だからこそ生じる課題についてご紹介します。

プロフィール:川邊 笑(かわべ えみ)氏 

 

一般社団法人うみのこてらす 代表理事。

2000年生まれ。徳島県牟岐町出身。

2024年「Forbes JAPAN いま注目のNPO50」に選出。

筑波大学教育学類卒業。中高理科教員免許取得。

学生時代に認定NPO法人Learning for All で3年間、学習支援活動に取り組んだのち、地元に戻りこども支援活動を始める。2020年に活動をスタートさせ、2023年に法人化。

うみのこてらすについて

こんにちは、うみのこてらすの川邊です。

私は徳島県の牟岐町(むぎちょう)という非常に小さな町で生まれ育ち、大学進学をきっかけに上京しました。学生時代に認定NPO法人Learning for All にて学習支援に3年ほど取り組んだ後、地元に帰って子ども支援を始めました。

今日は、地方でどのように子ども支援の事業を行っているかをお話しできればと思います。

私たちの団体は、「すべてのこども・若者が大切にされて、自分らしく人生を描き歩める社会を地方まで実現していく」というビジョンを掲げて活動しています。具体的には、不登校・貧困・中退などいろいろな背景を持っている子どもを支える居場所づくりを行っています。主に海部郡(かいふぐん)という牟岐町があるエリアで活動していますが、1年ほど前から徳島市内でも活動を始めました。今年度から対面の支援にアクセスしづらい子どもたちに向けて、オンラインの支援も始めています。


画像:一般社団法人うみのこてらす

うみのこてらすが生まれた地、海部郡について

海部郡は、徳島市から車で1時間30分ほど南に下った場所にあり、牟岐町・海陽町・美波町という3つの町で構成されています。海と山に囲まれた自然豊かな地域で、山の合間に町が点在しているのが特徴です。もともとは漁師町として栄えていましたが、近年は漁業が厳しい状況に置かれていることもあって大学進学や就職によって若年層の流出が続いており、いわゆる過疎地域となっています。

学校数としては、小学校が6校、中学校が5校、そして高校は海陽町に1校のみしかありません。1学年も15人程度でクラス替えもなく、保育園から中学校まで同じメンバーで過ごす子どもがほとんどです。


画像:一般社団法人うみのこてらす

少子化の中でいかに教育や居場所の選択肢を守るか

私たちは、「子どもが減っていく中で、いかに教育や居場所の選択肢を守っていくか」が一番の課題だと考えています。そのために、どのような支援が必要なのかを考え、徳島県での実践を通じて、地方における1つのモデルを作れるように試行錯誤を重ねています。

以下では、その取り組みの背景として、私たちが現場で強く感じている課題感をお伝えします。

① 人間関係の逃げ場のなさ

海部郡では、1学年あたりの子どもは約15人で、男女はそれぞれ7人ずつしかいません。少人数で長い時間を共に過ごすため、お互いをよく知る幼なじみのような関係を築ける一方で、クラス・部活・塾など全ての人間関係が重なることのしんどさもあります。誰かとの関係がうまくいかなくなった場合、別のコミュニティに移るという選択肢がほとんどなく、逃げ場がほとんどありません。

②学校に行かない子どもの行き場のなさ

人間関係などをきっかけに学校に行かなくなった場合、地域には代替となる選択肢がほとんどありません。特に、私が子どもだった頃は、まだフリースクールや教育支援センター(注1)といった学校外の受け皿が存在せず、学校に行かなくなると子どもが日中過ごせる場所はほとんどない状況でした。

地域外の支援先に行こうと思っても、距離と移動手段が大きな壁になります。例えば、隣接する阿南市まで行けば支援に繋がる場合もありますが、車で1時間かかります。車を使えない子どもにとっては電車が頼りですが、2時間に1本程度と本数が少ないため、通うこと自体が困難です。

さらに、不登校の子どもには腹痛や頭痛などの身体症状が現れることも多く、医療機関の受診が必要になる場合があります。発達検査など専門的な診察を受ける際も病院での対応が求められますが、小児科のある病院は徳島市内に集中しています。そのため、遠い家庭では片道2時間をかけて通院しなければいけません。保護者の方は仕事を休んで子どもを送迎せざるを得ず、通院する必要があるとさらに負担が大きくなります。

