子ども・若者の支援に携わる中で、本人の「自立」をどのように見据えるのか、また、そのために支援者として何ができるのかを考える場面も少なくないかと思います。
本記事では、認定NPO法人「フリースペースたまりば」(以下、たまりば)で川崎若者就労・生活自立支援センター「ブリュッケ」のセンター長を務めていらっしゃる三瓶さんにお話を伺いました。ご活動内容や、若者の「自立」を支えるための居場所の在り方、関係者との連携などについてインタビューしました。
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プロフィール:三瓶 三絵
川崎若者就労・生活自立支援センター「ブリュッケ」センター長。
子ども・若者の実状・実態を元に制度を作る
—若者たちと出会って支えていくにあたって、行政の方々との連携は欠かせないものかと思います。どのようにコミュニケーションをしていますか。
行政の担当職員の方も、ブリュッケを見に来てくれますね。イベントに参加してくださったり、好きな音楽を紹介し合うグループワークに参加してくれたりと、若者と一緒に時間を過ごしてくださっています。
実は私がブリュッケに来た当時は、コロナの影響もあり、居場所に来る若者が一日あたり1~2人程度だったんですよ。それが、この3年間で10倍に増えてしまって。以前は、障害を理由に受け入れを断ったりとか、引きこもりの定義を厳格にしていたところもあって、ちょっと敷居が高い居場所になってしまっていたんですね。行政としても利用者がかなり減っている中で、3年前にちょうど対象を拡大して、対象年齢も「15~29歳まで」から「15~39歳まで」に広がり、更に生活保護受給の方だけでなく生活困窮の若者も一部受けていいですよってことになったんです。このテコ入れを機に、調子に乗ってどんどん受け入れて、ブリュッケもどんどんにぎやかになっていったんですけど。結局、行政の方には「ちょっと受け入れ過ぎだ」とも言われました。笑
福祉事務所の方々からも、徐々にいろんな相談をしてもらえるような関係性になっていると感じます。以前は少し敷居の高いつなぎ先だと思われていたところもあるかもしれないのですが、3年前から「電話一本してくだされば書面等は不要なので、まずは会いましょう。書面だけでその人を判断することは意味がないと思っているので、その人にとってブリュッケが必要かどうか、その相談から乗らせてください。」という形に変えて、全部の福祉事務所を訪問したんです。私がもともと前職で「つなぐ側」にいたこともあり、ワーカーの皆さんのつなぐ大変さも分かっていたので、そこから一緒に相談した方が良いと思って、今の形に変えました。そうするといろんな相談が来るようになり、顔が見える関係性ができてきたと感じています。また、福祉事務所の方から行政に「ブリュッケ、すごく良くなったよ」と言ってくれたりもして。
以前は、行政の方から「障害福祉サービスの利用があるかどうかで受け入れるかどうかを明確に分けてほしい」と言われたこともありましたが、実態として他につながる先がないからブリュッケに相談が来ているので、その条件だけではなかなか断れないんですよね。ブリュッケという”福祉っぽくない”環境につながる人たちに対して、障害があるかないかで入り口を決めるのは違うと思うんです、ということをお話して、そこから何度か対話を重ねながら、行政の方も分かってくださいました。もちろんその方にマッチした福祉サービスがあるのであればつないだ方がいいと思うんですけど、つなぐにしても「じゃああなたは他のところに行ってください」と言うだけじゃいけないとも思っています。必ずリファーする先が明確にあり、そこにつなぐところまでを含めて出会っていきたい。それをずっと実践している感じですね。
今は、都度ブリュッケで必要だと判断したら登録できるように、仕様書の文言も柔軟に変えて下さいました。私たちは常々、「制度に子ども・若者を合わせるのではなく、子ども・若者の実状と実態を元に制度が作られていくべきだ」と考えています。今は行政の担当者とも話し合いながら、それが実現できているかなと思います。
—その人の属性や所属みたいなもので受け入れるかどうかを決めるというよりも、受け入れてつながった上でその次を考える、ということでしょうか。
そうです。その上で、現時点でその人をリファーする先がないんだとしたら、それは明確な社会課題ですよね。受け入れる人数を増やしてから3年ほど経ちましたが、その社会課題に今もぶつかり続けています。例えば、どこにもつながる先が無い母子家庭の方について、じゃあこの先ひたすら母子だけで閉じこもって生活保護をもらって生きていけばそれで良いとされているのか、ここから脱するには就労しかないのだろうか、みたいな課題に直面します。ブリュッケは「就労・生活自立支援センター」という名前ですが、就労だけを自立とは決して考えない。ここにつながってから生き方を一緒に探していく、そんな自立の在り方を模索しています。
今後の展望:横の広がりを自立として捉える
—これからの若者支援についての展望はありますか。
やっぱり若者施策って圧倒的に足りないですよね。選択肢が進学・就労の2つしかなく、そのどちらにもつながらない人たちをサポートしていくのは、今のところ家族しかいない。そうなると、家族の基盤が弱い人たちが進学や就労という道を選ばなかったときに、完全にアンダーグラウンド化してしまうというか、無かったことにされてしまうような危機感を感じています。
また、自立の在り方を、就労だけで成立させようとするのはもう限界が来ているのではないかとも感じています。ブリュッケの場合は、生活保護受給をしている若者たちなので、一応そこで生活費の基盤があるから、就労支援という制度に乗ることができるけども、生活困窮状態の方だと交通費もない状況に陥るんですよね。
誰しもが「学校を卒業した後に就職」というルートをストレートに歩める状況ではないのならば、若者の自立を目指す、若者を対象とした社会保障の充実はもっと議論されて欲しいです。生活保護受給しながらその状況を脱するという流れも、今まで生活保護受給で育ってきた若者にとってはものすごい恐怖なんですね。今は「生活保護受給を続けるか、一気に廃止するか」みたいな、ふり幅が大きい選択を選ばざるをらなくなってしまうので、もうちょっとその間をゆるやかに、ステップを踏んで行けるような制度や保障が必要だと考えます。
現在の就労支援を考えると、綺麗なステップを踏んで、就職して、その後ずっと安定するということはあまりありません。この行きつ戻りつのところを、どれだけ伴走できるかだと思うんですね。行政としては「出口」を明確に求めたいとは思うんですが、「行きつ戻りつが実態ですよ」と行政担当者の方にもお伝えしています。自立というものの捉え方が、ステップを踏んで「縦」に伸びていく自立だけではなく、まずは私たちの居場所につながり、スタッフとつながり、若者同士で横並びでつながり、地域の人とつながり…と、本人を知る人たちがどんどん「横」に広がっていく、横の広がりを自立として捉える人が増えると、もっと生きやすい社会になるんじゃないかなと思います。
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認定NPO法人フリースペースたまりばがどのようにして生まれ、何を大切にしてきたかが詰まった一冊です。社会が様々な変化を遂げる中でも「居場所のスタッフ心得15ヶ条」は自分の中に常に持ち続けたいと思います。居場所は「ともに生きる場」であり、「一人ひとりがその作り手」。ブリュッケはまだまだこれから、若者たちとともに何かを生み出し続けていく場を目指していきたいです。
まとめ
今回は、三瓶さんに、「ブリュッケ」における行政との連携や今後の展望について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- 制度に子ども・若者を合わせるのではなく、子ども・若者の実状と実態を元に制度が作られていくために、行政とも対話を重ねて連携することが重要である。
- ステップを踏んで「縦」に進む自立ではなく、本人を知る人がどんどん「横」に広がる自立の捉え方を増やしていくことを目指している。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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