【後編】地域の居場所をつなぎ、「おせっかい」のネットワークを作る~認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークの事例~

認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク(以下、WAKUWAKU)は、プレーパークに訪れていた一人の子どもを助けようと集まった地域の人々によって始まりました。食糧支援や学習支援、子育て支援や宿泊支援など、包括的な支援ネットワークづくりに取り組んでいます。困った人がいたら皆で「おせっかい」し合える地域を目指し、「子どもの貧困は、大人も含めた地域の問題だ」というメッセージを発信し続けています。

前編に引き続き、WAKUWAKUの代表理事を務めていらっしゃる栗林さんにお話を伺いました。今回は、活動を通してどのように地域の人々を巻き込んでいくのか、そして地域がどのように変わってきているのかについてのお話を取り上げます。

前編はこちら:

【前編】地域の居場所をつなぎ、「おせっかい」のネットワークをつくる~認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークの事例~
【前編】地域の居場所をつなぎ、「おせっかい」のネットワークをつくる~認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークの事例~

プロフィール:栗林 知絵子 氏

認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク代表。「広がれ、こども食堂の輪!全国ツアー」実行委員会代表。2004年より池袋本町プレーパークの運営に携わり地域活動を始める。自他共に認める「おせっかいおばさん」として、地域の子どもを地域で見守り育てるために、プレーパーク、無料学習支援、子ども食堂など、子どもの居場所を広げ、子どもと家庭を伴走的に支援している。

地域全体で見守り、育てる支援づくり

「直接」地域の声を聞き、声を届ける

—活動において、地域の人同士が「直接」関わり合うことを大事にしているのですか。

直接関わることが、「誰しもが子どもの貧困の当事者だ」と発信するうえで重要だと考えています。コロナ禍の間もフードサポートなど、地域の人たちが直接交流できる活動を行政と連携しながらかなり積極的に行いました。行政が実施する食料支援だと、支援物資だと分からないようにしたうえで直接家庭に届ける場合もあります。しかし私たちはあえてご家庭に公民館など地域の施設まで取りに来てもらったり、逆に家庭に地域の人たちがお菓子などを届けに行ったり、地域の人たち同士の直接のつながりを作ることを、3年間大事にし続けました。

すると直接の交流を持つ中で、例えば「見かけではわからないけれども、一人で子育てを頑張っているんだ」という実感を持ち、ボランティアもどんどん「おせっかい」になっていきます。 フードサポートを訪れる方々も子どもも、毎回「そこには自分を受け入れてくれる地域の人がいる」という思いで行くので、相談を含む様々な対話が生まれていきます。このような直接の交流の中で地域に相談が集まる受援力とそれを支援する救援力が地域の中で育っていくと考えています。


フードサポートの様子(画像提供:認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク)

決めつけず、オープンな居場所を

—子ども支援においては、団体の活動について家庭や子どもに届けたいけれど、支援であることを大々的に宣伝することで返って利用するハードルが高くなるのではないかと悩まれている方も少なくありません。一方で、WAKUWAKUの活動は直接の交流を重視する等、地域の方々にオープンになっている印象を受けました。

確かに、「自身の境遇を知られたくない、恥ずかしい」と思うことで、貧困家庭の子どもたちが地域の居場所に来にくくなっているのではないか、という考え方もあると思います。

しかし相手がどう思うか、考えるかを私たちが決めてしまうことで、居場所とつながることができなくなってしまう人たちもいるのではないでしょうか。フードサポートの現場などを見ていると、「ここは自分の居場所なのだ」と自分で肯定できるようになってくれば、恥ずかしいというより、「こういう支援があって助かる」という発信をすることも、地域における自分たちの役割だという意識を持つようになってくるのではないかと思います。

WAKUWAKUの原点であるプレーパークは本当にオープンな居場所でした。放課後は習い事で埋まっているような子どもが、その予定を放り出して遊んでいたり、「お腹がすいた」と言いながら一日中プレーパークにいる子どもがいたりしました。どの子が幸せで、どの子が大変な環境かは私たちが決められることではありません。そこに来た子どもはみんな、地域の子どもです。拠点において常連さんになる子は、その拠点の居心地が良いからだと思います。

フードサポートも、地域の方が食材を手渡すので「地域の人に知られるの嫌だと思うんじゃないかしら」という意見も初めはありました。けれど、近所ではない拠点に食材を取りに行くなど他の選択肢もきちんとあります。重要なことは、来てくれた人が居場所を心地いいと思えるような関係性を築くことではないでしょうか。

変わりゆく地域と、これから

信頼関係に支えられる地域ネットワーク

—活動を続ける中で、地域が変わってきたと感じることはありますか?

多くの方が支援に関わってくださるようになったと感じます。現在毎回フードサポートに関わる人は、区内全域で100名以上います。世の中も給食無償化が提唱されるなど、大きく意識が変わってきていることを感じています。

行政も地域の方々と私たち支援団体、また支援団体同士をつなぐサポートを行ってくださいます。例えば、区内で学習支援を行う団体を社協がつないで、毎月ネットワーク会議を行っています。行政や社協、コミュニティーソーシャルワーカーなどもいろんな人も参加して、自立困窮支援の予算で実施しています。子ども食堂も子ども若者課が事務局を担い、官民連携で研修を担っています。このようなネットワークを土壌として、全中学校と全公立保育園の児童にチラシを学校で配ってもらうこともしました。


画像提供:認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク

—行政や専門職の方々との連携が進んでいるのですね。

先ほども申し上げた通り、プレーパークという遊び場は、子どもの危ない行為も許容するような運営が難しい公園です。それでも活動しているのはなぜかというと、お金でもなんでもなく、地域の子どもに思いっきり遊んでほしいという地域の思いがあるからです。その想いが伝わって、行政の方々とも信頼関係ができていると思います。

最後に

—こども支援ナビの読者へのメッセージをお願いします。

私たち支援団体の関わりだけではなく、多様な人たちで手をつないで地域の子どもを見守り育てることに意味があると思っています。団体同士、地域の人同士がお互いを尊重して仲間を増やしていかなければ、変革は起きません。地域の居場所を点ではなく面にしていくことが、遠回りのようで近道な気がしています。

また、これまでの価値観はそう簡単に変わらないと思いますが、簡単に変えられないからこそ面白く、 やりがいがあります。学習支援や子ども食堂を運営する方々は全国にたくさんいらっしゃいます。だからこそ、お互い孤立することなく繋がり続けることで、子どもたちの環境を変えていければと思います。

まとめ

今回は、認定NPO法人豊島WAKUWAKUネットワークの代表理事である栗林さんに、地域の住民と一緒につくる支援について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 地域の人が直接食料を手渡したり、話したりすることで、互いへの理解が深まり、相談が集まる受援力とそれを支援する救援力が地域で育つ。
  • 「ここは自分の居場所だ」と感じてもらうことで、「こんな支援が助かった」ということも、地域における自分の役割だと思ってもらえるようになる。
  • 「地域のために活動している」という信頼関係のもと、行政や専門家も含めより多くの人が関わるネットワークが出来てきている。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

 

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