子どもたちに質の高い支援を届けるためには、その支援を支える人たちがいることが重要です。そのため、NPOの人事担当は組織の基盤に関わる重要な役割を担っていると言えますが、「なかなか良い候補者とつながらない」「採用をする際の観点にいまいち自信が持てない」という方も多いのではないでしょうか。
今回は認定特定非営利活動法人Learning for All (以下、LFA)で人事を務める三友さんに、NPOの採用においてどのような悩みを抱え、対策を打っているのかについて、前職でのご経験とも比較しながらお話を伺いました。
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プロフィール:三友 志織
大学在学時、LFAの学習支援事業・学生ボランティア採用に携わる。
卒業後、総合系人材企業での企画・マーケティング・コンサルティング領域専任のキャリアアドバイザー職を経て、LFA入職。
人事として、採用・労務管理・人材育成・評価制度運用等を担当。国家資格キャリアコンサルタント/米国CCE, Inc.認定 GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
King & Princeとペンギンが好き。
NPOであるLFAの採用の特徴
—三友さんは、前職ではNPOではなくビジネス領域でお仕事をされていたんですよね。三友さんが思う、NPOであるLFAの採用の特徴を教えてください。
まず、私の経歴についての話から始めます。前職では転職活動を行っている方々に専任で就き、転職をサポートする仕事をしていました。具体的には、転職したい人の話を聞き、その方に合っている企業を紹介して、転職活動を終えるまでフォローするのが私の仕事でした。
ビジネスの転職の場合、企業としては基本的に「即戦力が欲しい」という前提があります。また、その業界・その職種でやってきた経験が重視されるため、未経験からのキャリアチェンジはあまり好まれません。たとえ仕事への想いがあって「きっと仕事はできるだろうな」と思える人でも、企業側にとっては未経験の人を採用すること自体がリスクになり得るため、採用には至らないこともあります。前職でもそういった場面を目にする中で、個人のキャリアを作っていく難しさや、日本社会でのキャリア形成の考え方として「大人の挑戦を歓迎しない」という難しさを感じてきました。
前職の経験を踏まえ、「それまでに何をやってきたか」「どの業界にいたか」「どの職種か」をあまり問わないことが、LFAでの採用活動の特徴だと感じています。そもそも子ども支援の経験がある人や、NPOで働いた経験がある人自体がそんなに多くいません。そのため、LFAでは子ども支援やNPOの経験ではなく、仕事をする上でのベースとなる「仕事を進める力」、つまり「周囲の人と関係を作る力」や「成果にコミットして業務を遂行する力」等を重視します。その上で、自分の中で社会や子どもに対する想いを持っていれば、それまでの歩みは「その人らしさ」として捉えることができます。
このような採用活動はリスクを背負いますが、難しさがある分、いろんな可能性があると思っています。実際にLFAには、必ずしも前職と全く同じ仕事をしていなくとも、これまでに得たスキルを活かしてLFAの仕事をしてくれている職員が多くいます。
画像:Photo AC
—LFAでは、子ども支援に関わる現場職員や専門職のスタッフを採用していますよね。支援現場ならではの採用の悩みはありますか?
支援現場の採用においては、まず「人材に出会う」ことの難しさがあります。そもそも子ども支援現場の業界で転職する際には、仕事で得た関係性の中で動くことが多く、なかなか転職のマーケットに出てきません。そのため、転職活動を考えている支援者と「どのようにして接点を作るのか」は常に悩んでいます。
支援者と出会うこと自体が難しいため、研修やメディア露出で徐々に認知を広げながら、長いスパンで横のつながりを作ることが大事だと考えています。これは「今すぐに転職を考えていなくても、ゆくゆくはLFAに興味を持ってもらえたら嬉しい」という姿勢でいることが重要で、ウェットで根気のいることだと思います。それでも「すべての機会が、将来の仲間づくりに繋がる」という前提を持つことで、日々の活動の中で「採用広報が可能だ」と捉えることができる機会の数が大きく増えると思うので、非常に重要なことだと考えています。
また、支援現場で働く方々の場合、今働いている職場にいる子ども達のことを考えると、転職をして現場をすぐ離れる決断がしにくいという特徴も、このような難しさの要因の1つだと考えています。
面接での観点
—三友さんは採用面接も担当していらっしゃいますが、「その人がLFAに合いそうかどうか」は、どのように見ているのですか?
まず「LFAに合いそうな人はどのような人か」について人事チームの中で議論し、認識を合わせるプロセスを大切にしています。
例えば、LFAの中には、まだ土台作りに取り組んでいるような新しい事業もあるため、試行錯誤しながら活動する必要があります。現場もバックオフィスも、ほとんどの仕事が「今まで前例がない」仕事です。そもそもノウハウを取りに行く場所があまりないため、自分で案を洗い出して実行し、その案が良かったかどうかを振り返り効果を検証する必要があります。そのため創造的な活動が好きで、自分で試行錯誤しながら学習を続けられる人が合うと考えています。
だからこそ、面接では「自分で考えられるか」「考えることが好きかどうか」を確認する質問をします。加えて、興味があるものや「知りたい」と思ったことにアンテナを張り、試行錯誤のタネを見つけることが好きかどうかも確認するようにしています。
また、「当事者意識」も注意深く見ています。決して低くはないものの、民間大手企業と比較すると環境設備・福利厚生等が手厚くない環境下においても、なぜ自分がここで働くのか、何を達成したいのか、という想いが入職後の活躍につながると考えているからです。そのため、仕事に対する当事者意識に加え、LFAの場合は「子どもの貧困」という社会課題に対する当事者意識も志望動機として面接の場でしっかり伺い、入職後も想いを持って働いてもらえるかを確認しています。
これらの要素は、その人が「今どのような力・スキルを持っているか」というよりも「どのくらい成長の期待をかけられるか」を注視するため、「採用要件に縛られない」というLFAの採用の特徴にも繋がっていると思います。
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—LFAでは、応募の際に職種を決めずに応募できる「オープンポジション」という応募方法がありますよね。オープンポジションでは、「LFAで何をしたいか」はまだ曖昧である状態で応募して下さる方々もいるかと思います。そのような場合の採用活動では、どういった部分に注目しているのですか?
オープンポジションでの応募の場合は、LFAが取り組む社会課題である「子どもの貧困」に対する想いや、LFAが取り組む事業に対する意見を聞きます。その上で、その人が持っている課題意識に対して「何故LFAなのか」がその人の言葉で言えるかどうかに注目しています。この部分は、その人がLFAの文化に合うかどうかにも繋がっているので、その人が今持っているスキルよりも重視しています。
まとめ
今回は、認定特定非営利活動法人Learning for All で人事を務める三友さんに、採用における悩みと、その対応策について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 一般企業の採用と比較すると、LFAでは経歴よりも「仕事を進める基本的な力」を持っているかに注目しながら、その人の想いに向き合って採用活動を行っている。
- 子ども支援の経験者や専門職と出会うことは難しく、認知を広げながら、長いスパンでつながりを作ることが重要である。
- 採用活動においては、「自組織に合うのはどのような人か」について組織内で認識を合わせ、合意を取ることが重要である。LFAでは、自分で試行錯誤しながら学習する力と、「何故LFAで働きたいのか」という志望動機・当事者意識の2つに注目している。
後編では、三友さんが今まで行ってきた「採用フローの見直し」についての具体的なお話しや、採用において大事にしていること等を伺います。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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