加えて、海部郡にはカフェやファミレスなど、ふらっと立ち寄れる場所もほとんどありません海に出かけることもできますが、「誰の子どもか」がすぐに分かる環境でもあるため、学校がある時間帯に外を歩いているだけで目立ってしまうこともあります。

以上により、子どもたちの居場所は「学校か家か」の2択になりやすく、心理的にも物理的にも行き場が限られてしまいます。

(注1)教育支援センターとは、長期間学校に通っていない児童・生徒向けに教育委員会が用意する、学習支援や生活指導を行う場のこと。

③地方でも増加する多様なニーズのある子どもたち

居場所自体は非常に限られているものの、多様なニーズのある子どもたちは徳島県でも増えていますとりわけ、近年徳島県では不登校の子どもが急増しており、コロナをきっかけに1000人未満から2000人超へと増えました。

また、地域全体として所得水準が高くないことから、経済的な困難を抱える家庭も少なくありません。


画像:一般社団法人うみのこてらす

④地方に行くほど、子どもに対する支援が少なくなる

近年になって校内の教育支援センターが設置され始めていますが、依然として学校外の支援の場は、現在もほとんど存在していません。放課後等デイサービスもなく、中退した若者や通信制高校に通う若者が就職に向けて利用できる地域若者サポートステーションも徳島市内にしかありません。

通信制高校に通う子どもたちの中には、月に1回程度、徳島市内までスクーリングに通っているケースもあります。しかし、その際には片道約1600円の切符代がかかり、往復で3000円を超えてしまいます。毎日通うわけではないため定期券を利用することも難しく、「学校に行くために毎回数千円の交通費がかかる」という負担が生じています。

このように、地方に行くほど子どもや若者を支える資源が少なくなり、自己負担に頼らざるを得ない状況です。


画像:一般社団法人うみのこてらす

⑤少人数ゆえに施策化が難しい

海部郡では子どもの数全体が非常に少なく、不登校や通信制高校に通う子どもは、1つの町だけだと10人にも満たないと考えられます。なので、政策への反映を目指しても「少人数のためにどこまで予算をかけるのか」「今後さらに子どもの人数が減っていく中で施策として継続できるのか」といった議論になりやすく、行政も支援の必要性を感じていても予算化しづらい現状があると考えています。

こうした状況の中で、不登校の子どもを持つ保護者から「この地域には不登校の保護者会もない。私たちの声は誰が聞いてくれるのか」という言葉を聞きました。この声をきっかけに、何かできないかと考え、活動をスタートしました。

自分ではどうしようもないことで、人生を諦めないために

私たちは、自分ではどうしようもない理由で人生を諦めてしまう子どもをなくしたいと考えています。たまたま海部郡に生まれたこと、たまたま家庭の経済状況が厳しかったこと、たまたま学校でいじめにあってしまったこと。本人の努力だけではどうにもならない理由によって学ぶ機会を失い、自分の可能性に気づくきっかけすら持てないまま「どうせ自分なんて」と諦めてしまうのは、とても悲しいことだと思います。

そのような子どもたちを1人でも減らしたいと考え、活動しています。

まとめ

今回は、川邊さんに、うみのこてらすの設立に至った課題感について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • うみのこてらすは、過疎地域でも子どもに支援を届けたいという思いから始まった。
  • 過疎地域では、全員と顔見知りだからこそ人間関係の逃げ場がないこと、学校以外に過ごせる場所が非常に限られていること、多様なニーズを持つ子どもが増えていること、さまざまな背景を持つ子どもの受け皿がないこと、子どもも少人数のため施策を実施するのが難しいことが課題だと考えている。
  • 過疎地域に生まれたことや家庭環境が不安定なことなど、本人の努力ではどうにもならない理由によって学ぶ機会が制限されたり、自分の可能性に気付けなかったりする子どもを1人でも減らしたいと思い、活動している。

第2回では、うみのこてらすの取り組みや活動に参加している子どもたちについてお聞きします。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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