福祉分野に限らず、さまざまな領域で活躍されている方々が子ども支援の現場に携わることで、新たな取り組みや気づきが生まれることがあります。
今回は、昔からお寺の風習だった「おすそわけ」の仕組みを現代社会に適用し直し、食糧支援を行う認定NPO法人おてらおやつクラブ(以下、おてらおやつクラブ)の職員である深堀さんにお話を伺いました。現在、支援活動は全国に広がり、食糧支援のみならず啓発事業や居場所事業なども幅広く展開されています。
後編では、一度繋がったご縁を大切にしながら、活動を広げた経緯や今後の展望を伺います。
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プロフィール:深堀 麻菜香 氏
認定NPO法人おてらおやつクラブ職員。
北海道札幌市出身、在住。自身もひとり親家庭で育った経験があり、高校生のころより学習支援やこども食堂などで子ども支援に携わる。自身の家庭もおてらおやつクラブの「おすそわけ」を受け取っていたことがある。
光熱費や食費を払えない、コロナ禍で困窮した人々への支援
—いろいろな支援団体がコロナ禍とその後の物価高騰の大変さを経験していると思いますが、おてらおやつクラブも苦労したことはありましたか。
新型コロナウイルス感染症が流行する前までは、全国に活動を広げることは考えておらず、支援団体に細々とおすそわけをしていました。ひとり親家庭から「支援を受けたい」と問い合わせがあった場合もお住まいの最寄りの支援団体を紹介していました。しかし、コロナ禍に入ってすぐの一斉休校を境に、子どもが家にいて光熱費や食費の負担が増えたひとり親家庭から「支援を受けたい」という支援要請が殺到しました。そこで、事務局から直接おすそわけを送る直接支援に踏み切ることを決めました。
その後、長引く物価高騰も受け、直接支援を要請する登録者は年々増えています。当初は、登録した後に1回目のおそなえをお送りし、一定期間経つと2回目以降の支援に申し込めるという方法を取っていたのですが、1万世帯ほどの規模になると、2回目以降の支援を続けるのが困難になってしまいました。物資はおそなえが集まった時にはなんとか送ることができるのですが、配送料金の確保にも限界があり、事務局で負担することが難しくなったのです。
従って、現在は2回目以降のおすそわけは期間限定にし、1年以上受け取っていない方を対象に、夏休み(7〜8月)と冬休み(11〜12月)におすそわけをお送りしています。
—資金調達のため、工夫している点はありますか。
配送費を募るためにクラウドファンディングを行っています。奈良県内の連携協定を結んでいる自治体とはふるさと納税型のクラウドファンディングを行っている他、2023年度には関西テレビと共同で夏休み前にクラウドファンディングを行い、活動を持続できるように資金を工面しています。
必要な支援を届け続けるために
—先ほどは支援を受けられる回数を制限することで、より多くの家庭を支援できるとお話しいただきました。おすそわけを受け取る対象者をひとり親家庭に限定していることにも、似たような理由があるのでしょうか。
おっしゃる通りです。非常に心苦しいのですが、私たちも際限なく対象者を広げると活動を続けられなくなるので、活動の起点となった母子餓死事件や孤立している世帯を鑑みて、「18才未満のお子さんを育てているひとり親家庭」に対象者を絞っています。ただし、ひとり親家庭にはいろんな事情で1人で子どもを育てている方を意味し、シングルマザーやファーザーのみならず、1人でお孫さんを育てているおばあちゃんや成人した兄姉が未成年の弟妹の面倒を見ている場合も含みます。
さらに、なるべく審査や登録の負担を軽減するため、児童扶養手当をはじめとする証明書の提出は原則不要としています。登録時に「ひとり親世帯か」「18才未満の子どもがいるか」の2項目を確認し、どちらにも該当すれば、すぐにおすそわけを受け取れるようにしています。例えば、両親が離婚が成立していなくても別居しているのであれば、1人で子どもを育てているので、おすそわけを受け取る条件は満たしていると考えます。実際にはひとり親家庭ではない方がひとり親家庭として登録している可能性も否定はできませんが、それ以上に簡単に登録でき、早急に支援を届けることを重視しています。
