【前編】連携への第一歩!企業と社会課題をつなぐ、企業向け研修 〜NPO法人Learning for All の事例〜

非営利団体で活動される方の中には、取り組む社会課題の普及啓発のためにも、自団体の持続的な活動のためにも、より企業寄付の可能性や、企業との連携を模索していきたいと考えていらっしゃる方もいるのではないでしょうか?

NPO法人Learning for All (以下、LFA) のコミュニティ推進事業部 企業連携チームでは、おもに一般企業との連携の第一歩として「企業向け研修」を実施しています。今回は、企業連携チームのマネージャーである中川祥子さんに、企業向け研修の目的や企業側のもつニーズ、研修実施までの過程などについてうかがいます。

これまでつながりのなかった企業との連携を検討していきたい、すでにつながっている企業とより深い連携を目指していきたいと考えていらっしゃる方は、ぜひご一読ください!

プロフィール:中川祥子

認定NPO法人Learning for All コミュニティ推進事業部 企業連携チームマネージャー

大学在学中、LFAの学習支援ボランティアを3年間経験。新卒でリクルートマネジメントソリューションズに入社後、人材開発・組織開発領域の営業として勤務。2021年7月に職員としてLFAに転職。経営管理部、経営企画事業部を経て現職に至る。趣味は映画鑑賞、ランニング。

LFAが実施する「企業向け研修」とは

—LFAで実施している企業向けの研修とはどのようなもので、何を目的に実施されているのでしょうか。

おもに企業の社員の方々にむけて、社会課題や子どもの貧困の実態理解を目的とした研修を実施しており、企業から委託を受けて実施をしています。2020年ごろから本格的に開始した活動で、年間10〜15件程度の研修を実施しています。

目的は大きく分けて2つあり、1つ目は一般の方へ「子どもの貧困」という課題の普及啓発を行うことです。ふだん社会課題に身近な接点をもっていない方に接点をもってもらい、課題に共感し、アクションを起こす人を増やしたいと考えています。

そしてもう1つは、今後の企業との連携の入り口としての役割です。LFAでは、多くの企業様から寄付金をいただいたり、社内プロジェクトとして社員の方に私たちの活動に協力をしていただいたりしています。しかし、それらの活動は企業側にとって実施のハードルが高い場合があります。例えば、寄付をするためには予算の確保や社内での寄付先検討のプロセスがあったり、プロジェクトであれば工数配分などの検討事項もでてくるためです。

その一方で、社内研修はすでに予算がついていたり、参加のための工数も見込まれている場合が多く、企業内の既存の枠組みのなかで実施ができます。新たな企業に私たちの活動に共感していただき、協働・中長期的な関係構築をしていく第一歩として、この企業向け研修の活動を位置付けています。

もちろん、新たな企業だけでなく、すでにLFAに寄付をしていただいていたり協働している企業から、より社員の方々の自社のCSR(企業の社会的責任)活動・サステナビリティ(※1)への理解促進のため、寄付先の団体の実施事業を知るという目的で研修を委託いただくこともあります。

※1:企業におけるサステナビリティとは、企業が自社における目先の利益だけでなく、環境や経済等に与える影響を考慮し、社会全体を長期的に持続させていく形で事業活動を行うこと。(参考:株式会社三井住友銀行 Business Navi


出典:
illustAC

なぜ社会課題への理解を深めたい?企業側にあるニーズ

—企業側は、なぜ社会課題への理解を深める研修を実施したいと考えるのでしょうか。企業側のニーズを教えてください。

ひとつは、SDGsの採択など国際的な動きによってCSRやサステナビリティへの関心がより高まっている中で、まずは課題を知ることから始めたい、というニーズがあります。そこから、自社に何ができるのかを社員の皆さんと一緒に考えていくためです。この場合、子どもの貧困課題だけを取り上げるのではなく、SDGsの開発目標の説明などから始め、広く社会課題に触れていただく内容とする場合が多いです。

また主に新入職員となるZ世代(※2)と呼ばれる世代は、CSRやサステナビリティへの関心が高いと言われており、企業がどのようにそれらの活動を行なっているかが入社企業を選択する際の基準のひとつになるとも言われています。そのような若い世代のニーズ・関心に応えていくために、新入社員研修の一環として研修をご依頼いただく場合もあります。

