子どもの居場所は子どもたちが自由に過ごす居場所。だからこそ、ボランティアはそこでどのように過ごしたら良いのか、戸惑いを感じることもあるのではないでしょうか。
今回は、認定NPO法人Learing for All(以下、LFA)で居場所のボランティア向け研修を担当している吉原さんに、居場所におけるボランティアの役割や心構えなどについてお話を伺いました。
前編では、LFAが居場所のボランティアに期待していることや、その実現のために実施している研修の内容についてご紹介します。居場所でのボランティアの在り方を考える上で、ぜひ参考にしてみてください。
プロフィール:吉原 聡子氏
大学卒業後、鉄道会社で商業施設の広報販売促進、中学校英語科教諭を経て、LFAに入職。居場所ボランティア研修担当および居場所拠点のスタッフとして勤務している。趣味はライブや演劇鑑賞、植物を育てること、犬を観察すること。
LFAが考える子どもたちの「居場所」とは?
—居場所でのボランティアの役割を教えていただくにあたって、まずLFAでは、子どもたちにとっての居場所をどのようなものと捉えているのかを教えていただきたいです。
現在、ボランティアの皆さんには、居場所は子どもたちにとって「安心安全を感じられる場」・「新しい自分と出会える場」であるとお伝えしています。
安心安全を感じられる場であるためには、自分を受け止めて寄り添ってくれる大人がいることや気心知れた仲間がいることが必要です。また、多様な他者・出来事・価値観との出会いがあること、変わらない日常と何かしらの変化の両方があることも居場所の特徴だと考えています。
作成:LFA
居場所ボランティアの役割
子どもとボランティアは「斜めの関係」
—そのような居場所を実現する上で、ボランティアはどのような存在なのでしょうか。
LFAでは、主に学生の方にボランティアとして携わってもらっていて、年齢的に子どもの普段の生活ではなかなか出会わない存在です。先生でも保護者でもない大人、兄弟よりもちょっと遠い感じで親戚のお兄ちゃんお姉ちゃんのような存在ではないでしょうか。そのような子どもとボランティアとの関係性を直接の上下や利害の関係がない、「斜めの関係」と表現することもあります。
居場所ボランティアのマインドセット
—例えば学習支援だと、ボランティアは「子どもに勉強を教える」というはっきりした役割がありますが、居場所では「これをしなければいけない」というものがなく、ボランティアが過ごし方に戸惑う場合があると思います。どのような心持ちでその場に臨むのが良いのでしょうか。
まずはボランティア自身も、一人の人として居場所を楽しんでもらいたいと思っています。そのために、ボランティアのみなさんには「ボランティアとしてどうあるべきか」というより、「自分ってどういう人間なんだろう?」ということを考えてもらいたいと思っています。ボランティア向けの研修では子どもとの関わりをはじめ現場で必要となる知識をお伝えするだけでなく、自分自身の価値観と向き合ったり、振り返りを行ったりする時間も設けています。その人が自分らしさを知っていくことで、子どもたちと一緒にその人らしく居場所での時間を思い切り楽しむことができると考えており、結果としてそれが子どもたちにも良い影響を与えていくと考えるからです。
子どもたちと関わっていると、自分自身に向き合う必要が出てくることは多いです。職員がその振り返りをサポートし、個々の学生ボランティアが自身の「ひととなり」を発揮していけるようになることを大切にしていますね。
—なるほど。ボランティア自身が自分のひととなりを理解していく必要があるのですね。
支援職ではその人の「一人の人としての自分」が土台にあり、支援者としての自分はその上に積み重ねるものだと考えています。もちろん学生ボランティアの全員が支援職を仕事にしていくわけではありませんが、子どもたちの人生の一部に関わる人として、まずは一人の人としての自分に向き合ってもらいたいと思っています。
作成:LFA
—ボランティアにこのようなマインドセットを求めるようになった背景を教えていただけますか。
以前実施していたボランティア向け研修は、ボランティアに対して「子どもにこういう関わり方をしてください」というメッセージを強く伝えるものでした。
しかし現場の実態としては、大人も子どもも対等に関わって、みんなで居場所を育てていく方針になっていました。その「みんな」の中にはスタッフもボランティアも子どもたちも含まれていて、居場所の在り方に正解はないからこそ、みんなで自分の意見を出して居場所を作っていく、そんな文化が現場にはありました。
