2022年7月28日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第9回が開催されました。
特定非営利活動法人サンカクシャの代表理事の荒井氏をお招きして、荒井氏が取り組まれている「オンラインゲームを通じたアウトリーチ」やその後の支援についてのご講演、および、認定特定非営利活動法人Learning for All (以下、LFA)代表の李との対談を通じて、困っている子ども・若者との繋がり方や、地域や企業と連携した支援の在り方についてお話しいただきました。
今回は質疑応答の様子を一部抜粋してご紹介します。
プロフィール:荒井 佑介
1989年埼玉県出身。約13年前より、ホームレス支援や子どもの貧困問題に関わり始める。
生活保護世帯を対象とする中学3年生の学習支援に長く関わっていたが、高校進学後に、中退、妊娠出産、進路就職で躓く子達を多く見たことから、NPO法人サンカクシャを立ち上げる。
サンカクシャでは、15歳から25歳前後までの親や身近な大人に頼れない若者の居場所作りや進路就職のサポート、住まいのサポートを行なっている。
ゲームを通じた取り組みについて
—参加者)eスポーツチームを作るにあたってプロ選手を雇う費用が難題となりそうですが、ボランティアでやってもらっている、もしくは補助金などを活用しているのですか?
現在3名のプロ選手の方と契約をしていますが、費用はお支払しています。プロ選手を雇う費用にも幅があり、世界大会で活躍するような方々はかなり金額が高いのですが、中には所属しているチームからお金をもらっていない選手もいます。私たちは野良で頑張っている人たちと出会って契約し、何とか費用もお支払しています。
また、契約している選手の方には「若者にゲームを教えてほしい」「若者と交流する機会を手伝ってほしい」というお願いをしているので、スタッフっぽい関わり方をしてもらっています。彼らも私たちの趣旨にも共感してくれていて、若者向けにゲームのレクチャーなどをしてくれています。契約している選手の方々は、20代前半と若いので「支援者」というより「同世代」という形で若者と関わってくれていて、それが逆に良いなぁと思っています。
—参加者)全体的にトントン拍子に進んでいった感じがするのですが、サクセスストーリーの秘訣があったのでしょうか?
ただ数をこなしているだけだと思います。例えばゲーミングPCを頂く際も、ほとんどのPCメーカーには断られました。今回のお話では断られたことを省いてお話ししているので、上手くいっているように思えるかもしれないですけど、大半は断られています。「ゲームって良くないんじゃないの?」「ゲームと若者支援の関連性がわかりません」「実績がないので難しいです」という声が結構ありましたね。何か1つ実績ができると断られる割合は減りますが、基本的にはダメもとでアクションしないと進まないですね。
—参加者)若者は匿名性を大事にしている一方で、安心感のある繋がりも望んでいるんだと感じました。ネットやゲーム上で安心して繋がれる人だと感じてもらうには、どういった表現や姿勢によるものだと思われますか?
やはり若者は匿名性を大事にしていると感じます。オンラインの居場所上では皆ニックネーム表記で、本名や年齢もわからないようにしています。ボイスチャットで喋っている声の様子で何となく何歳くらいかわかる、くらいですね。若者たちには「本名を知られたくない」という気持ちは結構あるなと思います。おそらく「自分が普段生きている生活のコミュニティと、違うコミュニティが欲しい」というのが本質的な要望で、別の人格が付与されている感じが心地いいんだろうなと感じています。
また、安心してもらえる装いとして、若者たちは、他のゲーマーがどんなツイートをしているのかを普段よく見ているので、そこを崩さないような立ち振る舞いをしないとな、と思っています。しかしそれも結構大変なので、なかなかできていませんが(笑)。
ただ、例えばTwitterのプロフィールも、おそらくサンカクシャのオフィシャル感が前面に出ている雰囲気だとダメだと思います。私のVtuberの方のアカウントは、「ゲーマー」と「支援者」が半々くらいの割合のプロフィール文にしています。私のモードとしても、9:1=ゲーマー:支援者の割合でやっていて、相談が来た時だけ7:3=ゲーマー:支援者くらいになります。ただのゲーマーとして、若者をいじったり、いじられたりする感じが大事なんじゃないかなと思います。
画像:Twitterプロフィール(2022年8月時点)
—参加者)ゲームを通じて若者にリーチするこの取り組みが最終的に目指すところについてさらに伺いたいです。
若者たちが自立するところがゴールだと思っています。ただやはり最初の「繋がる」を突破するのが結構難しいと思っていて、「居場所に来てね」といっても、知らない人がいるところに行くのは相当ハードルが高いですよね。それが、ゲームをやっているってだけで話が盛り上がって「1回ゲーム一緒にやろう」と一緒にやると、彼らに友達だと思ってもらえます。その「突破」にゲームが刺さっていると感じています。eスポーツは繋がるところに重きを置きますが、繋がってからがサンカクシャの得意な領域なので、そこから伴走して自立まで関わり続けるというのが目指すところかなと思います。
—李)今後、ゲーム以外で今後尖らせようとしている領域はあるんですか?
