楽しみながら性にまつわる知識を学べる、ソウレッジの性教育すごろく「ブレイクすごろく」とは?

子どもたちが成長していく中で絶対に一度は出会う、性にまつわる疑問や悩み。「どうやって子どもは生まれるの?」という素朴な疑問から、自身の体の変化や性に関するリスクまで、性にまつわる正しい知識を身につけていないと大きな悲しみを伴ってしまう可能性があるでしょう。しかし、大人同士でさえ性に関する話をする機会が少ない中で、子どもに話すことはなおさら難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。

一般社団法人ソウレッジ(以下、ソウレッジ)は、その現状を打破すべく、性にまつわる知識を楽しみながら学べる「ブレイクすごろく」を開発しました。すごろくを通じて支援者や子どもが性に関する知識を学んだり伝え方を練習したりして、子どもたちが正しい知識をもとに行動できることを目指しています。

今回は、ソウレッジの代表理事を務める鶴田さんに「ブレイクすごろく」のお話を伺いました。ブレイクすごろくの使い方からこだわりのポイントまで、たっぷりと教えていただきます。

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プロフィール:鶴田 七瀬氏

静岡県掛川市出身。現在28歳。静岡県立大学在学中、トビタテ留学ジャパンの支援を受け、性教育を積極的に行う国の教育・医療・福祉などの施設を30箇所以上訪問。2019年に「性教育の最初の1歩を届ける」ことを目指し、ソウレッジを学生起業。独自の性教育教材を開発し、2020年には認定NPO法人フローレンスなどが共同運営する子ども宅食など18団体と連携して教材の寄付を実施。

2022年3月には、避妊薬と性知識を届ける仕組みを作るための資金調達を目的に、2363人から2182万円を集めた。(CAMPFIRE寄付型で史上最高額・最多支援者数を更新) その資金をもとに全国の21病院と連携し、避妊薬の無償提供を24歳以下の若者向けに行った。

2024年より海外の性教育・SRHRの取り組みを学ぶ海外視察事業SouLinksを開始。

Forbes 30 under 30 2021「日本発、世界を変える30歳未満の30人」受賞。

ソウレッジの活動内容

—まず、ソウレッジの活動内容をご紹介いただけますか。

ソウレッジでは、若者の予期せぬ妊娠や性暴力など、性を通じて起きる悲しみを伴う出来事を予防するためのさまざまな活動を行っています。大きなインパクトを出すためには、ソウレッジ自体が現場を持つより、現場を持っている方々をサポートする方が重要だと考えています。よって、近年では中間支援の役割を担いつつ、日々必要だと感じたことに取り組んでいます。

まず、SowLinks」という海外研修を実施しています。医療機関や福祉施設に視察に行って事例を学ぶことで、性教育や避妊薬を普及させるリトルイノベーターたちのコミュニティを形成し、コレクティブインパクトを生み出すつながりを醸成することが目的の事業です。渡航前には「海外と比較すると日本は足りないことばかりだ」と感じる方も多いのですが、実は日本は中絶できる期間が諸外国より長いなど、全てが劣っているわけではありません。従って、日本の状況を客観的に把握し、本当に必要なこと・自分のできることなどを整理することを目指しています。

また、株式会社コングラントと共に「ユースクリニックサポート基金」というユースクリニック(注1)を運営するための伴走支援を行っていますユースクリニックの運営や避妊薬無償化の支援や、病院や支援団体へのファンドレイジングサポートをしています。

それぞれの事業を通じて得た知見を共有し、政策提言も行っています。まずは民間で事例を作り、地方自治体に広げ、最終的には国内での避妊薬の無償化を目標としています。

その他にも、自治体や学校、民間団体向けの研修も実施しています。その研修のコンテンツとして、性にまつわる知識を楽しみながら学べる「ブレイクすごろく」を開発しました。

(注1)ユースクリニックとは、若者に対して医療的ケアを無償で行う施設のこと。若者が利用しやすいことを第一に考えられ、性の困りごとを解決するための様々な支援を受けることができる。(引用:https://sowledge.com/activity

