2023年10月3日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第18回が開催されました。
今回は、認定NPO法人カタリバ(以下、カタリバ)の元b-lab副館長・現ルールメイキング事業リーダーである山本晃史氏をお招きし、b-labと北欧の取り組みから考えるユースワークをテーマに、ユースワークの取り組み事例や山本様の知見やお考えについて伺いました。
イベントレポート第3回は、ユースワーカーとしての大人の在り方について、フィンランドの視点とb-labの視点をそれぞれ紹介していきます。
第1回・第2回はこちら:
認定NPO法人カタリバ元b‐lab副館長・現ルールメイキング事業リーダー
山本晃史氏
愛知県春日井市生まれ。学生時代に若者の社会参画活性化に興味を持ち、中高生世代の余暇活動を大学生が応援する活動に取組む。また大学を休学し、フィンランド・ヘルシンキのユースセンターでインターンを経験。2018年に認定NPO法人カタリバ入職。2019年「みんなのルールメイキング」プロジェクト立ち上げ時から従事。文京区青少年プラザb-lab元副館長。
ユースワーカーとしての大人の在り方
ここまでb-labやフィンランドの実践事例についてお話してきました。最後に私がフィンランドやスウェーデンで出会ったユースワーカーから聞いた話をもとにして、ユースワーカーとしての大人の在り方についてお話していきたいと思います。
そもそもユースワーカーとは、私が出会ったユースワーカーの言葉を借りると「大人と若者が話をできるように両者の間に立つ人」のことを指します。以下にそのユースワーカーの言葉を引用します。
”ユースワーカーは、大人と若者が話をできるように両者の間に立つ人。ユースワーカーは若者と遊ぶ、積極的に話しかけることで少しずつ距離が近くなる。若者のことも知れるし、若者もワーカーがどんな人か知れる。距離が縮まると、若者が今どんな問題を抱えているかなど知ることができる。”
私はユースワーカーは若者の専門家であると同時に、大人と若者がしっかり対話できるように両者の間に立ち、つなぐ人ということを意識しています。そしてそのためにどう若者と関係性をつくっていくのかを考えながら、彼らが日々どんなことを思っているのかを大事にして関わってきました。
また、スウェーデンのユースワーカーの言葉で印象に残っているのは「若者がユースセンターでやることの決定に関わっている。職員だけで決めてしまうと利用者は半減してしまう。若者はここが自分たちの場所で、自分たちのための事業だと知っているから。」というものです。
スウェーデンのユースワーカーにも、ユースセンターをつくっていく、運営していくのは若者であるという意識が強くあることがわかります。
そしてもう一つ別の視点についてお話します。それは、若者が問題だけじゃないことを社会に見せる努力をすることです。
”若者はうるさくて、暴力をふるって、問題だけじゃないことを社会に見せる努力をしている。若者がこれだけできる!ということを見せるために、Cafeは若者が運営しているし、音楽家・ダンサーとして雇うこともある。環境問題に取り組んだり、社会づくりだったり、若者は社会を変えていくことへの意欲が強い。政治家や行政職員をここに誘って対話したり、行政や政治家との接点を作り、良い側面を見せる努力をしている”
この話では、若者が「こんなことができる」「こんなすごいところがある」と社会に発信していくことも大事なユースワーカーの仕事であるということを学びました。北欧でも若者に対する偏見があり、若者の魅力を社会へ発信することはどの地域でも重要なことです。
ユース・エンパワメント
ユースワーカーの基本姿勢としては、ユース・エンパワメントが柱となっていると考えています。
エンパワメントとは「力を与える」という意味ですが、若者支援に関しては、本人の問題ではなく社会的な差別などで本来の力が発揮できない状態から、①差別や偏見を減らす、②差別や偏見があっても力を発揮できるようにする、ということを指しています。
画像:認定NPO法人カタリバ
これをもう少し具体的な言葉にすると、①は「若者ってこんなにすごいんだよ!」と世の中に伝えること、②は「あなたは自分が思っているよりすごい人」と伝え、理解してもらうことで誰もがまちや社会の主人公になること、という感じになります。
このように2つの面から若者を支えていくということが、私たちユースワーカーが大事にしたいポイントだと考えています。
b-labにとってのユースワークの定義
次に、b-labにとっての「ユース」「ユースワーク」の定義をご紹介します。
ユースやユースワークの定義は、地域や施設によって少しずつ異なるものだと思っています。そんななかでもb-labを運営するときに共通認識として持っておきたいこととして、b-labにおける定義をつくりました。
b-labにとっての「ユース」の定義
ユースとは、「どんな自分にもなれる存在」である。
ユースとは、「心身ともにゆらぎがある存在」である。
