【後編】子どもがありのままでいられる居場所づくりとは 〜NPO法人Learning for All の事例〜

前編では、子どもの子どもの変容を促す空間としての居場所拠点の価値について、また「意図的に関わること」と「ありのままでいること」との関係性について、認定NPO法人 Learning for All(以下、LFA)の居場所拠点スタッフである片岡さんに伺いました。

【前編】子どもがありのままでいられる居場所づくりとは 〜NPO法人Learning for All の事例〜
【前編】子どもがありのままでいられる居場所づくりとは 〜NPO法人Learning for All の事例〜

今回は、現場運営への子どもの主体的な参画を促す取り組みについて片岡さんに伺います。

プロフィール:片岡 優衣
LFA職員。中学生・高校生が通う居場所拠点で拠点長をしている。前職では塾の教室長なども務めた。最近ハマっているものは、6年ぶりに再開したポケモンGO。

 

具体的な取り組み①:拠点の運営会議

—居場所づくりにおいて、子どもの成長を支えるためには子どもが自分のやりたいことを表明するなど、現場運営への子どもの主体的な参画が可能になっていることも重要だと思います。子どもの主体的な参画を促すために、片岡さんの拠点で取り組まれていることを具体的に教えてください。

私たちの拠点でやっている取り組みを2つ紹介します。1つ目は、子どもとスタッフが一緒に行う、拠点の運営会議です。拠点には大きなホワイトボードが置いてあり、会議で相談したい内容をあらかじめ書いておくことができます。このホワイトボードには「球技大会やイベントをやりたい」といった企画の相談から、「トイレットペーパーをダブルにして欲しい」といった日常の要望まで、子どもたちからの様々な要望が書き込まれます。会議では「そうした要望を実現するためにはどうしたらよいか」について、スタッフと子どもが一緒に話し合います。

会議の進め方については、スタッフは大まかなリードしか行いません。あらかじめスタッフが会議の進め方を想定してその通りにコントロールするのではなく、話し合いの過程についても子どもたちに任せています


写真:運営会議のホワイトボードの様子(一部マスキング)

—拠点の運営会議は、最初から子どもたち主体で行っていたのですか?

いえ、最初は会議の議題もほとんどあがらなかったので、会議はスタッフから子どもたちへと伝えたいことを伝える場になっていました。最初はホワイトボードも用意しておらず、会議のたびにスタッフが資料をプロジェクターに映したり、模造紙に議題を書いたりしていました。そのため、子どもたちが会議で相談したいことを気軽に書ける場が用意できていなかったのだろうと思います。

何度か試行錯誤する中で、会議の進め方について子どもたちから意見を募ったところ、「ホワイトボードを使って会議を進めるのはどうか」という意見が出たので、そこからホワイトボードを使い始めました。たまたま会議後もホワイトボードをそのまま拠点の中に置いていたところ、期せずしてそのホワイトボードが会議で相談したいことを収集する場になりました。もちろん、意図してホワイトボードを置きっぱなしにすることもできたと思いますが、「ホワイトボードを元の場所へ戻すことへの面倒くささ」というスタッフ・子ども達の人間的な部分にきっかけがあるので、「ありのまま」が子どもたちへの良い効果を生み出した一例だと思います。

また、子どもたちが主体的に会議に参画するようになったきっかけとして、次に述べる2つ目の試みの存在も大きいように思います。

具体的な取り組み②:予算の話し合い

—なるほど。その2つ目の試みについても伺いたいです。

2つ目の試みとして、月に5,000円の予算で子どもたちの欲しいものを買えるようにしていますしかし、5,000円では買えるものも限られており、子どもによって欲しいものも異なるので、その金額をどのように使うかを決めるためには子どもたち同士の話し合いが必要です。また、「最大3ヶ月まで貯金ができる」というシステムにしているため、貯金をすれば最大で15,000円のものまで買うことができます。そのため、「今月は貯金をして、来月に〇〇を買おう」といった話し合いも必然的に生まれてきました。

また、15,000円以上のものでどうしても欲しいものがある場合には、現場責任者(職員)へのプレゼンテーションの機会を設けます。「何が欲しいのか」「どのような理由で欲しいのか」といったことを現場責任者に伝えて予算を獲得する、という機会の元、スタッフも多少手伝いますが、資料の準備から当日のプレゼンテーションまで全て子どもたちに任せています。実際に子どもたちでプレゼンを行って、皆で使うゲームのコントローラーの予算を獲得していました。

スタッフとして意識していること

—以上のような取り組みの中で、スタッフとして意識されていることはありますか?

基本的には「子どもたちに任せる」ということを大切にしていますが、会議の例でもお話ししたように、最初から全て任せるだけではなかなかうまくいきません。子どもが主体的に参画する土俵ができるまでは、要所に最小限の意図的な介入が必要だと思います。運営会議の例で言えば、何か話したいことがありそうだけど黙っている子どもに話を振ってみたり、会議に参加していない子どもの近くで敢えて会議を行うことで、参加のためのハードルを下げたりといった介入です。

とはいえ、介入をしすぎることは子どもの主体性を奪ってしまうことに繋がるので、その介入はやはり最小限に留めたいと思っています。運営会議の例で言えば、会議のファシリテーションをしすぎないことや、会議への参加を強制しないことなどを意識しています。

—居場所づくりを行っている中で、子どもたちの「自己創出」を感じることはありますか?

理由はよくわからないのですが、私たちの拠点に来る子たちで、もともと不登校だった子が学校に行くようになることがあります。私たちからは「学校に行きなさい!」とは一言も言っていませんし、学校に行くように意図的な働きかけをしているわけではありません。ただ、学校や家庭等、他の居場所も含めた「その子の自己創出のシステム」の1つに私たちの拠点があり、その子の中で起こる自発的な変化の1つとして、学校に行き始めるようになっているのではないかなと、私は思っています。

まとめ

今回は、LFAの居場所拠点スタッフである片岡さんに、現場運営への子どもの主体的な参画を促す取り組みについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • 子どもとスタッフが一緒に行う拠点の運営会議においては、議題をあらかじめホワイトボードで募集し、話し合いの過程を子どもたちに任せている。
  • 月5,000円の予算で子どもたちの欲しいものを買えるようにすることで、現場運営に関する子どもたちの話し合いを促している。
  • これらの取り組みにおいては、子どもが主体的に参画する土俵ができるまでは、要所に最小限の意図的な介入が必要である。

全2回に渡り、子どもがありのままでいられる居場所づくりについて、LFAの居場所拠点スタッフの片岡さんに伺いました。片岡さん、ありがとうございました!

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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