【連載第1回】b-labと北欧の取り組みから考えるユースワーク 〜認定NPO法人カタリバの事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.18)

2023年10月3日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第18回が開催されました。

今回は、認定NPO法人カタリバ(以下、カタリバ)の元b-lab副館長・現ルールメイキング事業リーダーである山本晃史氏をお招きし、b-labと北欧の取り組みから考えるユースワークをテーマに、ユースワークの取り組み事例や山本様の知見やお考えについて伺いました。

イベントレポート第1回では、カタリバの概要や若者の居場所支援の必要性、カタリバが運営する文京区の若者の居場所事業「b-lab」での取り組みをご紹介します。

 

プロフィール:
認定NPO法人カタリバ元b-lab副館長・現ルールメイキング事業リーダー
山本晃史氏

愛知県春日井市生まれ。学生時代に若者の社会参画活性化に興味を持ち、中高生世代の余暇活動を大学生が応援する活動に取組む。また大学を休学し、フィンランド・ヘルシンキのユースセンターでインターンを経験。
2018年に認定NPO法人カタリバ入職。2019年「みんなのルールメイキング」プロジェクト立ち上げ時から従事。文京区青少年プラザb-lab元副館長。

認定NPO法人カタリバについて

こんにちは、カタリバの山本晃史と申します。

私はもともと大学のころから中高生の余暇活動や社会参画、放課後の学びの場づくりなどに関心を持っており、フィンランドのヘルシンキにあるユースセンターでインターンを行っていました。そうした海外での経験も踏まえて、本日はお話していきたいと思っています。

カタリバのビジョン・ミッション

カタリバは、「未来は、つくれる」をコンセプトに2001年から20年以上活動しているNPO法人です。

どんな環境に生まれ育っても、未来をつくりだす力を育める社会」をつくるための取り組みを行っており、「誰ひとり取り残さずに学びにつなぐ」「未来をみずから切り拓く力を育む」という2つのテーマを掲げています。

「誰ひとり取り残さずに学びにつなぐ」では、子どもの貧困などに取り組む事業、「未来をみずから切り拓く力を育む」では、探究学習の支援や学校の改革などのサポートをしたり、学校内外で放課後の居場所事業といったプログラムを実施したりしています。

    
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認定NPO法人カタリバ

カタリバは全国に拠点を持って活動しています。文京区で実施している青少年プラザb-labもその一つです。


画像:認定NPO法人カタリバ

若者の居場所支援の必要性

b-labの取り組みの必要性について、今回は「居場所」という観点からお話していきたいと思います。

そもそも若者にとって「居場所」とはどのようなものでしょうか。

若者にとっての居場所についての定義はさまざまですが、私は「ありのままの自分をまるごと受け入れてくれる」「大人になるための準備をする」という2点を実現する空間や人間関係であるという定義がしっくりきています。


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認定NPO法人カタリバ

そして、内閣府が令和3年度に実施した「子供・若者白書」の統計データでは、5.4%、つまり約20人に1人の子ども・若者が居場所がないと感じていることが明らかになっています。

この問題を考える上で重要な視点が、「大人になる」ことを支える社会構造の変化です。

これまでの工業化時代では、学校を卒業して就職し、同じ会社に長く勤めることで一人前の大人に育っていくというように、子どもから大人への移行が直線的でスムーズでした。それがポスト工業化時代になり、終身雇用制の減少・非正規雇用の増加などによって移行プロセスは個人化・多様化・流動化・長期化していると言えます。つまり、直線的な移行モデルではなくジグザグなモデルに変化してきています。

このような社会構造の変化に伴って、子どもが大人へ移行する際のいろいろな困難が出てきていると考えられており、こうした背景から若者支援の重要性が叫ばれるようになりました。

これまでの学校と会社が直結していた一直線上のモデルが変わってきていること、そして若年層の人口減少に伴い、若者の社会的な影響力が低下してきているという構造的な難しさの中で、いかに「大人になる」ことを支えていくのかが、若者支援・ユースワークに問われてきていることだと考えます。

海外における放課後(余暇)の取り組みにヒントを求める

諸外国では、放課後を学校での教育活動と明確に分離して「学校外教育」と位置付けて充実を図る動きがあったり、放課後対策が学校教育とあわせて人間づくりの重要な施策として位置付けられていたりしています。(出典:池本美香「諸外国の放課後対策」)

