「地域と共に子どもを支える ーNPO法人Learning for Allの事例ー」では、「地域連携のあり方や進め方」について、特に地域連携の目的や地域との繋がり方を、Learning for All(以下、LFA)のソーシャルワーカー(以下、SWer)さんにお話を伺いました。
今回も引き続き「地域連携のあり方や進め方」がテーマです。特に子どものニーズを拾い繋げるための連携の事例について、LFAの他のSWerさんにも伺ってみました。
※個人の特定を防ぐため、匿名で掲載させていただきます。
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事例①:行政との連携
━━地域連携の目的については、別のSWerさんから「子どもの生活全体を支える」というお話をいただきました(関連記事参照)。今回は特に事例紹介に焦点を当ててお伺いしたいと思います。地域連携が子どもの困難の解決や生活全体の向上のために活きた事例をいくつかご紹介いただければと思います。
2つ事例を紹介させてください。
1つ目の事例は、学校や行政と連携した事例です。
父子家庭で、父親からの虐待が問題となっていた女の子がいたのですが、地域の公的機関と連携して皆でその子の様子を見守る体制を作ることができていたと感じています。例えば、私たちの学習支援拠点で彼女が吐露してくれた本音をもとに、何か変わった様子を察知したら学校や行政に情報共有していました。また、日頃の拠点での様子をスクールソーシャルワーカーに共有しつつ、学校での様子を確認することなどを行っていました。
━━拠点でキャッチした子どもの課題について、学校や行政と情報共有する体制ができていたということですね。そうした体制づくりの秘訣はどこにあったのでしょうか。
私たちの学習支援拠点自体が行政からの委託事業で運営されていたため、行政とは連携しやすい関係にありました。地域に民間の支援団体があまりない地域だったため、行政との繋がりをフルに活用するよう意識していました。私たちの拠点に通ってきてくれている子どもの情報は行政も知っているため、子どものことについてはかなり相談しやすかったです。
事例②:地域の子ども食堂を巻き込んだ連携
━━委託事業の強みですね。2つ目の事例の詳細も教えていただけますか。
2つ目の事例は、行政だけではなく、地域の他の民間支援拠点も巻き込んだ経験があるためご紹介します。
その子の母親は、水商売をしていました。母親のお客さんが家に来ることもあり、お客さんからも暴力を受けるなど辛い経験もあったようです。また、母親があまり食事を作らないため、幼い兄弟のために食事を作ることもしばしばありました。
彼は私たちの学習支援拠点に週2回通っており、自身の生活の話を支援拠点で共有してくれました。その一方で、スタッフから相談先や支援先を紹介しようとしても、彼は「いらない」と拒否していました。彼が通う学校はそうした彼の様子をはっきりとは知らなかったようで、特に問題意識を持っていませんでした。このような状況の中で、学習支援が主目的である我々の拠点が対応できることには限界がありました。
そのため私たちはまず学校に彼から聞いた生活の様子を共有し、その後、学校を含め児童相談所を交えて情報共有と支援方針の相談を行いました。それぞれの役割分担を確認し、彼がSOSを出せる環境を整えることや信頼できる大人が関わる機会が増えることが重要だという結論に至り、彼の居場所を増やすため、まずは地域の子ども食堂に繋げることになりました。彼が週1回の子ども食堂に繋がったことで、食事を作る負担が軽減されたほか、彼が大人と会話をする居場所を作ることができました。
━━学校や行政のみならず、地域の他の支援現場を巻き込んだ形での連携ができていますね。他の支援現場を上手く巻き込むことができたのはなぜだったのでしょうか。
大きく2つの要因があるかと思います。
・児童相談所の介入による学校の問題意識の変化
この事例は本人からの吐露がシビアな内容だったこともあり、児童相談所も迅速に動いてくれました。児童相談所が動いたことで、学校の問題認識も少し変わったように感じます。
・連携相手をよく知る
子ども食堂との連携にあたっては、まずは拠点のスタッフのみで何度か見学をさせていただき、その後その子を子ども食堂に繋ぐことができました。
地域連携を考える際には、まず連携相手が何をどのような範囲で行っているのかを知る必要があります。実際に連携する際に、連携相手が扱いきれない内容をお願いしてしまうと、信頼関係が崩れてしまうかもしれません。子どものためにも、その拠点の空気感やどのような子どもが合うのかを知っておく必要があると思います。
地域連携で大切にしていること:連携の目的を明確にする
━━紹介いただいた2つの事例の中で、ご自身が意識されていたことや大切にされていたことなどはありますか。
連携相手に対して、「不安な部分・心配な部分はどこか」や「なぜ連携したいのか」を具体的に伝えるということを意識していました。拠点の子どもたちの様子を見て、いつもと何か違う様子があると、不安になって動きたくなることもあります。しかし、実際に行動する前に、子どもが本当に困っているのか、あるいは、自分が不安を感じているだけなのか、具体的にどのような方法での連携が必要なのかを明らかすることが大切です。漠然と動き出してしまうと、連携相手に過度な負担を強いたり、期待していた支援が提供されなかったりということにも繋がり、自他の信頼関係に影響する可能性があります。
地域連携を検討している方へのメッセージ
━━最後に、これから地域連携をしていこうと考えている子ども支援者の方々に向けてメッセージをお願いします。
今は全く繋がりのない地域の団体に対しても、自分たちが何のためにどんなことをしているのかを熱意を持って伝えることで、動いてもらえることがあるかもしれません。地域連携は簡単なことではないので、上手くいかないことも多々あると思いますが、まずは挑戦してみて欲しいです。
まとめ
今回は、LFAのSWerさんに地域との繋がり方について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 地域に支援資源が少ない場合も、「今ある資源をフルに活用する」意識で取り組む
- 他の支援機関と連携する際は、何度か見学やコミュニケーションを行い、相手をよく知ったうえで連携する
- 連携の目的や必要性、方法を明らかにした上で連携相手とコミュニケーションを取ることが大切である
- 自分たちが何のためにどんなことをしているのか、熱意を持って伝え、まずはやってみることが大切である
※本記事の内容は専門家個人の見解であり、記事内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません。
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