令和2年度の文部科学省の調査によると年々不登校の子どもは増加しています。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響も重なり、学校に通うことが難しい子どもが増えています。一方で、子どもが不登校になる要因について具体的にイメージが湧かないという方も多いのではないでしょうか。
また、支援現場で子どもと向き合っていると、不登校の子どもにとって家庭や学校以外の居場所の存在はどのような意義があるのか、考えることも多いのではないでしょうか。
そこで、今回は不登校の子どもの実態と居場所づくりの意義について、沖縄県で居場所づくりをしているNPO法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆい(以下、ちゅらゆい)の代表理事の金城隆一氏にお話を伺いました。
プロフィール:金城隆一
沖縄県出身。大阪にて居場所支援活動を行った後、沖縄で精神障がい者が通う授産施設に勤務。その後大阪に戻ったが、沖縄では経済的貧困の家庭が多いことを知り、沖縄に戻って貧困の問題にアプローチをしたいという想いから、2010年にちゅらゆいを設立。生活保護家庭の負の連鎖を切るための居場所づくりとしてkukulu那覇を設立。現在ちゅらゆいの代表理事を務める。
ちゅらゆいの活動内容
━━ちゅらゆいさんの活動内容について教えてください。
ちゅらゆいは、不登校や引きこもり、障がいなどが理由で社会的孤立をしている青少年への支援を目的として、2010年に設立しました。「地域孤立ゼロ」をスローガンに掲げ、社会的孤立をしている子ども・若者を対象にした居場所づくりをしています。
主な活動地域は沖縄県で、3つの事業所を運営しています。それぞれに特色があり、いずれも地域とのつながりを大切にしています。
- 10歳から20代前半の子どもの居場所である「kukulu」
- 障がいをお持ちの方を対象に就労移行・継続B型支援をしている「コミュっと!」
- うるま市立田場小学校に通学する小学校1年生~3年生までの帰宅後保育を必要とする子どもの居場所である「b&gからふる田場」
子どもが不登校になる背景
━━子どもが不登校になる背景について教えてください。
私は、「個人因子」と「環境因子」が影響し「状態」として現れたものが不登校や引きこもりであると考えています。「個人因子」とは、発達障害や疾病、学力不振や対人要因(集団が苦手など)のことを指します。また、「環境因子」とは、虐待や貧困などの家庭環境や、対人トラブルやいじめなどの社会環境を指します。これらの因子があるという視点を持ち、総合的に子どもの状態を見ることが大切です。
令和2年度の文部科学省の調査によると顕著に増加しているのが小学生の不登校です。また、不登校傾向にある子どもの実態調査(日本財団、2018年)によると「隠れ不登校」といわれる、学校に行くことがしんどくなっている不登校傾向の中学生が増えています。現場としては、日本の学校教育自体が子どもにそぐわなくなってきており、新型コロナウイルス感染拡大がこの状態に拍車をかけてきたのではないかと考えています。
不登校になる要因は子どもによって異なることに加え、(なぜ不登校になったのかを)子ども自身が言語化することは難しいです。しかし、顕著に小学生の不登校が増えている要因として2つの仮説を立てています。
1つ目が、発達障害という概念が非常に流行していることです。いわゆる特別支援学級で分離して発達障害の子どもを教育していますが、いい形での効果を発揮出来ていない場合もあると感じています。
2つ目に、経済的な家庭力の低さが理由で学校に行くことができないのではないか、ということを沖縄の現場を見ていると感じます。保護者が子どもを学校に送り出せなかったり、家庭に学習環境がなかったりすることが背景にあると思っています。例えば、多子世帯で小さい子どもが騒いでいて学習できる環境ではなく、夜中まで育児をしているようなヤングケアラーのような状態があります。
他にも、新型コロナウイルス感染拡大の影響で不登校になる子どもが増加したというデータもあり、自治体によっては不登校の生徒数が倍増したという調査もあります。新型コロナウイルスが流行し始めた時期に休校になった学校が多かったので、元々学校に行きづらいと感じていた子どもがより学校に行くことができなくなったのかもしれません。
つまり、新型コロナウイルス感染拡大が不登校の直接の要因というよりかは潜在的な(不登校傾向の)子どもが顕在化したのではないかと考えています。