さらに、管理職・次世代経営者の育成を目的とした研修もあります。過去には、社会貢献やサステナビリティの視点をもって事業戦略を考えていくことのできる次世代の経営者を育てることや、違う領域のリーダーと対話し、視座を広げて自身のリーダーシップをアップデートしてもらうこと、また、シニア向けにセカンドキャリアを考えるための一歩として社会課題を知る、という目的での研修をご依頼をいただいたことがあります。


企業研修の様子(画像:LFA)

※2:1990年代半ばから2010年代序盤に生まれた世代で、デジタルネイティブ、SNSネイティブとも呼ばれる世代。強い仲間志向、多様性を重んじるなどの価値観を強くもっていると言われている。(参考:株式会社野村総合研究所 用語解説|産業・社会

研修受託までの過程

—持続可能な社会への関心の高まりをベースに、様々なニーズがあるのですね。LFAでは、どのようなきっかけで企業からの研修受託につながることが多いのでしょうか。

こちらから企業にアポイントメントをとって営業をさせていただくこともあれば、最近では企業側からお声がけをいただくこともあります。

まだ団体の活動履歴が浅い初期の段階では、職員が前職からつながりをもっている企業や、知人・友人の企業に営業をさせてもらうことから始めていました。企業経営者が集まる場に参加をし、名刺交換をしてアポイントメントにつなげていくということも行なっています。

また、中間支援団体が企業から研修企画の委託を受け、ニーズに合致していればLFAに依頼をいただくというパターンもあります。中間支援団体は様々な企業とコネクションをもっていたり、企業から相談を受けることも多い立場にあります。ですので、中間支援団体との信頼関係構築も大切にしていますね。

最近では長年我々の活動に協力をしてくださっている企業様が、新たな営業先として自社の顧客企業をLFAに紹介してくださることもあります。これは私たちのチームと企業様の関係性だけによって実現されたことではなく、LFAの現場や政策提言などの活動が出している成果が評価されているからこそ実現できたことです。企業の方々と信頼関係を築き協働をしていく上でも、やはりLFAの各現場が課題解決につながる成果を出しているということがもっとも大切なことだと感じています。

 


出典:ちょうどいいイラスト

—「子どもの貧困は見えづらい課題」と言われることもありますが、そのようなトピックに共感していただくための工夫などはありますか。

確かに様々な取り組むべき社会課題がある中で、我々の活動に目を向けてもらう難しさはあります。課題が「子どもの貧困」だからというわけではないのですが、アポイントメントでは相手の企業・担当者に合わせて何をどう話すかを毎回設計しています。

初めてアポイントメントを取る企業の場合は、その企業のCSRポリシーやすでに実施している施策にどのようなものがあるのか、どのような団体にどれくらい寄付をしているのかという情報を事前に調べておきます。またアポイントメントに対応してくださる担当者の方についても、可能な範囲で経歴などをリサーチし、興味関心を把握するようにしています。そのような情報から、企業側がすでに実施している施策があればそこに名乗りをあげるのはどうか、まだあまりCSRの実績がない企業であれば研修から話をもちかけるのが良いのではないかなど、コミュニケーションの方法を考えていきます。

そしてアポイントメント内では、まずは子どもの貧困課題や我々の活動について説明をさせていただいた上で、企業側のニーズの聞き取りをしっかり行うようにしています。企業側のニーズと私たちの目的がwin-winの関係になるよう、可能性を探っていきます。企業向け研修についても協働可能性の一つとして他企業での実績などをお伝えし、企業側のニーズと合致させることができれば発注につながっていくという形です。

まとめ

今回は、LFAの中川さんに企業向け研修について伺いました。前編のポイントを以下にまとめます。

  • LFAの企業向け研修は、主に一般の方へ「子どもの貧困」という課題の普及啓発を行うこと、今後の企業連携の入り口としての役割を担うことを目的として実施されている。
  • 企業側からは、持続可能な社会への関心の高まりをベースに様々な社会課題に関する研修のニーズがある。
  • 企業とのアポイントメントにおいては、事前リサーチやニーズの把握など営業活動の基本を大切にしている。
  • 企業との信頼関係構築のためには、団体の各現場が課題解決につながる成果を出しているということがもっとも大切。

後編では、実際の研修内容やその準備過程、研修をつくる上で大切にしていること・譲れないこと、今後の展望などについて伺います。

【後編】連携への第一歩!企業と社会課題をつなぐ、企業向け研修 〜NPO法人Learning for All の事例〜
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※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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