2022年6月27日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第7回が開催されました。
新型コロナウイルスの感染拡大、ウクライナ侵攻など、社会が激しく変化する中で、孤立を深める若者たちがいます。本イベントでは、認定NPO法人D×P理事長の今井 紀明氏をゲストにお迎えし、今井氏が取り組まれているオンライン相談「ユキサキチャット」についてのご講演、および、認定特定非営利活動法人Learning for All(以下、LFA)代表の李との対談を通じて、孤立する子ども・若者への支援の在り方や、社会との連携についてお伺いしました。
プロフィール:今井 紀明 氏
1985年札幌生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)卒。神戸在住、ステップファザー。高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと日本社会から大きなバッシングを受ける。結果、対人恐怖症になるも、大学進学後友人らに支えられ復帰。偶然、中退・不登校を経験した10代と出会う。親や先生から否定された経験を持つ彼らと自身のバッシングされた経験が重なり、2012年にNPO法人D×Pを設立。経済困窮、家庭事情などで孤立しやすい10代が頼れる先をつくるべく、登録者8,000名を超えるLINE相談「ユキサキチャット」で全国から相談に応じる。また定時制高校での授業や居場所事業を行なう。10代の声を聴いて伝えることを使命に、SNSなどで発信を続けている。マラソンが趣味。
「10代の孤立を解決する」NPO法人D×Pとは
認定NPO法人D×P(ディーピー)は「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」を目指し、「10代の孤立」の解決に取り組んでいます。「10代の孤立」は不登校・中退・家庭内不和・経済的困難・いじめ・虐待・進路未定・無業などによって、いくつかの安心できる場や所属先を失ったときに起こります。2012年の団体設立より、約830名のボランティアと約2,500名の月額寄付サポーターの方々(※)の支えを受けながら、2021年度までに9,000人を超える10代の若者たちと関わってきました。現在21名のスタッフが活動しており、最近はメディアでの発信や政策提言にも取り組んでいます。
寄付で成り立っているNPOの特徴は、企業や行政の手が回っていない箇所に取り組むことができることだと考えています。10代の子ども・若者たちへの支援は、企業からも行政からも行き届いておらず、手薄になっているのが現状です。そこで、私たちは特に学校現場やオンラインの両方において「出会う・つながる」ことに力を入れ、若者たちが「社会とつながる」ことができるようにサポートする流れを事業に組み込んでいます。
※数字は2022年6月1日時点
画像:D×P作成
オンライン相談「ユキサキチャット」の取り組み
LINE相談 ユキサキチャットの取り組みは、2018年より始まりました。Twitter上で不登校の子や定時制高校に通う子たちからDM(ダイレクトメッセージ)を通して多くの相談を受けることがあり、自分1人では対応できないほどの多くの若者たちが困難を抱えていることに気づいたことがきっかけです。そのため、初めはLINEを窓口に、不登校や中退の子どもたちの進路や就職の相談を主に受けてきました。
しかし、2020年4月の新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言を受け、自身のアルバイトの収入で生活する若者たちから、生活困窮にまつわる相談が届くようになりました。高校生は飲食店などでの非正規雇用が多く、20代までを含めると非正規雇用で働いている割合は5割を超えます。緊急事態宣言の影響で収入が減ったり職を失ったりするなど、彼らはコロナ禍によって生活に大きな打撃を受けました。何らかの理由で保護者を頼ることができず、学費を自身で負担していたり一人暮らしをしていたりする高校生たちの逼迫した状況が、ユキサキチャットに集まってきたのです。実際に、D×Pが実施したアンケートでは、ユキサキチャットの相談者の9割が「家族に頼れない」と回答しました。
この状況を受け、D×Pは現金給付と食糧支援を開始しました。D×Pもコロナ禍の影響を受けましたが、相談に乗っているだけでは問題が解決されないとの思いがきっかけです。また、児童養護施設を退所した若者や、保護者に頼れず大学に通う・働いている若者も取りこぼさないように、ユキサキチャットの対象年齢を25歳まで引き上げ、緊急サポートに乗り出しました。
画像:D×P作成
孤立する若者が抱える課題