不登校の子どもにとっての居場所とは
━━不登校の子どもにとって学校や家庭以外の居場所がある意味は何だと思われていますか。
日本では、不登校になると公教育以外に行く場所がなくなってしまいます。
日本での不登校率は約2%と言われています。(令和2年度の文部科学省の調査より)
これは、クラスに1人は不登校の子どもがいるという割合です。逆に98%が公教育に依存していることが日本の教育の仕組みであり、その98%を100%にしようと取り組んでいるのが日本の教育現場の不登校対策です。この実態は、公教育に行けなくなると教育を受ける権利が保障されない状態であると言うことができます。そのような子どもたちの学びの場や学校以外に行くことの出来る場、体験活動をできる場を作り、将来社会人材になってもらうという意義での活動が必要だと思っています。
━━家庭・学校以外の居場所であると同時に、子どもたちに様々な体験をしてもらうことが大切なんですね。
そうですね。ちゅらゆいでは単なる居場所ではなく、居場所で元気になったら子ども自身がやりたいことを形にしていくことを大事にしていて、大学生が経験するような取組みを中学生にも経験してもらっています。
例として以下のような事例があります。
- 大阪旅行
「経済的に貧しい子どもに施さない」ということを大事にしているため、子どもたち自身がイベントに出店するなどの活動を行い、旅費の約3割を自分たちで集めました。
- あしたねプロジェクト
kukuluに通っている子どもたちが「不登校を『犬を飼ってるんだ』くらい普通のことにしたい」という想いから、他の不登校の子どもたちとラジオで繋がることを考えました。
ラジオのプロに教えてもらいながら、企画書や台本の作成から、ゲストを呼ぶことや番組のコーナー作りまで、一緒にやりました。助成金の確保も子どもたちがほとんど自分たちで申請しました。
最終回では沖縄県知事を番組に呼ぶことにも成功しました。 - クラウドファンディング サッカー選手になるという夢を抱いていたヤングケアラーの子どもがクラウドファンディングを立ち上げ、実際にサッカー選手になりクラブチームに所属しています。
━━不登校の子どもが過ごしやすいような居場所づくりの工夫について教えてください。
まず1つ目に、目的優先型の場にしないことを大切にしています。学習支援や就労訓練の場としてしまうと、そのニーズがないと子どもたちが来ませんし、不登校の子どもや経済的にしんどい子どもはそもそもそのニーズが弱っている状態です。したがって、個々の子どもに合わせて居場所づくりを行う、「人優先型」の場を意識しています。
2つ目は、ありのままの子どもを受け止めて、徹底的に安心を提供することです。具体的には、暴力などは止めますが、授業中に立ち上がった場合は止めませんし、約束の時間に来なかったとしても、その子の状態を受け止めます。居場所の中で役割が出来てくるとその子どもの自己肯定感が高まっていき、そうして初めて自己決定ができるようになると考えています。
先ほど例に挙げた授業中に立ち上がる子どものような場合は、まずはアウトリーチ(訪問支援)をして、スタッフと個別の関係を築いて場所への定着を図り、徐々に集団に移行していきます。その段階で「(授業中に)立ち歩くのは困らない?」というような声掛けをしていきます。その後に子どもが自立していけるような出口支援を行っていきます。
まとめ
今回は、ちゅらゆいの代表理事である金城さんに不登校の子どもの実態と居場所づくり支援の意義について伺いました。ポイントを下記にまとめます。
- 不登校になる要因は子どもによって異なり、子ども自身がなぜ不登校になったのか言語化することは難しいが、発達障害や学力不振などの「個人因子」と家庭環境や社会環境などの「環境因子」が影響し「状態」として現れたものが不登校や引きこもりだと捉えられる。
- ちゅらゆいでは不登校の子どもに公教育の場以外の学びの場・体験活動の場を提供し、子ども自身がやりたいことを形にしていくことに意味があると考えている。
- 目的優先型ではなく、不登校の子どもが過ごしやすいように、個々の子どもに合わせた「人優先型」の居場所づくりを行うことが大切。
金城さん、ありがとうございました!
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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