ブレイクすごろくを作った背景

—性にまつわる課題の根本的な解決のために、様々な活動をされているんですね。その活動の1つとしてブレイクすごろくを作った背景を教えてください。

ブレイクすごろくを作った背景には「性にまつわる話へのタブー感」が挙げられると思います。大人同士でさえなかなか話せないことを、子どもに話すのはかなりハードルが高いと感じています。例えば、子どもに「生理って何?」と聞かれた際に咄嗟にはぐらかしてしまうのは、単に今までそのトピックについて話した経験がないからではないでしょうか。そこで、1回でもいいから大人同士で話す機会を作り、子どもに聞かれたときにどう話すかを準備しておくことが大事だと思います。このすごろくでは、遊ぶ中で自然と性についてディスカッションする機会を作り、性にまつわる話へのタブー感を少しずつ減らしていくことができると考えています。

とりわけ、性にまつわる話は子どもが聞いてくれたタイミングで話さないと、なかなか大人からは言い出しづらいですよね。そのタイミングが来たときに正しい知識を持ってきちんと答えられるように、事前に話す練習をすることが重要だと考えます。

また、できるだけ楽しく学んでほしいという思いも込めています。もともと、私自身も学校でするような勉強がそこまで好きではなく、もう少し勉強を楽しくすることでより知識が身につきやすいのではないかと考えており、ソウレッジ全体として「学びを楽しくすること」を重視する考えが根底にあります性教育を楽しく学べる機会はまだあまり多くなく、性についての正しい知識が浸透していくためには「楽しさ」にも力点を置いた教材が必要だと思い、このすごろくを作りました。

ブレイクすごろくの使い方

—ブレイクすごろくはどのような内容なのでしょうか。

このすごろくは5才〜成人するまでの人生を描いたゲームとなっていて、各マスにそれぞれの年代で出会う可能性のある困りごとが書かれています。止まったマスのテーマについて、参加者同士でディスカッションやクイズをして、解説を聞きながら学んでいきます。

例を挙げると、「生理になってしまった女の子が生理というものを知らず、ティッシュを詰めて対処したことに対し、彼女は事前に何を知っていたらよかったのか」や、「精通をした男の子が『自分っておかしいのかな』と悩んでしまい、誰にも言えずにパンツを捨てて隠していた」というマスがあります。それぞれの事例について、「どのような知識を子どもたちが持っていればいいのか」や「どうしたら子どもたちの心の平穏を守れるか」などについて、他の参加者と議論し、理解を深めることを目指しています。

また、リスクを回避するだけでなく、何かが起きた後の対処の仕方について勉強することも意識しています例えば、「彼氏に行為を迫られて、断れなかった」というマスがあります。性的同意を取ることや、嫌なことはきちんと伝える関係性を築くことも伝えたいのですが、同時に、緊急避妊薬を飲むことや、避妊に失敗したら中絶することも学んでほしいと思い、出来事が起きた後のマスも作りました。

ただ、すごろくはあくまでも性教育の入口だと思っています。全てのテーマを完璧に網羅できているわけではないので、より深く学びたい部分は専門家に聞いたり調べたりするのがいいと思っています。

正しく・楽しく学ぶためのこだわり

—ブレイクすごろくを作るにあたって、工夫した点はありますか。

すごろくのマスのテーマについてユネスコのガイダンスに沿って作成しました。日本の学校教育で学ぶ性に関する話は、基本的な概念しかカバーできていないと感じています。そこで、ユネスコのガイダンスと照らし合わせながら、現時点での日本の性教育では足りていないと考える要素をピックアップしました。例えば、性暴力が起きたときにどう対処するか、日本の法律体系、セクシュアリティの話などですね。

さらに、楽しく学ぶためには「ぱっと見の印象」も大切だと感じたので、すごろくのデザインにもこだわりました。大人っぽいものなどさまざまなバージョンを作って試行錯誤した結果、現在のポップなテイストに落ち着きました。

—実際にブレイクすごろくを使う際に、ファシリテーターとして意識していることはありますか。

心理的安全性(注2)を作るために、「話したくないことは話さなくて大丈夫」というグランドルールを設けるようにしています。とはいえ、ただ「話さない」というのは難しい場合もあるので、答え方の合言葉も決めるようにしています。例えば、合言葉が「トマト」の場合、話したくないことを聞かれたら「トマトです」と答えることでそれ以上その話は続けないようにするなど、安心して話せる工夫をしています。