次は「劇団を作ろうか」という話があります。意外と若者たちは「表現」が好きだと感じています。以前、Appleと連携して作品を作った取り組みをしたんですが、その際に、作品を通して自分を表現することに最初は抵抗があるものの、それを乗り越えると激変することがわかりました。劇団を作って、チームメンバーとどこかの劇場で上演するのを、みんなで応援に行く、みたいなことができるといいんじゃないかなと思います。きっと、段々何をやっている団体かわからない感じになっていくと思いますね(笑)
—李)いいですね。初回公演が決まったら見に行くので是非呼んでください。
—参加者)荒井さんがゲーム担当で、他のスタッフにも趣味垂れ流しアカウントを作っていく試みがあると伺いました。ゲーム以外には、他にどんな趣味がありますか?
「若者の趣味に合わせると良いのでは」という話も一瞬出たのですが、それだとやる方が続かないので、もともとスタッフが持っている趣味の中で若者にも合いそうなものを考えようとしています。今のところは「ジャニーズ」や「ボードゲーム」などの案が出てきています。もっと女の子向けのコンテンツを出していきたいなとも思いますね。個人のTwitterのような見せ方をして、団体のTwitterとして相談を受ける取り組みを仕込んでいます。
保護者との関わり
—参加者)母親からはアウトリーチを望まれているが、父親からは強く反対されていることがあります。支援対象の保護者とはどのような関係性をどのように築いていますか?
お母さんが味方なら、お母さん経由でゲームのIDを本人と交換して、本人と直接つながればいいのではと思います。私たちは「保護者と仲良くしすぎない・関わりすぎない」ということを大事にしています。過干渉な保護者もいますし、「ゲームはやってもいいけど、早く外に出ろ」みたいな圧力をかける保護者もいます。保護者とはほどほどに繋がって、私たちは本人に特化する形でやっています。行政と連携する場合は、保護者は行政の方に対応してもらって、本人の対応は私たちでやり、行政と私たちで情報連携を行うことが多いかなと思いますね。
サンカクシャの人材育成
—参加者)私も同様の若者支援を行っているのですが、関わる人材の育成に悩んでいます。何か講習のようなものは行っていますか?
サンカクシャ全体として、私たちは「支援臭」が出ないようにしています。一人ひとり自分らしくいることをすごく大切にしています。私はゲームが好きなので、ゲームを通して自然体で関わっています。そういった「自然体で関わる」ということは、講習では生まれないんじゃないかと思っています。かっちりやりすぎると自然体にならないので、サンカクシャのスタッフは基本的に口コミでしか入らないようにしていて、スタッフやボランティアは皆友達みたいな感じです。居場所で私たちがくつろいでいる姿を見せて、現場で徐々に鎧を脱がせていくことが多いので、座学はあまり意味がないのではと思っています。
地域行政・協力者との連携について
—参加者)仕事のサポート(クリ研)の「企業・地域・行政から依頼を受ける」「企業が若者にレクチャー」の協力について、どのようにこのリソースを獲得してきたのか教えていただきたいです。
仕事の依頼については、すごく数が多いわけではないのですが、口コミでちょこちょこ依頼を頂きます。飲み会の中で「自分たちでYouTubeチャンネル作ろうと思っていたけどサンカクシャにお願いしようかな」というお話を頂いたり、豊島区役所の担当者から「何とかサンカクシャの若者たちに仕事を依頼したい」という思いで、お仕事を頂いたこともあります。
地域のデザイン事務所と連携できているのも大きいと思います。このデザイン事務所と一番最初に繋がったきっかけは、もともとデザイン事務所で働きたい若者がいたので、その子をデザイン事務所に紹介したんです。採用には至らなかったんですが、その時からデザイン事務所の社長が「こういう子が出てきたときに、自分たちが受け皿に慣れないのが悔しかった」と、ずっとサンカクシャのことを気にしてくださっていたらしいです。そこで、私たちがこういう取り組み(仕事のサポート)をやりたい、というときに「是非一緒にやらせてくれ」と言ってもらえて、一緒にやることになりました。なので、デザイン会社の方の熱量があった、というのも協力ができている理由の1つだと思います。
博物館からの動画作成の依頼など、そのデザイン会社と一緒に組んでいるからこそ頂ける案件もあります。デザイン会社の方がとても良い人たちで、かつその人たちが地域で実績もあるからこそ「一緒にやるなら応援するよ」という感じで、口コミが広がっているのだと思います。
—李)地域の企業や行政の人たちとは元から知り合いなのですか?
