居場所で子ども主導のブカツドウをつくる 〜NPO法人Learning for All の事例〜

子どもたちの「やりたい!」を叶える活動の時間を取りたいと考えても、何をしたらいいのか・どう進めたら良いのかが分かりにくく、ハードルが高いと感じられている方も少なくないのではないでしょうか。

認定NPO法人Learning for All (以下、LFA)では、子どもが主体となって企画・活動を行う「ブカツドウ」に取り組んでいる居場所があります。今回は、LFAの居場所拠点で拠点長を務めている大森さんにブカツドウはどのような取り組みなのか、ブカツドウを通じて子どもたちにどんな変化があったかなどを伺いました。

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プロフィール:大森景生 氏
カナダ・ブリティッシュコロンビア州の幼児教育とチャイルドアンドユースケア学部を卒業したのち、学生時代から続けていた児童指導員と並行して現地の子ども支援のNPOでチャイルドサポートワーカーとして勤務。
2023年6月LFA入職、板橋区の中高生の居場所にて活動している。

 

ブカツドウとは

—ブカツドウはどのような活動ですか。

ブカツドウは、主に登録制の居場所で実施している、中学・高校で行われる部活のような活動で、子ども主体で企画・運営をしています

2023年から活動を開始し、今は中高生4人と大学生ボランティア・職員が参加しています。現在、以下の5つの部があり、子どもそれぞれが部長になって、全員兼部で活動しています。

画像:LFA作成

—ブカツドウという名称になったのは、どんな背景があったのでしょうか。

もともと、活動の意図は3点ありました。①他の人と一緒に何かに取り組む経験をしてほしい、②子どもと大人がフラットな関係であってほしい、③活動への所属感を持ってもらいたいとの思いから、「ブカツドウ」に決まりました。

「ブカツドウ」としたことで、学校での部活経験はしていないけれども、部活のような青春っぽいことに憧れがある子どもたちが、部活と似た経験をできる機会になっていると感じていて、この名称にしてよかったと思っています。

—ブカツドウの内容はどうやって決めたのですか。

ブカツドウを始めるにあたって、何をするかを決めるためにプレゼン大会を開きました。大会では、子どもたちがやりたいことについて内容や活動頻度などを企画し、紙や動画など自由な形式でまとめてプレゼンしました。活動を実施できるだけの人数が在籍していること、部の代表となる部長・副部長の役職者がいることを確認し、それぞれの部が発足しました。プレゼンの結果、全員が全ての部の活動に興味を持ったため、実際には全員が全ての部に所属しています。

—普段の活動の流れを教えていただけますか。

毎月、ブカツドウ会議を開いて職員と子どもたちで活動内容を話し合っています。イベントの日程が決まると、イベントを考慮していつ何をするのかなどについて相談し、カレンダーにまとめています。

例えば楽器バンド部では、演奏会を行うことを決めるとそれに向けてバンドで演奏の練習をします。また、ストリーマー部で動画の上映会を実施することが決まったら、週2日の居場所の開所日の中で調整できる範囲で活動時間を増やすなどして準備をします。

また、イベントが終わるごとに子どもたちと振り返りの時間を設け、よかったこと・もっと頑張れたこと・次に挑戦してみたいことなどを話し合っています。話し合いの中で子どもたちからやってみたいことが出てくるので、そこから次の活動に繋げています。

活動によって養われる力

—ブカツドウは子どもたちにどのように影響しているのでしょうか。

協力して成し遂げる経験をすることで、子どもたち同士の関係性が深まっていると思います。活動がお互いのことを知るきっかけになったり、一緒に何かに取り組む時間が増えたりして、子どもたちの雰囲気が変わっていったように感じています。1年ほど前は、子どもたち同士はどこかよそよそしかったのですが、最近は一緒に遊ぶことも増えているようです。時間の経過に伴って仲が深まった部分もあると思いますが、ゴールを定めてみんなで取り組むことで、協力して取り組む力が養われ、一体感が得られていると考えています。