そのように研修の内容と現場の実態にギャップがあったので、現場の実態に合わせて研修内容を刷新していく過程で現在のようなマインドセットに行き着きました。
出典:acillust
また、ボランティアと子どもたちが、「やってあげる人」と「やってもらう人」というような上下のある関係性になってしまいがちなことへの課題意識もありました。
ボランティアの学生たちは使命感を抱いて、「子どもたちに何かしてあげたい」と意気込んでボランティアに応募してくれます。その熱意は素晴らしいものですが、そのような想いは、ともすれば「してあげている」というような上から目線の思考・行動に繋がってしまいがちです。それを防ぐため、まずは意気込んできたボランティアの想いを受け止めた上で、研修の中で「どうしたら子どもと同じ目線でいられるのか」「『なんとかしてあげたい』と思う自分は、どうしてそう思うのか」などを掘り下げる機会を作っています。
大人と子どもが対等に関わるためには、子どもたちを「なんとかしてあげなきゃいけない存在」として眼差すのではなく、子どもたちがここまで生きてきた強さ、子どもたちがすでに持っているリソースに注目する必要があると考えています。そしてボランティア自身も弱いところや困っていることがあることを自覚し、子どもも自分自身も対等な存在として尊重していくことが大切です。意識変革と言うとおこがましいですが、そのようなあり方をボランティアと一緒に考えていきたいと思っています。
居場所ボランティアへの研修
研修で目指すもの
—そのようなあり方を実現するための、ボランティア向けの研修内容についてお伺いしたいです。
LFAでは、ボランティア活動を3ヶ月サイクルとしていて、ボランティアに参加する前に実施される事前研修、活動の途中で実施される中間研修、活動の最後に実施される事後研修と、活動期間の中で3回の研修があります。
—それらの研修を通して、どのような学生ボランティアの状態を目指しているのでしょうか。
学生ボランティアの理想状態として、LFAが考えているのは以下の3つです。
- 自己理解・他者理解を深め、チームで動き、全体の学びに寄与できる
- ひととなりや生き方を見せるロールモデルであり、リーダーシップをもち提案できる
- 社会課題へのオーナーシップを持ち、主体的に解決に向けて行動できる
いきなり全てを達成するのは難しいので、研修と現場での活動を通じて少しずつ達成していくことを目指します。
まず、事前研修では、自分とはどんな人か、居場所とは何かについて考えてもらったり、子どもとの関わりについて振り返るための基本的なフレームワークを身につけてもらっています。自分とはどんな人か、居場所とは何かという問いについては事前研修の中だけで終わるのではなく、活動を通して考えを深めてもらえるようにしています。中間研修ではここまでの活動を踏まえ、ボランティアへの参加理由を改めて共有しあったり、居場所でチームで動くために必要なことを伝えたり、一人の人としての自分の上に、支援者としての自分を育てるということを深めるための内容を実施しています。
事後研修では活動全体を振り返るとともに、社会の複雑な構造の中で子どもの貧困という課題が起きていることを捉えられるような講義をしています。さらに、その講義を踏まえた上で、活動が終わった後に自分が社会で何をするのか、具体的に1つ目を考え、宣言してもらっています。
そして、研修全体を通して「自分とは何か」「居場所とは何か」を考えてもらい、最後に改めて言語化する機会を設けています。
LFAのボランティア研修の項目(24年1月時点、作成:LFA)
ボランティア研修の内容
—ボランティアが自己理解を深めるために、具体的にどのようなことをしているのでしょうか。
事前研修は2日かけて行いますが、1日目はボランティアに自分のひととなりを考えてもらいます。ボランティア自身について、「自分はどんな意見を持っているのか」「その考えの背景にある経験は何か」「その経験に対してどんな感情を抱いているか」「その経験から、自分はどんな価値観を抱くようになったか」の4点から振り返ってもらっています。
研修資料一部抜粋(作成:LFA)
