【連載第4回】b-labと北欧の取り組みから考えるユースワーク 〜認定NPO法人カタリバの事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.18)

2023年10月3日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第18回が開催されました。

今回は、認定NPO法人カタリバ(以下、カタリバ)の元b-lab副館長・現ルールメイキング事業リーダーである山本晃史氏をお招きし、b-labと北欧の取り組みから考えるユースワークをテーマに、ユースワークの取り組み事例や山本様の知見やお考えについて伺いました。

イベントレポート第4回では、山本さんと認定NPO法人Learning for All (以下、LFA)居場所支援事業マネージャーの八名 恵理子氏、そして参加者の方との質疑応答の様子をご紹介します。

第1~3回はこちら:

【連載第1回】b-labと北欧の取り組みから考えるユースワーク 〜認定NPO法人カタリバの事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.18)
【連載第1回】b-labと北欧の取り組みから考えるユースワーク 〜認定NPO法人カタリバの事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.18)
【連載第2回】b-labと北欧の取り組みから考えるユースワーク 〜認定NPO法人カタリバの事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.18)
【連載第2回】b-labと北欧の取り組みから考えるユースワーク 〜認定NPO法人カタリバの事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.18)
【連載第3回】b-labと北欧の取り組みから考えるユースワーク 〜認定NPO法人カタリバの事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.18)
【連載第3回】b-labと北欧の取り組みから考えるユースワーク 〜認定NPO法人カタリバの事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.18)

プロフィール:
認定NPO法人カタリバ元b-lab副館長・現ルールメイキング事業リーダー
山本晃史氏

愛知県春日井市生まれ。学生時代に若者の社会参画活性化に興味を持ち、中高生世代の余暇活動を大学生が応援する活動に取組む。また大学を休学し、フィンランド・ヘルシンキのユースセンターでインターンを経験。2018年に認定NPO法人カタリバ入職。2019年「みんなのルールメイキング」プロジェクト立ち上げ時から従事。文京区青少年プラザb-lab元副館長。

プロフィール:
認定NPO法人Learning for All 居場所支援事業マネージャー
八名恵理子氏

大学卒業後、人事・組織系コンサルタントを経験したのち、2021年にLFA入職。入職後は「こども支援ナビ」の運営を担当。2022年度から子ども支援事業部にて、居場所支援事業マネージャー。中高生向け居場所等3拠点を担当。

 

子どもの声・思いにどう寄り添い、伴走するか

ー参加者)子どもの意見表明について、言語化・意見表明が苦手なお子さんの対応時に注意してこられたこと、大切にしてきたことはありますか。

八名:私もこの質問と関連して、子どもと伴走することと先導することのバランスの取り方についてお伺いしたいのですが、いかがでしょうか。

山本:子どもの声は、きちんとした意見であるとき(オピニオン)と、言葉にはできないものの何らかの形で思いが表れているとき(ビュー)があると思っていて、この考えに基づく関わり方が大事だと思っています。

これを実際に行うときのポイントとしては、1人でやり切らないことです。ユースワーカーはチームで動いていく視点がとても大切で、子どもによっては自分に対して見せる一面と他の職員に見せる一面が異なることもよくあります。職員同士できちんと連携していると子どもにいろいろなアプローチができるので、ぜひ1人でやり切ろうとしないことを意識してもらいたいです。

八名さんからのご質問のあった子どもと伴走することと先導することのバランスについてですが、一概には言えないので、いろんな職員のスタイルがあっていいんじゃないかと思っています。私個人としては、子どもへの提案をたくさんするようにしています。そして「”提案”はするけど”強制”はしない」という線引きを必ず守っています。

例えば、その子が興味のありそうなイベントや企画を提案して「やってみる」と声が出たら、1回目は手厚くサポートして成功体験をつくります。そして2回目以降に子ども自身のやってみたいことが増えたら、ワーカーから子どもに主導権を少しずつ移していくイメージです。

そして、やらない場合に大事なのは提案したときの引き際です。提案に対して返事が曖昧で、ちょっとでも乗り気じゃないなと感じたらすっと引きます。子どもとの関係性によっては、乗り気じゃなくても一回経験した方がいいからと押し通すこともありますね。

ワーカーによって関わり方はさまざまなので、子どもとの相性も見ながらチームで全体的にサポートしていくのがいいかなと思います。

 

子ども同士が違いを受け入れ仲良くなれる場が自然にできていた

ー参加者)さまざまな背景をもつ方の居場所となると、若者たちの衝突も起こりうると思います。そのような時に仲介・仲裁する際に気をつけていることはありますか?