数年前、一緒に地域のイベントに登壇して以来、仲良くさせていただいています。ただ、もともと豊島区は人と人との繋がりができているエリアだと感じています。地域に新しい団体ができればすぐに繋がりに行きますし、口コミも行き渡るので、いろんな方々にサンカクシャのことも知ってもらっています。すごく良い地域だなと思います。
—李)先ほどのご講演で「ネットワーク会議が堅苦しくならないようにしている」という話がありましたが、具体的にどんなことをしているんですか?
あんまり大したことはしていないんですが、実は「会議の外」の動き方が大事だと思っています。私たちがあちこちの団体に出向いて担当者と仲良くなって、仲の良い雰囲気をそのまま会議に持ち込んでいるので、会議の仕切りというよりも普段から関係性を築きに行っていることの方が大きいんじゃないかなと思います。「友達がたくさん集まっていて楽しい!」という雰囲気で会議をやっています。会議の場だけで仲良くなるには限界があるかなと思います。
私たちは肩書きや立場関係なく「みんな友達」だと思っています。行政の偉い人も、地域の企業の社長も「友達」なので、仕事の依頼が来た時も「友達から依頼が来た!」という感じでやっていますね。
—参加者)大人の協力者との関係性作りで工夫していることや、今まで乗り越えてきた壁はありますか?
「関わってもらったからには絶対に幸せにする」という気概は持っています。お金では返せないけど、関わってくださった方の「もともとこんなことがしたかった」という気持ちを満たさないといけないなと思います。お金をもらったら対価としてサービスを提供するのと同じで、何かサポートしてもらったらその分の何かを返すのは絶対に大事です。そのバランスが崩れた瞬間に協力してくれなくなるのかなと思うので、等価交換、もしくはもらった以上に返すことを心掛けています。その人が「なんでこの活動に参加しようと思ったのか」「何を求めているのか」は、仲良くなりながら教えてもらいます。今後サンカクシャが発展していって、「サンカクシャに協力していた」ということでその人が何か恩恵が受けられるようになればいいなと思っています。
もう1つ工夫しているのは「弱みを最大限見せる」ということです。常にいろんなものをすり減らしながらやっている様子を、そのまま共有しています。そうすると、本当に困ったときに周囲の方々がサポートしてくれたり、「大変そうだから自分たちに何ができるか考えよう」と言ってくれます。
最近は、経営会議を寄付者向けに全部発信しています。例えば「あと半年後に2,400万円なくなるんですけど、どうしましょう」みたいな話をそのまま会議で話すと、寄付者の方から「社長を紹介するよ」とか「私は公認会計士だから事業計画作るよ」等と声をかけてもらいました。まさに友達に相談している感じですね。
まとめ
今回は、参加者からの質疑応答の様子をご紹介しました。
- eスポーツで最初の「繋がり」のハードルを突破し、繋がってから伴走支援を行って関わり続け、若者が自立するまでがこの取り組みのゴールである。
- サンカクシャでは「ありのまま」「自然体でいる」ことを大事にしている。
- 「関わったからには絶対に幸せにする」「弱みを最大限に見せる」ことで、友達のような関係性の協力者を増やしている。
荒井さん、ありがとうございました!
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※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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