またブカツドウは、他の人に配慮しながら目標達成に向けてどう進めるかを考えるきっかけにもなっています。活動の中で誰かが休んで滞りが出ることや、計画を修正しなければならないことがあります。例えばストリーマー部では、上映会に向けて子どもたちみんなで動画を撮ったものの、ある子が受験勉強で忙しくなりあまり参加できなくなったことがありました。その際は残りのメンバーで話し合い、どうやって「上映会を開催する」という目標を達成するかを考えました。みんなで決めた目標があるからこそ、活動を楽しむだけでなく、目標達成のためにどう取り組むかを工夫しているのだと思います

—子どもたち自身で計画から実行まで行う分、全員で協力して目標達成を目指す力が必要になってくるのですね。

みんなで目標達成を目指す点では、他者と協力して計画を立てる力も養われていると感じています。ブカツドウでは、計画の段階から周囲の人と相談しながら進めています。ストリーマー部の場合だと、動画を一本撮り終えた後の振り返りの際、次の活動の構想が出てきます。その実現のために何が必要か、子どもたちが企画会議で話し合い、準備も含めて活動内容を決めていくといった流れで進んでいます。

—活動の振り返りの中で次の活動を作っていくのですね。

はい。活動を重ねる中で、子どもたちから「次はこれをやりたい」などの声が上がってきています。開始当初は大人主導で活動を進めていたのですが、最近では子どもたちが主導で進め、大人たちは助言する役割になりました。初めは企画会議の際も大人側で枠を用意して司会を担当し、子どもの意見を聞きながら進めていました。しかし、活動に慣れてくると子どもたちで話し合いを進められるようになっています。大人はサポートするだけで、子ども主導で彼らなりに活動を進めています。

また、以前よりも子どもたちが挑戦を通して自信を持つようになり、チャレンジしたいことが増えてきたと感じています。ブカツドウを通じて、子どもたちが自分たちで考えて活動する楽しみを見出している感じがします。大人から与えられる型に沿って活動するというより、やりたいことをベースにして実現のための手段を大人たちと一緒に考える機会になっていて、子どもたちの「挑戦したい!」という気持ちが大きく伸びたと思っています。

子どもたちの挑戦を応援する

—子どもたちが以前よりも挑戦できるようになったと感じられているのですね。挑戦しやすくなった要因はどんなことがあるのでしょうか。

挑戦することに肯定的な周囲の人たちの存在は大きいのではないでしょうか。子どもたちにやりたいことが出てきたときに「それは難しいと思うよ」ではなく「面白そうだね、やってみよう」「いいね、計画を立ててみよう」など、挑戦を肯定・後押しする周りの人がいることは、一つの要因だと思います。

また、子ども同士や大人との関係性が深まったことも大きな要因だと考えています。周囲の人との関係性があるからこそ、「チャレンジしていいんだ」「失敗してもいいんだ」と安心感を抱きやすいと思います。

画像:photoAC

困難に直面したときの声かけは工夫していて、慰めるよりは「今は学んでいる途中だからね」など、大人側があまり深刻に捉えすぎないように声をかけています。演奏会のリハーサルでピアノが止まってしまうなど、活動の中でうまくいかないこともありましたが、周りの人が「そういうこともあるよ」とフォローしてくれるなど、「あなたは安心してやりたいことに挑戦していいんだよ」ということを伝えています。

画像:LFA作成

—挑戦をサポートするために声かけを工夫されているのですね。子どもたちが話し合う際の声かけではどんなことに気をつけていますか。

大人が場を仕切らないようにしています。子どもの意見を大切にしたいので、こちらからあまり提案などはしていません。振り返りの際は、あくまで子どもたちの視点から、うまくいったことなどの意見を引き出すようにしています。大人は出された意見を深掘りしたり、職員としての所感を共有したりしています。子どもたちも話し合いに慣れ、流れや進め方がわかると自分たちで進められるようになってきたので、大人は調整役として、話が逸れたときの軌道修正をしたり、全員が満遍なく意見を出せるよう「〇〇君はどう思う?」と話を振ったり、タイムキーパーをするなどのサポートをしています。

