【サポート企業編】東京大学が提供する「真にインクルーシブ」な自然体験学習ー自然に学ぶみんなの学校の事例ー

体験活動に参加することが経済的に厳しい、遠方に住んでいて機会がない、身体的事情で外出ができないなど、さまざまな理由によって体験が制限されている子どもたちは少なくありません。「誰もが」「どこでも」体験学習を行い、学びを深めることはできないのでしょうか。

東京大学大学院工学系研究科は、ヒューリック株式会社(以下、ヒューリック)の賛同のもと、この疑問に挑戦すべく、大学外から支援を受けて共同研究を行う社会連携講座を立ち上げました。フィールドでの自然体験と情報通信技術(ICT)を掛け合わせることで、子どもが自然の面白さを体得できるシステムの実現を目指し、「自然に学ぶみんなの学校」という自然体験教室を運営しています。

後編では、ヒューリックの社会貢献活動の担当者である宮本氏のお話をご紹介します。社会連携講座を設立した経緯から、企業として社会貢献活動に取り組む重要性や今後の展望まで、幅広くお話しいただきました。

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プロフィール:宮本 太郎氏
ヒューリック株式会社 人事部 社会貢献活動 部長。工学部を卒業後、メガバンク、資産運用会社を経てヒューリック株式会社に入社。社会貢献活動業務全般を担当。「地球環境保護」、「地域社会との共生」、「社会的要請への対応」の三分野を中心に、広く事業内外の領域において積極的にヒューリックらしい社会貢献活動を推進することで、社会全体の継続的な発展に寄与することを目指す。公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定アナリスト、国際公認投資アナリスト。

「企業としての社会貢献」について

—まず、ヒューリックさんの目指す「企業としての社会貢献」について教えてください。

当社では、社会貢献活動を「地球環境保護」「地域社会との共生」「社会的要請への対応」の3本柱として整理し、バランスをとった社会貢献を目指しています例えば、東京大学との社会連携講座は「地球環境保護」の一環として設立しましたが、こちらは次世代を担う子どもたちが環境への興味を持つことが重要であると考え、取り組みを始めました。

当社では重要課題(マテリアリティ)(注1)を特定し、それに対する効果的な取り組みを行うことで持続可能な社会の実現を目指しています。社会貢献活動に伴う、ビジネスパートナー・NPOやNGO・地域社会などとの協働を通じて、その実現へ貢献したいと考えています。

(注1)重要課題(マテリアリティ)とは、各企業が社会において重点的におこなう活動の優先順位を示したもの。サステナビリティへの取り組みなどを定める際に課題を開示し、自社が社会に与える影響やリスクをステークホルダーに説明するために用いる。

社会連携講座設立の経緯

—それでは、東京大学と新たに連携して社会連携講座を設置した理由をお聞かせください。

まず、地球環境保護を推進するにあたり、多様な子どもたちが地球の奥深さを知るきっかけ作りを行いたいと考えていました加えて、当社では「こども教育事業」も展開していることから、同事業との関連性も鑑み、自然体験教室のサポートを目指すことになったのです。

自然体験学習を提供している団体はたくさんあるかと思いますが、東京大学は2015年からサマーキャンプのイベントを行っていて、体験学習によって子どもたちの関心を大きく引き出すという実績を挙げていると伺いました。また、プロジェクトを率いる東京大学大学院工学系研究科長・工学部長の加藤泰浩先生はレアアース(注2)の第一人者で、「むし・ほし・いし」に関わるプロジェクトを推進するパートナーとして最適任だと感じ、連携を決めました。

(注2)レアアースとは、産出量が少なく、抽出が難しいレアメタル(希少金属)の一種。自動車や家電、発電設備などに利用される。

—社会連携講座を設立するにあたり、心がけた点はありますか。

東京大学が従来より行っていたサマーキャンプをよりよくするという視点で考えると、多様なバックグラウンドを持つ子どもたちが参加できることが大切だと考えました。なぜなら、これまで行ってきたキャンプでは現地での参加が前提となっていたため、参加が難しい子どももいたからです。そこで、距離的な制約や身体的な事情、家庭の状況など、いろいろな背景を持った子どもも参加できるような体験学習システムの提供を目標としました

そこで、以前から連携していたNPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ(以下、しんぐるまざあず・ふぉーらむ)にも声をかけさせていただきました。しんぐるまざあず・ふぉーらむとは、社会貢献活動の3本柱の1つである「社会的要請への対応」を行うために2020年から支援を行なっております。社会連携講座を設計していた当初からしんぐるまざあず・ふぉーらむとの連携を考えていたわけではありませんが、「インクルーシブ」の実現を目指す過程で、より幅広い参加者にご参加いただくために連携が必要だと感じ、当社からお声がけいたしました

