子ども支援に携わっている方の中には「もっと多くの人に子ども支援に関わってもらうことで、包括的な支援を実現したい」と考える方も少なくないはずです。しかしどのように地域の人々のつながりを作っていくことができるのか、悩んでいらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク(以下、WAKUWAKU)は、「子どもを地域で見守り育てる」というメッセージを発信し続け、様々なサポート体制を作ってきました。子どもを含む地域の人たちの「やってみたい」を一つ一つ実現させてきたWAKUWAKUの活動から、地域住民の方々と「連携」するうえでのヒントを見つけることができるはずです。今回はWAKUWAKUの代表理事を務めていらっしゃる栗林さんにお話を伺いました。
前編では、WAKUWAKUの始まりから今までの活動について、そして地域に発信するメッセージについてのお話を取り上げています。後編では、地域の人たちを巻き込むうえで大切にしていることや、地域で見られる変化についてのお話を取り上げます。
プロフィール:栗林 知絵子 氏
認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク代表。「広がれ、こども食堂の輪!全国ツアー」実行委員会代表。2004年より池袋本町プレーパークの運営に携わり地域活動を始める。自他共に認める「おせっかいおばさん」として、地域の子どもを地域で見守り育てるために、プレーパーク、無料学習支援、子ども食堂など、子どもの居場所を広げ、子どもと家庭を伴走的に支援している。
WAKUWAKUのこれまでの活動
WAKUWAKUの始まりー「しょうがない」で済ませず、地域で支える
—WAKUWAKUが出来た経緯を教えて下さい。
WAKUWAKUの始まりは豊島区が周年事業として始めたプレーパークでした。プレーパークとは、誰でも・いつでも来ることが出来る遊び場のことです。私は2004年から子どもを連れて運営に参加しました。プレーパークに来る子どもの中には、居場所がない、ご飯を食べていない、家で学ぶ環境がないなど、様々な背景を抱えている子どももいます。
子どもたちと関わる中で、ある中3の子から「俺、高校に行けないかもしれない」と言われました。その言葉を「しょうがない」で済ませるのは嫌だと思い、子どもを自宅に呼んで学習支援を始めました。しかしその子の学習を支援する中で、模擬試験など少なくないお金がかかってしまう場面があったので、地域の方たちに1000円の支援を募りました。
このカンパをきっかけとして集ってくださった皆さんで、「地域のみんなでできることは何かを考えていきましょう」というつながりを作ったことが、WAKUWAKUネットワークの始まりです。そしてプレーパークで出会った子どものように、学習のつまずきが大きかったり、親が一日中働いていて一人ぼっちでご飯を食べていたりする子どもたちのために、子ども食堂と無料学習支援を地域で始めました。
プレーパークの様子(画像提供:認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク)
—プレーパークに来た一人の子どもを取り残さないよう、集まった地域の方々がつくりあげたネットワークだったのですね。NPO法人として団体を設立したのは、どのようなことがきっかけだったのですか。
実は、WAKUWAKUが行政と一緒に運営していたプレーパークの場所には学校を設立するという計画があり、学校が建ったらプレーパーク事業は打ちきりになってしまうという状況でした。私たちは「プレーパークは遊び場であると同時に、子どもたちにとっての居場所なんだ」と考えていたので、行政に対しプレーパークを存続させるよう働きかけました。
すると行政は空き家を三軒買い取って、その場所を新たな常設のプレーパークにすることを計画してくれました。プレーパークは、子どもが火やノコギリも使うような、危なっかしい行為も見守るという、なかなか行政では運営できない公園です。そのため、「栗林さんたちに任意団体を設立してもらったうえで、委託事業として運営してもらいたい」と言われました。
そこで2013年に、既に始まっていた子ども食堂と無料学習支援などに関わっていた仲間たちに理事になってもらって、NPOを設立しました。このWAKUWAKUネットワークは、「子どもたちの居場所を守るんだ」といった同じ価値観を持った人たちが集まって出来上がったのです。
プレーパークから広がる、子どもと大人の「やりたい」の輪
—その後、どのように活動が広がっていったのでしょうか。
子ども食堂や無料学習支援には、主婦の方や学生、仕事を引退した方々など様々な地域の人たちが関わってくださいました。多くの人たちが集まる場が出来たことで、様々な子どもの声や子育て中の方々のニーズを聞き取ることが出来ました。
例えば、子育て家庭の孤立の問題です。親に寄り添いながら傾聴と協働を行うことで子育て家庭の孤立を防ぐことを目指し、2016年からはホームスタートという事業が始まりました。地域の子育て経験者が、子どもを預かるのではなく、乳幼児を育てている家庭を訪問してママやパパの悩み事を傾聴をしたり、一緒にお散歩に行ったりご飯を作ったりする事業です。
また子ども食堂に来ていた子が親を亡くし施設に行くという、私たちにとって悲しい出来事もありました。その子は親を失ったことで、同時に学校や友達といった環境や居場所も失ってしまったのです。「まるでおばあちゃんの家に泊りに来るように、地域で気軽に泊まったり生活できたりする場所があれば、施設に行かずに済んだかもしれない」という思いから、2017年にWAKUWAKUホームという宿泊が可能な場所を作りました。
