「子ども支援を始めたものの、本当に支援が必要な子どもに届いているかわからない」という声を聞くことがあります。経済的に困窮している子ども、養育がきちんとなされていない子どもなど、本当に支援が必要な子ども(=困難を抱えた子ども)と繋がるにはどうすれば良いのでしょうか。
今回は、NPO法人Learning for All(以下、LFA)の居場所拠点の拠点長である岸本さんと、ソーシャルワーカーの竹田さんに「本当に支援が必要な、困難を抱えた子どもと繋がるための取り組み」ついてお話を伺いました。
プロフィール:岸本 尚子
Learning for All 子ども支援事業部。日本・モロッコにおける小学校教諭、インテリア系メーカー・商社における開発営業を経て、LFA入職。好きなことはものづくり。あらゆる関係者がそれぞれの強みを生かしてボーダーレスに連携する社会の実現を通して、全ての子どもが自分の可能性に気づき選択できる力を。そしてその先に必ずある幸せを一緒に見つけたい。
最近ハマっていること:月1回の断食
プロフィール:竹田ゆきえ
Learning for All 子ども支援事業部。大学卒業後、ソーシャルワーカーとして精神科医療機関で勤務。重度の精神疾患を抱える患者さんや、救急対応が必要な精神状態の方の地域での生活を支援し、児童精神科でのソーシャルワーク業務にも従事した。その後、JICAボランティアとしてドミニカ共和国で活動。子ども時代の経験がその後の人生に与える影響の大きさ、生まれた環境による選択肢の違いを感じた。2020年6月からNPO法人Learning for All に入職。「ありのままの自分で良い」と思える子ども時代とそれを応援できる社会を実現したい。最近ハマっていること:K-POPの歌やダンスを練習し、子どもたちと楽しむこと
困難を抱えた子どもとの繋がり方
━━岸本さん、竹田さんの業務内容について教えてください。
岸本:私は居場所拠点の拠点長をしているのですが、現場の子どもへの対応だけでなく、入所時の面談や行政の子ども家庭係、民生委員、学校などと気になる子どもの連携などを行っています。
竹田:私は団体所属のソーシャルワーカーとして、複数エリアを担当しています。困難度の高い子どもについて他機関との連携を行ったり、配慮の必要な保護者に対して現場スタッフに同席するなどの対応を行っています。直接的に子どもに関わる支援では、不登校などの子どもに対して家庭に直接訪問し、支援を行っています。
━━困難を抱えた子どもとは、どのように繋がっていますか?
主に、3つの方法で繋がっています。
地域(他NPO・民生児童委員など)との協力
岸本:拠点を運営する上で、まずは地域の民生児童委員や他NPOへの挨拶などを通して、自分たちが何をしているかの発信活動を始めました。
最初から「気になる子どもがいたら紹介して欲しい」と伝えても、何をしている団体かがわからないと紹介もできないと思います。
まずは自分たちがどこで(拠点)何を(支援内容)何のために(目的)子どもたちと繋がりたいのかを伝えていくことが大切だと思います。
民生児童委員との関係が構築できてくるとその地域の他団体の事例を紹介してもらえることもありました。
また、地域の他NPO同士の交流も意識し、子ども関連のNPOネットワークに加入しました。
自分たちが何をしているのかはもちろん、他団体が何を目的にどんな支援をしているのかを知ることで、団体間を子どもが行き来したり、子どもにとって安全な場所を増やすことに繋がると感じています。
地域の学校との協力
岸本:拠点のある地域の各学校への挨拶も行いました。
「クラスに気になる子どもはいませんか?」と聞いたり、こちらから「例えばこのような子どもが私たちの拠点には通っています」などと特徴をお伝えしたりしていました。そのような会話の中で、具体的に思い当たる子どもがいると話していただくことが増え、子どもたちと繋がるきっかけになっています。
もちろん、できたばかりの団体だと、なかなか信頼を得られないのが現実です。
ですが、校長先生によって学校の雰囲気や方針も異なるので「1箇所だめだったからもう無理だ」と思わず、色々な学校へ挨拶に行くようにしていました。
時には、地域全体の子ども食堂マップを作成し、そのマップと一緒にLFAの子ども食堂のチラシをその中に入れた上で学校に配布してもらったこともありました。
