皆さんは「別室登校」についてご存知でしょうか。別室登校とは、教室で授業を受けることが難しい子どもが、自分のクラスの教室とは別の教室で学校生活を送ることです。
今回は別室登校の取り組みの事例や、支援において大切にしていることについて、認定NPO法人Learning for All (以下、「LFA」)で別室登校支援を行っている乕谷さんにお話を伺いました。
プロフィール:乕谷 萌
LFA職員。大学在学中から学習支援拠点の運営に携わる。入職後、学習支援拠点・居場所支援拠点の拠点長を経て2022年4月以降から現在まで別室登校支援運営を担当。趣味は街探検、自然を感じること。
別室登校支援の取り組みについて
—現在乕谷さんが担当しているお仕事の内容について教えてください。
現在、私は「別室登校支援」と呼ばれる支援拠点で活動しています。今年度は4つの学校内での拠点を担当していますが、運営方法は学校によって異なります。非登録制でオープンに拠点を開き「いつでも誰でも利用していいよ」という学校もあれば、事前に利用する生徒を登録し、「○○時間目に××さんが来室します」というように、時間によって参加する子どもが決まっている学校もあります。
みんなが授業を受けている時間に、学校内の教室を一室お借りして拠点を運営しています。不登校状態の子どもや、不登校ではないけどずっと教室で授業を受け続けることが難しい子どもが、自由に過ごすことができるような居場所づくりを行っています。
子どもたちにとって、「家と学校(教室)」は生活の大半を占める場になっているのではないかと思います。だからこそ、家と教室の間に「別室登校支援拠点」という居場所をつくることで、子どもたちが一時的に休息を取れたり、段階的に人とつながるきっかけになったり、自分に必要な経験や学びを見つめ直せたりする場所を増やしたい、と思って活動しています。
—別室登校支援の取り組みを始めるにあたって、どのような方法で支援を必要とする学校とつながったのですか。
LFAの場合は、この「別室登校支援」を行うために新しく学校とつながったということではなく、もともとLFAで「放課後学習支援」という支援を学校内で行っており、その中でつながりができていた学校の中で、現在は別室登校支援を行っているケースが多いです。
放課後学習支援を通して学校と関係性を築く中で、これまでの「学習支援拠点」の形では繋がりづらい子どもの存在や学校のニーズをお伺いすることができ、「別室登校支援拠点」という新たな形の拠点をご提案させていただいたと聞いています。
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—支援を必要とする子どもとどうつながっているのですか。
基本的には、先生方からのご紹介で子どもとつながることが多いです。先生が「この子には別室登校支援が良いのではないか」と思ったら、まずは先生から子どもに別室登校支援のことを紹介していただき、子ども本人が興味を持ったら先生から私たちに連絡が来て、つながりが生まれます。
また、学校によっては全校生徒向けに拠点紹介のチラシを作成し配布させていただいているところもあります。そういった学校では、チラシを見て興味をもった子が足を運んでくれることでつながることもあります。
別室登校支援の実態
—別室登校支援の1日の流れについて教えてください。
1日の過ごし方は、先ほどお話した「非登録制」か「登録制」かによって異なります。
非登録制のオープンな拠点では、週のうち決まった曜日・時間帯に私たちが学校内の教室に伺って拠点を運営していますが、私たちがいない間も、学校が開いている間はフリースペースとしてその部屋は開放されています。そのため、私たちが教室に入る時点で既にいつも子どもがいる状態ですね。子どもによって来室する時間も様々で、登校後直接別室に来る子もいれば、ホームルームだけ教室で受けてから別室に来る子、1日の中の数時間だけ別室を利用する子もいます。私たちから「やるべきこと」を指定することはないので、同じ部屋の中にいても、オンライン授業を受ける子もいればおしゃべりする子もいます。
—ある程度時間割が決まっているものと思っていましたが、子どもが自由に過ごしている様子を見守っていらっしゃるんですね。
そうですね。子どもと一緒に「今日は何する?」と相談しながら、自由に過ごしています。拠点にはカードゲームやトランプ、人生ゲームなども置いてあるので、それらのゲームで遊ぶこともあります。
