【後編】連携への第一歩!企業と社会課題をつなぐ、企業向け研修 〜NPO法人Learning for All の事例〜

前編に引き続き、NPO法人Learning for All (以下、LFA) のコミュニティ推進事業部 企業連携チームのマネージャーである中川祥子さんに、企業と社会課題をつなぐ企業向け研修について伺います。

【前編】連携への第一歩!企業と社会課題をつなぐ、企業向け研修 〜NPO法人Learning for All の事例〜
【前編】連携への第一歩!企業と社会課題をつなぐ、企業向け研修 〜NPO法人Learning for All の事例〜

後編では、実際の研修内容やその準備過程、研修をつくる上で譲れないこと、今後の展望について伺いました。

プロフィール:中川祥子

認定NPO法人Learning for All コミュニティ推進事業部 企業連携チームマネージャー

大学在学中、LFAの学習支援ボランティアを3年間経験。新卒でリクルートマネジメントソリューションズに入社後、人材開発・組織開発領域の営業として勤務。2021年7月に職員としてLFAに転職。経営管理部、経営企画事業部を経て現職に至る。趣味は映画鑑賞、ランニング。

実際に何をやる?研修準備や研修内容

—企業向け研修の内容はどのようなもので、どのような流れで研修の準備を行っていくのでしょうか。

基本の研修内容は以下のような流れになっており、企業側の研修の目的やニーズに合わせてカスタマイズをしたり、新規作成をしたりしていきます。要所でワークをはさみながら、受講者が課題を自分の身近に引きつけて考えられるよう工夫をしています。

  1. 「社会課題」とは何か
    1. なぜ企業が社会課題に取り組むのか
    2. サステナビリティ・SDGsとは
    3. ワーク:「社会課題とは何か?」を自分の言葉で語ってみる
  2. 子どもの貧困とは
    1. 子どもの貧困の実態
    2. ワーク:相対的貧困にあたる経済状況での生活を考える
  3. Learning for All の活動
  4. わたし(わたしたち)にできる取り組みを考える
    1. ワーク:個人として何ができるか、企業として何ができるかを考える

受注から研修実施までは1.5〜2ヶ月程度準備期間をいただくので、その間に企業側の担当者と打ち合わせを重ね、研修内容を構築していきます。

1回目の打ち合わせでは、企業内での研修の位置付けや目的、参加対象者の詳細をヒアリングします。企業側が研修後にどのような変化を望んでいるのかによって研修内容は変わるため、目的とゴールのすり合わせは丁寧に行います。

例えば、まずは「知る」ということが達成できれば良いのか、あるいは社員の方が個人で寄付活動を始める・社内のボランティアプロジェクトに参加するなどの個人単位での行動変化を望むのか、あるいは社員の方から出た意見を取りまとめて企業としての実施事項を決めていきたいのかでは、研修内で伝えるべきこと・考えてもらうべき問いの内容が変わってきます。研修の位置付けや目的は本当に企業によって様々なので、丁寧にすり合わせを行うことが重要になります。

そしてそれらの情報をもとに研修を作成し、場合によってはいくつかパターンを用意して担当者の方と最終合意をしていく、という流れです。

もっとも多いのは2時間程度の座学研修ですが、最近ではより深いコミットを参加者に求めるタイプの研修も増えてきています。

例えば、「どうすれば質を下げずにコストを抑えて子どもの居場所を増やしていくことができるか?」など、LFAの事業が抱えている課題についてアクションプランを考えてもらう研修を数ヶ月にわたって実施したことがあります。また、実際にLFAの活動地域まで足を運んでいただき、終日のフィールドワークを実施した例もあります。やはり、このような深いコミットを求められる研修の方が参加者の意識や行動の変化は著しいと感じています。


研修内ワークの例(作成:LFA)

研修の作成において、大切にしていること

—研修内容を作成するにあたって、LFA側として譲れないこと・大切にしていることなどはあるのでしょうか。

課題への正確な理解・共感をしていただく研修内容とすることはもちろんなのですが、特に気をつけていること、かつ難しいと思っていることはその伝え方です。

例えば、ものすごく重篤な家庭のケースを取り上げて「こんなにも恵まれていない子たちがいます。とても可哀想な子たちがいます。だから助けてあげてください。」という伝え方をした方が、共感をしてくれる人は増えやすいですし、寄付などのアクションにもつながりやすいです。しかし、そのような伝え方をしてしまうことは、我々の拠点に通ってくれている子どもやその保護者たちの尊厳を毀損することになりかねません。

