今回も、NPO法人Learning for All (以下、LFA)の安次富亮伍さんにイベント作りについて伺っていきます。前編では、子どもにどんな体験をしてほしいか、イベントを作るにあたって何を大切にしているかなどを伺いました。
今回の記事では、より具体的に子どもたちへどんな声かけをしているか、子どもたちをどのように巻き込んでいくか、そしてその前提となる普段の関係性についても伺いました。どうぞ最後までご覧ください。
プロフィール:安次富 亮伍
LFA職員。出身の沖縄県で大学在学時から不登校や子どもの居場所の支援に参画し、その後公立小学校教員や子どもの居場所事業のマネージャー職を経て、2021年8月にLFAへ入職。子ども支援事業部エリアマネージャーとして勤務している。趣味は居酒屋巡り。
実際に行ってきたイベント
ー前編では、子どもの「やりたい」という声をベースにイベントを組み立てるというお話をしていただきました。これまで様々なイベントを行ってきたと思いますが、特に印象的だったイベントについてお聞かせ下さい。
みんなで山登りに行った時のことが印象的でした。ある子どもがもともと山登りに興味を示していたので、その子をリーダーに任命して色々まとめてもらいました。もともと学校では積極的に話す方ではなく、拠点でも周りの子どもに「ぶっ殺してやる」と発言することがある子どもでしたが、イベントでは自分で企画書を書いたり、皆の前で注意事項を読み上げたりしてくれたので「すごい、そんなこともできるんだ」と驚きました。
ーその子どもにリーダーを任せる際に、どのような声かけをしましたか。
ストレートに、「今度やる山登りのイベントで、リーダーとしてみんなをまとめてみない?」と聞きました。すでに私たちと彼女との関係性はできていて、本人の特性も理解しているつもりでしたし、今回のイベントは彼女がもともと興味を持っている内容だったので、リーダーを任せても大丈夫だと判断して声をかけました。
画像:photoAC
その上で、「リーダーとしてみんなにわかりやすく話すにはどうしたらいい?どうしたら伝わる?」「どうしたらみんなで楽しく過ごせる?」というような声かけもしました。
ー周りの子どもの巻き込みに関して、何か安次富さんが工夫をされたことはありますか。
他の子どもを巻き込む際には、やらされ感が生まれないように心がけていました。リーダー以外の子どもも主体的に関わる動機付けができるように声をかけています。例えば、他の子どもに対して「〇〇ちゃんが山登りに行きたいって。一緒に企画するのを手伝ってくれない?」と声をかけています。
また、子どもたちの成長できるポイントに紐づけてイベントを設計することも大事だと考えています。例えば、コミュニケーションが苦手な子どもがいれば、交流が生まれるように、BBQを企画することがあります。BBQでは自分の肉を取りにいかなければならず、「これ食べてもいい?」というようなおしゃべりから必ず交流が生まれます。また、交流の機会が取りづらい子どもたちに対しては、ぺアで外出先を回ってもらうように設計したりしました。
画像:photoAC
イベントの大筋は一人の子どもの「やりたい」という気持ちで決めていきますが、細かい残りの枠組みは、参加する子どもたち全員にとって効果的な形になるように埋めていくイメージです。
ーその結果として印象的なことはありましたか。
山登りイベントのリーダーになってくれた子どもは、そのイベントが終わった後も「BBQをしたい」「お泊り会をしたい」など、自分でやりたいことの企画書を書いてきてくれるようになりました。そしてその企画書に「企画の意図を書くといいよ」「注意事項を書いた方がいいよ」とフィードバックすると、ちゃんとそれを反映した企画書を持ってきてくれました。
また、普段の場面でも他の子どもへの声かけが丸くなったのも印象的でした。それまでは「一緒に公園来ないとぶっ殺してやる」といった言い方をしていましたが、「公園一緒に行こう」くらい穏やかな声かけになっています。
イベントを企画することは特別なことではなく、それぞれがやりたいことをやっているだけだと思います。子どもたちは、「やりたい」と思ったことを叶える、達成するという経験が刺激になって、自分の言葉や感覚を身につけていくのだと感じています。
「一人でも、クスッと笑えるようなイベントを」
ー先ほど「リーダーを任せる子どもとの関係性ができていた」という言葉がありましたが、イベントをする上での大前提となる、日頃のスタッフと子ども、あるいは子ども同士の関係性で大事だと思われることはありますか。
子ども自身の「やりたい」という声を聞くことが大切ですが、そもそもやりたいことが出てこない場合もあると思います。子どものやりたいことを引き出すには、まずは心理的安全性を確保して、「ここに来たい」「この人に会いたい」という状態になる必要があります。よく意識しているのは「安次富に言われたから、ちょっとやってみようかな」と子どもに思ってもらえるような関係性を作ることです。
また、スタッフとの情緒的なつながりを作ることも大事ですが、もちろん子ども同士のつながりを作ることも重要です。居場所で重要なのは、子どもが相互性の中でエンパワメントされることです。子どもたち同士の仲の良さも大事ですが、それほど仲が良くなくても同じ空間に居られる程度の情緒的なつながりが大事だと思っています。そのつながりがベースになっていないと、そもそもイベントは成り立ちません。
子ども同士の情緒的なつながりこそが、居場所支援の大事な強みだと考えています。例えば、自分と同じように引きこもっていた人が今日からバイトを始めたり、バイトを始めたけど辞めて戻ってきたり、大学に行くことを決心したり、、、そうした景色を見て、子どもたち自身は刺激されています。頑張らないことも許される環境の中で、頑張りたい人がその人なりのやりたいことにチャレンジしていけることが大事です。しかも、その様子を周りの人が見て応援してくれる環境があるので、個別支援では到達できない、居場所支援ならではの相互作用が生まれると思います。
ー日頃から作る関係性、環境が大事だということですね。最後に、これからイベントの企画や実行をする方々に対して言いたいことはありますか。
極論を言えば、一人の子どものためにイベントを実施すれば良いんですよね。以前上司が言っていた言葉で大切にしているのですが、その子がクスッと笑ったり爆笑できたりしたら十分だと思います。イベントの意図や狙いを絞った上で、でもあまりかっちり「決めすぎず」に、大人も子どもも「その場を楽しむ」ということが大事なんじゃないかなと考えています。
まとめ
・子どもたちがやらされている感を感じないよう、巻き込んでいくことが重要。
・互いの情緒的なつながりがあって初めて、子どもの意欲をきっかけとしたイベントができる。
・一人の子どもがクスッと笑えるようなイベントを目指す。
安次富さん、ありがとうございました!
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
この記事は役に立ちましたか?
記事をシェアしてみんなで学ぼう