前編では、認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)の訪問支援に携わる、ソーシャルワーカーにお話を伺い、訪問支援の実践や訪問支援で出会う子どもたちについてまとめました。後編では、活動において大切にしていることや、悩みながら試行錯誤を重ねている実践について伺います。
プロフィール:ソーシャルワーカーAさん
認定NPO法人Learning for All 所属のソーシャルワーカー。
大学卒業後、精神科・児童精神科のクリニックでソーシャルワーカーとして勤務したのち、LFAへ入職。LFAが運営する拠点に通う子どもたちへのソーシャルワーク実践や、地域協働型子ども包括支援モデル構築に向けた働きかけを行う。
訪問支援において、大切にしていること
子どものペースを尊重する
—部屋にこもって会ってくれない子どものお話がありました。時に大人への信頼を失ってしまっている子どもと関係性をつくるにあたって、大切にしていることについてより詳しく聞かせてください。
まずは、子どものペースを尊重することです。安心できない場所から避難している子どものところへ訪問するわけですから、「出てきてほしい」「呼びかけに答えてほしい」というこちらの期待を押し付けてしまっては、信頼関係の構築につながらないのではと思います。そのため、「あなたのペースで、あなたを尊重しながら取り組んでいきたいな」というメッセージを伝えながら、子どもが関わろうとしてくれるタイミングを根気強く待ちます。
前職でも不登校の子どもたちと関わっていたのですが、学校から「まず保健室にだけ来てみない?」と声をかけられて行ってみたら「教室にも出てみようよ」と誘われた子どもがいました。子ども本人はとても頑張って保健室にまで出てきたはずなのに、「もっと」と押してしまうと、この頑張りでは十分ではないのかと思わせてしまうかもしれません。子どもの人生なので子どものペースで歩んでほしいと思いますし、子どもとつながり続けるためにも対等な関係を築きたいので、「あわよくばここまで踏み出してほしい」というような思惑を持って接することがないよう気を付けています。
画像: loosedrawing
きちんと子ども自身に向き合ってもらう
しかし同時に、一緒にいることができる間に、学校に戻るかどうか、他の機関とのつながりを持ってみるかどうかについて話し合いたいと思っています。つまり、単におしゃべりや一緒に遊んで過ごすだけでなく、子ども一人だったら向き合わなかったかもしれない問いに、私たちがサポートできる間に直面してほしいのです。
—子ども自身に困り事と向き合ってほしい、ということでしょうか。
そうですね。具体的には半年に一回くらい、過ごし方を振り返って今後について考えてみる機会を設けています。子どもから明確な返答は得られないかもしれませんが、受験や就職などに向き合わなければいけない時期はどこかで必ず出てきます。その時になって急に「どうする?」と子どもに大きな選択を迫ることにならないように、「もう来年3年生だけど、どう思ってる?」と尋ねるなど、普段から意識をつなぎとめておきたいという感じでしょうか。
この時、私から「こうしたほうが良い」「これをしようか?」と方針を示すのではなく、私が提供できる情報や機会の選択肢を提示したうえで、あくまで「あなたが選んでいいんだよ」という姿勢で話し合うようにしています。重要なことは子ども自身が「この問題を乗り越えたい」と思えるようになることだと思っています。その後は私がリードせずとも、「これがしたい」と一歩ずつ挑戦を重ねていく力を子どもたちは持っています。実際、将来について試行錯誤を重ねるなかで、こちらが驚くほど変化した子どももいました。
困りをもとに、共に小さな挑戦を重ねる
—「私たちがサポートできる間に困難に直面してほしい」というお話でしたが、子どもが困り事に向き合う場面において、どのようなサポートを意識していますか。
子どもが困難を乗り越えるうえで大事なことは、まず安心して小さい失敗ができることだと思っています。先ほど、子どもが困難を乗り越える力を信じていると話しましたが、引きこもり状態が長くなるほど、社会や人間関係に関する実体験ではなく、ネット上で得た情報や他者の意見などに基づいて狭く偏った判断基準を持ってしまうこともあるでしょう。挑戦してみたら、いきなり「社会の壁」に直面してしまって打ちのめされてしまうということもあり得ます。
そのため「こっちからやってみてもいいんじゃない?」と目標を段階的に設定するサポートを行うことは意識しています。そして、基本的に子どもの挑戦を応援しながら「これはダメだったね」「次はどうしようか」と一緒に振り返りつつ悩む立場をとっています。そうして小さな失敗を一緒に重ねていく中で、子どもが経験を積むことができ、少しずつ社会に向き合っていくことにつながるのではないかなと思います。
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訪問支援において、悩むこと
