子ども支援の現場では不登校の子どもと関わっている現場も多いと思います。一方で、不登校の子どもの支援のゴールをどのように決めるのかや、コミュニケーションを取る際にどのような配慮をすれば良いのかについて、お悩みである支援者の方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は不登校の子どもの支援計画やコミュニケーションのポイントについて、沖縄県で居場所づくりをしているNPO法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆい(以下、ちゅらゆい)の代表理事の金城隆一氏にお話を伺いました。
プロフィール:金城隆一
沖縄県出身。大阪にて居場所支援活動を行った後、沖縄で精神障がい者が通う授産施設に勤務。その後大阪に戻ったが、沖縄では経済的貧困の家庭が多いことを知り、沖縄に戻って貧困の問題にアプローチをしたいという想いから、2010年にちゅらゆいを設立。生活保護家庭の負の連鎖を切るための居場所づくりとしてkukulu那覇を設立。現在ちゅらゆいの代表理事を務める。
不登校の子どもの支援計画
━━不登校の子ども支援を行うための支援計画について意識した方が良いことなどがあれば教えてください。
支援計画はしっかり立てるようにしています。子どもたちがどういう発言をしていたのかをスタッフと共有し、私たちスタッフが子どもを支える裏方に回るようにします。
もしも、何をするために支援現場に来ているのかが分からない子どもがいるのであれば、きちんとその子どもに「ここ(支援現場)に何を望んでいる?」というのを聞いたりもします。
その子のやりたいことを私たち大人はどのように応援することができるのか、その子ども自身が何をするのか、場を設定して話し合います。子どもがなりたいように自然になっていくということはおそらくないと私は思っているので、子どもと対話しながら作っています。
━━不登校支援は学校に行くことをゴールだと考えている人もいると思うのですが、ちゅらゆいさんは何をゴールとして支援計画を立てていますか。
私たちスタッフ側のゴールはあまりないかもしれません。
いわゆる支援者側が決めたいゴールとは、子どもとの線をどのように引くかということだと思います。私は、居場所の中に子どもの人生を囲い込む(ずっと居続けられる場所をつくる)ことには反対です。一方で居場所から出られない子どももいるので、そのような子どもの生きる形をどう作っていくかは考えます。
しかし、ゴールは子ども本人が決めることなので、私たちスタッフ側のゴールは案外ありません。「子どもが元気になってそのうち来なくなったよね」という状態が私たちのアプローチの終わりのような気がします。
ただ、ちゅらゆい出身のOB/OGが緩く関われるスペースは作っておきたいと思っています。就職した後に崩れてしまう子どもは多くいます。特に困窮した世帯の子どもたちは親の力が弱いことがあるので、崩れるリスクが高いと感じます。子どもがどうしようもない状態になってから来るのではなく、少し崩れかけているかもしれないという時にアプローチできれば、子ども本人の負担も少ないと考えています。
このように、「ここで支援終了」という線を引くという考え方はしていませんし、一方で子どもに関わり続けることを正解だとも思っていません。その子どもの次のステップに向かっていければいいと思います。もし、子どもが卒業してから関わりが必要な時は本人ときちんと契約を締結してから関わるようにしています。
━━不登校の子どもを支援している方の中には、「子どもが社会に出るまでに、身につけておくべき力は何だろう」と先回りして考えたくなる方も多いのではないかと思います。
身につけておくべき力を子ども自身が考えることが大切だと思っています。子どもがどう生きたいかに対して、「これが必要なんじゃない?」という提案を大人がすることはできます。しかし、絶対に身につけておかなければならないことというのは、そもそもないと思うんです。
私たちの居場所では、体験と人との繋がりを大事にしていますが、例えば繋がらずに生きていたい子どももいていいと思います。そうしたら、その生き方をするために「テレワークの仕組みを作るといいのではないか」などの提案をすることができます。
このように最終的には、どう生きていくのかを子ども自身が決めていいと思っているので、それに応じて必要なことも変わってくると思います。
