2024年2月28日に、子どもに向き合う全国各地の支援者が学び/知見/意見をシェアするオンラインイベント「こども支援ナビMeetup」の第20回が開催されました。
今回は、一般社団法人にじーずの代表である遠藤まめた氏をお迎えし、「LGBTの子どもたちがあたり前に『自分』でいられるために ー多様な性のあり方と、私たちにできること」をテーマに、多様な性のあり方やにじーずの取り組み、子どもの居場所を運営される皆さんに知っておいてもらいたいことなどをお話いただきました。
イベントレポート第3回では、トランスジェンダーの子どもの生きづらさや多様性を見えなくさせる仕組み、カミングアウトがあったときの対応や子どもたちからの要望などについてご紹介します。
連載第1~2回はこちら:
プロフィール: 遠藤まめた氏
トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけにLGBTの子ども・若者支援に関わる。近著に「教師だから知っておきたいLGBT入門」(ほんの森出版)他。
トランスジェンダーの子どもの生きづらさ
私が制作に関わった「こっちむいて!みい子」という漫画があります。作者の方から「トランスジェンダーの中学生を登場させたい」というリクエストがありご協力をしました。そのとき私からは「ぜひトランスジェンダーの大人を出してください」という要望をして、トランスジェンダーで保育士をしているキャラクターを登場させてもらいました。
なぜそのようにリクエストしたかというと、トランスジェンダーの子どもは自分と同じような境遇の大人をほとんど見たことがないためです。テレビやYoutubeで見たことがある人はいるかもしれませんが、タレントやYouTuberは子どもたちにとって身近な職業ではありません。身近な存在として見たことがあるトランスジェンダーの大人がいないことが、トランスジェンダーの子どもが将来のビジョンをイメージしづらいことにつながっています。
トランスジェンダーの子どもは、性別の問題や幼少期からやりたいことを我慢し続けてきたこと、大人のロールモデルの不在の影響で、将来の夢があったとしても「自分はなれないかもしれない」と思っていることが多いです。
例えば、スポーツを頑張っていても小学校高学年・中学生になったら男女で分けられて思うように活動できなかったり、習い事やイベントなどやりたいことがあっても服装などで男女の区別を強要されることが嫌でやめてしまったりすることがあります。そうした経験をたくさん積んでいるからこそ、将来のやりたいことを諦めてしまうことがたくさんあります。
こうした状況を踏まえて、リクエストして登場させてもらったトランスジェンダーの保育士には「(トランスジェンダーで)なりたい仕事につけて、幸せに生きている人がたくさんいるから、やりたいことをどんどんやってね!」というコメントをしてもらいました。
「こっちむいて!みい子」には、トランスジェンダーの中学生である「なつき」というキャラクターが登場します。なつきはトランス男性で、女子の制服を着るのが嫌でジャージ登校を許可してもらうために奔走したり、合唱コンクールに自分らしい姿(男子の制服)で参加するために親や学校の先生に自分の気持ちを伝えたり、と周りの友達と協力しながら奮闘します。
引用:一般社団法人にじーず
ここで考えたいのが、自分の着たい制服を着ることや自分と同じような境遇にある大人に会うこと、合唱コンクールに出ることなど、他の子どもにとって何の苦労もなくできることが、トランスジェンダーであるなつきにとってはとても難しいということです。
多くの人が何の問題もなく自動ドアを通れるのに、トランスジェンダーの人はドアを自分の力でこじ開けなければならない、何ならドア自体を壊さないといけないことがあります。そして、問題なく通れる多くの人は、ドアをこじ開けようとするトランスジェンダーの人を不思議そうに見ている。世の中にはこんな状況がたくさんあります。
よく「同性愛も異性愛も同じ愛」「トランスジェンダーの人もそうでない人もみんな自分らしく生きたい」などと言われることがあるのですが、ここでは「同じ」ではなく「違う」ことについてもぜひ考えてほしいです。
学校一つ取っても、トランスジェンダーの人には多くの人には見えない部分が見えたり、多数派と違う見え方をしたりすることがたくさんあります。ここで生じている問題について、全員でしっかり考えていくことが大切だと思っています。「同じ」と安易にくくることは、不平等な現状をそのままにしてしまう危険性があると考えています。