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この定義にある通り、ユースは「どんな自分にもなれる存在」であると同時に「心身ともにゆらぎがある存在」という二面性を持っている、と捉えながら関わっていくことがb-labでは大切だと考えています。
b-labにとっての「ユースワーカー」の定義
これを踏まえてb-labにとってのユースワーカーを定義したものがこちらです。
ユースワーカーとは、「ユースの可能性を信じ、ゆらぎに寄り添い、成長や変化に伴走する存在」である。
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ユースの可能性とゆらぎの両方に寄り添いながら、「こんなことをしたい」「こんな大人になりたい」というユースの思いに伴走したりサポートしたりするのが、ユースワーカーであるとb-labでは定義しています。
この定義は、地域や施設、現場によって異なる部分があると思いますが、それぞれの現場でユースをどう捉えるか、ユースワーカーはどういう存在なのか、を言語化して定期的に見直してみることが大切だと思います。
最後に
最後に、フィンランドのユースワークのスローガンとフィンランドで改めて教わった若者の捉え方の2つを紹介して、今回の話のまとめとさせていただきたいと思います。
フィンランドのユースワークのスローガン
フィンランドのユースワークでは、「どの若者も少なくとも次の3つを持っているべきだ」として3つのスローガンがあるそうです。
- ひとりの支える大人
- ひとりの友達
- ひとつの生きがい、好きなこと
フィンランドでは「若者がこの3つを持っていれば、少なくとも幸せに過ごせるはずだ」という共通の認識を持ち、ユースワークでこの3つの保障に取り組んでいます。
私自身フィンランドでユースワークに取り組む中で、ユースセンターがこの3つを支える重要な存在であることを実感しました。
若者は、ユースセンターで最初に私たちユースワーカーに会い、「ひとりの支える大人」に出会います。そしてユースセンターにいる学年や学校も異なるさまざまな若者と交流し、「ひとりの友達」からたくさんの友達ができていきます。
さらにユースセンターでは、好きなことを見つけるきっかけとなる場所やイベントをたくさん用意しています。さまざまな若者が活躍できるステージやのびのび過ごせる居場所をつくることで、自分の好きなことややってみたいことにチャレンジしたり、自分はどういう人間なのかを見つめる機会をつくっているのです。
私はフィンランドと日本でユースセンターに関わるなかで、「ひとりの支える大人」「ひとりの友達」「ひとつの生きがい、好きなこと」を持つ機会づくりは、b-labをはじめとする日本のユースセンターでもしっかり実践できていると思っています。
若者は対象か?ーいいえ、そうではなく若者と一緒に取り組む
「YOUTH WORK IN FINLAND」という本で、「若者はそもそも支援の対象なのか?」という問いが紹介されていました。
その本に書かれていた答えは「いいえ、そうではなく若者と一緒に取り組む。」「若者は、ユースワークの対象ではなく、対話的な関係を通して、ユースワーカーによってサポートされる、能動的主体である」というものです。ここでも、若者の主体性が重要であるというユースワークの基本姿勢がしっかり感じられます。
ユースワークには「若者のために」という側面はもちろんありますが、前提として若者は支援の対象ではありません。
ユースワークは、日々の対話やワーカーのサポートを通じて彼らの主体性を伸ばし、人生や社会の主人公になっていく過程を支えるものです。
日々若者に関わるユースワーカーは、こうした認識を持って若者と一緒に何かに取り組んでいくことが大切だと思っています。そのため、まとめとしてこの2つの話を紹介させていただきました。今回紹介したお話が、皆さんが日々若者と関わる際のヒントになれば嬉しいです。
まとめ
今回は、カタリバの山本さんにユースワーカーとしての大人の在り方について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- ユースワーカーは、若者の専門家であると同時に、大人と若者がしっかり対話できるように両者の間に立ち、つなぐ人。
- 若者のすごさを社会に向けて発信し、差別や偏見を減らすこともユースワーカーの重要な仕事である。
- b-labのユースワーカーの定義は「ユースの可能性を信じ、ゆらぎに寄り添い、成長や変化に伴走する存在」である。
- 若者は支援の対象ではなく能動的主体であり、ユースワークでは彼らと対話しながら一緒に物事に取り組む姿勢を持つことが重要である。
第4回では、山本さんと認定NPO法人Learning for All 居場所支援事業マネージャーの八名 恵理子氏、そして参加者の方との質疑応答の様子をご紹介します。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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