山本:b-labでの経験でいうと、あまり衝突は起こっていませんでした。

私も不思議に思っていたので、b-labに来ている子になぜ衝突があまり起こらないのか聞いてみたことがあるのですが、彼は「b-labで関わる人は学校や学年が違うことが前提で、自分と違う人とわかっているからちょっとした違いも当たり前だと受け入れられて仲良くなれる」と言っていました。

こうした点が学校・学年関係なくごちゃ混ぜで仲良くなれる空間特有の強みかなと思います。

衝突を仲介する時のアドバイスではないのですが、こうした環境をつくれると衝突が少なくなるということを参考にしてもらえればと思います。

八名:そうした空気感があるのはユースワーカー間のいい雰囲気が子どもに伝わったから、ということもあるのでしょうか?

山本:そうですね。b-labはいろいろな「好き」を主張できる場所で、かつそれを誰かが否定したりしない場所だと思っていて、誰かの「好き」に対して「それもっと教えて!」と興味を持つスタッフや中高生がたくさんいます。個性的な「好き」でもそれを自由に表現して、仲間や友達をつくれる場所なので、そうした空気感が衝突の少なさにもつながっているのかもしれません。

ワーカーの関わりとしては、一人ひとりの興味関心や「好き」を丁寧に拾って肯定し、同じ「好き」を持っている子がいれば意図的につなげています。こうしたスタッフの関わり方も子どもたちにいい影響を与えられているかなと思います。

幅広い年齢層のユースワーカーがいるとサポートに厚みが出る

ー参加者)若者に伴走するのは20代〜30代の若者がいいのかなと50代後半の私は思ってしまい、私にできることは何があるだろうと日々考えています。50代や60代だからこそできることはありますか?

山本:中高生がいろいろな世代の大人と関わっていくことはすごく大切で、幅広い年齢層のユースワーカーがいることはその地域の子どもにとってとてもプラスになると思います。

若者と関わる際に、「意見を押し付けない」「若者の声をちゃんと聞く」「対話をしようとする姿勢をもつ」という基本的なスタンスを持てていれば、年代は関係ないかなと思います。

それこそ50代・60代の方だからこそ話せる話題があったり、他のユースワーカーにはなかなかしづらい話を50代・60代の方だから相談できたりする子どもがいたりするので。いろいろな年齢層の方が集まるユースセンターになれると、若者のサポートに多様性が生まれてより良い支援ができるんじゃないかなと思います。

b-labにもお母さん世代の方がワーカーとして関わってくれていて、親世代にしか話せない悩みも聞いてくれています。

若者を「対象」と捉えるのではなく対話的な関係性を

ー参加者)若者は対象ではない、という言葉がとても刺激になりました。現状の日本におけるユースワークの課題と考えていることがあれば教えてください。

山本:フィンランドと日本のユースワークの違いでもあると思うのですが、やはり若者を「対象」と捉えてしまう感覚をどう手放していくか、というところはあるなと思っています。フィンランドでは、「ユースセンターを決めるのは若者」と言い切っていたり、子どもの頃から自分の身の周りに関する意思決定の機会を作っていくことを大切にしたりしています。

一方で、子どもの課題に向き合えば向き合うほど、その加減の難しさも感じています。その中で、いかに「対象」ではなく対話的な関係性を構築していくのか、そこに近づくために何ができるのかは個人的なテーマでもありますし、社会に向けてもっと発信していかなければいけないと思っています。

最後に

   

山本:日々みなさんが現場でユースワークに取り組まれている中で、その地域やそこに来ている子どもたちによって、起こっている課題、大切にしたい価値観は多様だと思います。実践者同士が横で繋がり、意見交換をすることで全体を良くしていくことができると感じていますので、機会があればみなさんの取り組みについても伺い、学び合っていけたら嬉しいなと思っています。

そして、それぞれの実践から生まれてくる多様なあり方が日本らしいユースワークのあり方を形づくっていくのではないかと思っています。本日は、どうもありがとうございました。

まとめ

今回は、カタリバの山本さんと参加者様の質疑応答についてまとめました。ポイントを以下にまとめます。

  • ユースワーカーは1人でやり切らずにチームで関わることが大切。
  • 子どもとの関係性も考慮しながら、子どもの表情や感情を大切にしてやりたいことの実現をサポートする。
  • いろいろな年代の大人と関われるユースセンターにすることで、子どものサポートに多様性が生まれ、より良い関わりができるようになる。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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