自治体との協力
竹田:自治体への挨拶も行いました。
担当者の方にはこちらから定期的に訪問し、こちらの情報をお伝えすることで、徐々に信頼関係を構築していきました。
自治体から子どもを繋げてもらうには、自治体ごとに手順がありますので、まずはその自治体がどういう取り組みをしているか、ホームページや自治体の掲示板や冊子等で確認してみると良いと思います。
繋がり方によって違う子どもの困難度
━━子どもを紹介してくれる機関によって繋がってくる子どもの特徴に違いはあるのでしょうか。
竹田:全然違うと思います。特に、私が関わることが多い、行政から繋がってくる子どもは、虐待など深刻な課題を抱えた子どもが多いですが、
行政と繋がっているご家庭は養育相談〜虐待まで幅広く、「行政だからこういう子どもと繋がる」、という一辺倒ではいかないことがほとんどです。
岸本:学校からの場合は、親の経済状況だけではなく、子どもの様子から繋がることが多いです。そのため、生活態度や養育不足の傾向(忘れ物がとても多い等)など、子どもの気になる様子から先生方に繋げていただいています。
自分たちの活動を広めるためにできること
━━様々な人との関係をもとに困難を抱えた子どもと繋がっている、竹田さんと岸本さんですが、繋がりがない団体が行える、子どもと繋がる方法はなにかありますか?
岸本:紹介などに頼れない時や、紹介までの関係が築けない時には、自分たちの活動を見てもらう機会を作るようにしています。
例えば、誰でも来られるイベントを定期的に開催し、そのイベントのチラシを学校や、自治体に置いてもらえるようにお願いをしに行きました。
私の担当する居場所拠点の場合は、子どもたちが自由に来れる子ども食堂も行っているので、遊びのイベントを企画、子ども食堂で周知をし、来てくれた子どもとも繋がりました。
━━子どもたちと関わる上で気をつけていることはどんなことですか。
竹田:時間的にも空間的にも繋がりがあること(拠点内で完結するのではなく、その子の1日、何年先)も含めて自分たちが何をするかを考えています。例えば、私たちの拠点に来れなくなっても、他に行ける場所、安心できる場所を子どもが見つけられればそれでいいと思っています。
いろいろな形で卒業していく子どもたちに今までの居場所とこれからの居場所が繋がって子どもに関わる人が増えていき繋がっていくように心がけています。
岸本:「子どもだから」「支援する対象だから」と子どもと関わらないように、「一人の人間」として同じ目線で関わることを意識しています。
━━今後子どもと繋がる上で行ってみたいことはありますか。
竹田:普段関わりのない大人にも、子ども支援について知ってもらえるようフードパントリーなどを運営していきたいと考えています。
子どもの貧困を解決するにはたくさんの大人の力が必要です。すぐに何かしてくれる人を増やすというよりも子どものことについて考えるきっかけをたくさん作りたいと考えています。
そういった大人との繋がりから、子どもとの繋がりも広がっていくと思います。
岸本:子どもの長期的な成長を見守っていくためにも、就学前の幼稚園や保育園との関係も築いていきたいと思っています。特に保育園は生活の場でもありますから、子どもの情報をたくさん持っていることが予想されます。
子どもに対しての専門性が高い保育園や幼稚園と連携ができるようになると、小学校に上がった際にも子どものニーズに即した見守りができるようになると思います。
まとめ
今回は、困難を抱えた子どもたちとの繋がり方について、LFAの岸本さん、竹田さんに伺いました。ポイントを下記にまとめます。
・子どもや家庭に関わる機関へ挨拶を行うことから信頼関係を構築する
・まずは自分たちがどこで(拠点)何を(支援内容)何のために(目的)子どもたちと繋がりたいのかを伝えていく
・「1箇所だめだったからもう無理だ」とはならずに、様々な団体・学校に連絡をすることが大切
・誰でも来られるイベントを定期的に開催して団体の活動を発信する
・時間的/空間的な繋がりを考えた上で自分たちの支援内容を考える。そして、一人の人間として同じ目線で接することを大切にする
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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