皆さんは、「コミュニティデザイン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。一見すると子ども支援とは関係のない言葉であるように思われますが、実はコミュニティデザインの考え方や手法から子ども支援者が学べることは多くあります。
今回は、コミュニティデザインの考え方や方法について、認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)子ども支援事業部職員の塩成さんに伺います。
プロフィール:塩成 透
LFA職員。大学院では住民自治について研究を行い、前職では住民参加型の中心市街地の活性化、公共施設での市民活動支援、総合計画策定を行う。2021年にLFAへ入職。居場所拠点の拠点長や地域協働型子ども包括支援モデル構築に向けた地域団体のネットワークづくりを行う。趣味は音楽鑑賞(ダンスミュージック、K-pop)
コミュニティデザインとは
—コミュニティデザインとはどのようなものなのでしょうか?
コミュニティデザインとは、「デザインの力を使って、コミュニティが持つ課題解決力を高めるよう支援すること」です。つまり「コミュニティによる(地域の)デザイン」(Design by Community)です。前職では、行政や民間企業から委託を受けて進めていました。
—具体的に、どのようなステップで進んでいくのでしょうか?
コミュニティデザインは地域や取り組みによって手法は違いますが、以下の5つのステップを踏むことでコミュニティが課題解決にむけた力をつけていきます
- 情報を集める
インターネットや書籍を使って地域の情報を整理することはもちろん、実際に地域に足を運んで情報を集めることも行います。例えば、住民や活動団体への聞き取り調査、フィールドワークに加えて、地域のカフェに置いてある本の傾向の調査や宿泊を通じた地域の文化の調査などをしたこともありました。これらの情報はシートにまとめ、チームで情報共有できるようにしておきます。 - みんなのことを知る
情報を集めるステップで知り合った地域の住民に声をかけながら、話し合いの場を設けます。話し合う前にはメンバーのことを深く知らなければなりません。それぞれがどのような想いで参加しているか、どんな性格の方なのかなどが知れるようみんなが楽しくなるようなアイスブレイクなどで相互理解を進めます。
画像:https://www.photo-ac.com/main/detail/3398952#goog_rewarded - 信頼関係を構築する
相手を知った次のステップはチームの信頼感の構築です。そのためにはチーム内のモチベーションの確認、それぞれの役割の確認、仲間の観察、一緒に戦略を練る、自由時間を使って雑談しながらつながりを深める等のチームビルディングゲームをしていきます。この段階ではそれぞれが「相手がどんなことだと賛成・反対するか」ということまで理解できていると、チームが同じ方向を向いて進んでいくことができると思います。 - みんなで解決策を考える
問題解決のためのアイデアは多ければ多いほどいいと思います。そのため、話し合いの場は会議室のようなフォーマルな場を借りることもありますが、楽しく話し合いを進めるために、広く開放的な場所を借りて行うこともあります。みんなが気持ちよく話すためにいくつか話し合いのルールを定めたり、話し合いが盛り上がるように内装や用意するお菓子を工夫したりしていました。 またバランスの取れたアイデアかどうか判断するために、3つの輪というフレームを使うこともありました。出てきたアイデアがwill(やりたいこと)、can(できること)、need(求められていること)のすべてに当てはまればバランスがいいと判断します。アイデアがwillとneedだけだった場合、どうやったらできるのかについて話し合いをしていきます。 - みんなで問題解決に取り組む
話し合いの中で出てきたアイデアを元に企画を立案し、実際に地域の中で実施をします。私がこれまで携わってきたプロジェクトの中では、空き家を使った交流の場づくりや、公共施設の広場を使った子ども向けの映画上映会などがありました。また、プロジェクトによってはそれまでの調査や活動結果の様子を展覧会にしたり、冊子にまとめて発表したりといったこともありました。 また、アクションをしたあとはメンバー同士が労う時間をつくり、次の企画についての話などに花を咲かせます。 コミュニティデザインのいいところは、単に地域課題が解決されることだけではありません。住民自身が、自分が住んでいる地域のことについて考え、主体的に何を行うのか考え、実行、振り返りまでを行うことで、住民同士の繋がりが生まれることも大きな特徴の1つです。
コミュニティデザインが必要な理由
—コミュニティデザインはなぜ必要なのでしょうか?
私の個人的な意見としてはコミュニティデザインが必要な理由は、大きく2つあります。1つ目は、日本全体の行財政の逼迫により、行政だけでは公共サービスを担うことが難しくなるためです。今後日本では少子化や人口減少の影響で税収入が減少し、行政サービス水準が低下することが予想されます。また、高齢化の影響で社会保障の需要は増大し、必要な税支出は増加していくことが予想されます。そのため、行政だけで公共サービスを担っていくことは財政的に難しくなります。コミュニティデザインを通じて住民が公共サービスの一部を担うことで、公共サービスの需給の差を少しでも埋めることができるのではないかと考えています。
2つ目は、希薄化した「住民同士の繋がり」をもう一度結び直すことが様々な面でメリットをもたらすためです。例えば、「いざという時の安心・安全」(震災時の相互救助など)や「健康」(地域住民との交流による心身の健康維持など)などが挙げられます。後者に関しては、「地域の運動サークルに参加しているがあまり運動していない人」の方が「地域の運動サークルに参加していないが積極的に運動している人」に比べて身体機能障害に陥りにくい傾向にある、ということを明らかにした研究も存在します(注1)。
注1:Kanamori, Satoru, et al. “Participation in sports organizations and the prevention of functional disability in older Japanese: the AGES Cohort Study.” PLoS One 7.11 (2012): e51061.
コミュニティデザインを進める上で大切なこと
ーコミュニティデザインを進める上で大切にしていることはなんですか?
「楽しさなくして参加なし」ということです。初めは地域住民にとって外部者である我々が地域に入っていき、地域住民と信頼関係を築いていくためには、「ビジョンの実現」や「地域課題の解決」といった「正しさ」だけではうまくいきません。感性に訴えかける「楽しさ」も、地域住民の主体的な参加を促すためには必要です。とはいえ、「楽しさ」だけではビジョンの実現や課題の解決は達成されないので、「楽しさ」と「正しさ」のバランスを取ることもやはり重要です。
また、行政から委託を受けてコミュニティデザインのサポートに関わることが多かったので、「行政が住民にやってほしいと思っていること」と「住民がまちのためにやりたいと思っていること」との間をうまく繋ぐことを意識していました。ここでも「楽しさ」と「正しさ」のバランスが重要になっています。
まとめ
今回は、LFA子ども支援事業部職員の塩成さんに、コミュニティデザインの考え方や方法について伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- コミュニティデザインとは、「デザインの力を使って、コミュニティが持つ課題解決力を高めるよう支援すること」つまり「コミュニティによる(地域の)デザイン」(Design by Community)である
- コミュニティデザインの流れは、基本的には以下の5つのステップである
- ①情報を集める
- ②みんなのことを知る
- ③信頼関係を構築する
- ④みんなで解決策を考える
- ⑤みんなで問題解決に取り組む
- コミュニティデザインにおいては、「正しさ」だけではなく「楽しさ」も重要である
次回は、子ども支援者がコミュニティデザインから学べることや、コミュニティデザインを活かしたLFAの支援拠点の地域連携事例などについて、引き続き塩成さんに伺います。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
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