—登録制の拠点ではどのように過ごしていらっしゃるんですか。
登録制の拠点の場合は子どもと私たちが1対1で関わるので、非登録制の拠点よりも具体的に子どもと相談して「やること」を決めています。まずは「どういうことをやりたいか」を子どもに聞いて、その日の過ごし方を決めていきます。本人のやりたいことがない場合は、私から提案することもあります。いわゆる「支援指針」に基づいて「この子にはこういう経験をしてほしいから、こういう提案をしてみようかな」と考えながら関わっています。
画像:Photo AC
—別室登校支援を利用している子どもたちの「変化」はどのように感じますか。
もしかすると、比較的自由な過ごし方をしている別室登校支援に対して、「遊ぶ部屋なんじゃないか」「子どもにとっては都合良くサボれる場所になっているんじゃないか」という感想を持つ人もいるかもしれません。しかし、実際に私が別室登校支援を続けてきて感じることは、子どもたちはそれぞれいろいろなことを考えていて、決してただサボりたくて別室教室に来ているわけではないということです。
しばらく別室で過ごしているうちに、来ている子どもが、それぞれ自分のタイミングで挑戦をし始めるようになるんですよね。例えば、最初は勉強に興味が向かなかった子どもが、ふと「オンライン授業を見てみようかな」と言い始めたり、「〇時間目の授業は出てみようかな」と思い始めたりとか。
LFAの別室登校支援につながる子どもは、つながる以前に何かしらのダメージを受けていることがあるので、最初はその傷を癒すこと・自分を満たすことが必要だと考えています。別室で過ごすうちに徐々に心が満たされると、人は自然と前を向いて次のことを考え始めるんだろうな、と思っています。
別室登校支援で意識していること
—別室登校支援の中で、乕谷さん自身が大事にしていることはありますか。
「ゆったりいる」ようにしていますね。子どもが「あれを話したいな」「これを聞きたいな」と思ったときに、ちゃんと話せる・聞ける相手がいる環境を守ることはすごく大事にしています。学校って、基本的に時間割通りに動かないと行けない場所で、子どもも大人も時間を気にしているじゃないですか、チャイムも鳴りますし。例えばすごくモヤモヤしているときとか、とにかく気持ちを吐き出したいときに信頼している先生と話したくても、その先生に次の授業が入っていれば「あと5分でチャイムが鳴るから…」と切り上げるしかなく、話を聞いてもらえないですよね。そのため、別室にいる私たちは、時間を気にせずに、子どもが話したいことを話せる相手でいるということを意識しています。子どもたちからも「学校の先生とはちょっと違う存在だ」と認識されているような気がしますね。
—学校内で支援拠点を運営する上で、子どもと、クラスメイトや先生との関わりについて意識していることはありますか。
私の方から「もっとクラスの友達と関わってみようよ」「先生とこういう話をしなよ」というようなアプローチはしません。私は先生・指導者ではないので、子ども自身が「こうなりたい」というのを一緒に探してサポートする、一緒に考えていくようなイメージです。
もし子どもから「緊張するけどクラスメイトと話したい」と相談されたとしたら、そのために「こうしてみたら?」と一緒に考えたり、「じゃあ一緒に教室に行ってみる?」というようなサポートをしますね。。
まとめ
今回は、LFAの乕谷さんに、LFAでの別室登校支援の実態や支援を行う上で意識していることについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 別室登校支援の形態は、非登録制でオープン型の学校と登録制の学校があり、先生を通して子どもとつながる。
- オープン型の別室登校支援を行う学校では、1日中別室が解放されており、子どもが自由に利用できる。登録制の学校では、子どもと何をするか相談して行っている。
- 時間を気にせず子どもが話したい・聞いてほしいときに話せる相手でいられるように、ゆったりといることを意識している。
- 子ども自身の「やりたい」ということを一緒に探して、サポートすることを意識している。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
後編では別室登校支援の強みや課題、今後の展望などについてお伺いします。
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