【連載第3回】地域・学校と共に育む 不登校児童生徒の学びと育ち 〜NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所の事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.17)

2023年7月27日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第17回が開催されました。

今回は、NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所(以下、リヴォルヴ学校教育研究所)の理事長である小野村 哲氏をお招きし、地域や学校と共に育む不登校児童生徒の学び・育ちについてや不登校支援の取り組み事例、子どもとの関わり、学校・地域との連携にあたって大切にしていることなど幅広くお伺いしました。

イベントレポート第3回では、具体的な子どものケースから見るアセスメントについて、また文字の識別が難しい子どもの見え方や間違えやすいアルファベットを指導するときのポイントなどを紹介します。

【連載第1回】地域・学校と共に育む 不登校児童生徒の学びと育ち 〜NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所の事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.17)
【連載第1回】地域・学校と共に育む 不登校児童生徒の学びと育ち 〜NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所の事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.17)
【連載第2回】地域・学校と共に育む 不登校児童生徒の学びと育ち 〜NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所の事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.17)
【連載第2回】地域・学校と共に育む 不登校児童生徒の学びと育ち 〜NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所の事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.17)

プロフィール:小野村 哲氏

NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所 理事長

元つくば市教育委員会教育委員

1983年から、茨城県つくば市内の公立中学校に勤務。39歳で退職後、リヴォルヴ学校教育研究所を立ち上げ、不登校や学習につまずきがちな子どもたちの支援にあたる。主著に『よめるかける ABC英語れんしゅうちょう』(リヴォルヴ)2006、『イラストと音で覚える 読み書きが苦手な子のためのアルファベットワーク』(明治図書)2020他。

行動の背景にある子どもの気持ちを考える


画像引用元:
NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所

上の画像のケースは、実際にむすびつくばライズ学園に来た子どもの事例です。よくこうした事例があると「困った子だよね」といった声が挙がりがちですが、このケースは一体何が問題なのでしょうか?

清掃用具入れを殴るという暴力的な行為でしょうか?あるいは、ノートを隠して先生に見せようとしなかったことでしょうか?あるいは、無理やりノートを見ようとし、この子を暴力的な行為に走らせた先生の行動でしょうか?

このケースを考えるとき、何を問題と捉えるかは人によって異なるでしょう。ここで考えてみたいのは「なぜ」その子が清掃用具入れを殴ったのか、ということです。

私がこの子に「何に対して君は頭に来たの?」と聞いたところ、その子は「先生の行動が頭に来た」と答えました。そこで私は「先生のことが頭に来たなら先生に怒ればよかったじゃないか」と言いました。

するとその子はびっくりした様子で、「先生を叩いたら痛いじゃないか。あの先生はいいところもあるから、(清掃用具入れを殴って)自分が痛い思いをすればいいだけだ」と言いました。この言葉からわかる通り、この子はとても優しい子なのです。

このように、一つのケースに対して何が問題で、なぜ問題なのか、それを解決するためには何をすれば良いのか、アセスメントを行います。下の画像のアセスメントの手順はあくまで一例ですが、一つの参考としていただければと思います。


画像引用元:NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所

もう一つ具体的なケースとして、「マイカル」というディスレクシア啓蒙映画を紹介します。

この映画では、学習障害をもつ子どもが学校で過ごす様子を描いています。主人公が学校で暴れているシーンを見るだけではなく、家庭での様子や保護者の方の想いを考えながら見るとこの子の見方が全く変わってくると思います。20分弱の短い映画なので、ぜひご覧ください。

私たちがわかったつもりでいると、子どもを見る姿勢が損なわれ、わかるものもわからなくなります。

まずしっかり見てその子なりの育ちを認めること、生きること・学ぶことを知ってもらうこと、言い換えると試行錯誤の権利を尊重すること、将来に夢や希望を持てるようにすることが大切だと思っています。

文字を読むのが苦手な子どもの困難を擬似体験する

ここからは、子どもたちがどのような困難を感じているかを擬似体験してもらいたいと思います。困難を擬似体験することで、つまずきの理由について理解を深めていきましょう。

この絵には、ある動物が隠れています。

 
画像引用元:
NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所

これは「ダレンバッハの牛」というだまし絵です。大多数の人は、この絵に牛がいるとは見えなかったのではないでしょうか。しかし一度牛の形を認識してしまうと、もう牛にしか見えなくなってしまうかもしれません。

これは、見ることにおける「カクテルパーティー効果」と呼ばれるものです。カクテルパーティー効果は、たくさんの音や話し声がするなかで興味関心のある音だけがはっきり聞き取れる現象のことです。このおかげで、私たちは日頃から自分の関心のある情報だけを選択的に見たり聞き取ったりしています。

一方、最初に牛の絵を見たとき、私たちは必要な情報とそうでない情報に線引きができず、見どころを捉えられずにいましたしかし「牛の絵」とわかった途端、牛と認識するために必要な情報だけを無意識で読み取るという高度な情報処理が脳内で行われるのです。

アルファベットの識別は難しい

例えば、「tax」の ” t ” は、下が真っ直ぐでも横にちょっと曲がっていても同じ文字 “ t ” として読みます。

それでは「fax」の “ f ” は、下が真っ直ぐになっていますが “ t “ と同じ文字でしょうか?いいえ、これは ”上が” 横にちょっと曲がっているので違う文字 ” f ” ですね。

