相手が子どもであれ大人であれ、「はじめまして」の場ではお互いに緊張がつきものです。子ども支援現場で初めて会う子どもともっと上手く打ち解けたい、というお悩みを持つ方も少なくないのではないでしょうか。
NPO法人Learning for All (以下、LFA)の学習支援拠点では、授業に入る前に子どもと教師がお互いについて話し、緊張をほぐす時間=アイスブレイクの時間を設けています。今回はLFAの学習支援スタッフに、子どもとのアイスブレイクのポイントや方法について伺ったお話を前編と後編に分けてご紹介します。前編である本記事では、アイスブレイクが必要な理由と行う際のポイントについてお伝えします。
お互いの緊張をほぐして子どもが安心できる関係を作るための最初の一歩について、一緒に考えてみましょう。
なぜアイスブレイクが必要なのか
アイスブレイクは、長期的な信頼関係と安心できる空間づくりのきっかけ
—LFAの学習支援現場では、初めて子どもに会うときは必ずアイスブレイクの時間を設けていますが、それはなぜですか。
Aさん:子どもとの長期的な信頼関係作りと、円滑な支援を進めていくためだと思います。そのために、最初の第一印象はとても大切だと思います。
子どもって意外と初めて会ったときのことを覚えているんですよね。最初に打ち解けていないと、 相手に対して固いイメージがずっと残ってしまうこともあります。結果として、相談したいことを相談できなかったり、この言葉を言ったら変な雰囲気にならないかなと気を遣ってしまったりということが、子どもにも支援者側にも発生しうると思います。
また、子どもの声を拾いやすくするためにもアイスブレイクは大切だと思います。学習支援の場だと、例えば「問題を間違えたらどうしよう」と不安に思っている子どもがいても、最初にアイスブレイクでお互いに自分を見せ合えていれば、「間違えてもこの人だったら大丈夫」と思えることがあると思います。そのような関係性ができると、結果として子どもの声が拾いやすくなると感じています。
Bさん:加えて、子どもに対して「あなたと私は対等ですよ」と伝えるためだと考えています。学習支援の場でアイスブレイクをせずにいきなり学習に入ると「教師と生徒」という構図がいきなり出来上がってしまい、私たち支援者のことを「教えるためだけに来ている人」と捉えてしまう子どもがいるのではと思います。
教える/教えられるとか、支援する/されるという関係性を築きたいわけではなく、まず「私はあなたと一緒にいたい」「あなたと話してみたい」と伝える最初の場面だと個人的に感じますね。
出典:ソコスト
アイスブレイクのポイント
その子とのコミュニケーションで、大切にしたい「軸」を考える
—目の前の子どもに合わせたアイスブレイクをするために、意識していることはありますか。
Bさん:LFAでは、来てくれる子どもに最初にアンケートをとって情報収拾をしています。そのアンケートや面談などから得た情報から、その子のコミュニケーションの特性や、関わる大人が避けた方が良いことなどは把握しておいて、その情報を踏まえてコミュニケーションを取るようにしています。
以前、教師のすべての言動に敏感に反応してしまう子どもに出会ったのですが、子どもの反応を見ながら一つ一つの言葉のチョイスや自分の目線などにも気を配り、その子にとって本当に居心地がいい空間になるように常に意識していました。自分が不安に感じていると子どもにもそれが伝わってしまうので、自分自身がリラックスして臨めるよう、事前にいろいろな想定をして拠点に行くようにしていました。
Aさん:事前に情報を聞いて想定をしておくことは、確かに大切ですよね。一方で、私は、細かく決めすぎない方がうまくいくこともあると思います。実際に子どもと話していると想定通りに行かないことが圧倒的に多いんですよね。
「こんな感じで進めよう」「このときにこういう問いかけをしよう」と設定しすぎることで、想定通りに行かなかったときに混乱してしまうボランティアの方もいます。ボランティアの方と振り返りをすると、「思っていたのと子どもの反応がまったく違ったから、うまくできなかった」という声を聞くこともあります。
そのため、アイスブレイクの事前準備では何をやるか細かく決めるというよりも、コミュニケーション面で大切にしたい「軸」を決めて、ボランティア同士で事前にロールプレイ(※1)をたくさんするようにしています。そうすることで、想定外のことにも落ち着いて対応できるようになると感じます。大切にしたい軸とは、例えば「オープンな質問は避け、YesかNoで答えられる質問から始める」「子どもの発言を繰り返すことで、承認されている安心感を持ってもらえるようにする」などで、アンケートなどの事前情報から読み取れる子どもの傾向や、自分たちの目指す学習支援の場のあり方を基に決めています。
※1:参加者同士で役割分担をし、場面を擬似的に再現して学習すること。LFAではスタッフやボランティア同士で教師役、子ども役に分かれてロールプレイを実施している。
子どもの行動をよく観察し、子どもと一緒に場をつくる
—アンケートなどの事前情報がない状態で初対面の子どもと関わる場合は、どのようなことを意識できると良いのでしょうか。
Aさん:私の場合は、自分だけでなんとかしようと思わないようにしていますね。自分だけでなんとかしようとすると、ついつい子どもを質問攻めにしてしまう気がするので、子どもと一緒にこの時間を作ろうという意識を大切にしています。まずは「一緒にいたい」という思いを伝え、自分から自己開示をして子どもに「この人なら話しても大丈夫そうだ」という安心感を持ってもらい、子どもからも自然と発話が出る場をつくれるようにしています。
Bさん:私は、事前情報がない場合は特に子どもの行動をよく観察し、気持ちを汲み取るように心がけています。私自身、相手が自分のことをどう思っているのか気になってしまうタイプなので、子どもが私の1つひとつの言動に対してどう感じているか、最初だからこそつぶさに観察するようにしていますね。
子どもの気持ちのわかりやすいサインは、視線や沈黙だと思います。視線が落ちたり、質問に対して答えなかったりすると、興味がなさそうだとわかります。一方で、高校生など年齢が上の子どもは、気を遣って間を埋めるよう話してくれることも多いので、無理をさせてないかも気にするようにしています。
出典:ソコスト
まとめ
今回は、LFAの学習支援スタッフの皆さんに、アイスブレイクの必要性について伺った内容をご紹介しました。ポイントを以下にまとめます。
- アイスブレイクは、支援者と子どもが対等な関係だと伝え、長期的な信頼関係と安心できる空間を作り、円滑な支援を実施していくために必要なこと。
- 良いアイスブレイクのためには、大切にしたい「軸」を設定し、子どもの行動をよく観察しながら進めることが大切。
後編記事では、アイスブレイクで取り入れやすい話題や具体例などについてご紹介します。また、「子どもの緊張をほぐすには?」「子どもの好きな話題についていけないときは?」など困ったときの対処法についても伺いました。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
関連記事:
この記事は役に立ちましたか?
記事をシェアしてみんなで学ぼう