—訪問支援において、難しいと感じていることについても教えてください。
保護者や学校など周りの人の期待の中で、どのように子ども本人のペースを尊重するかについてよく悩みます。子どもの人生における困難を私が代わって解決することはできないからこそ、子どものペースを尊重したいと考えています。しかし、ほとんどの場合子どもは未成年のため、多くの場面で保護者の同意を必要とします。また、不登校状態の子どもは保護者と過ごす時間が圧倒的に多いため、親子間の相互作用がとても強いです。
つまり、保護者が不安定だと子どもも大きな影響を受けますし、同じ方向を向いて子どもを支えることができれば大きな変化が望めます。そのため、「私が子どもを変えます!」と保護者の期待を引き受けることも出来ませんが、かといって最も子どもと長い時間を過ごす保護者の悩みを無視して状況を改善させることもできません。私にできることはあくまで子どもに伴走することです。なので「少し頼りない存在」であることを意識しつつ、子どもや自分が考えていることを保護者に共有して目線をそろえることを意識しています。
また、訪問支援の位置付けや目的自体も、より考えていきたいと思っています。現在は、「子どもが拠点型の学習支援/居場所に通えるようになること」が事業目的として据えられていますが、拠点型の場に通うことが必ずしもその子にとって適切な目標になるわけではないと思います。事前に決まっているマニュアルでは拾いきれないニーズがあるため、議論を重ねながら訪問支援の目的を見直していく必要があると感じています。
子どもの困り事は自分一人で抱え込まない
—閉じこもってしまっている子どもとの関係性づくりや、保護者や学校といった様々な関係者との連携など、いくつもの要素が複雑に絡み合っているからこそ、訪問支援の目的にも悩まれているのだと思います。ご自身が悩みに直面した時、どのように対処しているのですか。
いつも意識していることは、一人で抱え込まず誰かに相談することです。原則二人一組で訪問したり、悩んだ時には団体の他の職員に相談したりと、私一人の考えで突き進まないように気を付けています。また先ほども言いましたが、子どもの困りごとを私が解決することはできません。ですから、私が「子どもの代わりに悩む」ということはせず、「どう思っている?」「自分はどういう手伝いができる?」と子どもと悩みを共有するようにしています。
他に「子どもに合った医療機関が見つからない」といった情報面での困り事が生じることもあります。このような場合に、地域に詳しい関係機関の方から紹介された医療機関に子どもが通えるようになったということがありました。私自身が把握できる情報には限りがあるので、地域の関係機関とのつながりをつくって情報を共有してもらうことも大切だと感じています。
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今後について
—最後に、訪問支援において今目指していることを教えてください。
地域の中で、まだ誰ともつながることができていない子どもたちがたくさんいると感じています。自分はつながりをつくることが必要だと思っていますし、訪問という形だからこそ出会うことができた子どもたちとしっかり向き合っていきたいです。一方で、訪問支援は時間や人員を必要とします。どれくらいの人数に支援を届けられるかという難しさがあるので、LFAの訪問支援だけでは問題を解決できません。
この観点からも、地域の関係機関との連携が必要だと考えています。本来子ども本人につながるべき機関を上手く巻き込みながら、地域の中で子どもを包括的に支えることを目指したいです。子どもとつながり続けることができる持続的な支援体制を地域につくるために、LFAの訪問支援のあるべき姿について今後チームで考えていく必要があると思っています。
まとめ
今回は、LFAのソーシャルワーカーに、訪問支援について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 訪問支援において大切にしていること
- 子どものペースを尊重し、対等な関係を築く
- 子どもが困りごとに向き合うために、今後について話し合う機会を定期的に設ける
- 小さな挑戦と失敗を重ねながら、共に振り返りや次の目標設定を行い、子どもが安心して挑戦できる場づくりを行う
- 訪問支援において悩むこと
- あくまで軸を子どもに置きつつ、保護者にも寄り添いながら目線をそろえること
- 事前のマニュアルでは拾いきれないニーズを踏まえて、訪問支援の目標を更新していくこと
- 子どもの困り事は一人で抱え込まず、子どもと悩みを共有したり、関係者に相談して情報やアドバイスをもらったりする
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※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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