時折、一人暮らしの高齢者の方など、条件に該当しないが支援を受けたいというお問い合わせを頂きますが、申し訳ないと思いながら、そのような方々を対象としている支援団体を紹介するようにしています。支援団体同士がうまく棲み分けしながら連携することで、なるべく多くの方に支援を届けていきたいですよね。
今後の展望
—今後の目標を教えてください。
おてらおやつクラブは、全国47都道府県のお寺と団体、ひとり親家庭に登録していただいています。活動に参加しているお寺は2,000ヶ寺以上で、約900の団体と13,000世帯以上のひとり親家庭を支援しています。このように聞くと、支援の輪が広がっていると感じるかもしれません。しかし、全国にお寺は7万ヶ寺以上、困窮しているひとり親家庭は38万世帯にも上ると言われているので、より一層支援を広げたいと考えています。
おてらおやつクラブの目標の1つとして、「38万世帯のひとり親家庭に、必ず1回はおすそわけを届けること」を掲げています。しかし、ただ登録してくれるのを待っているだけではひとり親家庭に支援の情報は届きません。そこで、さまざまな自治体と連携し、児童扶養手当を受給している世帯におてらおやつクラブのことを知っていただけるよう、現況届の書類とともにおてらおやつクラブの紹介カードを入れていただいてます。また、全国の支援団体にも同じ紹介カードをお渡しし、支援されているひとり親家庭にお渡しすることをお願いしております。
おすそわけする家庭が増えると、配送料の負担も高まります。そこで、負担を減らすため、通販会社の株式会社フェリシモと「みんなでおそなえギフト」という商品を開発し、1口100円から参加できる共同購入型の支援プロジェクトを始めました。お客様が支払った総額が8000円を超えると、1箱のおそなえが完成し、支援家庭に届けることができます。配送費はフェリシモが負担してくださるため、おすそわけを増やしながらおてらおやつクラブの資金面の負担を軽減することができています。
最後に、食糧支援以外でのおすそわけを増やしていき、さまざまな体験も提供していきたいと考えています。そのため、ファーストフード店などとも連携し、引き換えチケットを配布して「家族みんなで食事を取れる機会」を提供しています。今後も色々な企業と協力しながら、おてらおやつクラブのおすそわけを受け取れる家庭を増やしていきたいと考えています。
—たくさんの企業と連携されているのですね。どのような経緯で一緒に活動することになったのでしょうか。
こちらから企業に声をかけることもありますが、先方からお声がけいただくことが多いです。「こういう支援活動を行いたい」という提案をもとに、おてらおやつクラブがサポートしたいことを伝え、すり合わせながらおすそわけに繋がっています。最初に繋がってからは、「次はこれができるかも」「こんなこともやってみたい」と互いに連携の種類を増やしているのも特色だと思います。
例えばフェリシモとは当初、フェリシモが発行するお買い物ポイント「フェリシモメリー(mr)」を社会性のある活動に寄付するプログラムの支援先に、当団体も加えていただいたことからご一緒することになりました。さまざまな商品を展開する中で、「お客様にも参加してもらえる社会課題解決の商品を作れるのではないか?」と提案してくださり、「みんなでおそなえギフト」が誕生しました。他にも、お客様が一部の購入品をおてらおやつクラブにおすそわけする「お坊さんとつくった野菜がごろごろ精進カレー」という商品を共同開発したり、購入金額の一部がおてらおやつクラブの配送料にあてられるクルーソックスの販売をしたりしています。
まとめ
今回は、おてらおやつクラブの活動について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- コロナ禍以降、支援要請が増え、配送費の工面が課題となった。クラウドファンディングや自治体・企業連携で、資金をまかなっている。
- 届けたい層に支援を届けるため、対象者の条件を絞っている。一方、登録の負担を軽減するため、書類での確認は不要。
- 一度繋がったご縁を広げ、さまざまな企業とも連携している。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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