にじーずに通う子ども・若者がLGBTを自覚したとき
引用:一般社団法人にじーず
にじーずに通う子ども・若者に「自覚したときどう思った?」とSNSで聞いてみたところ、肯定的な声もありましたが、いまだに「困惑した」「一時期自殺を考えた」「隠さなきゃいけないと思った」などの否定的な声も出てきていました。
LGBTの子ども・若者のいのちと学習権の問題
自殺問題は日本社会が抱える大きな課題であり、最近では特に子どもの自殺率が上昇していることが問題になっています。
そして、自殺問題に対応するためのガイドラインとして策定された「自殺総合対策大綱(2012年)」に教職員が子どもの性的マイノリティについて理解を深めることが必要だと明記されています。これは、性的マイノリティの子どもがハイリスク層だからです。
引用:一般社団法人にじーず
国内調査では、宝塚大学の日高庸晴教授らによる疫学調査で、LGBTQの子ども・若者の希死念慮の高さや、自傷行為の割合が高いことなどが何度も指摘されています。
また、日高教授や岡山大学の中塚幹也教授らによる調査では、性的マイノリティの子どもたちの不登校経験の割合が高いことも指摘されています。実際に、私が普段にじーずで接する子どもたちの間でも不登校の経験は非常に多くみられます。
このような現状を踏まえて、その子がその子らしく伸び伸び育つ環境をつくっていくために周りがどうしていくべきか、大人たちはやはりしっかり考えておく必要があります。「子どもだから」「若いから」などと片付けるのではなく、しっかり本人の思いに向き合ってあげることが大切です。
24年の春から保健の教科書の「思春期になると異性が好きになる」という記述が同性も含む表現に変わります。これまでは「異性愛が普通」と捉えられる表現で記載されていました。
教科書にも異性愛主義が刷り込まれていて、同性が好きな人はこの内容を学ぶことで「自分は普通じゃないんだ」「他の人と違うんだ」とショックを受けてしまうでしょう。気づかないうちに異性愛主義の刷り込みをされていることは、とても問題だと思います。
LGBTは普通に社会にいることを伝える環境づくり
私がとても好きなHUFFSPOTのインタビュー記事をご紹介します。この記事では、同性カップルである2人の女性が「レズビアンは何でもないその辺にいるおばちゃんだと思ってくださいね」と伝えてくれています。
社会に同性カップルはたくさんいますが、周囲に言っていないことが多く、子どもがその姿を実際に見たり接したりすることは非常に少ないです。そのため、性について悩み始めた子どもたちにとっては、こうした何でもない大人がとても貴重で輝いた存在に見えます。
最近小学校でも性の多様性に関する本や漫画がたくさん置かれるようになってきました。人は見たことないことを怖いことと認識してしまうので、いろんな性別のあり方、生き方をしている大人の姿を見せていく世の中にしたいなと思っていますし、ぜひ皆さんにもそうしてもらいたいです。
多様性を見せなくさせる仕組み
引用:一般社団法人にじーず
世の中には、多様性を見せなくさせる仕組みがあります。
本当はLGBTの人はどこにでもいるのに差別や偏見によって言い出せないでいる。言えないだけなのに、いないと誤解していない前提で会話したり、ルールをつくられたりすることで、LGBTの居心地がますます悪くなってさらに言い出しづらくなる、という仕組みです。
なので、「いないのではなく言えないだけ」という認識をみんながもつことが大切だと考えています。
知らない人権は守れない
実際に中高生から、「友達にウケるだろうと思って差別的なことを言っていたら、その友達が当事者で笑ってもらえないし信頼も失ってしまった」「LGBT関連の本を読んでいたら友達に『そういう人なの』と言われてショックだったけど、勉強する前なら自分も同じようなことを言ってしまうかもと思ってそれもショックだった」という声を聞きました。
子ども・若者に限らず、大人でも知らずにこうしたことをしてしまっている人は多いのではないでしょうか。LGBTについて知らないと人権は守れません。
カミングアウトについて
インターネットで自分でいろいろなことが調べられるようになり、またLGBTに関する報道などが増えたことからカミングアウトをする子どもも増えてきました。カミングアウトは大人の知らないところで、子どもたちの間で生じていることが多いことにも留意が必要です。