逆に、(その子どもに必要な力を)最初のうちに大人が決めてしまうと、その影響が強くなってしまいます。そうならないようにフラットでいることを意識しています。
不登校の子どもとのコミュニケーション方法について
━━子どもと関わる際に、不登校の子どもだからこそ配慮すべきことなどはありますか。
下の3つの基本方針を大切にしています。
- すべての子どもが安心して過ごすことのできる居場所をつくる
- 他者に認められ役割を担うことで自己肯定感が高まる居場所をつくる
- 様々な経験やチャンスを活かし自己決定できる居場所をつくる
素行不良の子どもや試し行動をする子どもも多いので、まずはその子どものまま受け入れるということが大切です。
また、貧困には経済的貧困・文化的貧困・社会的貧困の3種類があると考えています。その一つである文化的貧困とは朝ご飯をあげないなど、その家庭独自の文化のことです。その文化に対して注意すると、家庭が関係機関との繋がりを全て切ってしまうなどして社会的貧困が生まれる場合があります。親自身もその文化の中で育ってきたという背景があることも多いので、その家庭独自の文化も一旦は受け止めるようにしています。深夜の徘徊行動などちょっとそれは(そのままにしておいてはよくない)というものは、タイミングを見て子どもや保護者と考えていきますが、いきなり注意はしません。
これらの姿勢の土台にあるのはできる限り自己責任論にしないということです。不登校の子どもの背景と同様に、(家庭の貧困の状態も)社会的に作られたものだと思います。そのためその家庭がどのような歴史をたどってきたかを理解しようとすることが大切です。
出来れば(家庭が)自分たちで気づいて変わっていけたらいいよねというスタンスなので、スタッフ側から注意や指導などはあまり行いません。
━━拠点に来ることに対して消極的な子どもに対してはどのように対応していますか。
私たちの拠点に来る子どもたちの十中八九は、主体的には居場所に来ません。子どもは居場所を学校の延長だと思っています。そのため拠点に来ることに対して消極的な子どもに対するアウトリーチ(訪問支援)を大切にしています。まずは子どもにとって私たちが敵ではないことを伝えて、スタッフとの1対1の信頼関係をつくります。その中で子ども自身の困りごとや願いが出てくれば、話を聞いて居場所に誘導していきます。
加えて居場所の力が大事です。年数を重ねないと居場所は育ってきません。那覇で運営している居場所は8年目なので、ロールモデルとなる卒業生がいたり、年齢が上がっても拠点に来ている子どもがいます。そのような子どもたちが年下の子どもに優しく接してくれます。例えば、「今日こういう子が来るからね」と耳打ちしておくと、一緒にゲームをしてくれたりします。
ここまで話したように、最初は居場所に来たがらない子どももいますが、「ここに来てもいいかな」と子どもに思ってもらえるように事前にスタッフで話し合いをします。
例えば、子どもと関わるスタッフは誰にするかを話したり、子どもの好きな料理を出したりします。居場所に来て手持ち無沙汰な状況は子どもにとってしんどいので、そのような状況は作らないようにもします。ただし、子ども自身の休息も必要なので、例えばここに座っているときは子どもに話しかけないようにしようというような対応もしています。
━━お話を伺っていて、年の近いロールモデルがいることは子どもにとても良いことだと感じました。
そうですね。スタッフが子どもに何かを言っても、「大人が言っているんでしょ」というふうに線を引かれてしまうことがあります。しかし、同じ経験から大学に行ったり就職したりした先輩を見ると、子どもは「自分も同じようになりたい」であったり、「自分は違うふうになりたい」という意思が出てきます。選択の軸はあくまでも他人と対比して作られます。社会的孤立をしてしまうとその選択の軸を持つことができないと思っています。
━━最初からやりたいことが出てこない子どももいると思うのですが、その場合はどのような関わりをされていますか。
確かに1対1のカウンセリングではやりたいことが出てこないことが多く、居場所の活動の中でつぶやきとして出てくることが多いです。このつぶやきを逃さないようにしています。