子どもたちは、例えしんどい環境にあってもネガティブな感情で毎日を送っているわけではなく、その子なりの日々を懸命に生きています。私たちが子どもたちのことを「可哀想な存在」「施しを与えるべき存在」として伝えてしまうことは、その子どもたちの今現在を否定し、スティグマを生み出すことにつながりかねません。

私たちが伝えたいのは、子どもたちがいかに不幸かということではなく、実際に日本でしんどい状況にいる子どもたちが存在していて、その課題はその子自身の課題ではなく社会をつくる私たち全員の課題であるということです。

そのため、研修内での伝え方や言葉選び、研修資料のトンマナにはかなり気をつけています。一方で、やはり実際にしんどい状況にある子どもたちがいることは事実であり、それを説明しないことには共感が生み出しにくいことも事実です。どのような伝え方をしていくのが最も良いのかは、今後も考え続けていくべき事項だと思っています。


研修の様子(画像:LFA)

研修後のアフターフォロー

ー前編で、企業向けの研修は「企業との連携の入り口」というお話がありました。次につなげていくためには研修実施後のアフターフォローも大切だと思いますが、どのようなことを実施されていますか。

研修実施後は、企業側の担当部署のみなさんに改めてお時間をいただき、施策の効果を振り返り、ネクストアクションを考えるミーティングを行うようにしています。

研修内のワークで参加者から出た意見はまとめておき、ミーティング内で担当部署のみなさんと共有をしていきます。すると、「社員が社会課題をこんな風に捉えていたんだ」「自社でできることとして、新しいアイデアを挙げてくれている」など、私たちも含めた主催側にも大きな気づきがあります。それらをもとに、企業で実際に実施できる活動を一緒に考えたりしていきます。

また、担当部署のみなさんも研修をオブザーブされることが多く、「自分たちも社会課題をより深く理解する機会になった」と仰っていただけることも多いです。そこで担当部署の方がインスパイアされ、他の連携につながっていくこともあります。研修は大切な機会ですが、実態を知る「きっかけ」の一つなので、その後のアクションまで一緒にあゆみを進められるような連携を増やしていきたいと考えています。

成果と今後の展望

—これまで企業研修を実施してきて実感している成果や、今後の展望について教えてください。

数値的な成果で言えば、研修を実施させていただいた企業の6割程度が、企業寄付や研修の再発注、ボランティアプロジェクトの立ち上げなど、何かしらのネクストアクションを起こしてくださっています(※2022年度〜23年度12月までの実績)。また、研修参加者が個人単位でLFAのマンスリーサポーターになってくださったり、もともと開発職を担当されていた方が、課題に共感してサステナビリティ推進室への異動に挙手をされたというケースもありました。このような個人個人のアクションにつながっているということも非常に嬉しい成果です。

一方で、今課題に直面していない人が社会課題を自分ごととして捉えるのは想像以上に難しいことです。研修で話を聞いたときはインパクトがあっても、研修が終わればそれは薄れてしまいます。だからこそ、繰り返し伝えることや、考え続けてもらう機会を設けること、実際に体験をしてもらうことがとても大切だと思っています。

また、これまで活動を続けてきて、企業側の研修へのニーズはあるということはわかったものの、今後企業向けの研修受注自体をLFAの大きな資金源としていくことは難しいと考えています。現在の人員体制では受注できる量には限りがありますし、人材投入をできるほど安定的に受注ができるかは難しいところだからです。

だからこそ今後は、先ほど例に挙げた複数回に渡る研修やフィールドワーク形式の研修のような、濃度が濃く、その先のインパクトがより大きい研修を質高く実施していくことに注力をしていきたいと考えています。引き続きこの企業向け研修の活動を通して、課題に対してアクションを起こしてくれる人・企業を増やしていきたいですね。


出典:photoAC

まとめ

今回は、LFAの中川さんに企業向け研修について伺いました。後編のポイントを以下にまとめます。

  • 研修準備期間は、1.5~2ヶ月程度。企業側との目的・ゴールのすり合わせを大切にして準備を進める。
  • 研修の作成においては、参加者の共感を求めるあまり研修内容が子どもたちの尊厳を毀損するような内容・伝え方になっていないか注意をしている。
  • 研修は、あくまで社会課題の実態を知るきっかけのひとつなので、その後のアクションまで一緒にあゆみを進められるような連携を増やしていくことを目指している。

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※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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