これは私がフィンランドでインターンしていたときに感じたことでもあります。学校教育と同じように、学校外でどのように過ごしていくか、放課後をどれだけ充実させるかが、子どもたちが育っていく上でとても重要であるという視点が諸外国ではすでに取り入れられているのです。

そして、フィンランドで学校外の活動拠点となっていたのが「ユースセンター」でした。これは、中高生世代が学校が終わったあとに自由に利用できてのびのびとやりたいことにチャレンジできる施設です。

ユースセンターには、若者と関わる専門家として「ユースワーカー」が常駐しています。ユースワーカーはユースセンターで働きながら若者のサポートをする存在であり、若者支援においてユースセンターとともに重要な役割を果たしています。

ここからは、このような海外の取り組みと絡めながら、私が関わってきた文京区青少年プラザb-labについてお話していきます。

文京区青少年プラザb-labについて


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認定NPO法人カタリバ

文京区青少年プラザb-labは、「中高生の秘密基地。ビーラボ!」というコンセプトで運営しているユースセンターです。文京区教育センターの一角にある施設で、文京区が設置し、2015年の開館当初からカタリバが運用委託されています。

b-labは中高生が自主的な活動を通じて自らの可能性を広げ、社会性を身につけた自立した大人へ成長する場として誕生しました。拠点の目的は以下の3つです。

  • (1) b-labは自由な居場所です。
    • 中高生が自分らしく自由に過ごせる環境を守ります。
  • (2) b-labはきっかけに出会う場所です。
    • 中高生が新たな自分の可能性に気づいたり、新たな興味関心を発見したり、様々な仲間と交流するきっかけを用意します。
  • (3) b-labは一歩踏み出す挑戦のステージです。
    • 中高生自身が主役となって、周囲を巻き込み、主体的に取り組む活動を応援します。

利用者は年間28,000人(※コロナ前の延べ人数)。文京区に在勤・在住・通学する多くの中高生世代が利用しており、年末年始を除いてほぼ毎日朝9時〜夜9時まで開館しています。

施設には大きなオープンスペースがあるほか、音楽スタジオやイベントに使えるホール、卓球台やバスケコートといった運動で使えるスペース、料理ができるスペースなどがあります。


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認定NPO法人カタリバ

それぞれのスペースで各々が自由に過ごしており、例えば料理スペースでは、子ども食堂のような事業や中高生が企画・運営するイベントを行ったり、自分たちで食材を買ってきて料理してみんなで食べたりしています。また音楽スタジオでは楽器の貸し出しもしているため、b-labで初めて楽器に触れたり他の子から弾き方を教わったりする子もいます。

b-labで行っている活動

b-labでは、スタッフが企画してさまざまなイベント・講座を開催しています。

例えば、動画編集が得意なスタッフがb-labのCMづくり講座を開いたり、音楽が得意なスタッフが音楽サークルを始めてみたり、漫画が好きなスタッフが漫画を通したキャリア・進路相談会を開催してみたり、スタッフがそれぞれ得意分野を活かしながらさまざまな企画を行っています。


画像:認定NPO法人カタリバ(画像内のイベントは全て開催済)

大人であるスタッフ側からも企画を提案することで、子どもたちが新しい知識を得たり、興味関心を広げたりすることにつながっています。

イベントはほぼ毎日開催しており、いろいろな分野に触れられる環境を作っています。

まとめ

今回は、カタリバの山本さんに、若者支援の必要性やカタリバが運営するb-labでの活動について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 現代の子ども・若者の約20人に1人が「居場所がない」と感じている。
  • 海外では放課後・学校外での活動を学校教育と同じように重視して充実したものにする取り組み(ユースセンター等)が実施されている。
  • 文京区青少年プラザb-labでは、大人のスタッフと中高生が一緒にさまざまなイベントを開催したりプロジェクトを企画したりして活動している。

第2回は、b-labでの中高生との関わり方やフィンランドのユースセンターの事例について紹介します。

【連載第2回】b-labと北欧の取り組みから考えるユースワーク 〜認定NPO法人カタリバの事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.18)
【連載第2回】b-labと北欧の取り組みから考えるユースワーク 〜認定NPO法人カタリバの事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.18)

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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