—大人は1人のメンバーとして活動に参加することもあるのですか。

そうですね、職員やボランティアなどの大人は助言などのサポートもしますが、メンバーとして参加することもあります。先日、電子ドラムを購入したときにLFAの中でドラムができる職員を呼んでみんなで演奏したこともありました。特に人狼部の人狼ゲームや料理部の調理実習は、大人も一緒に参加しやすい活動かなと思います。

活動を通じてさまざまな人と関わる

—いろいろな人が関わるブカツドウの中で、難しいと感じられることはありますか。

それぞれの子どもが置かれている状況が異なるので、活動にかけられる時間の差が生まれる点は難しいところだと思います。居場所には、受験のために活動に参加しにくい子もいれば、活動をやりたい思いが強い子もいます。

ブカツドウは子どもたちの自主的な活動で、参加しなければならないものではないのですが、役割を分担して活動していると、活動の進め方などは工夫する必要が出てきます。また、一時的に来られない状況になった子どもが活動に戻ってきたときにどう受け入れるかはボランティアと職員とで話し合っています。ブカツドウが発足して1年が経ち、活動に対する熱量の違いにどう対応するかは見直しが必要だと感じています。

ただ、今のところ、子どもたちの間で不満の声は出ておらず、子どもたちもそれぞれの状況が異なることに配慮して上手く受け入れられているように感じています。こちらから特別何か働きかけているわけではないのですが、子どもたち自身がやりたいことをやれていて、自分の意見をいう機会が保証されていることが良い雰囲気作りにつながっているのかもしれません

—活動の中で、ボランティアや職員以外の大人が関わることもあるのですか。

はい、ブカツドウの背景として「子どもたちと大人が関わる機会を増やしたい」との思いがあり、地域の大人に限らず、様々な人に関わってもらいたいと考えています。実際、LFAの関係者で「若い人に茶の湯を広めていきたい」とのお話をいただいて定期的にワークショップを開いている例もあります。子どもたちからも「茶道部をやりたい」との声が出ています。団体外部の方に活動に参加していただくには、適任となる人を探すことや日程調整、施設との調整・確認などハードルもありますが、今後も積極的に取り組んでいきたいと考えています。

子どもたちの状況に合わせたブカツドウの在り方

—今後の展望を教えてください。

まずは、子どもたちが無理をせず楽しく活動を続けていくことが一番かなと思っています。受験生も複数いるので、活動を負担には感じてほしくなく、楽しみの一つとして意味を見出してもらいたいです。活動を始めて1年経っているので、子どもたちそれぞれがブカツドウにどう取り組みたいと考えているのか、今後の進め方を擦り合わせられるといいと思っています。子どもたちの成長に合わせてブカツドウも変わっていって良いと思います

また、今はブカツドウは主に登録制の居場所に通う子どもたちが取り組んでいるのですが、自由に来られる居場所に来ている子どもたちにも活動に関わってもらえるといいなと思っています。過去にも、人狼部が主催した人狼ゲームパーティーに登録制の居場所以外の子どもたちが参加したことがあったので、他の子どもを巻き込んだ活動を広げていきたいです。またブカツドウのひとつである「勉強進路部」のように大学生ボランティアに自身の進路選択の経験について話してもらう活動は、自由な居場所にも広げていきたいと考えています。

まとめ

今回は、LFAの大森さんに、居場所拠点での子ども主導のブカツドウについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。

  • ブカツドウでは、子どもたちの「やりたい」という思いを元に、子どもたち自身が計画・実行・振り返りをしている。
  • 協力して目標を達成する経験を通して、他者と協働する力が養われ、子どもたちの自信が育てられる。
  • 子どもたちの挑戦が肯定され、失敗しても良いと思える場を作ることによって、子どもたちの主体的な取り組みを促している。
  • さまざまな状況にいる子どもたちが楽しんでブカツドウに取り組めることを大切にしている。

※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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