—地域の居場所から聞こえてきた声をきっかけとして、さらに居場所が広がっていったのですね。
誰かが「こんな居場所があったら良いのに」と思ったことを、理事をはじめ地域の仲間みんなで応援して、一つ一つ形にしてきました。ホームスタート事業もWAKUWAKUホームも、メンバーの「こんな支援があったらいいのに」という一言で、「じゃあやろう」という動きになり実現しました。
今年から始まる、公立中学校内の居場所も同様です。学校と学校外の居場所(家庭や地域の居場所など)の中間的な居場所となることを目指しています。私は民生委員として学校を訪問する中で、コロナ禍において不登校の子が増えていることを実感しました。「住民として何ができるか」をずっと考え続けたところ、以前見学した他の地域の学校カフェに思い至りました。先生ではない地域の人が関わることで、もしかしたら不登校を予防することが出来るのではないかと考え、去年から「やりたいやりたい!」と団体の仲間や学校の先生方に発信し続けました。
画像提供:認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク
—WAKUWAKUネットワークにおいて、一人一人の「やりたい」が尊重されているのは何故なのでしょう。
WAKUWAKUの原点がプレーパークだからだと思います。プレーパークでは、子どもたちがやりたいということを誰も否定しません。そして子どもは失敗を繰り返しながら、自分のやりたいことに自分の責任の中で挑戦します。 そのような「やってみたいことを応援する」という文化がWAKUWAKUの原点にあるのです。やりたい人がやりたい事を形にしようとしているので、みんなが強い責任感を持っています。仮に資金が足りなければ、やりたい人が自分で助成金を取ってくるというスタンスでここまで取り組んで来ています。
WAKUWAKUが目指す「地域」の形
地域が変わると、子どもも変わる
—WAKUWAKUネットワークの活動を通して、どのような「地域」を実現したいと考えていらっしゃいますか。
はっきりと言葉で表すことは難しいですが、誰かが困っていたら皆で「おせっかい」し合えるような地域でありたいと思います。WAKUWAKUの活動が始まったころは、「他人のことに立ち入って良いのだろうか」という声もありました。けれど、今地域にはたくさんの困っている子どもたちがいます。彼らは自分たちの環境を自分自身で変えることができず、どうしようもない状況に陥っていることもあります。もしかしたら、信頼できる誰かに出会うことによって、その子の人生が大きく変わるかもしれません。
私は、地域には子どもたちの将来を変える力があると思います。その子どもに近しい人たちだけではなく、地域全体の意識が変わることによって、子どもたちがいつでも相談できたりいつでも自分のことを伝えられたりする環境ができるでしょう。そうして成長した子どもたちが、10年後、20年に誰しもが助け合いながら生きていける地域を作ってくれると思って活動しています。
地域の大人も、「子どもの貧困」の当事者
—多くの人を巻き込んで地域を変えていくうえで、注力したことはありますか。
やはり「立ち入ってはいけない」という壁を生み出すのは、「子どもは家庭が育てる」「親が責任を負うべきだ」という価値観ではないでしょうか。その一方で虐待が明らかになると、今度は「行政や施設は何をしていたのか」と、行政など家庭の周辺の大人たちが攻められることがあります。
しかし、家庭が追い詰められてしまうような社会を作ってきたのは私たちであって、子どもたちではありません。子どもの貧困という社会課題の当事者は私たちなのです。多くの人を巻き込むために、このメッセージを伝えることに注力しました。
例えば、学習支援に来ていたお母さんが「ちょうど中学と高校に入る子どもが2人いるけれども、制服代が用意できない」と話してくれたことがありました。この課題について知ってもらおうと、地域の人に子ども食堂のカレーを食べに来てもらい、集まったお金をお祝い金として直接渡すという企画を行いました。
その後も地域や企業から頂いた寄付をもとに企画は続いています(「WAKUWAKU入学応援給付金」)。対象家庭にお祝い金を直接渡す際に、家庭が抱えている困りごとについて対話する場を設けており、家庭を必要な支援につなげる機会にもなっています。
まとめ
今回は、認定NPO法人豊島WAKUWAKUネットワークの代表理事である栗林さんに、WAKUWAKUのこれまでの活動と、活動を通して目指してる地域の形について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- プレーパークで出会った子どもを助けるために集まった仲間たちで、「子どもの貧困の問題に対して、地域で何か出来ることが無いか」という思いから、子ども食堂と無料学習支援を始めた。
- NPO法人となってからも、集まった人たちから聞こえてくるニーズや「やりたい」という思いをきっかけとして、子育て支援や宿泊支援など様々な支援体制をつくってきた。
- 誰かが困っていたら、皆が「おせっかい」し合えるような地域を作ることで、子どもたちの将来が少しでも変わるかもしれないという思いで活動している。
後編では、活動を通してどのように地域の人々を巻き込んでいくのか、そして地域がどのように変わってきているのかについてのお話を取り上げます。
後編はこちら:
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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