子ども支援の現場においては、子どもの保護者と接する機会も少なくありません。子どものよりよい支援を考えるためには、保護者に対する支援を同時に考える必要があります。この連載では、NPO法人Learning for All(以下、LFA)の居場所支援拠点に携わっている佐藤さんに、保護者支援について伺っています。
今回は、保護者同士の繋がりを作る取組である保護者会と保護者のイベント参加の事例に焦点を当てて、佐藤さんに伺います。
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プロフィール:佐藤 麻理子
LFA子ども支援事業部マネージャー。新卒で学習塾に就職し、教室長として多くの子どもや大学生の成長をサポート。管理部門の経験を経て、2017年4月より、LFA にて新規事業の立ち上げ等を担当。環境に左右されず、誰もが自分のやりたいことを選択し、前向きに行動・努力している社会にしたい。そのために、将来の選択肢を広げ、一緒に考えてくれる「人との出会い」、達成に向け「努力ができる場」を創造し続けたい。
保護者会とは
——LFAで実施している保護者会の概要を教えてください。
保護者会は、保護者同士の繋がりを作り、保護者が自身の抱える悩みを「自分一人だけのものではない」と感じられるようになることを目的として実施しています。保護者会では、みんなで食事を食べながら雑談したり、お茶菓子をつまみながら自身の子どもの頃を思い出して書き出し共有してもらったり、今子育てで困っていることを共有してもらったりといったことをしています。
保護者会においては、①居心地の良い環境づくり、そして②誰でも話しやすい環境づくりの2点が重要です。①居心地の良い環境づくりのためには、食事やお茶、お菓子などでリラックスできる状態にすることや、相手との距離感を意識し机の配置を工夫することなどが大切です。②誰でも話しやすい環境づくりのためには、話しやすいスタッフを近くに配置したり、皆が話しやすい話題を提供したり、「強制はしない」「言いたくないことは言わなくていい」「相手が聞きやすいように」など最低限のルールを共有したりといった心遣いが大切です。
保護者会の事例
——これまでLFAの居場所拠点で行われた、保護者会の事例について教えてください。
保護者会を通じて、保護者同士の交流が増えた事例について紹介します。ひとり親世帯の子どもが多い拠点で、保護者会前は自分の子どもにかかりっきりの保護者や、子どもができないことばかりに目が行きがちな保護者も少なくありませんでした。また、自分一人で全てこなさないといけない、と考える方も多くいました。
そうした状況で保護者会を開きました。参加した保護者は初め緊張している様子だったので、雰囲気づくりや話しやすい話題(例えば保護者自身のことや子どものことなど)を提供することを心がけました。また、保護者会の前に保護者がどのような悩みを抱えているかを聞き、それを全体で共有したことで、保護者同士の共感の波を作ることができました。「そうそう」「やっぱり、うちも」といった感じで、隣の保護者同士の自然な会話が生まれていました。結果的に、それぞれの悩みに対してお互いの工夫やアドバイスを共有することで、各保護者からの積極的な情報発信も生まれていました。
保護者会を通じて保護者同士の関係が生まれ、各保護者がお互いに似た悩みを持っていることを知ったことで、保護者会後には子どものお迎えの時の交流や挨拶が格段に増えました。また、保護者会で他の保護者からもらったアドバイスを早速実践している、と報告してくれる保護者もいました。さらに、お互いの悩みやそれに対する工夫、アドバイスをさらに共有し合ったり、LINEを交換したり、自分以外の子どもに対しても声をかけてくれるようになったりと、みんなでみんなを育てていくというポジティブな変化が多く訪れました。
保護者のイベント参加とは
——保護者のイベント参加についての概要を教えてください。
LFAの一部の拠点ではイベントを行う際、事前準備や当日の食事作り、会場設営、挨拶などの様々な役割を保護者にお願いしています。これは、自分の得意なことを生かして役割を発揮し感謝される経験を通じて、保護者自身がエンパワーメントされること、そしてイベントの場を保護者同士が繋がるきっかけにしてもらうことを目的として行っています。また、役割をお願いする際には個人にお願いするだけでなく、グループで役割を果たしてもらうことを意識しています。そうすることで、保護者同士が自然に関わり、コミュニケーションを取る機会になればいいなと考えています。
役割分担の際にはそれぞれの保護者の「得意なこと」や「好きなこと」が活きる役割を考えることが重要です。時にはそれらの得意や好きに合わせて役割を作ることも効果的です。
保護者のイベント参加の事例
——これまでLFAの居場所拠点で行われた、保護者のイベント参加の事例について教えてください。
外国籍の保護者に、母国の料理を作ってもらったイベントの事例について紹介します。その保護者は日本語が得意でなく、普段保護者同士の会話に入ることがあまりありませんでした。彼女が他の保護者との交流機会を持てるよう、作り方を説明しながら一緒に料理をしてもらうことにしました。
その他の保護者にも、その人の得意なことやその人だからできることに注目して、様々な役割を担ってもらいました。例えば、やんちゃな物言いのために少し怖いと思われがちだけれども、いつも子どもたちに声かけをしてくれる保護者には、子どもを整列させる担当をお願いしたり、男性としての意見が欲しい場面では、父子家庭の父親に男性としての意見をもらったりしました。
イベント中は、外国籍の保護者が一生懸命準備をしてくれた日本語で、料理の作り方について説明をしてくれました。彼女は普段日本語ができないことで他の保護者に迷惑をかけてしまっていると思っており、そのことを後ろめたく思っていた様子でしたが、料理の作り方について説明する際には堂々と話をしており、子どもも得意げにしていました。説明後には他の保護者から大きな拍手が湧きあがりました。さらに、イベントが終わった後には子どもや他の保護者から次のイベント内容についての提案があり、それぞれの保護者が得意としてくれていることを教えてくれました。
まとめ
今回は、LFAの居場所支援拠点に携わっている佐藤さんに、LFAで実施している保護者同士の繋がりを作る実践について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 保護者会は、保護者同士の繋がりを作り、保護者が自身の抱える悩みを「自分一人だけのものではない」と感じられるようになることを目的としている
- 保護者のイベント参加は、保護者が自身の得意なことを活かして役割を発揮することで、保護者自身がエンパワーメントされたり、イベントの場が保護者同士の交流の場になったりすることに繋がる
佐藤さんには全3回に渡り、保護者支援における大切なポイントを実践事例を踏まえつつ教えていただきました。佐藤さん、ありがとうございました。
※本記事の内容はLFAの居場所支援拠点における実践を元にしたものであり、記事内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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