【連載第3回】「日替わり里親」で安心・安全な家庭体験を提供する「いとこんち」の取り組み

日々困難を抱える子どもや若者と接する中で、一般的な家庭で当たり前とされている「愛」や「誰かと一緒に暮らす幸せ」を十分に受け取っていないと感じる場面はありませんか。家族との情緒的な関わりや経済的な援助はとても貴重なもので、それを得られない子どもが多くいると実感している支援者は多いのではないかと思います。

一般社団法人ソーシャルペダゴジーネットが運営する「いとこんち」は、安心・安全な家庭体験の不足を埋めるべく、職員が「親戚のおじさん・おばさん」のような立ち位置で、子どもや若者と関わる居場所です。社会的養護の卒業生やヤングケアラー、ひとり親家庭など、いろいろな背景を持つ子どもや若者が訪れ、「おじさん・おばさん」と一緒に時間を過ごしています。

今回は、北海道札幌市に子ども・若者の居場所「いとこんち」を設立し、地域社会による子育てに取り組んでいる、一般社団法人ソーシャルペダゴジーネット代表理事・松田氏にお話を伺いました。

連載第3回では、一般社団法人の立ち上げとソーシャルペダゴージーという言葉に込めた意味と今後の展望を教えていただきます。

連載第1回・第2回はこちら:

【連載第1回】「日替わり里親」で安心・安全な家庭体験を提供する「いとこんち」の取り組み
【連載第1回】「日替わり里親」で安心・安全な家庭体験を提供する「いとこんち」の取り組み
【連載第2回】「日替わり里親」で安心・安全な家庭体験を提供する「いとこんち」の取り組み
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プロフィール:松田 考氏

一般社団法人ソーシャルペダゴジーネット代表理事、公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会こども若者支援担当部長。

もっと1人を特別扱いしたい〜一般社団法人ソーシャルペダゴジーネットの立ち上げ〜

—公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会(以下、SYAA)の活動を続ける過程で、2022年に一般社団法人ソーシャルペダゴジーネットを立ち上げていらっしゃいます。一般社団法人を追加的に創設された理由をお聞かせください。

一番は、「もっとこの子にできることがあったのではないか」という想いです。公共施設は、その性質上誰かを「特別扱い」するのが非常に難しく、ある子どもに行ったことは他の子どもにも行えるものでなくてはなりません。しかし、児童館や学習支援の現場にいるスタッフは、「もし許されるのであれば、もっとこの子のためにできることはあるはず」という思いを全員が痛感していました。一般社団法人を立ち上げたことで、特別扱い、すなわち必要な支援を、必要なときに、必要な子どもに届けやすくなったと考えています。この子にはこの子への、あの若者にはあの若者だけに、全員を特別扱いするという意味での公平性があるということです。

また、SYAAの定款では子ども・若者・女性が対象となっていて、大人や高齢者はあくまで協力者・関係者という関わり方になってしまいがちでした。より広く、地域の高齢者の方なども対象としたまちづくりや地域連携が進んだのも、団体を立ち上げた効果だと感じています。

一般社団法人ソーシャルペダゴジーネットが主催したお祭り(提供:一般社団法人ソーシャルペダゴジーネット

—「ソーシャルペダゴジー」という言葉には、どのような意味や思いが込められているのでしょうか。

ペダゴジー(Pedagogy)とは、「教育・心理・福祉など分野の枠組みを超えて、全人的に人を育てる」という意味です。この育ちを社会全体で実践していきたいという想いから、「ソーシャルペダゴジー」と名付けました。

「ソーシャルペダゴジー」という言葉を初めて知ったのは、15年ほど前のことです。当時、若者と一緒にスポーツをしたり、ボランティア活動を企画したりすることもあれば、カウンセラーや相談員のような仕事を行うこともありました。さまざまな取り組みをする中で、「私たちは何者なのか」という悩みが生じるようになりました。

そこで、社会福祉士やキャリアコンサルタントの資格を取得するなど、専門性をつけるための勉強もしましたが、「あくまでも我々は1対1で支援を行うプロではなく、人と人との関わり合いを通して若者たちの成長を支えている」という思いがありました。また、若者たちに私たちを「専門家」、つまりある意味では距離がある立場の人だと捉えないでほしいという気持ちもあり、我々の実践を表現する言葉に悩んでいました。

そのような中で、法政大学の平塚眞樹先生がヨーロッパに「ユースワーカー」という言葉があり、さまざまな子ども・若者と関わる人を表す職業だと教えてくださいました。そしてその際に、「ペダゴジー」という、教育(Education)とは異なるニュアンスの言葉があることも知りました。

いとこんちを始めた際に、地域で子育てをすることは「社会的にペダゴジーを行うことではないか」と気づき、この言葉を活動の軸にすることにしました。

今後の展望

—いとこんちの今後の展望を教えてください。

これからは、3つの事業に注力したいと考えています。それぞれについて、ご紹介します。

1. 町の「学び舎」づくり
子ども・若者と日々を過ごすうちに、やはり勉強も重要だと再認識するようになりました。私たちが行っていた野外活動などのインフォーマルな学びと学校の勉強のようなフォーマルな学びを統合したものを、今後提供していきたいと思います。

2. 町の「児童相談所」
児童相談所には行きたくないという子どもや保護者に向けて、居場所の提供を拡充できたらと考えています。具体的には、いとこんちの活動場所である一軒家を貸してくださっている大家さんがアパートも数室貸してくださることになり、ショートステイもできるようになりました。従って、今後は「日替わり里親」から「臨時里親シェアハウス」のような形で、より多面的な支援を行いたいと考えています。

3. 地域連携
子ども・若者の生活を支えるためにも、地域の賑わいはとても大切です。地域に生業を作ったり、農業を行ったり、地域づくりにも取り組みたいと思います。

そして、「私たちがどこまで、どのような形で支援をし続けるのか」というのは、常に考えています。制度化されていない支援を続けていても、残念ながらお金にはなりません。しかし、ある助成金の助成期間が終わった後に、私たちがしていたことがすぐに政策になるわけではありません。政策として「いとこんち」のような事業を実施するにはかなり時間がかかるので、既存の制度も活用しながら、こどもや若者の声を社会に届けていくことで、形にしていきたいと考えています。

まとめ

今回は、松田さんに、いとこんちの取り組みについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 一般社団法人を立ち上げたことで、特定の子を特別扱いができるようになり、より必要な支援を届けられるようになった。
  • ペダゴジーとは、「教育・心理・福祉などの枠組みを超えて、全人的に人を育てる」ことを意味する。この育ちを社会全体で実践していきたいという想いで活動している。
  • 今後は、学び・居場所・地域連携を拡充し、活動の制度化を目指している。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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