子どもたちに知識がないと、カミングアウトされた子どもが本人の同意なく周囲に言いふらして広めてしまう「アウティング」が起きる可能性があります。アウティングは人によってはダメージがとても大きく、人への信頼を無くしたり、大切にしていた人間関係が壊れてしまったりすることがあります。アウティングは悪意がなくても、知識がなければ起きてしまいます。
そのため、「本人の同意なく他の人に言ってはいけない」という認識をもっと子どもたちに広めていく必要があると考えています。
子どもたちへのメッセージ
こうした状況を踏まえて、子どもたちと性の多様性について話すとき、私は子どもたちに以下のメッセージを伝えています。
- みんなも性の多様性の一部です。
- 友達がLGBTだったら、一番力になれるのはあなたです。
- あなたがLGBTを茶化していたら、その子は無理して笑っているかもしれません。
子どもが性について悩んでいるとき、一番最初に話すのはおそらくカウンセラーや先生ではなく仲のいい友達です。もし友達が話をしてくれたら、あなたが力になってあげてほしいこと、そしてそんなあなたが、LGBTを笑ったり茶化したりしていたら、傷つくのは友達だということを知っておいてほしいと思います。
子どもたちからの要望
にじーずに通う子どもたちからよく要望されることをまとめてみました。
引用:一般社団法人にじーず
一つ目は呼び方についてです。「くん」「さん」を勝手につけて呼ぶのではなく、本人の希望を反映してほしいとよく要望されます。
これは、学校で「男らしさ女らしさではなく、本人らしさが大事」などと言われるのに、「くん」「さん」と決めつけられることで男らしさや女らしさを毎日押し付けられている気持ちになるそうです。ぜひ日常でそうした決めつけをしてしまっていないか振り返ってみてください。
二つ目は、入浴や健康診断など男女で分けられる場面での配慮です。理由を言わなくても1人でできるようにしてほしい、1人を選択することが可能であることをプリントなどにあらかじめ書いておいてほしい、といった声がよく挙げられます。勇気を持って大人に聞きに行ってやっとその措置を知れる、という形ではなく、あらかじめ告知しておくことで誰もが当たり前にその選択肢を知れる状況にできると良いと思います。
多様性の尊重は、知識や共感、思いやりも大事ですが、「既存のルールを見直して、必要に応じて新しいルールを生み出す知恵」が大切だと思っています。子どもと関わる機会がある大人として、ぜひ新しいルールを生み出すことについて考えてみてください。
まとめ
今回は、一般社団法人にじーずの遠藤さんに、トランスジェンダーの子どもの生きづらさや多様性を見えなくさせる仕組みなどについて伺いました。ポイントを以下にまとめます。
- トランスジェンダーの子どもは、自分と同じような境遇の大人をほとんど見たことがなかったり、性別の問題や幼少期からやりたいことを我慢し続けてきたりしたことの影響で、将来の夢があったとしても「自分はなれないかもしれない」と思っていることが多い。
- LGBTの子ども・若者が希死念慮や自傷行為のハイリスク層であることが国内調査で判明している。また不登校の経験も高い。
- 他の子どもは何の苦労もなくできることが、トランスジェンダーの人にとってはとても難しいことを認識して、生じている問題について全員でしっかり考えていくことが大切である。
- 社会に同性カップルは「いない」のではなく「言えないだけ」という認識をみんながもつことが大切である。
- もし誰かにカミングアウトされたら、「本人の同意なく他の人に言ってはいけない」という認識をもっと大人と子どもたちに広めていく必要がある。
- 多様性の尊重は、知識や共感、思いやりも大事だが、「既存のルールを見直して、必要に応じて新しいルールを生み出す知恵」が大切である。
※本記事の内容は団体の一事例であり、記載内容が全ての子ども支援団体にあてはまるとは限りません
第4回では、LGBTの子どもたちがあたり前に自分でいられるために私たち大人ができることや、イベント参加者からの質疑応答の内容をお届けします。記事の最後にはLGBTに関する相談先や書籍情報などもまとめていますので、ぜひご参考ください!
この記事は役に立ちましたか?
記事をシェアしてみんなで学ぼう