【前編】「はざま」の少年少女たちに、寄り添うために寄り添わない ーNPO法人第3の家族の支援のあり方

「家庭に居場所がない」「親との関係性がしんどい」

そんな苦しさや孤独を心に抱えていたとしても、子どもや若者が自ら支援窓口に足を運ぶことは難しい場合が多いでしょう。それが日常的に暴力を受けているなどのあからさまな状況でなければなおさらです。

NPO法人第3の家族(以下、第3の家族)は、「家庭環境問題の支援のはざまの少年少女が自分の居場所は他にもあると思え、生き抜ける社会」を目指し、子ども・若者たちがつながりやすい・使いやすいオンラインサービスなどを展開している団体です。今回は代表の奥村春香氏に、第3の家族のサービスのあり方や、大切にされている考え方について伺いました。

前編では、「寄り添うために寄り添わない」というコンセプトの背景や少年少女たちをサポートしていくうえで大切にされていることについてお話いただきます。

プロフィール:奥村春香さん
1999年生まれ。自身の経験をきっかけに、学生時代から「第3の家族」の活動を始める。2022年にグッドデザイン・ニューホープ賞で最優秀賞を受賞。23年にNPO法人化。デザイン、マネジメント、エンジニアリングの統合的な視点で経営や設計、開発を行う。

 

第3の家族とは

期待と現実のギャップをなくし、少年少女たちの意向を尊重する

第3の家族では、多様な支援の情報や当事者の体験談が掲載されたオンラインサイト「nigeruno」や、当事者が悩みや不安を吐き出すことのできる掲示板サイト「gedokun」などのサービスを展開していらっしゃいます。団体のコンセプトとして「寄り添うために寄り添わない」を掲げていますが、そのコンセプトを置かれた背景について教えてください。

コンセプトの背景には、私自身が子どものころ家庭の問題に悩み苦しんだこと、しかし大人たちが提供してくれる「支援」が、私の場合は苦しさの解決に繋がらなかった経験をしたことがあります。

学習支援や子ども食堂など、対面支援の場において子どもに寄り添う活動ももちろん大切だと思います。しかし自分自身の経験を振り返ると、大人を信用できず頼りづらいと感じていました。対面の無料相談所にも行っていましたが、自分と合う相談員もいればそうではない人もいましたし、よくある家庭のトラブルとして取り扱われてしまうこともありました。味方になってくれる・解決の手助けをしてくれることを期待して相談したのに、そうならなかったときの絶望感が当時の私にとっては苦しかったです。私が適切な窓口を選べていなかったゆえのミスマッチではあるのですが、子ども・若者本人だけで情報を掴み取ることは難しいように感じました。

だからこそ、第3の家族では「あなたを助けます」と断言するような表現は避け、「あなたを助ける手札があるかもしれません」ぐらいの表現を使っています。これは期待と現実のギャップによって、悩んでいる少年少女たちに不要な絶望感を味あわせてしまうことを避けるためです。

また、私は家庭環境問題自体に完全な解決はないのではと考えています。第3の家族は、公的支援の対象には当てはまりにくいけれど、家を居場所と感じられない、はざま」にいる少年少女たちを支援対象にしています。「はざま」とはたとえば、殴られるけど数ヶ月に一度だけ、弟には優しいけど自分には対応が違う、塾代などは出してくれるけど親子の会話はない、などの保護対象になりそうでならないグレーな状態を指しています。

これらの状況は、問題に対してどこから介入すべきなのか・何が解決につながるのかわからないことも多いです。親と少し時間や距離を置いたらいつの間にか解決していた、というケースもあります。また、当事者である少年少女たち自身が、家族が離ればなれになることは望んでいない・保護を求めるほどではないと考えていることもあります。そのような彼ら自身の考えや意向に寄り添い、状況に介入をしていくというよりは今のしんどい状況を凌ぐためのサポートをしていきたいと考えたことも、「寄り添うために寄り添わない」という言葉の背景にあります。

確かに、虐待とまでは言いづらいし事を大きくしたいわけでもないけれど、やっぱり家にいることがしんどい、というような状況には覚えのある人も多いのではないかと思います。

内閣府の「令和4年版 子供・若者白書」によると、家を居場所と感じられない子どもは4人に1人いるとされています。学校のクラスの4分の1がそのような状況だと考えると、とても多いですよね。特に思春期を迎えると、他者と比較することで「自分の家って周りと違うんだ・・・」と感じ、家庭に対して抱いている違和感を自覚する子が多くなります。しかし、「はざま」にいる少年少女たちは端から見ると問題なく学校に通っていたり会社で働いていたりするため、苦しさを抱えていることが周囲から認識されにくくなってしまいます。


