【前編】私たちなりの中高生の居場所づくり ~私たちが目指す中高生との関係性:Learning for Allの事例~

中学生・高校生の居場所づくりを行っている方は全国にたくさんいらっしゃいますが、中高生とどのような関係を築いているかは、拠点によって様々だと思います。今回の連載では、居場所支援における中高生との関係づくりについて、NPO法人Learning for All(以下、LFA) の緑川さんと片岡さんにお話を伺います。2回に分けてお届けしていきます。
前編では、中高生とどんな関係性を目指しているか、その関係づくりのためにどのようなことを心がけているかを伺いました。

プロフィール:緑川 大二郎
LFA職員。小学生から高校生までが通う居場所拠点で活動している。前職では学童の支援員なども務めていた。最近ハマっているものは、音ゲー。

 

プロフィール:片岡 優衣
LFA職員。中学生・高校生が通う居場所拠点で拠点長をしている。前職では塾の教室長なども務めた。最近ハマっているものは、Pokémon LEGENDS アルセウス。

 

目指している子どもたちとの「関係性」

ーお二人の拠点には、どんなニーズを持った子どもたちがいますか。

緑川:自分のことをたくさん話したい子どもが多いです。その背景には、例えば家庭環境があったりします。

例えば、ある子どもは母子家庭出身で、兄弟全員の父親が違います。さらに、母親との関係がうまくいっておらず、母親に何か言いたくても文句という形でしか表すことができない様子でした。家庭で自分の話をほとんど聞いてもらえないという不満が大きいのだと思います。拠点に来ると、よくお母さんの文句を言っていますが、愛情の裏返しのような表現が多いと感じています。

片岡:私の拠点に来る子どもは、様々なルールに縛られない場所を欲しがっているのだろうなと感じます。学校や家だと「こうしなきゃいけない」というルールがあるため、不登校であったり、学校に行きづらい、集団にいづらい、という子が多いと感じます。したがって、私たちの拠点は「こうしなきゃいけない」ということから解放される場所であって欲しいと思います。「ただその場にいたい」「知らない人たちだけど同じ時間を共有したい」という気持ちがあって、「そのままの自分でいいんだよ」と承認される場が欲しいのかなとも思っています。

ー様々な背景を持った子どもたちがいらっしゃるんですね。その上で、子どもたちとはどのような関係性を築きたいと考えていますか。

緑川:自由来室の場なので、来たい子どもが来てしゃべりたい子どもがしゃべっていますが、自分自身はその中で近所のおじさんみたいな関係性を目指しています。

ー近所のおじさんっていうのは面白いですね。具体的に、学校の先生や親御さんとは何が違うのでしょうか。

緑川:学校や家庭だと子どもが持つ役割がはっきりしていると思いますが、この拠点はもう少し緩い場所でありたいと考えています。緩い場所の中で素が出せる、普段の自分が出せる、関係が緩いからこそ言えることを話してもらえる、というのが目指している関係性です。

ー片岡さんは、子どもたちとどのような関係性を築きたいと考えていますか。

片岡:私も緑川さんと同じように、そこらへんにいる近所の人のような関係性を築ければいいと考えています。「仲間」という言葉がしっくりくるかなと思います。熱血な仲間とは少し違いますが。あくまでも対等で、その場で隣にいるだけでいいような、何かに縛られている関係ではない間柄を目指したいと考えています。

ー「何かに縛られている」というのはどのような状態でしょうか。例えば学校であれば、「整理整頓しなければならない」などのルールでしょうか。

緑川:そのようなルール・規則も含みますが、もっと広くいうと社会の常識全般だと思います。成長していく段階で、これをしなければならない、というようなものにも縛られてほしくないなぁと感じます。

片岡:私もそれに近いと思っています。もちろん居場所拠点でもそれらを全く求められないわけではないですが、学校は社会的規範がより強く求められる場所ですし、家庭は家族との関係性をすぐに変えたり、息苦しさを感じても離れたりすることが難しい場所です。したがって、居場所拠点ではそのような規範や固定された関係などから来る息苦しさから離れられるといいかなと感じています。

 

中高生と触れ合う中で心がけていること

ー緑川さんは「近所のおじさん」のような関係性を築くためにどのようなことを心がけていますか。

緑川:子どもに何かを求めないことです。拠点には学校に行っていない子どももいますが、「学校に行った方がいいよ」とは言いません。「これ苦手ならやってみたほうがいいんじゃない?」という発言さえも自分のエゴになりやすいので出さないようにしています。その代わりに環境を整えることには気を付けていて、色々なものを拠点に置いておいて興味があったらやってもらえるようにしています

片岡:緑川さんが話していた環境を整えるというのは、私も意識しています。そして、物だけではなく、その場にいる人のスタンスも環境に含まれると思います。

緑川:そうですよね。例えば、ボランティアにもやる気いっぱいな方は多いです。時には「この子をどうにかしてあげなきゃ」と考えていたりしますが、それは子どもへの押し付けにもつながります。ボランティア自身も「何かしなきゃ」という気持ちでいるのではなく、その場を楽しんでほしいと思っています。それも環境を整えることの一つだと思います。

ーそう思うようになった背景やきっかけはありますか。

緑川:以前子どもたちに集団生活でのルールを説くことが多く、嫌悪感を感じていた時期があります。自分でもそれが正しいのかわからないのに、ルールを子どもに押し付けることに抵抗を感じていました

ー片岡さんはいかがでしょうか。「仲間」のような関係性を築くためにどのようなことを心がけていますか。

片岡:私も(何かを)押し付けないように心がけていますが、どうしても自分個人の考えは入ってしまうなとも思います。そのため、何かを伝える際には、あくまでも自分個人の意見として伝える意識をしています上からではなく対等に、あくまでもあなたと私は同列だという気持ちでいます。また、普段から自分がわからないことがあったら子どもたちに教えてもらうようにもしていますね。

ーどうしても個人の考えが入ってしまうとのことでした。具体的に葛藤した場面があれば教えてほしいです。

片岡:自分の考えが出て葛藤を抱えやすいのは、進学・就職に関わることです。進学や就職など、将来のお金を稼ぐ力に直接関係するので、例えば私は「高校に行ってほしい」と思うけれど本人にはその気持ちがないということは多いです。高校に行かないという選択もいいのでは、とも思いますが、将来を考えると、一人の大人としては「もう少しこうしたらいいんじゃない?」と言いたくなります。とはいえ、それを伝えるか否か、また、どう伝えるかはその時の本人の気持ちの状態にもよると思います。

 

まとめ

緑川さん・片岡さん、ありがとうございました。お二人から伺ったことを簡単にまとめます。

  • 目指しているのは、「近所のおじさん」や「仲間」のような対等な関係。
  • ルールや規則、社会的な規範に縛られない場を目指し、子どもに何かを求めるようなコミュニケーションは極力しないように心がける。
  • その代わり、物や人といった周辺環境を整えて、子どもの興味を引き出すきっかけをつくっている。
  • 自分個人の意見は、あくまで自分の意見として伝えている。

次回は、中高生との関係について困ったことや悩んだこと、うまくいかなかったことなどのお話を伺おうと思います。

 

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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