【前編】今、子どもたちに求められている居場所とは(こども支援ナビMeetup vol.2)ー認定NPO法人フリースペースたまりば 西野博之氏ー

2021年7月29日(木)に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第2回が開催されました。

本イベントでは、今の社会で子どもたちに求められている居場所について、認定NPO法人フリースペースたまりば(以下、フリースペースたまりば)理事長である西野 博之氏をお呼びして、お話していただきました。

イベントレポート前編では、長年子どもの居場所づくりに携わられている西野氏の活動内容について紹介した上で、講演「今、子どもたちに求められている居場所とは」の内容を紹介します。

プロフィール:西野 博之

86年から不登校児童・生徒や高校中退した若者の居場所づくりにかかわる。91年に川崎市高津区で「フリースペースたまりば」を開く。以降、不登校児童・生徒やひきこもり傾向にある若者たち、さまざまな障がいのあるひとたちとともに地域で育ちあう場を続けている。2003年、同区の市子ども夢パーク内に「フリースペースえん」を開設し、06年からは指定管理者として夢パーク全体の運営管理を行っている。文部科学省「フリースクール等に関する検討会議」委員などを歴任。神奈川大学非常勤講師。

西野氏の活動内容

西野氏は、30年前にあたる1991年から、川崎市内で不登校児童生徒やひきこもり傾向にある若者たち、様々な障がいのある人たちと共に地域で育ちあう場づくりを続けてきました。

具体的には以下のような多くの活動を経験されています。

  • 川崎市子ども夢パーク・フリースペースえんの運営
  • 高津区在住で、生活保護家庭・ひとり親家庭の中学生を対象とした「学習支援・居場所づくり」事業
  • 市内3か所の児童相談所で大学生と子ども・若者のマッチングおよびグループ活動(ふれあい心の友)
  • 川崎若者就労・生活自立支援センター「ブリュッケ」の運営(生活保護受給の15歳から39歳までのひきこもり支援)
  • コミュニティ・スペース「えんくる」でフードパントリーの開設と多世代型子ども食堂(えんくる食堂)、「こども☆きっさ」の実施

西野氏講演「今、子どもたちに求められている居場所とは」

居場所づくりに取り組むに至った経緯

今までに、学校に行けないことで「僕もう大人になれない」と言う子どもや、母親の無理心中に巻き込まれそうになった子どもと出会ってきました。

学校に行けないだけで命を落とすということはあってはならないと私は考えています。

このような子どもたちとの出会いをきっかけとして、学校に行けないことで命を落とす危険性がある子どもたちに、「いのち」を真ん中に据えた居場所を作ろうと思いました。

川崎市子どもの権利条例の策定

子どもの居場所づくりに取り組んでいたことから、1998年より「川崎市子どもの権利に関する条例」(以下、川崎市子どもの権利条例)の策定に関わることになりました。


画像引用:「川崎市子どもの権利に関する条例」川崎市

条例策定に至るまでには多くの議論を重ね、「子どもに『権利』なんて与えると『わがまま』になる。『権利』を教える前に『義務』を教えるべきだ」というような意見をいただくこともありました。

しかし、子どもたちは、自分の権利が守られた経験を通して、初めて他の人の権利も考えられるようになります。そのことを伝え、自分の権利が保障されるためには他の人の権利も同じように大切にされなければならないという「権利の相互尊重」という考えのもと子どもの権利条例を作るという議論の方向性になった結果、川崎市議会満場一致で採択されました。

また、「居場所」の考え方についても、川崎市子どもの権利条例に以下の文言で組み込まれています。

子どもには、ありのままの自分でいること、休息して自分を取り戻すこと、自由に遊び、若しくは活動すること又は安心して人間関係をつくり合うことができる場所(以下「居場所」という。)が大切であることを考慮し、市は、居場所についての考え方の普及並びに居場所の確保及びその存続に努めるものとする

条例の具現化を目指した子ども夢パークの設立

策定に関わった川崎市子どもの権利条例の具現化を目指し、子どもの声を聴きながら「子ども夢パーク」(以下、夢パーク)の設立に取り組みました。

夢パークには同じ敷地内に、冒険遊び場(プレーパーク)と不登校児童・生徒の居場所であるフリースペースえんがあります。


西野氏作成

子どもが育つための3要素は、①遊ぶ ②学ぶ ③ケア(気に掛ける、関心をもつ)の3つであると考えています。したがって、夢パークを作る際には、その3要素が組み込まれた場所になるように設計しました。

現在の社会ではICT化が進んでおり、子どもたちが、物事を実際に体験することなく分かったような気持ちになることが増えていると感じます。しかし、実際に五感を使いながら群れの中で遊び、自分の「感・観・勘」を育てることが大切です。そうした遊びによって非認知能力、つまり人間として生きていく力を高めることができます。

ただし、ここで注意しなければならないのは、非認知能力を獲得するために遊ぶのではない、ということです。非認知能力獲得を目的化した遊びを提供するのでは意味をなしません。夢パークは子どもの自由な発想で自由に遊べる空間になっています。「ここに登ってはだめ」というような禁止の看板はなく、ケガも自分の責任とし、自由にやってみたいことに挑戦できる環境です。遊びを通して失敗を重ねながら、それを乗り越える力を育んでほしいと思っています。

「なにもしない」ことを保障する場所としてのフリースペースえん

続いて、夢パークの中にあるフリースペースえんについてお話します。フリースペースえんは、多様な背景を持つ子ども・若者たちとともに過ごす場所になっています。

フリースペースえんの基本理念は「『生きている』ただそれだけで祝福される~自己肯定感を育む居場所づくり~」です。

大人の指導や「助けてあげるよ」という「支援臭」を感じると、子どもや若者は遠ざかり、拒否反応を示します。良かれと思って伝えた大人のアドバイスが、子どものやる気を奪ってしまうこともあります。そのため、フリースペースえんは、ほっと安心できる居場所づくりを目指し「なにもしない」ことを保障する場所にしています。

大切にしている「子ども観」

親や子ども・若者と関わる大人の一人として、大切にしている姿勢があります。それは、子どもに対して「生きているだけですごい」「生まれてくれてありがとう」「あなたがいてくれて幸せだよ」という気持ちを持って伝えていくことと、親も「正しい親」でいる必要はないという考え方です。

私は、そうした姿勢を大切にしながら、子どもの「いのち」を真ん中に置き「子どもの最善の利益は何か」を問い続けてきました。「子どもを無理やり既存の制度に合わせようとするのではなく、子どものいのちのほうに制度や仕組みを引き寄せる」ことを私たちNPOのミッションとして、これからも活動を続けます。

 

まとめ

今回の講演を通して、子どもたちがありのままでいられる居場所を守っていくことや、大人も一緒に育ちあっていくことの大切さを強く感じました。子どもに向き合う一人として、背筋が伸びるお話でした。

西野さん、ありがとうございました!

後編では、イベントの参加者からの質疑応答の様子を紹介します。子どもとの向き合い方や他の機関との連携などについてお話いただいています。

後編はこちら。

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※本記事の内容は個人の見解であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません

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