また、「居場所とはどんな場所なのか」を自分の言葉で考えた上で、「自分にとって居心地が良かった居場所」と「どうしてそこは居心地が良かったのか」を考えてもらいます。そして、ボランティア自身が意気込んできたことと自分が実際に感じる居心地の良さのギャップがあることを捉えてもらい、では「子どもの気持ちになった時にどんな居場所がいいか」を考えていきます。
—自分の経験から、自分の言葉で自分に向き合うのですね。具体的な行動の際に役立つ知識としては、どのようなことを伝えていますか。
お互いを尊重して関わるためのコミュニケーション知識として、アサーションやアイメッセージなどの知識をお伝えしています。
アサーションについての記事はこちら:
居場所ではやることが明確に決まっているわけではない分、自分と他者を区別する境界線が曖昧になりがちです。そのため、ボランティアと子どもの境界を適切に保つバウンダリーという考え方についても伝えます。
また、学生ボランティアのみなさんには、遊びを通して子どもと関わること、ボランティア自身も全力で「遊び込む」ことを大切にしてもらいたいと思っているので、遊びについても詳しく扱います。
遊びはただ楽しいだけでなく、子どもたちの成長発達・出会い・癒しにとって効果のあるものです。ボランティアには遊びに関する知識を得てもらった上で、遊びというコミュニケーションツールを通して子どもとどう関わっていくのかを考えてもらいたいと思っています。
研修資料一部抜粋(作成:LFA)
遊びに関する記事はこちら:
—LFAでは研修をオンラインで実施していますが、伝え方で工夫されている点はありますか。
オンラインの座学だと伝わりにくい部分もあるので、実際に子どもが遊んでいる動画を見せたり、ワークで考えたり、考えたことをボランティア同士で共有し合う時間を多く取り入れています。全ての講義に必ずワークがあり、知識を伝えた後はワークを実施して、ボランティアがそれについて「どう考えたか」「どの程度理解できているか」を確認するようにしています。また、他者の考えを聞いて自分の価値観を広げるということもねらいにしています。
研修後のボランティアの変化
—研修を受けた後のボランティアには、どのような変化を感じることが多いですか。
「子どもたちに何かしてあげたい」と意気込んできたボランティアが、事前研修で居場所は何かを「してあげる」ところではないことを知り、自分の想像と現実の違いにショックを受けることもあります。そのため研修では、そのような葛藤はあっても良いものであること、ボランティア自身が試行錯誤しながら過ごしている姿も、子どもたちに見せられるような居場所であってほしいということを話します。
実際に現場に入ると、自分が意外と何もできないことに気が付くのが最初の1ヶ月だと思います。自分が慣れることに精一杯で、子どもとの関係性もそんなに短期間では作れない。遊びについても、自分が楽しんだり遊び込んだりするのは難しくて、いつの間にか遊んであげているような状態になってしまう。「思っていたほどうまくいかないな」と感じながら次の研修に来るボランティアが多いように感じます。
しかし、そのような経験からこそ自分自身への理解が深まるものだと思います。だからこそ、ボランティアの持つフラストレーションや「わからなさ」を受け止める雰囲気を拠点につくり、日々の現場や研修でボランティアの振り返りをサポートしていくことが大切だと考えています。
まとめ
今回は、LFAの吉原さんに、居場所拠点のボランティアの役割や研修について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 居場所では、ボランティア自身も一人の人としてその場を楽しむことが大切
- 居場所で子どもたちとかかわる上では、ボランティア自身が1人の人としての自分を理解していくことが求められる
- LFAの居場所ボランティア研修では、ボランティアが自身の考えや価値観を振り返ったり、「アサーション」や「遊び」など子どもとかかわる上で役立つ知識などを学んだりしている
後編では、居場所での過ごし方の具体例や、ボランティアを含めた大人たちのチームでの活動などについて伺います。
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※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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