例えば、コーヒーを淹れるのが好きな子どもがいる場合(後述で詳しくお話します)、「コーヒーをPRする動画だったら作れるよ」などというように、やりたいことをやっている人を応援する(他の)人もいて良いと思います。そのような体験を通じて自分のやりたいことも出てきます。
大人もやりたいことをする上で、過去の経験を元に選択することが多いと思います。しかし、不登校・引きこもりの子どもはそのような体験が少ないんです。
もう一つは、人との繋がりを大切にしています。
例えば、子どもが調理・手芸をやりたい場合は、本物のプロの人を呼んでみるようにしています。仲良しの子どもは引っ張られて参加するので一緒に調理・手芸を体験します。
純粋に何もないところからやりたいか否かの選択はできません。そのため、このように最初に反応した子どもからスタートし、「この子どもも行くからあなたもおいでよ」という声掛けを行い、他の子どもが出した選択肢に周囲の子どもを巻き込むこともあります。
これからの不登校の子ども支援の展望
━━社会的孤立をしているより多くの子どもが社会との繋がりを持つことができるようになるために、これからどのような支援があると良いと思いますか。
次にどのような一手が欲しいかという点では、出口支援について、「本人が元気になって会社に合わせて行く」という形の今までやっていた就労訓練をやめようと思っています。もちろんその形の就労訓練を希望する子どももいるので、その子どもたちには丁寧な支援はします。ただこれからは、仕事そのものを創れないかと考えています。
加えて、(子どもたちが)自分たちの取説を丁寧に作れないかなと考えています。というのも、履歴書は嘘を書くことができない、それはそうなのですが、落とされると思って自分の弱みも書けないんです。しかし本当は、自分の弱みも書いて「こういうことは苦手だが、こういうことは得意」ということを言えた方が企業にとっても良いのではないかと思います。
仕事を創ることについては、ちゅらゆい・企業との間に入ってくださる中間企業・沖縄のSDGsに取り組んでいる企業群で協力して取り組んでいます。
例えば、沖縄の総合商社が研修中のPCをクリックするという仕事を切り出してくれました。しかし、当事者が実際に行ったら、「簡単で誰でもできるからやりがいがない」と言って帰ってきたんです。
このことを中間企業に伝え、加えて、その当事者はコーヒーを入れることを喜びに感じているということも伝えました。そうすると、総合商社の方から、研修中にコーヒーを入れたり、運営しているホテルでコーヒーを入れて提供したりするのはどうですか、と逆に仕事を提案してくれました。また、その取組のプロモーション動画も、別の素人の青年がプロに習って作りました。このようにして、今度はこの動画制作を仕事として切り出すことができました。
企業から仕事をもらうとそれに合わせないといけません。しかし、例えば動画を作る仕事について考えると、編集する人・取材する人・カメラを回す人・現地まで運転できる人などパッケージ化できるんですよね。そうして、1人前の仕事を3~4人のチームで行い、4倍の仕事を行えば1人分の仕事の量になるようにすると、最低賃金の雇用労働の考え方で仕事をしなくて良くなると思います。
まとめ
今回は、ちゅらゆいの代表理事である金城さんに、不登校の子ども支援について伺いました。ポイントを下記にまとめます。
- 子どもの支援計画はその子どもがやりたいことについて本人と対話しながら立てる。
- 不登校の子どもと関わる際は、その子どものありのままを受け入れることと、環境や家庭がどのような歴史をたどってきたかを理解しようとすることが大切。
- 居場所に来ることに対して消極的な子どもに対しては、まずはアウトリーチ(訪問支援)によって1対1の信頼関係を作り、子どもが居場所に来てもよいと思えるような工夫を行う。
- 子どものやりたいことを引き出すためには、子どもの日々の発言を拾うことと、他の子どものやりたいことに一緒に巻き込んで経験を増やすことが大切。
- ちゅらゆいの出口支援では、仕事をもらうだけではなく仕事そのものを創ることと、自分の得意・不得意を説明できることを目指している。
金城さん、ありがとうございました!
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません。
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