この「tax」と「fax」の違いがわからず、アルファベットの識別につまずいてしまう子も多いです。

また、アルファベットは簡素な作りであるために、絵や図形のように見えやすいという側面がありますこの「bad」という単語も、パーツごとに色や質感を変えると、円と棒が書かれた絵や図形のように見えてしまうのです(もちろん個人差はあります)。


画像引用元:NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所

フォントによって文字の認識が難しくなる

次に「a」が並んだこの画像を見てみましょう。


画像引用元:
NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所

先日、学習障害を特集したNHKの番組に出演していた男性は、「おしゃれな文字で書いてあるとわからない」「看板などのおしゃれな文字は文字として認識していない」と話していましたその男性から見えるのは、ちょうどこのような景色かもしれません。

また『自閉症という知性(池上 英子著 / NHK出版新書)』という本では、明朝体が苦手な女性が紹介されています彼女は非定型インテリジェンスの持ち主で、細部に必要以上に注目してしまいます。そのため、明朝体特有の三角の部分が図形のように見えてしまい、文字の認識が難しくなってしまうのだそうです。

文字を文字として認識できないことによる不都合

では、文字を絵や図形のように認識してしまうことがあると、どのような不都合が生じるでしょうか?

ここでは例として亀の絵を挙げてみます。この2種類の絵の亀は、どれも同じ亀というカテゴリーに入ります。上を向いていても下を向いていても、首が出ていても甲羅にしまってあっても同じ亀という種類です。



画像引用元:
NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所

では、アルファベット小文字の ” p “,“ b “,” q “,” d “ はどれも同じ種類の文字でしょうか?これは、どれも同じ形を上下左右に反転させただけですが、全て違う文字です。こうして絵と文字を比べてみると、アルファベットの識別が思っている以上に難しいことが感じられるかと思います。

カテゴリー化の難しさ

次に、この図から同じアルファベットを探してみてください。


画像引用元:NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所

アルファベットはたったの26文字で形もシンプルです。しかし、アルファベットにはいくつもの書体があり、それらを初見で同じ文字であることを見分けるのはかなり困難です。

こうしてみるとその難しさがよくわかるアルファベットですが、私たちは普段このような難しさを忘れてしまっています「小学4〜5年生ならアルファベットくらいわかって当たり前」という認識で子どもを指導してしまいがちなのです。

似た文字を間違えがちな子ども向けのアルファベット指導のポイント

私が今まで見てきた中で “ b “ と “ d “ を完全に区別できなかった子どもはいません。並んでいるとどちらかわかるのですが、いざ書いたり読んだりする時につまずいてしまう子がほとんどです。

そんな子におすすめなのが、 “ b “ と “ d “ を手を使って教える方法です。右利きの子なら、左手は “ b “ と決めてその手の形のまま膝の上に置きます。このまま読み書きすることで、わからなくなったらすぐに左手の “ b “ を確認できるのです。


画像引用元:
NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所

よく算数で「指を使って数えてはだめ」と教えることがありますが、指を使って覚える方がいいタイプの子もいます大事なのは、その子に合った学び方をさせてあげることです。

また、” h “ は馬のように首を長く、” r “ はうさぎが飛び跳ねる様子をイメージして、など動物の動きを介して説明してあげる方法もあります。

下図は私が作成した教材ですが、ここでは大文字の “ A “ がどのように小文字の “ a “ になったのかを説明しています。さらには、形を見て覚えるのが苦手な子向けに「クルッとまわってたて棒 エィ」と言葉でも説明しています。


画像引用元:
NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所

このようにアルファベットの教え方にはさまざまな方法があるので、子どもがそれぞれわかりやすい形で教えてあげるのがいいと思います。

LD・読み書き困難に関するnote記事の紹介


画像引用元:
NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所

今回紹介したLDや読み書きの困難に関する内容は、リヴォルヴ学校教育研究所・むすびつくばライズ学園のnoteにもまとめています。

読み書きの困難を抱える子どもたちの支援に、ぜひこのnote記事の内容も活用していただければと思います。

まとめ

第3回は、リヴォルヴ学校教育研究所の小野村さんに、具体的な子どものケースや、文字の識別が難しい子どもが抱く困難さや、こうした子どもたちにおすすめのアルファベット指導法について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 起きている出来事に対して、「何が」問題で、「なぜ」問題なのかを考えていくことが大切
  • 文字の認識には高度な情報処理能力が必要で、情報処理が難しいためにアルファベットや漢字が絵や図形のように見える人もいる。
  • アルファベットの小文字はシンプルな形であるために識別が難しい。 ” p “,“ b “,” q “,” d “ の識別は特につまずきやすいポイント。
  • アルファベットを覚えるのが苦手な子どもには、絵や言葉、指など、その子がわかりやすい覚え方で教えてあげることが大切。

イベントレポート第4回では、小野村さんと認定NPO法人Learning for All (以下、LFA)つくばエリアマネージャーの安次富 亮伍さん、そして参加者の方との質疑応答の様子をご紹介します。

【連載第4回】地域・学校と共に育む 不登校児童生徒の学びと育ち 〜NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所の事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.17)
【連載第4回】地域・学校と共に育む 不登校児童生徒の学びと育ち 〜NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所の事例〜(こども支援ナビ Meetup vol.17)

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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