(注2)心理的安全性:罰されたり屈辱を受けたりすることなく発言できると思えること。(引用(執筆者翻訳):https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053482217300013

ブレイクすごろくの反響

—既に研修でブレイクすごろくを使っているとのことですが、反響はいかがでしょうか。

参加者からは「話しづらい話題だったのに、これほど楽しく研修できると思っていなかった」「話してはいけないと思っていたテーマだったが、自分が知らないことにたくさん気付けて大きな学びがありました」といった意見を頂きました。中には、参加者が所属している別のコミュニティや職場でもやってほしいと声をかけていただくこともあります。

また、とある学校で講演をした際に、最初の自己紹介パートでは寝てしまった先生が、このすごろくをするときは楽しそうに話している姿を拝見し、作った甲斐があると思いました。結局のところ、積極的に研修に参加していただかないと実施する意味がないため、興味を引き付けるゲーム形式であることが重要だと思います。一方的に知識をお伝えするだけではなく、参加者の皆さんがアクティブに学び、そこで生じた疑問に答えていくという形式がいいのかなと感じます。

子ども支援者が性教育を学ぶことの大切さ

—これまで民間団体向けにも、このすごろくを用いたワークショップ・研修を実施されてきたと伺いました。親でも教師でもない「第3の大人」である子ども支援者が性教育を学ぶことは、子どもたちにとってどのようなメリットがあるとお考えですか。

子どもたちが性に関する悩みを一番話しやすいのは、「第3の大人」だと思います。親や学校も性にまつわる知識をほとんど子どもに伝えられていないと思いますし、やはり子どもからしても性について親や先生に相談するのは抵抗がある場合も多いのではないでしょうか。子どもたちがいろいろなリスクとメリットを理解したうえで幸せになるために、子ども支援者の方々のサポートが必要であり、支援者が正しい知識を身につけておくことが不可欠だと考えます。

また、支援者が正しい知識や客観的なデータを身につけることで、子どもたちにリスクを正しく伝えることができると考えています。例えば、高校生が継続的に性行為している際に、単に「妊娠しちゃうかもよ?」と伝えるより、「コンドームをつけていても年間15%ほどが避妊に失敗しているんだよ。そこまでわかったうえでしているの?」と聞いた方が、子どもたちもリスクを認知しやすいと思います。

より多くの人に性教育を学べる機会を提供するために

—最後に、ブレイクすごろくの今後の展望を教えてください。

現在、民間団体向けにもブレイクすごろくを用いた研修を提供していますが、規模の小さな団体は予算の制約によって実施を諦めてしまうこともありました。今後はブレイクすごろくを単体で販売することで、より低価格で性教育の勉強ができるようになるのではないかと考えています。もちろん引き続き研修も行うので、これからは2つの選択肢を提示し、より多くの団体に性教育を学べる機会を提供していきたいです。

また、専門性を持った医者が教育を行うこともとても重要だと考えています。今後は、ブレイクすごろくに専門性を持った方を組み合わせることで、より知識を浸透させやすくなるのではないかと考えています。

「支援者向け性教育学び直しワークショップ」のご案内

ソウレッジは、公益財団法人ベネッセこども基金の助成を受けて、経済的に困難な状況を抱える子どもたちと関わる支援者に対して、ブレイクすごろくを用いた「支援者向け性教育学び直しワークショップ」を無料で実施しています(応募要件あり・2024年度内実施分まで)。対面でもオンラインでも実施可能ですので、ご興味がある方はぜひこの機会にお声がけください。皆さんのお申し込みをお待ちしております。

応募要件:

  • 経済的に困難な状況を抱える子どもたちと関わる団体
  • 4人以上の参加者がいること(人数の上限はありません)

応募はこちらから:

お申し込みフォーム

まとめ

今回は、鶴田さんに、ソウレッジの性教育すごろく「ブレイクすごろく」について伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • ソウレッジは、性を通じて起きる悲しみを伴う出来事を予防することを目指し、海外研修やユースクリニックの伴走支援、政策提言や研修提供を行っている
  • ブレイクすごろくは、性にまつわる知識について楽しく学べるように作った教材で、参加者はマスの事例をディスカッションしながら、理解を深めていく
  • 子どもたちにさまざまなリスクとメリットを提示できるように子ども支援者が性について正しい知識を身に着けることが重要である

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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