若者たちが保護者に頼れない要因は、虐待や暴言、死別・離別など様々な事情があります。これらの背景に加え、コロナ禍の状況が複数の問題を同時に発生させました。例えば、収入の減少といった金銭的問題に悩まされることにより、精神疾患を患うなどの精神的問題を抱えるなど、複数の課題を抱えた相談者が多くなっています。ユキサキチャットの登録者数も、開始した2020年4月には700人程度でしたが、現時点では8,400人を超えています。
食糧支援では、2022年に入ってからの3カ月で20,000食以上を支給する等、今現在も若者たちが困窮に苦しんでいる厳しい状況が続いています。現金給付・食糧支援を希望する若者の半数近くは一人暮らしをしており、保護者を頼ることができません。また、支援希望者の58%が問い合わせの時点で借金や滞納を抱えています。コロナ禍の前であれば奨学金と自身の収入で大学を卒業できたという子たちも、生活が成り立たなくなってしまい、借金に頼らざるを得ないのです。さらに、支援希望者の62%が給付金などの制度に申請したことがない・分からない状態であり、既存の支援を活用することができていないのも現状です。
相談を受けてから支援を行うまでの流れ
ユキサキチャットで相談を受けてから支援を行うまでの流れは、相談者の状態によっても異なりますが、食糧支援や現金給付を行う場合だと1カ月から数年程度かかります。
画像:D×P作成
LINE登録を行った若者から相談を受けた際、不登校の子どもや虐待を受けた子どもはチャットやビデオ通話などで状況を把握します。食糧支援や現金給付を必要とする人たちにはフォームに記入をしてもらい、面談を実施し、身分証明書や借金の滞納の記録などを送ってもらった後、2〜3日で対応を決定します。勿論相談にも乗り、生活保護や住宅確保給付金などの使用可能な公的支援を紹介したり、申請手続きを遠隔でサポートしたりしています。場合によっては進学・就職相談などにも繋げています。
これらの支援はほとんど各地の行政やNPOと連携して実施しています。本人の許可を得た後、児童相談所や福祉課に連絡をし、引きこもりの場合には訪問支援をお願いする等、かなりきめ細かい支援を実施しています。
「直近の家賃などの支払いが危うい」など、緊急性が高いケースと判断した場合は、現金給付・食糧支援などの対応を即時行いました。また、食費を削ってしまって食べるものがない若者には食糧支援を行い、直近の生活を送る見通しを作ります。単に食料を渡すだけではなく、手軽さと栄養を考慮して一人一人の事情に合わせ、季節イベントでチョコレートを送付するなど、文化的経験も一緒に届ける工夫を行っています。
画像:D×P作成
現金給付や食糧支援後の調査では、82%の若者が「生活の状況が良くなった」、そして78%の若者が「不安感が減った」と回答しました。生活を少しでも落ち着かせて不安感を減らすことで、今後の生活を立て直す道筋を、相談員と共に考えやすくなります。
孤立する若者たちと繋がるためのアウトリーチ方法
複数の課題を抱え、切迫した生活を送る若者たちをユキサキチャットに繋げるために、10代が利用するアプリにてアウトリーチを行っています。ユキサキチャットに来る若者たちの経路の半分はウェブ検索であり、Twitterが2割強を占めています。また、Z世代が多く利用する音声と趣味のコミュニティYay!(イェイ)のアプリから繋がった人が10%近くいます。また、IT系の企業にご協力いただいて、Yay!のマイページではユキサキチャットにアクセスできるバナーを設置したり、スマホだけで簡単にゲーム配信ができるアプリ「ミラティブ」の公式Twitterにて紹介していただいたこともあります。
まとめ
今回は、今井さんに、D×P全体の活動内容やユキサキチャットの取り組み、そして逼迫する若者たちの現状についてご紹介いただきました。
- D×Pは「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」を目指し、「10代の孤立」の解決のために、行政や他のNPOと連携しながら、孤立する若者たちに「出会う・つながる」そして「社会とつなげる」事業を実施している。
- LINE相談ユキサキチャットでは、LINEを窓口として、不登校・中退の子どもたちの進学・就職相談から、コロナ禍の影響で生活が苦しくなった若者たちへの現金給付・食糧支援を実施している。
- ユキサキチャットに繋がる若者たちは、家族を頼ることができなかったり、収入が減少・失職したりと、頼れる居場所を持てずに生活が困窮している。
- 10代が多く利用するアプリを通してアウトリーチを実施している。
次回は、ウクライナ侵攻による影響を受け依然として緊急性を増す「10代の孤立」に対する危機感と、子ども支援に関わる方々への今井さんからのメッセージなどについて伺います。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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