出典:pixabay

子ども時代は学校や家庭がすべてで世界が狭く、思い悩んだときに極端な考え方や選択をしてしまう子たちもいます。「もう学校でも家でもうまくいかないから、死ぬしかないんだ」と考えたり、非行少年少女のグループに入って事件に巻き込まれてしまうといった大きな問題につながる可能性もあります。大人になると世界はもっと広いことや、居場所は他にもありうることに気づきやすいのですが、少年少女のころに自分でそれに気がつくことは難しいです。「はざま」にいる少年少女たちは隠れやすく支援が届きにくいからこそ、彼ら自身が自分の抱えている問題に早めに気がつき、「学校や家庭以外にも居場所がある」「そこまで極端に考えなくてもなんとかなるのかもしれない」と思えるような状況をつくっていけたらと思っています。

それに私は、ちょっと表現が難しいのですが、そういう「はざま」にいて揺らぎを抱えている少年少女たちが好きというか、愛おしいと思っていたりもします。自分もそうだったからこそ、その子たちの苦しみに共感しながら、少しでもなんとかしたいなという想いでやっています。

第一・第二ではない、第三の存在でいる

第3の家族は子どもたちに対して「第三の存在でいたい」とグッドデザイン・ニューホープ賞の受賞コメントでお話されているのを拝見しました。奥村さんの考える「第三の存在」とはどのような存在なのでしょうか。

第一はその子の家族、第二は地域の人々や友達を指すとして、第三者は顔が見えない他者だと考えています。少年少女たちにとって第二の立場となる地域の支援団体はたくさんあると思うのですが、その手前に、少し距離感のある顔の見えない他者からの支援があると良いのではと思っています。適度な距離があって、お互いに顔が見えないからこそ頼りやすい、ふとした時に「あ、これ使ってみようかな」「ちょっと助けになりそうかも」と気軽に始められるくらいの存在です。そのような存在を指して、「第三者」という言葉を使っています。

—いきなり親近感を持ってこちらから近づくというよりも、第三者として距離をもって手を差し伸べるからこそ、当事者側が気軽に近づきやすい、というイメージでしょうか。

そうですね。私は「透明な福祉」という言葉を使うのですが、なるべく組織らしさを消したいと思っています。たまに問い合わせなどで私宛に「管理人さん、〇〇してほしいです」とか「管理人さん、ありがとう」とメッセージが送られて来ることがあります。第3の家族の利用者たちからは団体代表ではなく「管理人さん」と認識されているんです。これは私が元当事者だったことがサービスに現れていたり、利用者たちが支援団体らしくないと感じていたりするからだと思うのですが、その空気感は残したいと思っています。

支援団体らしさが出てしまうと、「親に連絡が行ったらどうしよう」「学校に通報されたら嫌だな」と不安に思う子もいるんですよね。私もその気持ちはよく分かるので、これからも当事者の気持ちに寄り添い、当事者の目線に近い存在でいたいと思っています。


出典: pexels  

第3の家族が行っていること

少年少女自身が自分の道を決めるサポートをする

—第3の家族は、問題の根本的な解決を目指すのではなく、少年少女たちが「大人になるまで生き抜く」ことを団体の目的としていますよね。この言葉から、当事者である少年少女たちが自分の力で問題を乗り越えていくことを重視しているように感じます。

そうですね。本人が自力で問題解決をするというよりも、自立をサポートできたらと思っています。第3の家族が支援対象としている少年少女たちが抱える家庭問題は、時間と距離を置くことで問題が解決する場合もあります。同じような状況に置かれている子のなかには、留学制度を使って物理的に家庭から距離を取ることを選んだり、親からの言葉を受け流す術を持つことで適度な関係を築けたりしている子もいます。解決にあたって色々な選択肢がありますが、解決方法の正解がないからこそ、本人がどうしたいのか決められるのが良いと思っています。

また、過度な介入によって本人が望んでいない結果を招くことを防ぎたいという思いもあります。第3の家族のスタッフには私を含め元当事者がいるのですが、結果的に家族がバラバラになってしまった人も多く、そうならない方法もあったのではと考えることもあります。もちろん本人の意向だけで全てが判断できるわけではなく、行政などのしっかりとした介入が必要なケースもありますが、第3の家族としてはあえて大きな介入をせず、今のしんどい状況を凌ぐための支援ができたらと思っています。

まとめ

今回は、第3の家族代表理事の奥村春香さんに、「寄り添うために寄り添わない」というコンセプトの背景や、少年少女の意向を大切にした支援のあり方について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 「寄り添うために寄り添わない」というコンセプトの背景には、期待と現実のギャップを少なくし、少年少女の想いを尊重しながら大人になるまで生き抜くサポートしたいという想いがある
  • 当事者が気負わずに利用できる、第三者的立場で存在する支援のあり方を目指している
  • 何が問題解決の糸口になるかわからないからこそ、少年少女たち自身がどうしたいのかを決められることを大切にしている

後編では、オンライン支援に着手した背景や少年少女がそれぞれの「心のよりどころ」になる場所を見つけるためのサポート、支援の入り口を広げるために考えていることなどについて、お話しいただきます。

後編はこちら:

【後編】少年少女たちが「心のよりどころ」をみつけるサポートを目指すーNPO法人第3の家族が行う支援と今後の展望
【後編】少年少女たちが「心のよりどころ」をみつけるサポートを目指すーNPO法人第3の家族が行う支援と今後の展望

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※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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