「自然に学ぶみんなの学校」を設立して

—約2年間の「自然に学ぶみんなの学校」で、どのようなことが実現されたと感じていらっしゃいますか。

社会連携講座で目標としていた、インクルーシブな学びの実現に近づいたのではないかと思います。とりわけ、小学校高学年〜中学生を対象に、自然豊かな高原で行ったキャンプでは、現地での参加者に加えて、自宅などからのオンライン参加や、昨年度は身体的事情を抱えた方へのボディシェアリングも実施しました。情報通信技術(ICT)を駆使したことで、新鮮で臨場感のある自然体験を提供できたと思います。また、しんぐるまざあず・ふぉーらむから積極的に呼びかけていただいたことで、ひとり親家庭の子どもたちを含む、多様な参加者にご参加いただきました。

その結果、ヒューリックの「ダイバーシティ&インクルージョン」(注3)という企業理念に沿った社会貢献活動になりました。

(注3)ダイバーシティとは多様性を意味し、 人々の性別、年齢、国籍などの属性の違いを尊重する考え方のこと。インクルージョンとは包括・受容を意味し、多様性を組織内で受け入れて活用するプロセス。両者を合わせることで、個々の違いを受け入れ、認め合い、組織で生かしていくことを意味する。

—宮本さんも、現地のキャンプに参加されたとお聞きしました。現場で見た子どもたちの姿で、印象に残っていることはありますか。

実は私もアウトドアが好きなので、とても楽しみながら参加させていただきました。現地で参加している子どもたちも、嬉しそうに教授の先生方や新しくできたお友達とお話しされていたのが印象的です。その中で、それぞれの分野に対する興味や知識の深さには、衝撃を受けましたね。今まで際立った関心を持つ子どもと接する機会はあまりなかったので、感銘を受けました。

社会連携講座の反響

—社会連携講座の実施にあたり、社内で反響はありましたか。

初年度から、社員がボランティアとして現地に参加させていただきました。日頃から多忙で、活動に興味があっても業務の都合で参加が難しい中で、何人かが仕事を融通させて参加できたことは意義があったと感じています。

また、社会連携講座に限った話ではありませんが、当社では社会貢献イベントを実施した際に、社内掲示板にその実施内容を掲示しています。自分たちで企画した一つひとつの活動を周知することで、少しずつでも社内に社会貢献活動の意義を浸透させていきたいと考えています

画像:Loose Drawingから作成

—社外へも社会貢献活動について広報などはされているのでしょうか。それによる効果などはありますか。

社会貢献活動については、主な支援先や活動内容などをホームページや四半期ごとの決算説明資料などで紹介しています。

ヒューリックの「地球環境保護」「地域社会との共生」「社会的要請への対応」に関連する社会貢献活動に触れていただくことで、ヒューリックが社会的責任を果たしながら持続可能な社会の実現を目指していることを少しでも多くの方に知っていただけたらと思います。

連携を行うプロセス

—続いて、広く他領域との連携について伺えればと思います。ヒューリックはいろいろな団体や組織と協力されていますが、どのように連携を進めているのでしょうか。

数年前までは社会貢献活動の3本柱を細かく分けて分野ごとの取り組みの足りない部分を考え、積極的に提携先を探すこともありました。しかし、これまでの取り組みのおかげもあり、今では概ねバランスの取れた展開となりました。現在は継続の案件が多いので、外部からの提案も検討しつつ、社会貢献活動の3本柱に偏りがでないように計画を作っています

他には、当社ではマッチングギフト制度(注4)も実施しています。寄付先は毎年社員の投票で決めているので、1年限りとはなってしまいますが、さまざまな団体に寄付を行うことができています。

(注4)マッチングギフト制度とは、社員が非営利団体等に金銭的な寄付を行う場合に、所属する企業も社員の寄付に合わせて(マッチングして)金銭的寄付を行うことで、社員の寄付を増強・支援する仕組みのこと。

画像:Loose Drawingから作成

今後の展望

—最後に、今後の展望を教えてください。

社会連携講座の設置期間は3年なので、来年度で東京大学との連携は期限が到来しますが、今回の取り組みは数年間で成果が出て終わるようなテーマではないと考えています。また、参加者向けのアンケートにはポジティブな結果が多く見られ、取り組みの励みになっていることも事実です。

ですので、今回得られたいろいろな知見を生かし、今後も良き企業市民として、 広く事業内外の領域において積極的にヒューリックらしい社会貢献活動を続けたいと思っております。そして、その取り組みを通じて社会全体の継続的な発展に寄与できたらと考えております

まとめ

今回は、宮本氏に社会連携講座について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • ヒューリックでは、企業としての社会貢献として「地球環境保護」「地域社会との共生」「社会的要請への対応」を中心に、積極的に取り組んでいる。
  • 2年間の活動では、ICTの活用によって社会貢献活動を行うだけでなく、企業理念である「ダイバーシティ&インクルージョン」にそった活動を展開することができた。
  • 社会貢献活動の内容や成果を社内外へ広く伝えることを通じて、持続可能な社会の実現を目指していることを知ってもらいたい。
  • 社会貢献活動の3本柱を軸に据えてバランスの取れた活動を意識している。また、マッチングギフト制度を運営することで、いろいろな団体への寄付も行っている。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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